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今回はララの昼間の話です
そういえば、日が昇る時間に皆様とお会いするのは初めてですね!
私、ララ・マイラーは夜間は暗殺者として活動していますが、昼間はルーセントという公爵家の使用人をしています。服も、夜間は黒い動きやすい暗殺用の仕事着ですが、昼間はところどころにレースやフリルが付いたメイド服になっております。
朝日がちょうどいい具合に昇ったのを見計らって、私はお嬢様の部屋の前まで来たのですが、……起きてますかねぇ?
とりあえず四回ドアをノックし、お嬢様の寝室に入ります。
ベッドの膨らみを見つけて「やっぱり」と思ってしまった私は悪くないと思います!はい。
「お嬢様、起床のお時間ですよー」
まあ、ちょっと過ぎてるんですけどね。そう思いながら、薄い桃色のいかにも女の子らしいカーテンを開けた。
窓から見えた青空が見え、陽の光が薄暗かった部屋を明るく照らす。
「……ん、むぅ…」
「あ!お嬢様、おはようございます!」
ベッドを覗くと眠たげな目と目が合ったのでニコリと微笑む。
「………………煩い」
バシッ
朝に弱いお嬢様が枕元にあった分厚い本をこちらに投げて、のそのそと起き上がった……………って、危な!キャッチ出来たから良かったですけど、お嬢様これ、かなりの重量ありますよ!?
目を白黒させていた私に起き上がったお嬢様は「みじたく…」とだけ言って、寝相の悪さで肌けた服や寝癖を気にせずに顔を洗いに行ってしまいました。
はい、身支度手伝えってことですよね。分かってますよ〜。何年の付き合いだと思っているんですか?
私がお嬢様と呼ぶ彼女は、ルーセント公爵家のご令嬢、エレリー・ルーセント様。この乙女ゲームの主人公キャラでございます!んー!羨ましい!
私と同じく彼女は転生者らしいのですが、前世では全くもって乙女ゲームとは無縁だったらしく、私も転生者だと言い出しましたらお嬢様は、それはそれは嬉しそうに微笑みました。はい!もう、可愛かったです!
あれ、でも、あの時くらいですね。あんな表情を見せて頂いたのは………。
あんな性格が悪そうなお嬢様ですが、大丈夫です!お嬢様は癒し系と言うよりクール系でカッコイイですし、私以外の人にはまるで別人のようにお淑やかに接するのです。あ、でも私だけじゃないですね、もう一人…………え?なんで私にだけ別人にならないかって?そんなの知りませんよ〜!
あれ?本当に何でだろう?と本気で考え込み始めた時、遠くからエレリーお嬢様の私の呼ぶ声が聞こえてきた。
はいはーい、今行きますよー!
*****
ゴトゴトと微かに揺れる馬車に乗り、向かうのは王宮。
この国では、王太子妃候補者は毎日、王と王太子にご挨拶に行かなければなりません。一応、お嬢様も王太子妃候補者の一人なのでご挨拶に伺わなければならないのですが…………、
「ちょっ、お嬢様!行きたくないっていう感情をそのまま顔に出しちゃダメです!美人が台無しじゃないですか!」
「別にいいよ。だって、ララしか見てないもん」
「見てないもん、じゃないですよ!」
あ、拗ねた。
口を尖らせてそっぽを向いたお嬢様は、明らかに面倒臭いと思っている模様。か、可愛い…!いや、でも、ダメなものはダメです!
まあ、私も出来れば王宮には顔を出したくないんですけどね。
「あのぉ、お取り込み中のところ申し訳ないのですが…」
「あ、はい?」
「御二方、そろそろご準備の方を」
「あ、かしこまりました!」
馬車の前方からの声に返事をすると、徐々に馬車のペースが下がっていく。そろそろ王宮へ着くみたいですね。
今のうちにと、私は祈るように胸の前で手を組み、そっと目を瞑ります。
どうか、今日くらいは平和な日でありますように。
そう祈ってしまうのは、乙女ゲームでの登場人物たちの殆どが何らかの形で王宮に集まるよう設定されているのを知っているからです。
馬車が止まると、お嬢様は凄く深い溜息をつきました。それはもう、深呼吸と思ってしまうくらいです。はい。まあ、苦笑いしている私も内心では同じレベルの溜息を付いているんですけどね。
今日は、誰がお出迎えをして下さるのでしょうか。出来れば、モブがいいです。モブが一番安全なので。
ガチャリと音をたてて馬車の扉が開かれた。
「ララ。おはようございます」
「…………!」
そこに居たのは、明らかにモブではありません。
嗚呼、今日はいい日かもしれません…………!
扉の前には、嬉しそうに微笑んだ、いかにも優しそうな青年が立っていた。彼が身につけている軍服は王宮騎士の上位階級の者だと分かるほど、立派なものだ。
私は嬉しさのあまり、彼に飛びつきます!だってさだってさぁ〜!
「お久しぶりです!ドミ兄様!」
青年の名前は、ドミル・マイラー。攻略キャラの一人であり、私の自慢のお兄様です!
観覧ありがとうございました!