2
今回の舞台は、夜のアランの寝室です。
微かな隙間から、外が既に暗くなったことを確認する。
声が漏れそうになるのに耐えながら顔を綻ばせた。
よしよし、このまま此処に居ればあの方ももう時期来るはず!にしし!
あ、ごめんなさい!まずは現状報告ですね!
この世界はある乙女ゲームの世界でして、私、ララ・マイラーが今居るのは、ターゲットであるグリフォノーラ王国第一王子のアラン様の寝室でございます。
あの、ベッドの下なのであまり身動きがとれませんが、……大丈夫です!どうにかなります!え?いや!べ、別に、いやらしい事とかは全く考えてませんから!?ホントですよ!?
ガチャ
あ!来ました!来ました!静かに……。
「おやすみなさいませ、アラン様」
「ああ、おやすみ」
使用人に短い夜の挨拶をしてからアラン様は寝室のドアを閉めた。あ、鍵までかけるんですね。まあ、王家が不用心なのは感心しませんもんね。
しめしめと思いつつ、私は静かにベッドの隙間からドアの方に銃口を向けます。よし、こうしていれば絶対足に当たるはずです!
徐々に近付いてくるアラン様の足に、はらはらと胸が踊らせながら…………
って、あれ?消えた?
え?あ、いやそんなはずはない。
……………前にもこんな事があったような…………
突然、クイッと後ろから強い力に引っ張られた。
「!?」
「やあ、久しぶり。会いたかったよ〜」
開けた視界に思わず目を閉じると、次に視界に入ったのは先程まで微かに見えていた風景でした。
まずい。
ぎゅーと、腰に何かが巻き付く感覚。そう言えば、以前も同じ事ありましたね。
ベッドに座ったアラン様に膝に乗せられ、横抱きにされている。
「アラン様!」
「しっ、誰かにバレちゃうでしょ」
私の唇に綺麗な親指が押し付けられ、顔も徐々に近づいて………
「って、顔はダメです…!」
「ちぇっ」
危ない危ない。キスしちゃうところでした……。
ふにゃりと笑うアラン様に油断は禁物なのだ、と改めて再認識させられてしまいました。
「あ、もうこんな時間。もう寝る時間だ、ララ〜」
外の暗さをみて、アラン様は楽しそうに言い放った。
「よし、寝ようか」
「はい、そうですね………って、ちょっ」
「ふふっ、おやすみー」
そういう展開は反則です〜!
はわわわわ。さっき油断は禁物だって思い出したばっかでしたのに〜!
強引にベッドの中に連れていこうとするアラン様の腕から逃れようとする。
「駄目たよ。じっとしてて」
「っ!だから囁かないでぐださい!」
貴方の声で耳がこそばゆいんです!だんだん力が入らなくなっていることに焦りながら、どうにか逃れます。ふう、危ない危ない。
流石に婚姻もまだの男女が同じベッドで寝るのは、教育上良くないと思います!
まあ、私が主人公になっていたら、
『一緒に寝よう(キリッ』
『はい!喜んでアラン様!』
とか言って、アラン様の胸にダイブしてるんだろうな。羨ましい。
ハァと、溜息をつきながら私は窓の方に歩を進めます。両開きの窓を開け、足をかける。
「アラン様、今度こそ殺しますからね」
「ふふっ、また来てくれるんだね。俺のために」
「ちがっ、変な意味じゃないですよ!」
「うん、変な意味じゃないねぇ」
焦る私をみてニヤつくアラン様。こんな悪戯っぽい性格も推しキャラに選んだ理由だったっけ。
そんなことを考えながら、窓から音もなく飛び降りる。
「では、また」
「うん、またね、ララ」
最後に聞いたのはその言葉でした。
しかし、その言葉を発したアラン様が寂しそうに微笑んでいたのを私は知りませんでした。
閲覧ありがとうございました!