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11.守護神

余は暇だった。

毎日毎日、城の中で城の中にある摩訶不思議な物を弄くるだけの生活。

だから、外へ飛び出した。



外は余の愉悦感を満たした。



外は素晴らしいものだった。

海、森、川、山そしてそこに住む生き物達。

そんな中、余の愉悦を最も満たしてくれたのは小さな村の人間達だった。


たまたま通りかかった人間の村では流行り病で人間の殆どが苦しみ、もがいていた。余は気まぐれでその病を治すと人間達は余を崇め「お礼をしたい」と言ってきた。余は「ならば、余を楽しませよ」と返した。


それからの人間達の行動は余を楽しませるものだった。必死に探す姿、意味のわからない躍りをする姿、摩訶不思議な食べ物。そして……

「ねぇ、あなた名前は?」

「は?」

その食べ物を隣で食い散らかす余と同じくらいの背丈の人間がそこにいた。


その人間はアリアと言う女だった。

アリアは頭の何かが抜けた人間で親が病に苦しんでいたところを余に助けて貰い感謝していると言う。

「じゃあ、お礼として……私のこの世に一つしかない、ちょーーーレアなアリアちゃんの笑顔を間近で見れる権利を与えよう!!」

…………と意味のわからないお礼を貰った。

さらには、それをみた村の者達は余にアリアのように笑顔でこちらに近づいてくるのだった。


訂正しよう、この村の者全ての頭の何かが抜けた人間だ。



気が付けば余はその村に居座っていた。


人間達は余を崇めず、同じ村の者として扱ってくれた。一緒に畑を耕したり、一緒にご飯を食べたり、服を作ったり、物を直したりした。


重労働なものだが、とても楽しいもので、余は愉悦感に満たされていた。







が、月日は流れ。


アリアは気が付けば余よりも大きく成長し、白い服を着て余と二人で彼女の家にいた。


白は花嫁の色


彼女はそう言いながら頬を赤く染めて何処かを眺めていた。


「あなたなら、純白のきらびやかなドレスを着ていれば貴方の運命の人が現れるのよ、白のようで白では無い色の髪をしたあなたなら、絶対花嫁衣装は似合うわね、なんで男の子なのー?あー、女の子だったらいいのにね……」

彼女は悲しそうにこちらを見詰めていた。



彼女は今日、見知らぬ男と婚約するらしい。

全く知らない何処かの村の者と、恋もしていない男とこれから結ばれる運命のアリア。


だからか、彼女は元気がなかった。ずっと下を向いていた。

「………アリアはその服似合っているぞ」

何故か、なんとかして彼女に元気を取り戻して欲しい、そう思い、余は彼女に向かってありとあらゆる誉め言葉を使った。

「それに、美人だ。白、似合っているぞ」

「それにえっと、アリアは幸せになれるぞ」

「あと…あんな奴にアリアを渡すなんて勿体ないくらいの美人だ」

「笑顔が素敵なアリアだ」

「この村の中で一番頭の何かが抜けているのはアリアだ!」

「産まれた赤子のような頭はアリアだ!」

「まてまてまて!!最後のは酷くない!?」

気が付けばアリアは余の肩を掴み、余の言葉に反応し、返してくれた。


そして、





「……むぅ、わかったわよ。頭が弱いアリアちゃんが幸せを掴んでやるからね!!見ときなさいよ!」




彼女は口を尖らせながらも、楽しそうに笑った。



余も釣られて笑ってしまった。


彼女を呼ぶ鐘の音が鳴った。

アリアは「行こ」と覚悟を決めた瞳を余に向けながら、余に手を差し伸べる。

今の彼女なら、きっと幸せな家庭を築くことが出来る。余のような者には出来ないこの世に生きているものしか出来ない幸せを掴むアリアの姿が余の中で過った。


余はアリア差し伸べられたの手を握ろうと手を伸ばした。






しかし、そのあとの出来事で全てが逆転した。






突然押し寄せてきた巨体の男が手に持っていた斧をアリアに向かって振り上げるまでは…………



余は外は素晴らしいものだった。と、満足していたが、それは綺麗な部分だけを見ていたから。

逆を全く見ていなかった。だから、今、その逆を目の前で見たとき、余は思考が止まった。


斧をアリアの肩に降り下ろした後、アリアは床に倒れ落ちる、赤く臭い液体を流しながら…。そして男は家の中へと侵入してきた時に外の状態も知ることになった。

緑の草、茶の土を赤く染め上げる赤い炎と赤い液体を流しながら倒れているこの村の者。


余へと手を伸ばす男。余は気が付けば男を水に変えた。


そして、外にいるこの村の者では無い者を、余は先ほどの男が持っていた斧や、畑を耕すための道具、調理に使う包丁、壊れた陶器の破片をその者達へと投げ、ぶつけ、刺し、砕いた。


体が燃えるように熱く、目から水がこぼれ落ちる。この感じは一体なんなんだろうか?


ただ、男達の悲鳴を聞きながら、悲鳴が聞こえなくなるまで続けていた。


「もう、いいよ」


突然、余の目を視界を見せないように後ろから手が覆い被された。

声でこの手の者がわかる、これはアリアだ。


焼けていく家、泣きわめく声、赤い空、赤い壁

赤い液体が余の頬を濡らす。

ボロボロで少し痩せこけている彼女の手が余の涙を拭う。彼女は余を此方に向かせる。

何故か彼女は笑っていた。

余と同じくらいの背丈だったはずの彼女は大きくなり、その大きな手で抱き締めた。赤くなった。余についた赤い液体のせいで……。


「……私は本当はあなたは幸せになってほしい、もう、私は無理だから。でも、あなたはまだいける………でも、辛いことも怖いことも、嫌なことも全て、あなたにはまだ早い。まだあなたは子どもだから」


何かを言おうとしても言えなかった、先ほどの出来事に余は怯えていた。ガタガタと震えていた。


彼女はいつもの声でいつもの笑顔で




「ウオ、あなたを呪うね……?」










「……こうして、バカな女は一か八かの賭けに出ました。見事その賭けは成功、僕は嫌なもの全てをうれしいものへと、そして人として生きた記憶を植え付けられました」

なんと、馬鹿馬鹿しいものだろうか。

やはり、あいつは頭の何かが抜けた人間だ。


「しかし、突然こうして記憶が戻ったと言うことは呪いが解けた……ということか?しかし、何故…………」

「お、おい!」

ブツブツと独り言を言っていた僕に向けて、王国の使い?の男が声をかける。

ナナセ君達と別れ、男と共に今王国に戻ろうと歩いていた時、突然、呪いが解けたのだ。


「お前、なに突然独り言してるんだよ!さっさと歩くぞ」

「お前ねぇ…………もう少し、良い言い方は無いのか?小僧」

「はぁ!?小僧だと、ガキのお前が何言ってやがるんだ、そもそも俺はお前の名前なんか、知らないんだ、お前で十分だろ」


あぁ、そういえば名前を言っていなかったのか。


「それは、失敬した。では改めて」


近くにあった、石に飛び上がり男を上から眺めながら僕は口を開く。




「余はヴィヴィオケス、神では無いが、ここらの守護神をしている者だ」








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