10. お別れ
「ナナセ君、はなしってなに?」
少しあるいたところで僕はとまる。
ちかくにあったすわりごこちのよさそうな木にすわると、ナナセ君はニッコリと笑う。そして、ナナセ君は僕の目の前にある石に座ると僕をまっすぐ見つめる。
「あぁ実は、もうすぐそこに魔王がいる……」
彼はすぐに話をはじめた。
「そうなんだ」
僕は宙に浮いた足をブラブラと動かしながら、へんじをした。
「だから、ウオ…お前とはここでお別れだ」
「…………」
なんだろう…わかっていた。
だいたいのことはわかっていた、もうすぐお別れが近いってことは。
「これから、国王の側近と待ち合わせをしている。彼らにはお前のことを話している。彼らと共に国に帰り、そこで俺達の帰りを待っていてほしい…」
やっぱり、これからのたびに僕はおにもつらしい
そうだよね……子どもをつれてまおうたいじなんてむりだよね。
……でも、
「むりだよ」
「なぜ?」
ナナセ君は僕のかたにてをおく。
「ナナセ君もわかってるでしょ?
僕は異常だってこと」
「……」
僕の言葉に彼は目を反らす。
「僕もうすうす気がついていた、僕は異常な呪いをかけられていることを……」
知っていた。
さいしょはわからなかったけど、たびをしているとわかってきてしまった。
「今、僕がすわっているものはなに?」
すわっている、すわりごこちのよい木を指を指す。
彼はチラリとこちらを向くと、ニッコリと笑いながらまた目を反らす。
「……魔物の………死骸だ」
「あぁ、やっぱり」
そういうことなのか
「このしがい、僕にはすわりごこちのよさそうな木にしかみえないんだ。それに君のその顔も僕にはニッコリと笑っているようにしか見えない」
これは、僕を幸せにするために、つらいことや、かなしいこといやなことをすべて楽しいもの、うれしいものに変えてしまう、そしてそれを何も疑わずに受けとる純粋で無知な少年のままの気持ちで永遠に生きていく…………そんな呪いなんだ。
呪いのそんざいに気がついた時、僕はまわりがこわかった。まわりのみんなはいつもニコニコ笑っている、動物もたのしそうにしている。
でも、本当はさっきのナナセ君のようににせもの笑顔だったらどうしよう。まわりのものぜんぶ全てにせものの笑顔だったらどうしよう。
どっちが、どっちかわからない……
このままだと、僕は本物の笑みと偽物の笑みの区別がつかなくなるだろう……。
このままではいけないんだ。
僕はいちはやくこの呪いをとかなければいけない。はやくといて、そしてはやくナナセ君のやくに立ちたい。
だから、お願い……ナナセ君。
僕に呪いを解く勇気を下さい、偽りでもいい…嘘でもいいからキスを…………
「ねぇ……なんで、君は僕に口にキスをしてくれないの?男だから??」
「あぁ」
「じゃあ、女の子になれば……でこじゃなくて、ちゃんと口にキスをしてくれる?」
しんけんなはなしをしたいはずなのに、僕はのんきな声でナナセ君にその話をもちだす。
のんきな僕に彼なら多分、「無理だな」と切り捨てるような言葉がかえってくるだろう。現実をみろ、お前は男だ。とおこられそう。
いいや、ちがう。ひかれるだろう、女になるまでキスをしてほしいなんて…僕はなにを言っているのだろうか。あの「まおうのなんとか」は本でしか見たことがないのに…この目で見たことないのに女の子になるなんて夢なんてばかみたい…………。
けれども、
かえってきた言葉どれもちがった。
「あぁ、いいだろう」
いつものあの心地よい声。僕のほっぺを赤くするあの声がやってきた。
「え?」
肩におかれた手は気がつけば頭におかれ、ゆっくりとなでながら、彼は僕に微笑んだ。
しぜんと僕のほっぺがあつくなっていく。
これ……あぁ…………ぁ……
この笑顔は…………本物だ。
僕のまわりをふわふわと浮いた泡たちは一つ、また一つ、割れていった。
気が付けばここには僕とナナセ君しかいない。
「ウオ、ここでお別れだ。すまない…お前の望みを聞いてやれなくて…………だが、魔王を倒したらすぐにお前を見つけだして見せる。光によって七色に光る髪に真珠のような瞳、そして俺が渡したそのペンダントをずっと持っていてくれれば…」
「どこにいようとお前を見つけて見せる」
本当はキスして欲しかった……昔、絵本で呪いにかかりもうすぐ死ぬ女の子は女の子が好きな男の子が口にキスすると、その呪いは無くなり。
そして、二人は愛し合い幸せに暮らした…という全くもって安易な絵本をよく読み聞かされた。
バカバカしい呪いを解く方法。
本当はやってみたかった……
でも、
彼の本物の笑顔を久しぶりに見れたから良いや。
「約束だよ……」
…………すまない。