第一話 其の七 戦いは一方的に…
玉座の間に集まった魔物の数は十五体。
オーガが二体
オークが三体
メイド姿の魔族や獣人が十体
全員が武器を持ち、ゼフィリアとトリアーヌの前に出る。
「できるだけ損傷は抑えて捕まえろよ。傷んでると保存がしづらいからなぁ」
ニヤニヤ笑いゼフィリアが指示を出す。その表情は余裕で溢れている。
だが、それも無理はない。戦力は三倍、それに相手は中身が人間で、慣れない魔族の肉体では反撃もままならないかも知れないのだから。
じわじわと距離を詰めてくる魔物達。
「っと、これでよし」
しかし、ロッシュは近づいてくる魔物達を尻目に、【戦闘補助術式】を発動させていた。
淡い光がロッシュ達を包み込む。
身体強化の効果を発揮する術式により活性化したロッシュは相手に対峙しながら、その手にしている武器を床に置いた。
「ひとまず、情報収集もしたいから相手の殺害は避けよう。捕縛メインで鎮圧する」
「了解」
「それじゃあ…行くぞっ!」
敵の先手を取るべく、一気に動くロッシュ達!
不意に動いたロッシュ達に魔物達は反応がすこし遅れた。あっという間に懐に入られ初手の一撃をまともに食らう。
まずは機動力が高いギョウブが敵の陣中に飛び込み、すれ違いざまにオーク三体を弾き飛ばす!
次いで、ギョウブに気をとられたオーガの無防備な脇腹にロッシュが拳を叩き込む!
その細い体から放たれた、想像以上に強い一撃に、屈強なオーガが吹き飛ばされ、吐瀉物を撒き散らしながら床に転がる。
「ほいほい、ちょっと大人しくしててねぇ」
間髪入れずに、シィランが複腕から放たれた粘着瞬性の高い蜘蛛糸の塊で倒れたオーガとオークの行動を封じる。
「何をしている!向こうの術士を先に狙え!」
瞬く間に四体が動きを封じられた状況に、魔物達は浮き足立ったが、ゼフィリアの叱咤にハッとして、二手に別れた。
残ったオーガ一体とメイド二体はロッシュ達へ、他のメイド八体は、初期位置から動いていなかったアセリアとリシュリンへと向かう。
「遅いですわ!」
アセリアが組み上げた【風系術式】が発動、同時に向かってきたメイド全員にまとわりつくような風がわき上がり、その動きを止める。
だが、近づけないと判断したメイド達は、遠距離攻撃が可能な術式を発動させ、火の玉や雷の槍を放ってきた!
「その程度では、届きません」
しかし、アセリアとリシュリンに迫ったメイド達の術は、二人に届く前に魔力の籠ったアセリアの風に絡め取られる四散する。
「アセリア…終わったよ…」
リシュリンが言うと同時に、床を突き破って出現した無数の植物が、足止めされていたメイド達に一斉に絡み付く!
ギリギリとメイド達を締め上げ、反撃も許さずに意識を奪った。
「相変わらず、お見事ですわね…ですが、いつもより、その…縛り方が淫靡な雰囲気に…」
「魔界の植物は気性が荒い…だから仕方ない」
頑丈な蔓や蔦に絡めとられたメイド達を満足げな顔で眺めながら、リシュリンは呟いた。
「馬鹿な……」
呆然とゼフィリアが呟く。三倍もいた戦力は瞬く間に鎮圧され、捕縛されてしまった。
たしかに個体の戦力としてはゼゴウや四天王の肉体のほうが上である。だが、入れ換わる前のゼゴウらの能力を知るゼフィリアにとって、ここまで一方的にやられるなど、まったく想定していなかった。慣れぬ肉体や魔力をもて余して、右往左往するのが関の山だと思っていたのだ。
本来なら、その想像は合っている。しかし、レベルアップという、ある意味生まれ変わりに等しい程のパワーアップを限りなく繰り返し、その限界を引き出せなければ死ぬような場面を乗り越えてきたロッシュ達にとって、魔族の肉体とは言え、慣れ馴染むのに時間は必要なかった。
悪い夢でも見ている気がして、よろめいたゼフィリアの足に、なにかが当たる。
おそるおそる、それに目を向けると…そこには蜘蛛糸でがんじがらめになったトリアーヌが転がっていた。
「ひっ…」
小さく声を漏らすゼフィリア。と、不意に背後から囁くように声をかけられた。
「キツイ縛られ方と、恥ずかしい縛られ方…どっちがいいかしらぁ」
ゼフィリアの悲鳴が玉座の間に響き渡った…。
とりあえず、ここまで書いた文章を修正しまくりました。