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勇者伝承魔王伝  作者: 善信
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第一話 其の六 『魔王』の姉現る

扉を開けて侵入してきたのは、一体の魔物?であった。その姿は、執事のような格好をした二足歩行するカピバラと言った感じである。


「ゼゴウ様!ご無事ですかゼゴウ様!」

慌ただしくゼゴウの名を呼び、ロッシュ達に気がつく。

「ああ!ご無事だったのですねゼゴウ様!」

パタパタとロッシュの所に駆け寄り、ポケットから取り出したハンカチで汗を拭う。


「いや、四天王の皆様もご無事でなによりです。何しろ相手は異世界の化け物『勇者』一行でしたからな、心配いたしました」

「あの…君は?」

「ほほほ、お戯れを。このトリアーヌをお忘れと?」

トリアーヌと名乗ったこの魔物は、完全にロッシュをゼゴウと勘違いしているようだった。

まぁ、ムリも無い。肉体だけは確かにゼゴウの物なのだから。


「それで、成敗した『勇者』一行の死骸はどちらに?ゼフィリア様が先ほどから痺れを切らしておりまして…」

「ゼフィリア」という名を出したトリアーヌの声のトーンがあからさまに低くなる。完全に怯えているのが、目に見えてわかり、キョロキョロて辺りを見回す。

「いや、それが…」

ロッシュが口を開きかけた時、


「ゼゴウー!どこだ!ゼゴウー!」


突然、玉座の間に新たな侵入者が現れた。

「ゼ、ゼフィリア様!」

「ああ…?」

ゼゴウの名を大声で呼び、ズカズカと踏み込んできたその魔族の女は、トリアーヌの声に、こちらへと顔を向ける。

ゼゴウ(ロッシュ)と同じ様な青い肌に、両耳の少し上から側頭部をカバーするような角を生やしていた。神経質そうに眼鏡の位置を直しながら、ロッシュ達の所にツカツカと歩み寄る。

「ゼゴウ!呼ばれたらさっさと返事くらいしろ!」

ゼフィリアと呼ばれたその女は、背は今のロッシュより低いのに、その態度は高圧的で、明らかにゼゴウより上の立ち位置で話している。


「あの…彼女は…?」

耳打ちするようにトリアーヌにアセリアが問いかけた。

「?…ゼフィリア様でしたら、ゼゴウ様の姉君でございますが…」

「あ、姉!?」

なにを今更といった感じで答えるトリアーヌ。しかしアセリアは予想外の答えに、思わず声を上げてしまった。


ジロリとゼフィリアはアセリアを睨みつける。

「そうだよ、このバカの姉だよ!なんだ、今更。それで、愚弟にその四天王(笑)。『勇者』の死体は何処なんだ?」

ロッシュの襟を掴み、脅すように『勇者』の亡骸の在りかを問うゼフィリア。

もちろん、そんな物は有りはしないが、その執着が気になった。

「なんで…死体なんか欲しがるんだ?」

「ハァ?」

ゼゴウからの問いかけだと思ったゼフィリアは首を傾げる。

「ボケたのか、お前?解体バラすに決まってるだろうが!」

恐ろしい事を口にするゼフィリア。

「バラして!刻んで!磨り潰して!弱い人間が、アタシら魔族に対抗できるようになるメカニズムの解明をするんだよ!わかったらさっさと死体を渡せ!」


「なるほどね…だけど残念だったな!」

パァン!とロッシュがゼフィリアの手を払う音が響く。

「死体なんか有りはしないよ」

「なんだと…おい、ゼゴウ…どういうつもりだ…」

「どういうつもりもなにも、僕らがその『勇者』だ!」

「…はあぁぁ?」

ゼフィリアが怪訝そうに顔をする。


「君の弟のゼゴウにまんまとやられてね。体を入れ換えられて、お陰で今はこの様さ」

「なん…だと…」

疑わしげにゼフィリアはロッシュを眺める。

「…いや、ゼゴウだろ」

「違うって」

「だったら証拠でもあるのか?アタシからの罰が怖くて適当な事を言うな!」

そんな子供みたいな嘘をつくか!と言いかけたロッシュにちょっとした閃きが浮かぶ。


「これでどうだ」

ロッシュの右目に光が宿る。

「これが『勇者』の証、『勇者紋』だ!」

『勇者紋』が発する力の波動に目を見開き、呆然とするゼフィリア。ひたすら驚くトリアーヌ。

「…ゼゴウはどうなったんだ…」


「…僕らの肉体を得て、人間界に行ったよ」

「じゃあ、お前以外の四天王(笑)も中身は、『勇者』の仲間…なのか?」 

「そういう事だ。残念だったな」


ガックリと肩を落として、俯くゼフィリア。弟であり、『魔王』であったゼゴウが、自分たちを見捨てて去ったのだから、そのショックはかなりの物だろう。

「…トリアーヌ、城の連中を全員、ここに集めろ」

「は、はい!すぐに!」


パタパタと部屋の外に駆けていくトリアーヌ。ロッシュ達はあえて手を出さずにその姿を見送る。

城主でもあったであろゼゴウなき今、無駄に争う事態にはならないだろう。残されたゼフィリア達が降伏するにしろ、和解するにしろ、魔界の事をもっと知りたいロッシュ達にとって、今は穏便に済むならそれに越した事はない。


「……っ」

ふと、ゼフィリアの肩が震えている事に気がついた。なにかロッシュが声を掛けようとしたが、次の瞬間、

「…フフフ、ハハハハハハハハハ!」

大きく体を震わせながら、ゼフィリアが笑い始めた!


「ハハハ!ま、まさか、アタシがゼゴウに出し抜かれるなんてな!フハハハハ、あ、あのバカ、いつか殺してやる…ククク」

身をよじり笑うゼフィリアの視線がロッシュ達を捉える。

「そ、それよりアタシはツいてる!まさか生きたサンプルが手に入るとは思わなかった!しかも馬!魔族!蜘蛛と選り取りみどり!フフフ…解体バラしがいがありそうだ」

眼鏡の奥の瞳に狂気を宿して、ゼフィリアが笑う!


「元は仲間の肉体だぞ…それを…」

「関係ないわ。この魔界にでは強い者こそが正しい。ならばあらゆる手段を使って強さを追及するのは正義だ!それに…アタシ達を見捨てた連中に義理立てする必要も無い。」

初めから、降伏も和解もありはしない。ゼフィリアにとっては、珍しい研究対象が現れたのだから捕獲するだけである。


「ゼ、ゼフィリア様!城内の者達を集めてまいりました!」

トリアーヌが魔物達を引き連れて部屋に戻ってきた。

「よしよし…さて『勇者』一行。あまり抵抗するなよ?傷が多いと保存しづらいからなぁ」

数の上では圧倒的にゼフィリアが有利!しかし、そんな状況であってもロッシュ達の口元には笑みが浮かんでいた。

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