第三話 其の九 激突、溶岩竜! 後
その身から高熱とマグマを発生させ、ロッシュ達の攻撃を寄せ付けない溶岩竜。しかし、溶岩竜の攻撃も絶妙なコンビネーションに阻まれて、大したダメージは与えられず、一進一退の攻防は続いている。
だが、周辺を焦がすような高熱は、徐々にロッシュ達の体力を奪っていく。対する溶岩竜は、その巨体に見合った体力を誇り動きが衰える兆しすら無い。
今のままでは、ロッシュ達の敗北は時間の問題であった。
最前線から少し離れた場所でフォローに徹していたアセリアは、同時にある術式の構築を行っていた。
巨大な敵には大火力!
そのセオリーに従って、溶岩竜に大打撃を与えるべく、力を溜めている。
複雑かつ、かなりの集中力を必要とする術式を練り上げながら、竜のブレスを阻害したり、ロッシュ達に迫る炎の塊を相殺するアセリアの負担は、ある意味、竜と真正面から戦うよりもキツい。
だが、その苦しい時間もようやくゴールが見えてきた。
「アセリア、こっちへ」
文字通り、アセリアの影から飛び出してきたシィランが、アセリアの手を取り近くにあった岩の影に飛び込む。
シィランの装備する【神代級防具】の能力で影から影へと、二人は移動する。
「ここでどうだい?」
「結構ですわ!いいポイントです…」
二人がたどり着いたのは、戦場から少し離れた丘の上。溶岩竜の巨体がよく見える場所だった。
「んじゃ、これよろしく」
そう言って、シィランが影の中から取り出したのは、戦いの最中に剥がれ、砕けた溶岩竜の鱗であった。
人の頭程もある、岩石に似たその鱗をシィランは合計で十個取り出す。それらをチェックして、アセリアは頷いた。
「これなら行けそうです。ロッシュさん達に、一時待避と止めを刺す準備をしていただくよう、伝えてください」
「りょーかい。派手にかましてやりなぁ」
親指を立て、シィランに答えたアセリアは影に消える彼女を見送った後、ようやく完成した術式を具現化した。
溶岩竜は、自分に迫る小さい連中の動きが変わった事を感じた。高熱とマグマに躊躇しながらも攻めっ気を見せていた奴等が、自分から離れていく。
諦めたのだろうか?
竜の脳裏にそんな疑問が浮かぶ。だとすれば、逃がしはしない!
自分に傷を与えた小さい連中に、死の制裁を与え後悔させなければならない!
竜としての本能に刻まれたプライドが、竜の歩を進ませた。
ドゴオオォォォン!!
次の瞬間、爆発音が響き、溶岩竜の体が弾けた!
何処からか飛んできた何かが、溶岩竜の鱗を破壊し、肉を弾けさせ、骨が砕ける程の衝撃を与える!
「グオオオォォッ!」
苦痛の悲鳴と血を撒き散らしながら、溶岩竜は自分にダメージを食らわせた何かが飛来した方向に目を向けた。
「一発目…ヒットですわ」
溶岩竜の視線の先、小さい丘の上に立つアセリアは、疲労を感じながらも、完成した術式に満足気であった。
アセリアのすぐそばには、渦を巻く風のトンネルの様な物が発生している。七、八メートル程あるその筒状の風のトンネルは、さながら砲身のような役割を果たす、アセリアのオリジナル術式の中でも特に難易度の高い術であった。
「二発目…」
呟きながら、風の砲身に足元の溶岩竜の鱗をセットする。渦巻く砲身の中で、鱗の砲弾は回転を始めた。その状態を保ちながらもう一度、標的に向けて砲身を微調整。
狙いが定まると、アセリアは術式によって圧縮した空気の塊を、風の砲身の中で爆発させた!
勢いよく撃ち出された鱗の弾丸は、渦の回転により、ライフルの銃身から放たれた様に貫通力と威力を増して溶岩竜に着弾!
またも甚大なダメージを与える事に成功し、溶岩竜の苦しげな咆哮をアセリアの耳に届ける。
さらに三発目が溶岩竜にヒットし、たまらず竜はアセリアから身を隠すために移動を始めた。傷口や口から滝のような血を流しながらも、砲撃される恐怖に突き動かされる。
だが、その溶岩竜の前に、立ち塞がる人影が二つ。
「やっと竜から熱が引いたな…」
「ああ、ようやくこれが使える」
呟き、ギョウブは腰に下げている【神代級武具】に目をやった。
迫りくる溶岩竜を前に、ギョウブは腰から予備として備えていた刺突剣型の【神代級武具】を抜き放ち、ロッシュはギョウブの下半身、馬の部分に跨がる。
「魔力…接続」
密着したロッシュから、彼の魔力がギョウブへと注ぎ込まれる。
流れ込むロッシュの魔力と、ギョウブ自身の魔力を刺突剣に込めて、ギョウブは駆け出した!
溶岩竜は熱が冷めた今、小賢しく近づく小さい連中を叩き潰そうと前肢を振り上げる!
と、何を思ったのか、小さい連中はその攻撃に正面から向かってきた。
バカめ!肉塊になるがいい!
勝利を確信した竜の踏みつけがギョウブ達の姿を覆い隠した!
「うおおおおっ!」
壁のような巨大な前肢が二人に迫る!しかし、その死の壁がギョウブ達に届く前に、繰り出された刺突剣の一撃が、竜の脚に突き刺さった!
ズオオオオオォ!!
切っ先が突き刺さる共に発動した刺突剣の能力は、強大な破壊の力を撒き散らし、竜の前肢、さらにはその胴体を抉り風穴を開ける!
抉りとられた場所は、竜の心臓も巻き込んでいた。
驚愕と理解不能といった表情を浮かべながら、それでも進もうとして…力尽き、崩れ落ちる。
地鳴りのような轟音を響かせ横たわり、動かなくなる溶岩竜。
ロッシュは竜が完全に絶命したことを確認し、ここにようやく溶岩竜との戦いは終了を告げるのであった。
少し長くなっちゃいました…