第二話 其の七 上位魔族との攻防・後
完全な不意打ちだった!
にもかかわらず、ラルドは上半身を沈めてシィランの攻撃をかわし、ギョウブへ向けていた攻撃をシィランはに叩き込む!
「あうっ!」
辛うじてガードはしたが、複腕はへし折られ、止めきれなかった拳がシィランの腹に突き刺さる!
吹き飛ばされて、床を転がりながら距離をとるシィラン。彼女に止めを刺すには絶好のタイミングだった。
だが、ラルドは体勢を立て直し、再度突進しようとしていたギョウブに狙いを付ける!
床を蹴って駆け出そうとしたギョウブに、カウンター気味のラルドの一撃が入った!意識が飛びそうになり、フラつくつくギョウブにラルドが迫る!
そこへ、またも、リシュリンの植物が絡み付いた!
「いちいち、鬱陶しいぞ!」
ラルドの叫びと共に、発生した衝撃波が、リシュリンを吹き飛ばす!
「ざまぁみやがれ!」
小賢しい邪魔者に大ダメージを与えた手応えに、吐き捨てるように叫ぶ!
だが、次の瞬間、ゾクリと悪寒が背筋を走った。
振り向いた視線の先には、二人の人物。
始めからあえて戦闘に参加せずに、ひたすら魔力を練り続けていたアセリアと、攻防から一端離れて力を溜めていたロッシュ。
「チッ!」
舌打ちしながら、二人へ向けて駆け出すラルド。
「させません!」
アセリアから放たれた魔力が、空気を圧縮した塊となって、迫るラルドへ叩きつけられた!
直撃を受け体勢を崩し、ぐらつくラルドの周辺に風が発生して渦を巻きはじめる。
「ぐ…ぬっ…」
渦はどんどん強さを増して行き、小規模な竜巻となってラルドの動きを封じた。アセリアはさらに、炎の術式を発動させて、竜巻と重ね合わせる!
天井に届く勢いの炎の竜巻となったその攻撃に、さすがのラルドも防御に回らざるをえない。だがアセリアは攻撃の手を緩めずに、魔力を注ぐ!
炎の竜巻は巨大な蛇のごとく、形を変えラルドを締め付けるように、何重にも巻きこみやがて炎の球体へと形態を変化させた。
アセリアのコントロール下にあるため周辺への熱はそれほどでもないが、風の流れで球体状になった内部は外へ流れない熱がすべて集中し、地獄のような熱量となってラルドを焼きつくそうとする。
「うぅ…」
滝のように汗を流しながら、ひたすら魔力をコントロールするアセリア。だが、次の瞬間!
ドゴオオォォッ!
爆発音と共に炎の球体は弾け飛び、周囲に強烈な、熱波を撒き散らす!
爆発の余波が収まった時、荒く呼吸をするラルドの姿がそこにはあった。
「やってくれるじゃねぇか!このカスどもがぁぁ!」
深い火傷を負いながら、未だ衰えぬ覇気と怒りに満ちた叫び声を上げる!
「この俺に!カスの分際で!」
もうもうと煙が立ちこめる中を、ふらつきながらも怒りを抑えきれぬ様子で獲物を探す。
「ただじゃ殺さねぇぞ…刻んで、バラして、てめぇの肉片を口につっこんでやる…殺してくれと泣いて懇願しても殺さねぇ…」
ロッシュ達を拷問にかける絵面を想像しながら、ブツブツ呟き視線を巡らせる。
「クソ女どもは、ロッシュの目の前で魔獣どもに犯られながら壊れていくのを見せつけてやる。泣きっ面晒すカスは面白れぇかもなあ…」
「そんな事、させるかよ」
溢れる妄想を垂れ流していたラルドに、不意に声がかけられた。
驚愕して振り返るラルドの視界に飛び込んできたのは、
煙の中から剣を振りかぶり、突進してくるロッシュの姿!
「ロ…」
ラルドがロッシュの名を呼ぶよりも速く、ロッシュの剣が深々とラルドの体を斬り裂いた!