第二話 其の二 『勇者』の成れの果て
「先王達の墳墓」地下八階。
五階でゼフィリアから補給を受けたロッシュ達は順調に進んでいた。各階層ごとに徘徊している階層ボスと言える強さを持つモンスターと戦い、大した被害もなく突破してきた。しかし、ここに来て初めて戸惑いを覚える階層ボスと対峙することになる。
目の前に立ちはだかるのはゾンビの集団。生気のない虚ろな瞳、死斑の浮かんだ土気色の肌、生者を怨むような呻き声。
正に典型的かつ模範的なゾンビである。
しかし、ロッシュはそのゾンビの中の数人に見覚えがあった。
「ユーガス…」
ロッシュがそのゾンビの名を呟く。
ユーガス・ディーカムイ。彼は生前、ロッシュと同じく覚醒した『勇者』の一人であった。
共に魔界に乗り込み、魔王の城で命を落とした彼とその仲間達が、今、変わり果てた姿でロッシュ達に迫って来る。
「他人の事は言えないが…なんて姿だ…。すぐに…楽にしてやる…」
武器を構え、魔力を循環させる。
命無き兵となった同じ『勇者』にもう一度死を与えるために、ロッシュ達は戦いの場に飛び込んだ!
先手を取ったのはアセリアの術式。
発動した炎が、ゾンビの群れを呑み込み、群れの大半が骨も残さず消滅する。だが、その炎の中から飛び出す複数の影!
ユーガスとその仲間のゾンビが、死人らしからぬ速さで迫る!迎え撃つロッシュとギョウブが行く手を阻むが、一体のゾンビが迎撃をかい潜り、アセリアとリシュリンに剣を降り下ろす!
「残念でした」
不意にシィランの声が響き、ゾンビの動きが止まる。
いつの間にかアセリア達の前には蜘蛛の糸による罠が仕掛けられていた。ゾンビはその糸に絡めとられ、もがくたびに体の自由が奪われていく。
動きが鈍ったゾンビをコントロールしようと、リシュリンが死霊魔術師の力を発揮するが、その攻撃は不発に終わる。
「やはり…無理か…」
死霊操作は通じないと判断したリシュリンは、即座に植物を操り、ロッシュ達と戦っているゾンビ達の行動を阻害する事に集中する。
リシュリンの術により足元に絡む植物で動きが鈍くなったところに、人馬族の突進力を生かしたギョウブの一撃がゾンビの胴体に大穴を開けた!
「まだ動けるのか…さすがだな」
千切れかけた体で、なおも迫ろうとするゾンビの頭部にギョウブは渾身の一撃を打ち込む。それで完全に動かなくなったのを確認し、次の相手へと再び駆け出した。
何度か剣を交え対峙するロッシュとゾンビユーガス。
生前と変わらない剣技の冴えに、ロッシュは感心しながら捌いていく。
「まったく、『勇者』は死んでも手強いな!だけど!」
火花を散らしながら打ち合う二人。しかし、ロッシュの剣速が徐々にゾンビユーガスを上回り、いつしか一方的な攻めになっていた。
一瞬の隙を突いてユーガスの剣を弾き飛ばす!
「生きてる『勇者』はもっと手強い!」
体勢を崩したゾンビユーガスの肩口から、袈裟斬りでその体を両断する!それと同時に、ロッシュの愛剣「電撃剣」から稲妻が走り、二つになったゾンビユーガスに止めを刺した!
ゾンビユーガスとその仲間達を倒したロッシュ達は、一ヶ所に集めた朽ちた肉体にもう一度、手を合わせる。
「せめて、魂は人間界へ戻れますように…」
アセリアが祈りと共に荼毘の炎に魔力を注ぐ。
『勇者』となり戦いに身を投じてから、知り合いや同僚の『勇者』の死を幾度となく経験してきたが、今回のパターンはさすがに、初めてだった。若干の後味の悪さと、知人の死を弄ばれた怒りが胸に燻る。
焼け残ったユーガスの武器を墓標代わりにし、ロッシュ達は更なる地下へ向かう。
ダンジョンの最深部まで、あと僅かであった。




