第一話 其の一 魔王の愚痴、勇者の末路
初投稿&初執筆です。
拙い所は多々あると思いますが、お付き合いいただければ幸いです。
「これでトドメだぁぁぁぁっ!!」
『勇者』ロッシュの渾身の一撃が『魔王』ゼゴウの胴体に突き刺さる!
「ぐおおぉぉぉぉっ!」
部屋中に響く『魔王』の絶叫!
そして次の瞬間、激しい光と爆発するような衝撃が、その場にいた全ての者を包み込んだ。
◆◆◆◆◆◆
(………何が起きたんだ?)
目が覚めた時、ロッシュは倒れている自分と全身の激痛を感じた。
「くっ…」
なんとか首だけ動かして周囲を見渡すと、同じように倒れている仲間達と、先程まで戦っていた『魔王』の側近達。
と、そんな中に一人だけ立っている者がいた。
ツカツカと近付いてくるその人物の顔を見たロッシュの顔が、驚愕に染まる。
倒れているロッシュを覗き込んだのは、『勇者』ロッシュ。自分自身の姿だった。
(なんだ?誰だ?一体何が?)
ぐるぐると頭の中で疑問符が踊る。そんなロッシュを見て、
「よしよし、ちゃんと成功したようだ」
ニヤリと笑いながら、もう一人のロッシュが言う。
「私だよ、『勇者』ロッシュ。『魔王』ゼゴウだ」
「!!」
その言葉に、ロッシュは自身の姿を確認する。
漆黒の鎧に豪奢な闇色のマント。顔に手を伸ばせば、仮面のような感触。恐らく、『魔王』が身につけていた厳つい仮面だろう。
何より決定的だったのは、ロッシュの腹に突き刺さる自身の愛剣。
「理解したようだな。そう、君と体を入れ換えさせてもらった」
「…なぜ…だ…」
苦しげにロッシュが疑問の言葉を口にする。
それもそうだろう。
普通であれば人間より遥かに強い存在である魔族、しかもその王が、『勇者』であるとはいえ、人間の肉体を欲する理由などまったく無いハズである。
「ふむ、どこから説明したものか…そう、私はこの魔界が大嫌いだった」
またもロッシュは驚愕した。魔界を統べる王、そんな人物が自らの統治する世界が嫌いだと言う。
「この魔界という世界は、本当にろくでもない。奪い、犯し、殺し合う。そんな事が当たり前で常識で日常だ。しかも、上の連中になればなるほどケダモノじみた本能と欲望と感情で動く奴が多くなる」
「上の…連中…?」
気になるワードにロッシュが思わず呟く。
「ああ、言ってなかったね。私は確かに『魔王』だ。だが、広大な魔界で数ある国の中、下から数えた方が早い、その程度の国の王だよ」
もう何度目か、いい加減、驚き疲れてきそうだ。
思えばロッシュ達は『魔王』と戦っていた時、まだ余裕があった。
無論、必要以上に上げすぎたレベルの為というのもあるだろう。しかし、『魔王』が下位の力しか持っていなかったというのも要因の一つだったらしい。
だが、そんな下位の『魔王』ゼゴウでさえ人間界に与えた被害は甚大である。上位の『魔王』になるとどれ程の化け物なのか想像もつかない。
「私はいつも不安だった…。いつ奪われるかわからない日々にとことん嫌気がさしていた。そんな時だよ、ある古文書で別世界、つまり人間界の事を知ったのは!」
ゼゴウの声が明るい弾む。
「もちろん人間界も弱肉強食には変わりない。しかし、そこには秩序と安寧と平穏があった。」
と、そこで急に声のトーンが下がった。
「私の能力を使えば人間界に行く事は可能だったが…問題が二つあった。それが神と陽光だ」
ハァ…と一つ大きなため息をついた。まるで自身の素晴らしいアイデアに水をさされてガッカリだと言わんばかりである。
「神というのは、別世界からの侵略者に対抗する為の、いわば防衛機構だ。君達のような『勇者』を覚醒させて脅威を排除しようとする。そして陽光。これは単純に我々魔族にとって猛毒だった」
言いながら、ゼゴウは倒れているロッシュの仲間達へ視線を向ける。その視線に気付いたロッシュが威嚇するように、睨み付けた。
「だから私は考えた…そして至った結論が『魔界を棄てるなら、魔族の肉体も棄てればいい』だ」
ロッシュの睨みを意にもかえさず、ゼゴウは話ながら倒れている仲間達へと歩を向ける。
「今のように人間の肉体を手に入れれば、神も陽光も脅威では無くなる。が、凡人ではいけない。それでは人間界に行っても今とたいして変わらない」
仲間の下に歩み寄ったゼゴウが道具袋を探る。
「僕の…仲間に…触るな!」
「殺しはしないよ…」
そう言って取り出したのは回復用のポーションだ。
それを次々と仲間達に与えていく。
そんなゼゴウの行動に疑問を持ちながらも、仲間は無事そうだという現状にロッシュは少し安堵する。
「さて…そうそう、それでどうせ人間の肉体を入手するなら、絶対的な権力か強さを持つ者でなければいけない…そこで目をつけたのが君達、『勇者』だ!私達を排除するべき存在が私達の礎になる…フフっ、面白いだろう?」
何も面白いくない!ロッシュの表情がそう語っていた。もっともその表情は仮面のせいでゼゴウには伝わらなかったが。
「計画が成るまで三年もかかってしまったが、予想以上の成果は得られた。君達は素晴らしい素体だったよ」
再びロッシュに顔を向けるゼゴウ。その足下でポーションによって回復した仲間達が上体を起こしはじめる。
慌ててロッシュが、警告の声を上げようとしたが、
「どうやら成功したようですね」
ゼゴウに語りかける戦士の青年の声に動きが固まる。
「ほう、これが人間の体か…」
「なかなか悪くないのぅ」
「いや、元の体より強いね…『勇者』どもって怖い…」
次々と起き上がり、体の調子を確かめている。
「ま、まさか…」
「そう!君達全員の肉体を頂いた!これで私達は安心して人間界に凱旋する事ができる」
「貴っ様らぁ…」
ロッシュの声に怒りがこもる。今にも飛びかかってきそうな気配だが、ゼゴウはニヤリと笑う。
「無理はするな、君が与えたダメージで元の私の体は死にかけているんだ。まぁ、死んだところでどうでもいいがね」
嫌味じみたセリフを投げ掛けて、ゼゴウは戦いの舞台であったこの玉座の間の出入り口へと歩きだし、中身の変わった仲間達がそれに続く。
その姿は『魔王』に挑むべく乗り込んできた自分達そのもので、色々な感情がロッシュの胸中で渦巻く。
「さようなら、元『勇者』ロッシュ。君達が受けるはずだった栄華と栄誉と栄光は私達が代わりに受けよう!君達はこのケダモノ共が群雄割拠する魔界で楽しんでくれたまえ!」
高笑いしながら部屋から出て行くゼゴウ達。追わなければとロッシュは焦るが、ノロノロと這いずるのが精一杯だった。
「ぐっ…ゼゴウ…」
悔しげなロッシュのうめき声だけが、玉座の間に響いていた。