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18 ラーヌへの帰還

「アラン、良いのか?」


 ダオルに尋ねられて、アランは困ったような苦笑を浮かべた。


「良くはないだろうが、短期間ならたぶん大丈夫だろ。でも、おっさんに伝えておいてくれると有り難い。あと、次にこんな事する時は事前連絡は絶対欠かすなって。紹介された時から、どうせ続かないと思ってたから、期待はしていなかった。彼女が今後どうしようと、俺に害がなければ問題ない」


「レオナールは本気で嫌がっているようだったが」


「そりゃ嫌がるだろ。でも、俺が教師役するよりはたぶんマシだろうからな。ヤバイと思ったら止めるが、それまでは様子見る。たぶん一週間もしない内に両方音を上げると思うが、特に問題なければ好きにやらせれば良い。

 あいつ、俺が言っても好きこのんで他人と関わろうとしないからな。いい加減、絡まれても暴力・暴言以外の方法で対処する方法を学習して貰おう」


「それを本人に言ってやれば良いだろう」


「言って聞くようなやつならそれで良いが、レオが理解できると思えないな。例え数秒前の事でも、興味ない物事はすぐ忘れるんだ。それが必要になった時に助ければ良い。

 やらない事はできないんだから、無理矢理にでもやらせてみれば全く身にならない事もないだろう。俺だとつい手加減したり、甘やかすからな」


「それがわかっているなら、アランが教えてやった方が良い気がするが」


「どうかな。俺、一応あいつの友人やってるけど、たぶん対等じゃないんだ。お互い言いたい事は結構言い合ってると思うが、まともな喧嘩は一度もした事がない。

 もし、仮に本気でぶつかり合ったら、その時は最悪それが最初で最後の決裂になりかねない。なんていうのかな、あいつ、人の形はしているけど、まだ人になりきれてないんだ。

 ほら、赤ん坊って、言葉話し始めるまではわりと獣みたいな行動する事あるだろう? あれに似てると思う。人の真似をするのは上手いけど、それが何を意味しているかまでは理解できてない、そんな感じなんだよなぁ」


「精神年齢が幼いということか?」


「それも無くはないが、ちょっと違う気がする。上手く言えない。わかっているのは、あいつが本気で嫌だと思って逃げたら、俺にはどうしようも出来ないって事だな。

 今のところ、レオと対等以上につきあえる人がいるとしたら、ダニエルのおっさんだけだと思う。でも、あのおっさん、人間としてはものすごくダメな部類で、凄腕剣士じゃなかったら間違いなく魔獣レベルの害悪しか周りに振りまかないだろ。レオにあれを参考にされると困る。

 あいつ、ああ見えてものすごく素直で影響受けやすいからな。騙されやすいとも言うが」


「ダニエルが人迷惑なやつだ、という意見には同意する。ある意味、おれもあいつの毒を被った口だ。救われた部分がなくもないが」


「そうなのか?」


「ほぼ初対面で死にたければ勝手に野たれ死ね、と言われたな。ただし、俺の視界に入るところで死のうとしたら、全力で妨害してやる、と。そして、それから半年ほど寝る時以外不定期につきまとわれた」


「……それ、憲兵とか領兵に突き出して良いレベルなんじゃないか?」


「そうだな、辺境じゃなければそうしたかもしれん。何度か剣を抜いてやりあったが、一方的に遊ばれただけだった」


「え、それで、よくまぁ、あのおっさんと付き合う気になれたな」


「ダニエルは、自分の都合通りに事を進めるためには、手段を選ばないからな。最後は根気と気力・体力の勝負だ。おれの場合は、諦念もある。こちらが諦めなければ、死ぬまでつきまとわれるかもしれない、というのは恐怖と紙一重だが」


「それは気の毒としか言いようがないな。あのおっさん、ほとんど人外だし。今はどうだ、ダオル。後悔してるか?」


「後悔しない生き方はできそうにないが、現状に後悔はないかと聞かれたなら、ない。面倒なのと遭遇した、という気持ちがなくはないが、今では感謝もしている。それなりに居場所も見つけた。あとは彼が起こすトラブルに巻き込まれなければなお良い、というだけだ」


「そうか。なら良かった。弱味握られてこき使われてるとかじゃなくて」


 アランが安心したように言うと、ダオルは苦笑した。二人がエリクの遺体を見つけた場所へたどり着くと、三名の領兵と遭遇した。


「貴様、何者だ!」


 剣を抜こうとする領兵に、ダオルが身分証と冒険者ギルド証を見せた。


「先程も小隊長殿に挨拶させてもらった、Aランク冒険者のダオルだ。後見人はダニエル・アルツとアレクシス・ファラー。《疾風迅雷》と《蒼炎》の方がわかりやすいか」


「《疾風迅雷》に《蒼炎》だと!? 冒険者が何故ここにいる」


「依頼を受けて先にこの場所を探索していたのは、我々の方が先だ。ここには、行方不明の冒険者の遺体と遺品を探しに来た。それを回収すれば、撤収する」


 ダオルの返答に、兵士達は何か相談し、先程の男が頷いた。


「良いだろう。ただし、お前達がそれを回収してこの洞窟を出るまで、見張らせて貰おう」


 あまり嬉しい展開ではないと思いつつ、アランもダオルも了承した。麻布で包みかけて放置された遺体はそのままの状態で見つかった。きちんと包み込んで、ダオルが担ぎ上げる。


(できればもう少し色々、調べておきたかったな)


 アランはそう思うが、彼らがここに居座る間は難しいだろう。余計な事を言って絡まれたくはないので、無言でそのまま外へと向かった。



   ◇◇◇◇◇



「ところでドジったって、何をやらかしたの?」


 ルヴィリアの質問に、レオナールは聞こえない振りをした。


「ちょっと、聞こえてるんでしょ? 答えなさいよ」


「うるさいわね。それをあなたに教えて、何か意味があるの? 済んだ事だし、あなたには関係ないでしょう」


「そうね、関係ないわね。ただの好奇心よ。あとはそうね、あんたに対する罵倒文句のバリエーションが増えるかもね」


「それ、私に何の利点があるのよ?」


「私にはあるでしょ!」


 胸を張って言うルヴィリアに、レオナールが白けた視線を向けた。


「前から思ってたけど、面倒くさい女ね」


「好奇心旺盛じゃなければ、今頃こんなところで、こんなことしてないわよ。

 面倒臭い云々に関しては、人の事言えないでしょ。あんた達全員面倒臭いじゃない。

 だいたい、面倒臭くない人ってどういうの? あんたの目で見て面倒臭くない人がこの世に存在するわけ?」


「お喋りは長生きしないって、ママに教わらなかったの?」


「おあいにく様! 私、幼少時に両親と別れて孤児院育ちなの。

 院長先生は良い人だったけど、別にお喋りするなとは言われなかったわね。

 まぁ、当時の私は地味でおとなしい良い子だったけど」


「あなた、おとなしい良い子の意味を調べた方が良いわよ。たぶんきっと間違って覚えてるから」


「あんたに言われたくないわね! 私は相手を見て合わせるから問題ないわ。

 これでもプロの占術師だもの。相手の期待する役割を演じるのは得意なのよ」


「なら口を閉じて、そのまま一生黙っててくれる?」


「嫌よ。どうしてあんたのために、そんな事をするっての?

 私は無償奉仕はしない主義なの。私に何かして欲しければ相応の報酬を払いなさい。

 だいたいあんた、私にいまだにまともな謝罪してないじゃない。

 今からでも良いわ。両手両膝地に付けて、『ごめんなさい、私が悪かったです』って言ってみなさい。

 そうしたら今後の対応考えてあげても良いわ」


 レオナールは面倒臭くなったので、口を閉じた。ルージュが甘えるように、「きゅう」と鳴いた。


「ああ、そうね。お預けにして、そのままだったわね。ごめんなさい、ルージュ。じゃあ、ちょっと狩りに行く?

 でもアランがうるさそうね。いっそ全員殺した方がてっとり早いと思うんだけど」


「え、ちょっと、レオナール! 何の話してるの!?」


「ルージュは干し肉はあまり好きじゃないのよね。入り口付近のは食べちゃったから奥へ行くか、外で狩るかよね。

 でもここの森、外では全く魔獣見なかったから、見つかるかしら?

 良い肉屋があれば良いけど、あなた血抜きしない肉の方が好きだものね。本当、人ならここにもいるのに」


 チラリとルヴィリアを見たレオナールに、ルヴィリアは戦慄し、全身鳥肌が立った。


「えっ、ちょっ、何言ってるの!? ねぇっ!!」


「アランがダメだって言わなかったら、もっと楽なんだけど。ねぇ、ルージュ。あなた何が食べたい?」


「きゅきゅきゅーっ!」


 ルージュが何を言ってるのかは、理解できない。たぶん肉だ、とでも言っているのだろうが。


「おい、何を騒いでるんだ?」


 アランとダオルが、現れた。


「あら、お帰りなさい、アラン。ルージュが餌を欲しがってるの。何か狩ってから帰っても良いかしら。

 生肉ならたぶん何でも良いんだけど」


 レオナールの言葉に、アランが渋面になる。


「あまりお前に単独行動させたくないんだが」


「じゃあルージュが喜ぶ肉を買ってくれるってわけ?

 ふふ、新鮮な肉なら人でもかまわないわよ? 罪人なら問題ないわよね」


「おい、」


 アランがそれ以上言う前に、領兵三名が慌てたように、回れ右する。


「わ、我々は任務に戻る! いいか、くれぐれも悪さをするなよ、冒険者ども!!」


 走るような速度で立ち去る男達を見送って、レオナールが肩をすくめた。


「ところで、あれ、何だったの?」


「……さっきダオルやルヴィリアが言ってただろ、もう忘れたのか?」


「それは覚えてるけど、なんであの人たちと一緒だったの?」


「ちょっとな。それよりレオ、この洞窟に入るのは諦めた方が良さそうだぞ。

 数日、数ヶ月先はわからないが、今日明日は無理だ。どこで狩りをするつもりだ?」


「コボルトの巣があった森が良さそうよね。適当に狩って帰るから、先に帰っててくれる?」


「いつもだったら頷くところだが、お前一人にして本当に大丈夫か。

 寄り道したり、絡まれたり、トラブルに遭遇したりしないか?」


「信用しなさいよ」


「できるか! でも、早く済ませたいし、どうしたもんかな」


「おれが付き合おう」


「良いのか、ダオル」


「ああ。しかし、そうなると積み替えや、馬車の回収が困るか」


「なら、それ手伝ってからなら良い? どうせそこまでは同行しても変わらないもの」


「その方が助かるな。今夜の宿はどうする。前と同じところにするか?」


「一晩だけなら、おれが今いる借家でも良さそうだな。食事は外で適当に済ませれば問題ない。

 場所はルヴィリアが良く知っているから、問題ないだろう」


「……元は私の家だったんだけど」


 ダオルの言葉に、ルヴィリアがボソリと呟く。


「じゃあ、ダオルの住んでる家に泊まろう。自炊できるようなら俺が作るけど、どうする?」


「自炊できるようにはなってないから、外食の方が楽だと思うぞ。使うとなると、竈の煤や蜘蛛の巣を払うところから始めないと」


「あー、疲れてなけりゃやるんだがな」


 アランが少し遠い目になった。


「ベ、ベッドはどうするのよ! 確か一つしか用意してなかったわよね」


「ああ、それは問題ない。後日人が増える予定だったから、客室全てに家具と寝具を入れてある。

 でも、地下の部屋には入らない方が良い。人が使える状態じゃないからな」


「わかった」


「金持ってる人って、時折お金の使い方がおかしいわよね」


 ダオルの答えにアランが頷き、ルヴィリアがボソリと呟いた。


「じゃあ、日が暮れる前に戻るか」


 エリクの遺体をガイアリザードに載せ、馬車の荷台と幌を回収して荷を載せ替え、アランとルヴィリアはラーヌへ、レオナールとダオルはそのまま北の森へと向かった。



   ◇◇◇◇◇



「で、その家ってどこにあるんだ?」


「南区の東の端の方ね。要らない荷物置いてからにする? でも遺体があるから、冒険者ギルドに向かった方が良いかしら」


「あー、遠回りになるけど仕方ないな。そういえばルヴィリアは《重量軽減》も《浮遊》も使えないんだったか」


「言っておくけど、普通は使えないわよ。そういうアランは使えるの?」


「《浮遊》の方はな。《重量軽減》は見つけた当時、金が足りなくて諦めた。次に見つけたら買いたいが」


「魔術師は使える魔法があればあるほど良いんでしょうね。

 私、魔法の適正はあるみたいだけど、魔力量はそんなでもないのよね。魔法耐性が高いから、助かってるけど。

 たまにいるのよね、幻術系や催眠系をかけようとするやつ」


「俺だって、魔力量が豊富ってわけじゃないぞ。でも選択肢は増えるからな。

 それに必ずしも毎回レオと同行しているわけじゃないし」


「そうなの?」


「成人する前の見習い時代は、基本俺一人で薬草や調合した薬の納品に行ってたよ。採取の時は一緒だったけど」


「ふぅん、四六時中一緒にいるのかと思ってた」


「そんなわけないだろ。だいたい、あの性格だ。

 俺がああしろこうしろって言ったって、あいつが嫌なら好き勝手に行動するし、一緒にいると面倒事に遭遇しやすいからな」


「それはわかるわね。どうして、あれと一緒にいるの?」


「一言でいうなら、利害の一致、なんだろうな。それだけじゃないと思うが。

 俺としてはレオが死ぬか、俺を必要としなくなるまでは、できるだけ面倒見てやるつもりだけど、あいつがどう考えているかまでは知らない」


「え? 何ソレ、あなたあいつの保護者のつもりなの。でも現状ほぼ野放しじゃない?」


 ルヴィリアが呆れたように言うと、アランは苦笑した。


「いや、そういうんじゃなくて、できればずっと一緒に冒険者やりたいけど、俺があいつについて行けるか、ちょっと自信ないんだ。

 なるべくならあいつに切られる前に、独り立ちできるようにしてやりたいと思ってるし、そうなった時は、俺は俺でやっていこうと思ってる。


 俺がなりたかったのは、冒険者じゃなくて『魔術師』だからな。小さな事でも良いから、誰かに感謝して貰えるような、そういう魔術師になれれば十分だ。

 だからランクを上げようとか、ガツガツ金を稼ごうって気はない。そういうのに血道を上げると、面倒事や厄介事が多くなるだけだしな。


 正直、レオをちょっと甘やかしてるとは思ってるけど、どう考えても出来ることより出来ないことの方が多いし、今できない事を無理にやらせようとしても無駄だろ。だから少しずつ出来ることを増やしたり、得意分野を伸ばしたりした方が良い。


 たぶん今のあいつに、嫌がる事させても何も身につかないし、学習する気がないから意味もない。好きなもの、大事なものを増やして、人に慣れさせてからの方が良いだろうし、何より興味を持たせてからじゃないと、どうにもならない」


「何? それってつまり、私が普通にあいつを教育しようとしても無駄だって言いたいわけ?」


「レオに一般常識を教育・学習できるかどうかはともかく、読み書きはまともに出来るように教えてやってくれると助かる。

 ただまあ、最初に言っておくと、あれは図体の大きい幼児だと思った方が良い。

 人見知りが激しい上に、人と物と虫や獣なんかの区別ができていない。一度に詰め込もうとするのは無理だ。

 間違いなく聞き流されるか、聞かなかった事にされる」


「もしかして絵本の読み聞かせから始めた方が良いレベル?」


「俺が教えたからそこまで酷くはないはずだが、文字一つ書かせても俺以外には判読が難しいからな。

 でもあいつに書き取りをさせても、真面目にやらないし。

 この文字を十回書けって言うと、一応その通りにはするんだが、どれ一つとして同じに書けてないんだ。

 あいつ、目は悪くないどころか常人より良いはずなんだが」


「それって、ものすごく不器用ってことなんじゃないの?」


「あんなに器用に剣を扱えるのにか? ペンの持ち方もおかしくないんだが」


「剣とペンじゃ大きさがだいぶ違うでしょ。それに好きなことは熱心にやるもの。得意不得意は誰だってあるじゃない」


「そうだな。あいつがもっと色々な事に興味持ってくれれば、それが一番だと思う。ちょっと偏り過ぎなんだよな」


「アランはちょっと、面倒見すぎてるんじゃないの?

 やらなくても代わりに誰かがやってくれるなら、いつまでたってもやる気にならない気がするけど」


「でも、あいつ、トラブルや戦闘を喜ぶんだぞ。

 俺が面倒見なかったら、そこら中に喧嘩売りまくって人を斬りまくって、指名手配される未来しか思い浮かばないんだが」


「この世の全ての人がそうだとは言わないけど、人って楽な方へ流れるものよ。

 面倒臭いことや辛いことは、なるべくしたくないのが人情ってもんじゃない?

 自分でやらなきゃどうしようもないって事態になったら、嫌でもやるでしょ。

 それができないやつは、社会からはじき出されて当然だわ。

 群れになじめない生き物は、排斥され淘汰されるの。それが自然の摂理ってやつよ。死にたくなければ、本気出すでしょ」


「レオにそれが理解できてるとは思えないんだが」


「それが本当だとしたら、甘やかしすぎじゃないの? そんなおバカさんは、世のため人のため、一度死んでみれば良いのよ」


「一度でも死んだら、それで終わりだろ?」


「そうね。だけど、それの何が問題? 自分が生きる環境に順応できないやつは、死ねば良いのよ。

 死ぬのが可哀想だとでも言うの? なら、アランは一生面倒見てあげるわけ?

 そうしたいなら、そうすれば良いわ。ただし、人に迷惑掛けないでね、共倒れになったとしても」


「……キツイな」


「所詮は他人事だもの。仕事はするわ。仕事以外の事をする気はないけど。

 私はこの世で一番自分が可愛いの。自分以上に大切なものはないから、何においても自分を最優先にするわ。

 だから、あなたたち見てるとイラッとするわね。正直な感想言うと、気持ち悪い?」


 ルヴィリアが首を傾げて言った。


「気持ち悪いとまで言われると、どう返すべきか悩むな」


「そこで怒らずに真面目に返されると、私も困るんだけど。

 何よ、アラン、イラッとしないの? 赤の他人にここまで言われてムカつかないわけ?」


「別にしないな。まあ、ルヴィリアが赤の他人だから気にならない、というのが正解か」


「それはそれで、なんかムカつくわね。正面切ってそういうこと言わない方が良いわよ、アラン。

 相手がぶち切れて襲いかかってきたらどうする気よ」


「ルヴィリア程度なら、俺一人でもなんとか出来そうな気がするからな」


「何ソレ、ちょっと本気でムカついてきたかも。()りあいたいなら、相手になるわよ?」


「は? いや、別に喧嘩売ったつもりはないぞ。

 幻術と精神魔術の厄介さは今回勉強になったし、ルヴィリアが良ければ報酬払って教えて貰いたいと思うんだが」


「え、何? アラン、私に魔法習いたいって言うの?」


 ルヴィリアは驚き、目を見開いた。


「ルヴィリアが嫌なら諦めるけど、できれば頼む。

 そもそも教えてくれる気があるのか、いくらくらいの報酬なら良いと思うか知りたい」


「ふぅん、じゃあ基礎を教えるだけなら金貨3枚って言ったら?」


「え、良いのか!? なら頼む。いつから頼める?」


「え? アランの都合と報酬を払ったらだけど……まさか払うの? っていうか、払えるの? あなたFランクでしょ」


「ああ、何とかギリギリ払える。それに今回ミスリル合金が大量に手に入ったから問題ない」


「ミスリル合金!? それって私の分もある?」


「え? 最初に報酬の話をしなかった俺も悪いとは思うが、ルヴィリア、お前、自分が参加しなかった戦闘の戦利品も分配しろって言ってるのか?」


「……戦利品?」


「ミスリルゴーレムが2体出たんだ」


 アランの言葉にルヴィリアは一瞬絶句した。


「え、じょ、冗談よね?」


「こんな冗談言ってどうする。事実だ。でなければこんな平地でミスリルなんか出るはずがない。

 だいたいミスリル合金は人工でしかできないだろう」


「だって、普通、ミスリルゴーレムなんて駆け出し冒険者に倒せるはずないでしょ? いくらダオルがAランク剣士でも」


「ミスリルゴーレムなら魔法当てられれば、大丈夫だろ?」


「待って、私、冒険者としては素人だけど、私の一般的な常識だとミスリルゴーレムってCランク以上のパーティーで倒すものなんだけど」


「そうなのか? でも、普通のミスリルゴーレムならレオと幼竜がいれば止められるぞ。それとも、あれ、弱かったのかな」


「そうか、そういえばレッドドラゴンがいるから……でも、なんかそういう問題じゃないような」


「とにかくミスリル合金はダオルと俺達三人で分配するつもりだったんだが」


「仕方ないわね。私、洞窟入ってすぐの最初の戦闘しかしてないし。何もしてないのに、分けろとは言いにくいわ」


「へえ、それでも出せと言われるかと思った」


「私お金は好きだけど、相手構わず喧嘩売るほどではないわよ。

 アランは忍耐強いみたいだけど、レオナールはキレさせると恐いもの」


「あいつ、別にキレなくても斬りたがるタイプだぞ」


「余計悪いじゃない。あれ、本当にタチが悪い生き物よね」


「頼むから返答しづらいこと言わないでくれ」


「あら、これくらいで困るの? アランも内心ちょっとは思ってるんじゃない?」


「まぁ、それはともかく、金貨3枚で魔法を教えてくれるんだな?」


 アランは慌てて言った。


「そうね。それにしても、絶対払えないと思ったのにあっさり出そうとするなんて、アランは絶対カモにされるわよ。

 もっと警戒心持ったらどう?」


「知識や情報を得るのに金が掛かるのは当然だし、の価値も人それぞれだろう。心当たりは他にあれば渋るだろうが、それだけの価値はあると思うから出そうと判断しただけだ。

 ないと思えば最初から諦めるか保留する」


 アランに真顔で言われて、ルヴィリアは諦めたように溜息をつき、肩をすくめた。


「金貨は金貨ても小金貨で良いわ。それ以上の価値のあるものを、教えられる自信はないから」


「良いのか?」


「良くもまぁ、こんな成人したての小娘が金貨3枚分の知識を持てると思えるわね。

 ちょっと甘過ぎるわよ、アラン。それじゃ悪意のある人に絞り取られるだけよ。

 まぁ、それがあなたの良いところなのかもね。困ったことがあれば力になってあげても良いわよ。私が暇な時なら有料でね」


「わかった、その時は頼む。けど、金持ちじゃないから報酬はあまり期待しないでくれ」


「場合によっては出世払いか、労働で払って貰うから気にしなくても良いわよ」


「ははっ、了解」


 アランは冗談だと思い、軽く流すことにした。もちろん魔術についての話は本気である。

 平然とした顔を作るルヴィリアの頬が少し赤くなっていることには全く気付かなかった。

ギルド報告まで行けませんでした。

次回ギルドに報告。

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