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2 《日だまり》亭にて

 その晩、レオナールとアラン、ルヴィリアの三名で《日だまり》亭へ食事に出掛けた。ルヴィリアは嫌々だったが。


「いらっしゃい。今日は大角熊と森鹿が入ってるわよ」


 アメリーが二人に気付くと、すぐ声を掛けて来た。


「両方頼めるかしら?」


「熊肉は熊汁鍋と甘めの味付けの煮込み、鹿肉はソテーとシチューがあるけど、どうする?」


 レオナールが言うと、アメリーが尋ねる。


「じゃあ、熊汁鍋と鹿肉のソテーでお願い」


「俺は鹿肉のシチューが食べたいな。熊汁ってくどくて癖がありそうだ」


「そんな事はないわよ? まあ、熊肉は好き嫌いあるだろうし、熊汁は寒い時期のが美味しいかもしれないけど、食べた事ないなら、きっと思ったより軟らかくておいしいと思うわ」


「そう言われると、ちょっと悩むな。個人的には、牛や豚より鹿の方が好きなんだが」


「うーん、それだと鳥や鹿肉の方が良いのかしら? じゃあ、小さめの器で熊汁を少し持って行くわ。そっちは料金要らないから、気に入ったら今度注文してちょうだい」


「ああ、でも、明日の朝にはラーヌを立つ予定だから、今夜が最後かもしれないんだが」


 アランが言うと、アメリーはあら、と軽く目を瞠った。


「そういえば、ロランの人だったわね。忘れてたわ。それは淋しくなるわね。また、こっちへ来る事があれば、寄ってちょうだい。

 基本的に建国祭の翌日以外は、営業しているから」


「ああ、また来る時は食べに来よう。ルヴィリア、お前は何を頼む? 俺はシチュー以外は、サラダとパンと何か適当な煮込みと、エールを頼むつもりだが」


「私もそれで良いわ」


 ルヴィリアの声に、アメリーは驚いたようにそちらを向いた。


「えっ……小さい女の子?」


 ルヴィリアの身長は1.53メトル、同じくらいの年齢と思われるアメリーの身長は1.67メトルである。アメリーの言葉にルヴィリアはムッとした顔になる。


「成人はしているわよ」


「あら、ごめんなさい。うちの店、ちょっと味が濃いめで価格安めで量が多いのが売りだから、男性とか大柄のお客さんが多いのよ。

 気付かなくて、本当ごめんなさい。量は少なめにした方が良いかしら?」


「大丈夫よ。さすがにそこの金髪剣士ほどは食べないけど、黒髪魔術師くらいの量なら食べられるから」


「それなら良かった。いっぱい食べて言ってね。夜遅い時間は無理だけど、もし欲しかったらお代わりもできるから、欲しかったら言ってね。

 追加料金はいただくけど、ちょっぴり安めに設定してるの。彼女、二人のお連れさん?」


 アメリーが首を傾げると、アランが頷いた。


「ああ、先日からパーティーに加入したルヴィリアだ。一応魔術師、になるのか?」


「魔術も若干使えて斥候もできる雑用係の方が、合ってる気がするわ」


 ルヴィリアはそう言って肩をすくめる。


「そうなのね。デザートか飲み物に甘い物とか、何かいるかしら。ミルルの実とオルラの実、アリルの実があるんだけど」


「ミルルの実で。あと甘めの果実酒があるようなら、それもお願い。最初の一杯はエールで良いわ」


「わかったわ。注文は以上で良かったかしら?」


「ああ、それで頼む」


「じゃあ、しばらく待っててね」


 アメリーはそう言って、店の奥へと消えた。


「ふぅん、意外とモテるんだ?」


 ルヴィリアがジトリとした目つきで、アランとレオナールを見回した。


「え? そういうんじゃないだろ。接客だから、あんなもんだろう。もし、仮にそういうのだとしても、レオの方だろう。こいつ、中身はともかく、見てくれだけは良いから」


「一言余計よ。私が美しいのは、間違いないけど」


 レオナールはそう言って、サラリと髪を掻き上げた。それを見てルヴィリアがうわぁという顔になる。


「その顔で、その声で、その口調は、なんか色々アレなんだけど」


 ルヴィリアが嫌そうに言うと、アランが瞑目した。


「諦めろ」



   ◇◇◇◇◇



 三人が食事をほとんど終え、レオナールとアランが食後のお茶を、ルヴィリアがミルルの実に手を付け始めた頃、アントニオが店にやって来た。


「こんばんは、アントニオ」


 右手を挙げて声を掛けたアランに気付いて、アントニオが近付いて来た。


「こんばんは、アラン、レオナール。……と?」


「ルヴィリアよ」


「ああ、はじめまして、こんばんは、ルヴィリア。アントニオだ」


 軽く会釈して挨拶を交わすと、アランとレオナールの間の空いた席に、アントニオが腰掛けた。


「例のダンジョンだが、やはり情報がない。南東の森での変わった出来事などの情報もない。それで、先日人を向かわせたんだが」


 アントニオの言葉に、アランは眉をひそめた。


「え? いや、それは良いって言ったはずだよな」


「別にその分お前から取ろうってわけじゃない。これは、ちょっとした興味というか、好奇心ってやつだから、気にするな。

 それより、南東の森の話だが結局見つからなかった。というか、三人向かわせて、二人は何も発見できず、一人戻って来ないやつがいた」


「えっ、それって……!」


 アランがギョッとした顔になり、レオナールが興味を示した。


「それをわざわざ私達に言うって事は、つまり何か他に情報、あるいは確信する事があるのかしら?」


 ニヤリと笑うレオナールに、アントニオは苦笑を返し、アランに向き直る。


「勿論、何も言わずに急に姿を消すようなやつじゃないし、他の二人より腕が良い斥候だ。

 だから、ついでというのはなんだが、ダンジョンでもし、そいつを見掛けたら、あるいはその痕跡を見つけたら、連絡をくれないか。

 必要なら、指名依頼を出そう」


「Fランクに指名依頼? ギルドを通した方が良いと判断したって事か、アントニオ」


「そうだ。そいつの名前は、エリク。赤毛に茶色の瞳の男だ。身長や体格はあんたくらいだな、アラン。

 獲物は長弓とダガーだ。いつも通りなら、革の胸当てと籠手と脛当てを付けていて、もしかしたら防寒用に黒いマントを羽織っているかもしれない」


「わかった。本人か手掛かりになりそうなものが見つかったら、連絡する。正規の連絡手段と、こっちとどちらが都合が良い?」


「一応正規の方で頼む。ほぼ毎日この店に来てはいるが、必ずしもここへ来られるというわけでもないからな。

 もし、連絡が付きにくいようであれば、手紙を託してくれれば良い」


「わかった。わざわざすまなかった。情報提供有り難う」


「いや、何も情報ないというのが気に入らなかっただけだ。他はともかく、このラーヌ近郊に関してだからな。周辺の森全てを熟知しているわけではないが」


「そのエリクが消えたのがいつくらいからかわかるか?」


「ああ、先週半ばに南門をくぐって以来、戻って来ていない。ソロだし慎重なやつだから滅多な事はないと思いたいが、四日後に会う約束をしていたのに来なかったからな。それが昨夜だ。

 拠点としている宿にも戻っていないし、東西南北いずれの門も通っていないし目撃されていない。他の冒険者なら心配しないが、あいつの性格から言ってこんな事は珍しい。

 だが、冒険者ギルドや領兵団に捜索願いを出しても無駄だろう。まず相手にされない。今ならまだ生きている可能性の方が高いと思っているが、数日後だと手遅れかもしれない。

 Fランクに指命依頼を出すのは確かに稀な事だが、駆け出し冒険者に実績を積ませるために、知己の者が指命依頼を出す事もある。

 普通は高ランク冒険者の推薦がなけりゃ、早期のランクアップはきびしいからな」


「別に俺達はランクアップしたいと考えてはないんだが、俺達の情報が元で人が死ぬのは後味悪いから、生きていればなるべく助けよう」


「私はランクアップしたいんだけど」


 レオナールが言うと、アランは睨んだ。


「黙れ。お前はどうせ狩れれば何でも気にしないだろう」


「強くて斬り応えがあるやつの方が、楽しいし嬉しいわよ」


 レオナールの言葉を、アランは無視して、アントニオに尋ねる。


「それじゃどうする。後で冒険者ギルドへ行くか?」


「実はここへ来る前にジャコブに声を掛けて、依頼を出して来た。明日には出ると聞いて、一応宿に伝言も残したが」


「そうか。なら、もうすぐ食べ終わるから、帰りにでも寄るか」


「この時間だと、もうギルドにジャコブはいないと思うが、かまわないのか?」


「別にジャコブがいなくても受注はできるだろう。ダニエルのおっさんが王都に帰ってから、何故か腫れ物を扱うような態度になった気がするが」


「そりゃ、ギルド職員や幹部が大量に逮捕・処分されたからな。お前らを敵に回すとヤバイと思われているんだろう」


「俺達は何もしてないぞ。とんだとばっちりだな」


 アランが肩をすくめた。


「……そうだな、お前らは何もしてないな。降りかかった火の粉を払っただけで」


 アントニオが苦笑した。


「で、それを受けるわけ?」


 デザートを食べ終えたルヴィリアが口を開いた。


「ああ、そのつもりだ。あ、そうだ、アントニオ。そのエリクの臭いがついた物とか何かないか?」


「臭い?」


 怪訝な顔になるアントニオに、アランは頷く。


「ああ。幼竜に臭いを追わせた方が早いだろうからな」


「なるほど。そういう事なら、あいつの泊まる宿で何か借りて来るか。宿の主人とは一応顔見知りだし、延長の代金を立て替えすれば、融通してくれるだろう。しばらく待っていてくれ」


「わかった。良いよな、レオ、ルヴィリア」


「別にかまわないわ。お茶をゆっくり飲む時間があるのは有り難いもの」


 ルヴィリアが答え、レオナールはテーブルに顔を伏せて、


「しばらく寝てるから、用事が済んだら起こして」


 と告げて目を閉じた。ルヴィリアが呆れたような顔になる。


「ねぇ、いつもこんななの?」


「予告するだけマシだろ。いきなり寝られると、こっちが驚くからな」


「基準がおかしいわよ、それ」


 ルヴィリアは嫌そうな顔をする。


「なるべくすぐ戻る」


 そう言って、アントニオが店の外へ出て行った。


「あら? アントニオったら、注文せずに帰っちゃったのかしら」


 アメリーが彼らのテーブルへ歩み寄ってきて言った。


「ああ、またしばらくしたら来る。俺が彼に頼み事をしたところだ。戻って来るまで待っていようと思うんだが、お茶のお代わりを貰って良いか?」


「わかったわ。ええと、二人分で良かったかしら?」


 アメリーは、テーブルに伏せたまま身動きしないレオナールをチラリと見て尋ねる。


「それで頼む。ルヴィリア、他に何か頼むか?」


「お茶で良いわよ。支払いはしてくれるんでしょ?」


「ああ、共有資金の方でな。食費も一応パーティーにかかる経費の内だと思っているから、よほどの事がない限りは共有から出す」


「大丈夫よ、買い食い分やおやつは自分の財布で出すから」


「うん? いや、別に欲しかったら頼んで良いんだぞ。冒険者は身体が資本だから、常識の範囲内であれば問題ない。必要なだけ飲食すべきだ。

 俺には他人の適量なんてわからないから、各個人の判断にまかせる。必要量食べずに倒れたり、体調崩される方が困る」


「そういう意味じゃないんだけど。楽しみのために食べるとか、そういうのないわけ、アラン」


「楽しみ? いや、食事は楽しんだ方が良いだろう。心と身体の健康のためには」


「……あんたに言った私がバカだったわ。可愛い店員さん、お茶二人分持って来てくれれば良いから」


「了解、ありがとう。すぐ持ってくるわね」


 そう言って、アメリーは立ち去った。


「良かったのか?」


 不思議そうに尋ねるアランに、ルヴィリアは頷いた。


「ええ。心配しなくてもお腹いっぱい食べたわ。それよりアラン、あんた、人の気持ちを理解できないやつって言われた事ない?」


「え? 急にどうした?」


 怪訝な顔になるアランに、ルヴィリアが肩をすくめた。


「人が生きるためには、無駄や浪費と思える事も必要なのよ。もちろん過ぎれば、問題だけどね。

 冒険者ってもっと享楽的で刹那的な人間が多い印象だったんだけど」


「そりゃ、色々いるだろう。冒険者になる理由だって、千差万別だろうからな」


「ふぅん、あんたはなんで冒険者になんかなろうと思ったの? あ、そこの金髪剣士の事情は聞かないわよ。聞かなくてもだいたい想像つくし」


 ルヴィリアに聞かれて、アランは苦笑した。


「そうだな、一番最初は魔術師になりたいと思ったんだ。で、コネも金もないド田舎の農家の三男坊が魔術師になろうと思ったら、冒険者登録して依頼を受けるのが一番難易度が低くて確実だった。

 あとは、知り合いに元冒険者がいたり、レオが冒険者になりたいって言ったのもある。


 冒険者になる事を現実として意識して考えたのは、レオが冒険者になりたいって言った時だな。

 なにせ、当時は身近に冒険者なんて、俺とレオの師匠である二人以外に見た事なかったから、おとぎ話や吟遊詩人の歌の中の存在みたいなもので、現実的な職業として意識した事がなかった。

 でも、俺が農夫になるのは能力的にまず無理だったし、他にやれそうな事と言ったら、簡単な薬を調合する事くらいだが、それを仕事にできるレベルじゃなかったから、選択肢にはなりえなかった。


 だから、冒険者になるというのは、消去法に近いな。でも、念願の魔術師になれたから、不満はない。唯一の才能っていって良い力だし、魔術師としてなら、存分に自分の力を振るえる上に、人の役に立つ事もできる。

 何よりレオを野放しにする事なんか、できるはずがないからな」


「思ってたのと全然違う理由だったわね。一番最後に関しては同意するけど」


「なんだ、どういう理由だと思ってたんだ?」


「どういうって言われても困るけど、ほら、もっと夢のある理由か、でなければもっと切羽詰まった理由か、でなかったら巻き添えくらった的な理由かと。

 あんまり面白い理由じゃなかったのは確かね」


「面白いって何だ、面白いって。そんな理由で冒険者になるバカがいると思ってるのか?」


「実際いるから言ってるんだけど。私のいた孤児院出身で冒険者になったのは、大半が手っ取り早く金が稼げるからとか、おとぎ話や英雄の剣士に憧れて、とかだったもの」


「孤児って流民扱いかと思ってたんだが、冒険者になれるものなのか?」


「そうね。一応男爵様が出資者の一人で、時折慰問でいらしてたから、希望した子の幾人かはその後ろ楯を得て、平民籍と冒険者登録したわ。

 ただ、残念ながら才能あるのは一人もいなかったみたいで、現在は全員死ぬか行方知れずだけど」


「え?」


 淡々とした口調で告げたルヴィリアに、アランは引きつった顔になる。


「商家や下級貴族の使用人として就職した人もいたけど、気付いたら同じ孤児院で連絡できる相手は一人もいなくなってたわね」


 そう言って肩をすくめたルヴィリアに、真っ青な顔になったアランが慌てて頭を下げた。


「すまなかった」


「え?」


 ルヴィリアはキョトンとした顔になった。


「何? 急にどうしたのよ」


「お前、苦労したんだな。知らなかったとはいえ、無神経な事を言った。すまない」


 重ねて謝るアランに、ルヴィリアは理解しがたい、といった顔になった。


「そんな謝られるような事、言われたかしら。記憶にないわ」


 怪訝そうに言うルヴィリアに、アランは顔を上げ、相手の顔をじっと注視した。


「そう言えば、あんたには話さなかったかしら。ダニエルには話した事あるからてっきり聞いてると思ってたけど、私のいた孤児院は私が成人する直前くらいに、賊に襲撃されて放火されて全焼したの。

 子供達は殺されなかったけど、管理していたシスターは全員殺されたわ。しかも、出資者だった男爵様も一家全員殺されて、屋敷が放火されたの。


 だから、やったのは同じ犯人だと思うんだけど、金銭目的ではなかったみたい。でも、怨恨だとは思えないのよね。

 だって殺されたシスター達も男爵様夫妻も、皆善良で優しくて穏やかな人達だったんだもの。

 きっと殺人狂か、頭のおかしいやつが面白半分でやったんだと思う。あの日は、食料か水に眠り薬が混ぜられていて、気付いたら何もなくなってたわ。


 途方に暮れてたところを、流れの占術師のお婆さんに拾われたの。幻術に使ってるのは、そのお婆さんの姿よ。

 その方が信頼されやすいし、舐められずに済むもの」


「その、他の生き残りはどうなったんだ?」


「さあ? そこまで余裕なかったから、どうなったのかサッパリだわ。師匠のお婆さんが死んでから、捜してみたけど一人も見つからなかったから、死んだんじゃない?」


 気まずそうに尋ねたアランに、淡々とルヴィリアが答える。その返答に、アランがギョッとした顔になった。


「え? なんかずいぶんアッサリしてないか?」


「そうかしら?」


 ルヴィリアが首を傾げた。


「スラムやなんかでは良くある話でしょ。ま、仕方ないわ。保護者も後ろ楯もない流民相手じゃ、縁を切りたい連中の方が多いでしょうし。

 私は拾ってくれたお婆さんのおかげで、食いっぱぐれる事もなく悠々自適に生きてるけど、金に困って食い詰めて犯罪者になったり、娼婦になったりするなんて話は、いくらでも転がってるでしょう? そう珍しい話じゃないわ」


「悪い、俺、ものすごい田舎者だから。やっぱり都会って恐いな。俺の故郷、ウル村は魔獣・魔物被害もなければ、盗賊も稼げないから見向きもしない平和な村なんだ。

 だから店も宿も一軒もないし、冒険者も来ない。三ヶ月に一度行商人が来る程度で、ほとんど物々交換で生活しているから、余分な金持ってるのは、村長と領主様から派遣された代官くらいだったんだ」


「え、ウル村って、何年か前に、怪しげな集団が生贄の儀式をやって、村人数人を殺されたとかっていうとこじゃなかった?」


 ルヴィリアの言葉に、アランが一瞬ギクリとした顔になり、慌ててレオナールを確認したが、全くの無反応なのを確認すると、ルヴィリアに向き直った。


「悪い、その話はまた今度にしてくれないか。それより、ルヴィリアは良くうちのパーティーに入る気になったな。

 正直な話、おっさんがいなくなったら、てっきりルヴィリアは逃げると思っていた。気乗りしなさそうだったからな」


「私を何だと思ってるのよ。貰った支度金の大半既に使ったんだもの。反故にするはずないでしょう。

 だいたい、あの《疾風迅雷》を敵に回すなんて恐ろしい真似するはずないじゃない。

 あの人つい最近まで王都にいたはずなのに、どういうわけか私をあっさり見つけるし、あんな化け物平気で敵に回せるバカは、先日捕まった甘やかされた坊っちゃんくらいでしょ」


「そういえば、あいつらあれ、どうする気だったのかな。どうでも良いからすっかり忘れてたけど、何を考えてたのかサッパリわからない連中だった」


「聞くところによれば、今まであれで問題なかったみたいよ。手を出す相手は平民で金をあまり持ってない冒険者登録したての新人ばかりだったから」


「あれ? じゃあ、もしかしてこれまで殺されたやつもいたのか?」


「公にはなってないけど、いたんじゃないかしら。行方不明扱いだけど」


「ふぅん、やり過ぎたかと思ってたが、それなら別にやり過ぎってわけでもなかったか」


「そうね。さすがに幼竜と言えどドラゴンに撥ね飛ばされるとは、本人も予想しなかったでしょうけど。

 町中有名になってるわよ。しばらく話題になるでしょうね」


「マジか。やっぱり早めに出るべきだな」


 アランはそう言って舌打ちした。


「あら、あんた達、ダニエルと共に町の英雄扱いよ? 特にこれまであいつらに苦汁味合わされてた下町連中にはね」


「ダオルさんは話に挙がってないのか。余計面倒だな」


「どうして? 有名になったから、もうあんた達に喧嘩吹っ掛けるバカはいないでしょ」


「逆だ。これまで無名だったのに、あいつらにしつこくつきまとわれてたから同情的だった連中も、下手に名前が売れたから、興味本位で手を出して来る可能性が高くなったんだ。

 とにかく面倒な事になる前にラーヌを出て、ほとぼりが冷めるまでは近寄らないようにしないと。

 レオは売られた喧嘩は残らず買うやつだから、ろくな事にならない」


「それの何が問題なの?」


「弱いやつならさして問題ないが、強いやつ相手だと手加減できないから、最悪殺しかねない」


「冒険者同士の喧嘩で死人が出るのは良く聞く話だけど、なるべく当事者にはなりたくないわね」


「同感だ。レオが捕まるのも困る。ヤバくなったら眠らせるしかないが、高位ランクだと効かない事もあるから、本当に困る。

 あいつは、目的のためなら手段を選ばないところがあるからな」


 アランの言葉にルヴィリアはゾワリと悪寒を覚え、自分の両肩を撫で擦った。


「そうね、あれが野放しなのも十分恐いけど、暴走されても困るわね」


「暴走したレオを止められるのは、ダニエルのおっさんくらいしか知らないからな。ダオルさんに制止できるなら良いが、そこまで迷惑掛けられない」


 そこへ、アントニオが戻って来た。


「アラン、一応袋に入れて持って来た。あいつが時折はめていた革の手袋だ。着替えや寝具なんかはどれも洗濯済みで、臭いがつきそうなものといったら、これくらいしか見つからなかった」


「有り難う、アントニオ。何か見つかったりわかったりしたら、必ず連絡する」


「ああ、頼んだ」


「じゃあ、俺達はこれで帰る。元気でな」


「ああ、有り難う。そちらこそ元気で」


 挨拶を交わし、レオナールを叩き起こすと、一行は《日だまり》亭を後にした。

思ったより長くなったため、ラーヌ出立は次回になります。


改行抜けてる箇所と以下を修正。

×南西の森

○南東の森

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