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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
1章 ダンジョン出現の謎 ~オルト村の静かな脅威~
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8 逃走した盗賊もダンジョン探索中(1)

残酷な描写・表現があります。※グロ注意。

「こんな村にダンジョンがあるなんて知らなかったよね」


 宿屋の自分の部屋で皮鎧を身に付けながら、ダットは呟いた。


「お宝、お宝がオイラを呼んでいる~」


 調子外れな鼻歌を歌いながら、最後のすね当てを付け終わり、立ち上がった。飛礫(つぶて)や投げナイフをあちこちに仕込み、腰にダガーを下げ、最後に背嚢と短弓と矢束を背負う。


「さて、行くか!」


 見つからないようこっそりと宿を出る。


「それにしても『働く喜びを共に味わおう』とか勘弁して欲しいよね。頭沸いてんじゃないかな。自分の趣味嗜好を人に押しつけないで欲しいもんだねっ。

 この村の連中も頭おかしいやつらばっかりだし、新顔の冒険者も頭おかし過ぎだし! こんなひどい目に遭ったの、いつぶりだろ? 死にそうな思いしたのは初めてじゃないけど、こんなに頭おかしくなりそうな気分になったのは、初めてかも」


 ぶつぶつ文句言いながら、隠形を使用して移動する。村の中で一際目立つ丘の上にある領主の別荘。


「確か、あいつら表から入るって言ってたよな。って事は使用人入り口からのが良いかも。窓は全て鎧戸が閉まってるって話だから、面倒だしね」


 盗賊であるダットにとって、施錠された扉など何の障害にもならない。入るのに多少時間がかかるというだけの事であるが、たいした時間でも手間でもなかった。


「よし、ここだな」


 建物の裏手に簡素な扉が見つかった。ちょうど村からも死角になるので、作業に時間がかかったとしても見つかりにくいのも良ポイントだ、とダットは喜んだ。

 解錠のための道具を取り出し、鍵を開けた。それほど難しくないありふれた鍵だったので、すぐに開いた。道具を腰から下げた袋にしまうと、侵入した。


(暗い、な。しかも、なんか変な臭いがする。放置されてたからかなぁ)


 松明を付けるか悩んだが、真っ暗闇というわけでもなかったため、そのまま探索する事にした。手拭いを鼻と口を覆うよう巻き、首の後ろで簡単に縛った。

 その一角は使用人や出入りの商人などの待機所、領主家族が滞在した時に使用される厨房などがあるようだった。


(暗いこと以外にダンジョンらしい物はなさそうだな。と、すると管理人の部屋か二階の主寝室とか書斎なんかを探した方が良さげかな。

 ダンジョンとかいうから宝箱とかあるのかと期待してたのに、何もないなんてガッカリだよ)


 足を早めかけたその時、何かに足を引っ掛けて転びそうになり、慌てて立て直した。


「もう、一体何……っ!」


 足下へ目をやり、思わず息を飲んだ。そこに転がっていたのは、冒険者だと思われる男の死体だった。

 死後一ヶ月ほどだろうか、腐敗して生前の面影は全くない。ウジは湧いていないが変色し、ガスが発生して元の体型は全くわからない。だいぶ崩れてはいるが、死因は側頭部と腹の傷だろう。


 良く見ると、周囲の壁や床には古い血痕が残っており、死体の向こう側の床にも、薄く点々と血痕が落ちていた。

 おそらくはどこかで襲撃に遭って負傷し逃げたが、血痕を頼りに追われ、追い付かれて殺されたのだろう。頭の傷は鈍器、腹の傷は刃物で、その他にも全身傷だらけだ。複数でなぶり殺しにあったと思われる。


 死体からは装備も荷物も剥ぎ取られ、かろうじて服だけは着ているという状態だ。念のため懐などを探ってみたが、何もなかった。


(財布も奪うとかずいぶん頭の良い魔物がいるんだなぁ。それとも人間?)


 おそらくこの男を殺したのは非力な魔物で、洗いざらい奪い取ったのは人間だろう。服は残っているのに、その他の所持物が、服の裏ポケットに至るまで全て奪われている、というのが、とてもゴブリンに出来る所業だとは思えなかった。


(金貨や銀貨とか光り物ならともかく、こんな所へ来る冒険者が銅貨ならともかく、そんな物ジャラジャラ持ってるとは思えないしな)


 ダットが狙っているのは高価な宝飾品や金貨・銀貨の類だ。銅貨はあっても困らないが、そこらの民家で盗めば簡単に手に入る。

 骨董品や美術品などは売り捌くのが面倒だし、高い物が高く売れるとは限らない。重くて嵩張る上に、足元見られて買い叩かれやすい物は獲物にしない事にしていた。

 重くても狙う物があるとしたら、魔術書や古書物だ。これらは売る相手を選べば、かなり高値で売れるのだ。それも真贋を問わずに。

 もちろん本物の方が高く売れるのだが、偽物でも売り方によっては、そこそこ高く売れる。相手を良く吟味する必要はあるが、時に宝飾品以上の高値で売れる事もあるのだ。


 冒険者の装備やアイテムは、物によっては高値で売れるが、大抵は二束三文である。ダットならばマジックアイテムと財布以外には手を出さない。

 冒険者の装備品は大抵傷だらけで手入れが悪く、特に死人のそれは修理しないと使えなかったり、いっそ捨てた方がマシなレベルに破損したりするのだ。

 しかも、小人族である彼にとって大多数の冒険者の装備はサイズが合わないのである。屑鉄扱いにするとしても微妙なので、基本的に無視する。サイズ変更のかかった魔法装備品ならば便利だが、そんな代物はそうそうない。


(う~ん、他にもこんな死体がいくつも転がってそうだな)


 ダットは肩をすくめ、ひょいと死体を飛び越える。


(財布が落ちてたら嬉しいけど、なんか期待できそうにないな、あ~あ)


 大きく伸びをしながら、スタスタ足早に去る。床の血痕をチラリと見て、視線を正面に戻す。


(たぶん一人で入るはずはないから、他の仲間がいるんだろうけど、この血痕と同じ方向に行くと、斥候か何かに遭遇しそうで嫌だなぁ。面倒臭そうだし、二階へ上る階段見つけよう)



   ◇◇◇◇◇



 どうやらダットは宿屋に戻ったようなので、宿泊しているはずの部屋に声を掛けてみたが、返事はない。店主に声を掛け部屋の鍵を開けて貰うと、中は無人で、しかも荷物がほとんどなく、ガランとしていた。


「すまない、店主殿、この部屋の小人族が出るところは見てないだろうか」


「はぁ、旦那と一緒に出たところは見ましたが、戻った後は姿を見掛けないので、てっきり部屋にいるものだとばかり」


「ふむ」


 オーロンは首を傾げる。


「人目につかぬようこっそり出たか。小人族の盗賊ならばありそうだな。しかし、昨日着ていた服以外に何もないという事は……」


 もしや村の外に逃げられたか、と思わないでもないが、それならば昨夜の内に逃げていそうだ。


「逃げたのではないとすると、何処へ……」


 ううむ、と唸るオーロンに、店主は困惑顔になる。


「そう言えば、この階の他の客はどうしているかわかりますかな?」


「冒険者二人は丘の上の領主様のお屋敷に向かったようです。神官様は、朝食後は部屋に戻ってそれきりです」


「神官殿の部屋を教えていただけるかな?」


「こちらです」


 ダットの部屋から数えて4部屋目に案内された。オーロンは礼を告げて、仕事に戻ってくれと言うと、店主は「それでは」と笑みを浮かべて立ち去った。


 オーロンは扉をノックした。室内に人の気配はするものの、無反応である。更に強めにノックした。


「神官殿、ちょっとお聞きしたい事があるので、話を聞いては下さらぬか」


 十回くらいノックしたあたりで、ようやくゴソゴソ動く気配がして、扉が開いた。


「お忙しいところ邪魔してすまない。お聞きしたい事があるのだが」


 現れたのは薄汚れヨレヨレになった神官服をまとった、目の下に黒い隈を作った目付きの悪いガリガリの男だ。顔色は悪く不健康そうだが、人間に見える。

 艶のないごわついた銀髪、翡翠色に金の虹彩が入った瞳は血走り、おそらくまともな格好をすれば、それなりに見えるのだろうが、その姿はおとぎ話の幽鬼のようである。村の子供が見たら号泣間違いなしのご面相だ。ほぼ無表情の半眼の虚ろな顔でこちらを見ている。


「……手短に頼む」


「わしはオーロンと申す。申し訳ないが、ここに小人族の少年が訪ねて来るか、侵入したりはしなかっただろうか?」


「……何?」


 神官は血走った目をギョロつかせた。


「件の少年は、わけあってわしが預かる事になったのだが、神官殿の所有する古書物を狙っておったようなのでな。何もなければ良いのだが、もしあればと思って、失礼ながら声を掛けさせていただいたのだ」


 オーロンの言葉に、男は目を向いた。


「オルフェストの手記に価値を見出だす酔狂者が、この僕以外に存在すると? 僕が知る限り、そのような者は見掛けてないが、人違いでは?」


「いえ、この宿の宿泊客で神官と呼ばれそうな御仁は、おぬしだけのようなのだ。後は剣士と魔術師とわしなのでな。

 不躾で済まぬが、おぬしは王都から馬車で来られたのでは? 小人族はおぬしを追ってこの村へ来たそうだ」


「……なんと! しかし、今のところ誰も訪ねてきてはいないし、侵入者もいない。この村に来てから僕は一睡もしていないし、食事以外に部屋の外には出ていない。

 所持している古書物は一冊きりで、食事時も離さず持ち歩いているから、僕以外、誰も触れてはいない」


 身なりと形相はひどい有り様だが、どうやら理性的で話のできる人物らしい。オーロンは思わずホッとした。昨夜から立て続けに、これまで出会った事のない強烈な人物に遭遇していたので、理知的・理性的で真っ当そうで常識的倫理観を持っていそうな相手に、心底安心した。


「何も問題ないようならば安心した。忙しいところ本当に邪魔をして、申し訳なかった。すまない」


「いや、こちらこそ、あなたから話を聞くまで自分が狙われているとは露とも知らなかった。礼を言う。あ、名乗り忘れていたな。僕はヴィクトール。一応神官だが、趣味で古書物の研究をしている」


「失礼だが、王都からわざわざオルト村に? 馬車とは言え、半月はかかるだろうに」


「僕の調べている事にこの周辺の地域が関係しているようなのでね。あと、この村はロランに一番近くて宿代が比較的安い事で選んだ。あと、人が少なくて静かな場所を探していたので」


「なるほど。確かにロランに一番近くて、物価が安く、人口が少ないのはオルト村ですな」


「唯一誤算があったとしたら、田舎の農夫達が、僕の想像以上に酒好き・宴会好きだという事くらいで。まぁ概ね静かで、昼間はすこぶる仕事がはかどるので問題ない」


 その宴会の原因というか元凶であるオーロンは苦笑した。


「重ね重ねすまない。では失礼する。もし、何かあれば宿の者にオーロン宛てに言付けて下され」


 オーロンの言葉に、ヴィクトールは頷いた。


「では失礼する」


 オーロンが言うと、


「お探しの小人族とやらが見つかる事を祈ろう。では」


 パタンと扉が閉まった。少々研究熱心すぎるようではあるが、悪い人物ではなさそうである。それどころか、ちゃんとしていれば好青年の部類だろう。オーロンは満足そうに頷き、それからさて、と考え込む。

 他にあの小人族が興味を持ちそうな事はなんだろうか、と。とりあえず思いつく先を全て当たって見よう。



   ◇◇◇◇◇



 ダットはほどなく階段を見つけ、二階の主寝室を目指していた。


(どうせ客室には何もないだろうしね)


 ここまでのところ、他の死体や魔物などには遭遇していない。足音も気配も消して、静かな邸内を探索している。


(ここかな~)


 二階で一番大きな部屋だと思われる、廊下の突き当たりにある両開きの扉の前に立つ。施錠はされているようだが、問題ない。念のため様子を確認し、罠の有無も確認してから解錠作業に入る。


(お宝、お宝、おったから~)


 心の中で歌いながら、鍵を開ける。少々浮かれ気分で扉を開けて中に侵入する。

 部屋の一番奥に更に扉がある。まずは手前の部屋を探索しよう、と歩を進めた。


「!?」


 足元の床が青白く光った。丸い二重の円と、古代魔法文字と、記号のようなもの。それがどういう内容のものなのかはわからない。ただ、ダットに理解出来たのは。


「魔法陣……っ!?」


 灯りをつけていれば足を踏み入れる前に気付けただろう。薄暗い中、床に触媒を使って描かれた魔法陣を見つけるのは、夜目の利かないダットには、難しかった。

 転移陣だ、と気付いた時には遅かった。ダットの魔力を自動的に吸収した魔法陣は起動し、既に転移が完了していた。クラリとめまいを覚え、足が僅かにふらついた。


 ダットが立っていたのは、玄武岩で覆われた、ドーム状の広間の中央だった。洞窟のようだが、床も壁も天井もツルツルと磨かれたように光っている。転移陣の発光が止むと、辺りは真っ暗になった。


「……嫌な予感」


 ダットはブルリと背筋を震わせた。

というわけで新キャラ登場。ダンジョン探索話中心になるので、引きこもり神官はしばらく出てきませんが、一応顔見せ。

たぶん、次の次くらいで、レオナールと剣士の視点になる予定。

新キャラ云々より盗賊(ダット)の方がアレかもですが。演技抜いたらこんな感じです。


以下を修正

×背負い袋

○背嚢(表記を統一)


×ハーフリング

○小人族


×《暗視》の能力を持たない

○夜目の利かない

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