表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
76/191

37 占術師の少女は絶叫する

倫理的に問題発言多いです。苦手な人はご注意下さい。

「ねぇ、あなた、今、何をしたの?」


 レオナールは心底不思議に思い、尋ねた。


「えっ、何よ! 私とやろうっての!?」


 白ローブの少女が噛み付くように叫び、睨みながら身構えるが、小動物がキャンキャン吠えて騒いでいるようにしか見えない。


「そんなのはどうでも良いわ。どうせハエが止まったくらいのダメージしかないし。

 それより、今のはいったい何? 幻術じゃなかったわよね。見えていたのに、一瞬身体が反応しなかったわ。

 あれ、《束縛の霧》や《鈍足》でもあんな感じにはならないでしょう? 初めて見た魔法だわ」


「は? 知らないわよ。《変装》《擬装》《変声》《隠蔽》《認識阻害》《知覚減衰》くらいしか使ってないわよ。何が言いたいわけ?」


「《認識阻害》と《知覚減衰》のせいかしら。それって常時発動してるの?」


「何故それをあなたに教えなきゃいけないわけ? オ○マさん」


「ふぅん、教えたくないんだ?」


 レオナールは目を細め、唇だけで笑った。それを見て、少女がギョッとした顔をした。


「な、何よ! わ、私に喧嘩売るつもり!? 言っておくけど余分な金なんかないわよ!!

 それに拉致して人買いに売ろうったって、そうはいかないんだからっ!!」


「どうでも良いけど、そんな大声出さない方が良くない?

 いくら《変声》や《認識阻害》使ってても違和感覚えて、幻術破る人が増えても知らないわよ?」


 レオナールの言葉に少女の顔がサッと蒼白になった。


「お、脅してるわけ? 何を企んでるのよ。言っておくけど、私にはう、後ろ楯があるんだからね。ただの流民だと思ったら大間違いなんだから」


「あなた自身には力も権力もないわよね。でも、そんな事はどうでも良いわ。

 私が知りたいのは、あなたが今使ってる魔法がどういうものか、実際『使える』かどうかなの。

 私には魔法が使えないからあまり関係ない事だけど、内容によっては色々考えなくちゃいけないわよね」


 レオナールが相手を見定めるように、ジッと見つめる。少女がビクリと身体を震わせ、しかし、なけなしの勇気を振り絞って睨み付ける。


「はい、お待ちどおさま。ん、どうしたんだ?」


 果物屋の男が怪訝そうに首を傾げる。少女が男が差し出したジュースを受け取ると、


「有り難う。また、頼むよ」


 とだけ告げ、素早く立ち去ろうとした、が。


「……どうして、着いて来るの?」


 数歩もいかない内に少女が振り返って、数歩遅れて着いて来るレオナールに向かって言う。


「見回りついでの散歩よ。あと、怪しい人物の観察?」


「あんたの方がよっぽど怪しいと思うけど」


 少女がジロリと睨み付ける。


「あと、ここじゃ人目が多いからやらないけど、斬れるかどうか試したくて」


 レオナールが良い笑顔でさらりと告げた言葉に、少女が仰天し飛び上がった。


「変態! 犯罪者!! キ○ガイっ!!」


 叫んで脱兎のごとく駆け出したが、その数歩後ろから平然とした顔で、息も切らさず、レオナールが追いかける。


「キャーッ、キャーッ!! 辻斬りよ、辻斬り! 殺人狂!!」


「ねぇ、それ、たぶん《認識阻害》と《知覚減衰》のせいで、ある程度近くにいる人間以外には聞こえないかもよ?」


 レオナールの指摘に、少女はますます青くなる。


「あわわわ、あっ、うぅっ、走ってたら上手く魔法が使えないとか……っ!

 いっ、イヤァッ!! まだ死にたくないっ! 例え死ぬとしても、こんな変態に殺されたくないぃぃっ!!」


「失礼な」


 とは言うものの、レオナールが気にしたり、傷付いたりする様子は欠片もない。そもそも罵倒・罵声には慣れているため、雑音にしか聞こえない。

 アランはいちいち気にするようだが、それは彼が自分自身の価値基準で推し量ろうとするためだ。

 レオナールにとって、人間の言葉の大半は、ハエの羽音程度にしか感じられない。殴られたりすれば、うるさいと感じる程度である。


 この世の大半の出来事は、霧に覆われた薄闇の中、あるいは水底深いところへ潜った状態で感じる、水の外で起こるそれを、俯瞰するようにしか感じられない。

 自分自身の身に降りかかる事ですら、他人事というか無関心であり、実害ありそうな事にだけ場当たり的に対処しているだけである。


 普段なら、こんな戦闘能力の欠片も感じない少女を斬りたいなどと思ったりしないのだが、先程の感覚のおかしな平手打ちの原因究明や、その対策を考えるには、相手の説明・解説を聞くより、直接斬り合うのが一番手っ取り早いと感じていた。


「大丈夫、手加減するから、ちょっとだけ斬り合いましょうよ。護身用に短剣を使うくらいの事は、出来るんでしょう?」


「イヤアァアッ! 人殺しっ! 変態っ! 人でなしぃっ!! 来るな! キ○ガイ!! ああっ、皆さん、この人頭おかしいのっ! 誰でも良いから助けてぇええっ!!」


 少女が悲鳴を上げて逃げ回る。だが、近隣に少女の魔法に抵抗できる人がいなかったのか、誰も反応しない。

 少女は路地裏に飛び込み、今まで走ったのとは逆方向、つまり先程の通りから見て、より大きな通りに向かう方角へと駆け出した。

 そちらは、レオナール達が宿泊する宿の方角でもあり、宿の裏手にある井戸のある通りでもあった。


 レオナールがキャーキャー叫ぶ少女を追いかけていると、不意に魔法の発動を感知し、首を傾げてヒョイと避けた。《風の刃》である。

 レオナールが避けた先で、効果を発揮する射程を超えたため、そのまま消滅する。その発動元と思われる方向に、仏頂面のアランが立っている。


「危ないわね! いきなり何をするのよ、アラン」


 レオナールがようやく立ち止まった。少女が慌ててアランを盾にするように、背後に飛び込み、おそるおそるといった表情でレオナールの方を覗き見た。


「俺の使う魔法くらい、平気で避けるくせに良く言う。それより、レオ。お前帰りが遅いと思ったら、いったい何をしている?」


「面白そうな、怪しいのを見つけたから、追いかけてたけど、何か問題ある?」


 怪訝な顔で尋ねるレオナールに、アランは頭痛をこらえる顔になる。


「どう見ても、暴漢に襲われそうになっているか弱い少女と、それを追う犯罪者にしか見えなかったぞ。

 何があったんだ、レオ。財布を掏られたとか、何か被害に遭ったのか? いったいどういう事だ」


「それ、面白い魔法使うのよ。だから、ちょっと斬ってみたくて」


 レオナールが答えると、アランが絶望的な表情になった。


「なっ……バカか!? あれほど犯罪者とその予備軍以外の人間は、理由なく斬るなと言ってるのに、どうしてそんな……っ!

 お前なんでそんなバカなんだよっ!! 無闇矢鱈に、人でも何でも斬ろうとすんなーっ!!」


 アランは時折かすれたり裏返った声で、絶叫した。



   ◇◇◇◇◇



 《旅人達の微睡み》亭の一階食堂に、レオナール、アラン、ダニエルと、白ローブの少女が丸テーブルを囲み、腰掛けていた。

 少女はアランとダニエルの間、その向かい側にレオナールである。少女は脅えつつも、先程からずっとレオナールを睨んでいる。

 両者の話を聞いて、アランは深い溜息をつき、ダニエルは困ったような笑みを浮かべ、肩をすくめた。


「あー、レオ。言いたい事はなんとなくわかったし、気持ちはわからなくはないが、これを斬っても何の役にも立たないし、参考にならないからやめておけ。

 それにまだ利用価値があるから、斬られたら俺が困る。似たような術を使えて人を斬れるやつなら、他に心当たりがあるから、こんな一般人に毛が生えた程度の女子供を斬ろうとすんな」


「殺したりはしないわよ?」


 レオナールはキョトンとした顔で言った。


「ちゃんと寸止めして、怪我させないようにするから、ちょっとだけ斬り合って、試してみたかっただけなんだけど」


「……それ、模擬戦って事か?」


 渋面のアランが尋ねた。


「そうよ? 他にどんな意味があるのよ。普通にやったら手応え一つなく斬れる雑魚相手に。

 とにかくさっきの感覚忘れない内に、あれを究明したかったのに」


 レオナールは何がいけないのかしら、とばかりに首を傾げる。


「お前の言葉が足りないのと、言動に問題がありすぎるのが一番の問題だが、相手の承諾なく模擬戦なんかできるわけないだろ?」


 アランが呆れたように言った。


「相手が本気で抵抗してくれるなら、十分だと思ったんだけど。

 ほら、こっちがどれだけ手加減しても、明らかにまともに打ち合えないんだから、死に物狂いで相手してもらった方が良さそうでしょ?」


「お前、自分が犯罪者として訴えられるかもしれないとか、他者にそう見られるかもしれないとか、考えないのか?」


「結果的に、都合通りになればそれで良いから、他はどうでも良かったんだけど」


「冒険者資格や、平民身分保証を剥奪されたとしてもか?」


「え? 理由なく殺したり傷付けなければ良いのよね?」


 ケロリとしたレオナールの言葉に、アランはクラリとめまいを覚えた。


「なぁ、やっぱり荷が重くないか?」


 ダニエルの言葉に、うっかり頷きたくなったアランだが、ゆっくり首を左右に振り、気を落ち着けるため深呼吸して、息を整えた。


「相手の理解と了承なく斬りかかったら、常識的に考えて、お前が犯罪者または悪者だからな。お前が心の中でどう思おうが、相手には関係ない。

 それが他者に通じてないなら、お前は罪もないか弱い女性に斬りかかる殺人狂、あるいは誰にでも斬りかかる戦闘狂呼ばわりされても仕方ない。

 誰が見ても明らかな証拠がなく、誰にも理解されなければ、町の治安を乱す荒くれ者だと思われるんだぞ?」


「……面倒臭いわね」


「そういう問題じゃねぇだろ、おい」


「じゃあ、どう言えば良かったの?」


「もっと優しく紳士的に、丁寧に尋ねてみるとか……」


「私に出来ると思う?」


 怪訝そうに首を傾げて尋ねるレオナールに、アランはゴツリと額を打ち付け、テーブルに突っ伏した。


「うぅ……レオのバカ……っ! 地獄に落ちろ、くそったれ!」


 アランがぼやくように呻いた。


「なぁ、レオ? お前、本気で、それでこの小娘がお前の相手してくれると思ったのか?」


「どうしても逃げられないとわかったら、本気出すでしょ? 相手を罵倒しながら逃げられる内は、余裕あるに決まってるじゃない」


 肩をすくめて言うレオナールに、少女がダニエルの上着をクイクイと引いて、耳打ちした。


「ねぇ、この人、頭おかしいの? 本物のアレな人?」


 少女の言葉に、ダニエルが苦笑した。


「あー、こいつ、ちょっと特殊な育ち方しててな。常識とか倫理とか、そういうの疎いんだ。

 人としてまともに社会で生活するようになって、実質的に、累計一年も経ってないんだよ」


「このナリで、精神年齢一歳?」


「そこまで酷くはないはずだが、人生経験はそれ以下だな。生まれてこの方、自分の意志を示す事も、自由行動も制限されてたわけだから」


「その割には、言葉や口調、発音はまともに聞こえるんだけど」


「ああ、話す事は制限されていたが、言葉は理解できていたからな。レオ、お前確か、周りの話してる言葉を聞いて覚えたって言ってたよな?」


「ええ。何故か私が言葉を理解できてないと思ってる人も、幾人かいたけど」


 レオナールが言うと、アランが顔を上げた。


「そりゃ、あれだろ。言葉が聞こえて理解できていても、反応しないなら、聞こえないか、理解できてないと思われても仕方ない。

 俺だって、初めてお前に会った時は、食べ物以外にはあまり反応しないから、俺の言う事が理解できているのか、判断つかなかったしな。

 でも、よくよく観察すれば目は動いてるし、わずかながら身体が反応している事があったからな。

 だから、話せないだけなんだと思ってたわけだし」


「そうなの?」


「食べ物以外にもわりと好奇心旺盛なくせに、警戒心だけはやたら強いから、大角山猫か、大牙虎みたいだとは思ったけどな」


 アランの言葉に、レオナールはわずかに顔をしかめた。


「あれ、もしかして、野生動物を餌付けする感覚だったの?」


「そういうわけじゃねぇよ。そんなに腹を空かせてるのなら、気の毒だとは思ったくらいで。

 どうせ、毎日自分や家族の分作ってるんだから、お前の分が増えても、さほど手間でもなかったしな」


「確かにありがたかったわ。全然足りなかったし、食べられそうな物で、自力で取れるものは取って食べてたけど、お腹壊す事も多かったのよね」


 二人の会話を聞いて、少女が顔をしかめた。


「何それ。いったいどういう生活? 特殊なんてものじゃないでしょ、それ。孤児院で育った私より、酷くない?」


「あー、なんつーか、あれだ、ほぼ軟禁状態で虐待と放置を受けてたんだ。もっとも、監視が甘かったから、しょっちゅう脱走してたみたいだが」


「部屋の鍵なんか、適当に何か突っ込んで壊せば、押しただけで開くようになるもの。

 一応鍵穴に鍵を差し込んで回せるようにはしておいたし、そんなに注意深い連中もいなかったから、楽勝だったわ。

 まあ、普通に窓から木を伝って降りる方が早いと気付いてからは、そうしてたけど。

 今なら鍵穴なんか触れなくても、どんな鍵でも壊せる自信あるけどね」


 レオナールが、明るく笑い飛ばすように言った。


「だからといって、何でもかんでも力尽くで壊そうとするなよな」


 アランが渋面でぼやく。


「アランの判断が遅いのが悪いんでしょ? どうでも良い事を深く考え過ぎるのが、アランの欠点ね」


 レオナールがふふっと笑った。


「ねぇ、あの人、あんな事言ってるけど、本当にどうでも良い事なの?」


「俺は違うと思うけどな」


 少女の質問に、アランはそう答え、ダニエルが笑いながら言った。


「そりゃ半々くらいだろ。アランは物事に優先順位つけるのが苦手っぽいとこあるもんな。

 世間知らずっぷりでは、レオほど酷くはないが、一般的な新人冒険者と比較すると、ちょっとな。田舎から出て来たばかりじゃ仕方ないけど」


「田舎者で悪かったな。でも、常に情報収集は軽視しないし、おこたってないぞ。

 知らない事、わからない事は調べたり、人に聞いたりすれば良いだけだ。知らなくて得する事なんか、まずないからな」


「いやいや、世の中には知らない方が良い事だって一応あるぞ。まぁ、若者は知っておいた方が良い事の方が、断然多いんだろうが」


「なんだよ、おっさん。おっさん扱いして欲しいのか?」


 アランがダニエルをジロリと睨む。


「おいおい、なんでだよ? そんな事は言ってねぇだろ」


 そう言ってダニエルは溜息をついた。そして、おもむろに少女の方へ向き直る。


「……まあ、そういうわけで、あれだ。こいつらに関しては、いずれ紹介はしようと思ってたんだが、どういう感じのやつらか、だいたいわかっただろ、ルヴィリア」


 ダニエルがそう言うと、ルヴィリアと呼ばれた少女が、眉を大きくひそめた。


「えっ、紹介ってまさか……っ!」


「おい、レオ、アラン。紹介するな、この小娘が、昨夜スカウトしたてのルヴィリア。

 本業は占術師だが、薬師の真似事と、古代魔法語はさすがに無理だが、ちょっとした各国語の知識、現代魔法語の知識に、短剣術や投擲、幻術および精神魔法が使える。

 あと、職業柄、人の話を聞くのが得意で、情報屋の真似事をしたり、悪人相手の詐欺まがいの所業もやった事があるらしい。

 で、俺からの依頼の仕事もやってもらうが、当面お前らのフォローに付いて貰おうと思ってる」


「えっ、それ……っ」


 アランが絶句し、レオナールが軽く目を瞠った。


「ちょっ、やめてよ! ダニエルさん、聞いてた話と全然違うんだけど!!」


 ルヴィリアが悲鳴のような甲高い声を上げる。それを無視して、ダニエルが告げた。


「で、金髪碧眼の剣士が俺の弟子のレオナール。黒髪の魔術師がアランだ」


「いやあああぁあぁあっ! 嘘つき!! 変態っ!! この腹黒詐欺師、地獄に落ちろっ!! クソ××野郎!!」


 ルヴィリアが絶叫した。


「酷いな、おい」


 ダニエルが心外そうに呟いた。

これは変態・殺人狂・狂人呼ばわりされても仕方ないよね、と思います。

悪気ないで済んだら警察いらんのじゃ、という言葉が異世界で使えないのは悩ましいです。

本当はカタカナ英語もどきな言い回しも、別表現(漢字)にしたいのですが、しっくり来ないやつはどうしようかと悩みます。


句読点や「《」などを追加修正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ