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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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35 再度の襲来と、魔術師の憂鬱

人間相手の戦闘および残酷な描写・表現があります。苦手な人はご注意下さい。

 アランはかぶれ薬をダニエルに銅貨2枚で売った後、部屋へ戻り、後日買い出し用に何がどれだけ必要か、リストを書き出した。

 レオナールは、予備武器の大振りのダガーや、剥ぎ取り用ナイフなどの刃物を研いだり、持ち手を布で拭ったり、薄くクリームを塗ったりしていた。


「ロランに戻ったら、剣を一度研ぎに出そうかしら」


「調子悪いのか?」


「そういうわけじゃないけど、やっぱり本職にやって貰うと、仕上がりや切れ味が断然違うのよね」


「共有金から出せば良いが、いくらかかるかわかるか? ミスリル合金はこの前売ったところだから、相場によっては換金が遅れるかもしれない。

 今回、追加報酬ついたとしても、正直あまり期待できないし、微妙だからな。ミスリル合金含めれば問題ないが、現金だけだと間違いなく赤字だ。

 場合によっては、いつもより依頼受ける頻度を増やすか、薬を採取・調合して共有金を増やしておきたい」


「今書いてるリストも、必要経費の計算するためなの?」


「それもある。書き出した方が、買い出し行く時に漏れがないというのが主な理由だが。備品その他必要なものがあれば、言ってくれ。

 今後の予定を立てるのにも役立つ」


「じゃあ、討伐依頼何か受けたりするの?」


 レオナールが期待するように尋ねると、アランは肩をすくめた。


「出来たら、ラーヌからロランまでの配達依頼があれば良いんだが、たぶんないだろう。

 なるべくラーヌでは積極的に依頼を受けたくないが、ロランよりは仕事多そうだから、もしかしたら受ける事になるかもしれない。

 しばらくは問題ないが、ロランへすぐ戻っても、あまり良い仕事はなさそうだしな」


「ラーヌは人は多いけど、コボルトの巣の依頼みたいに、物によっては競争相手がいない仕事もありそうよね。報酬は期待できそうにないけど」


「俺達なら、たぶん最小限の経費で討伐できるし、二人だから他のパーティーよりはマシだろう。

 でも、ギルド職員はジャコブ以外と会話してないけど、あまり関わりたくない感じなんだよなぁ。

 レオはどういう印象だった?」


「私に聞かないでよ」


 レオナールは肩をすくめた。それを見て、アランは溜息をついた。


「まぁ、それはともかく、今回の件で今後の課題がいくつか出てきたのは、確かだな」


「課題?」


「忘れたとは言わせないぞ。俺もあるけど、お前はもっと、対人対策や対処を考えて、学習する必要がある」


「……人間って、面倒臭いわね」


「ウル村に帰りたくなったか?」


「まさか。でも、なんかロランより面倒臭いわよね、ここ。手っ取り早く叩き潰した方が、断然早いと思うんだけど。

 ロランでやった時みたいに、ここでもやれば良いと思うけど、どうしてダメなの?」


「町の空気が違うってのが一番の理由だな。

 ラーヌは、どうやら金とコネ持ってるやつが強いらしい。商会に喧嘩売ったり、難癖付けられて面倒な事になるのも困る。

 ロランでやれたのは、ギルドマスターがクロードのおっさんで、町長がダニエルのおっさんの大ファンだってのが強いな。

 二人ともユルくて、冒険者同士の諍いがあっても『元気だな』程度で、よほどの事がない限り介入せず、当事者同士で解決させるだろう?」


「空気が違うとか言われても、意味わかんないんだけど。

 良くわからないけど、ラーヌの町の有力者やギルドマスターが介入したり、なんか面倒になるかもしれないって事?」


「そういう事だな。空気が違うってのはさ、例えば、ここは領兵もギルド職員も、公平さは期待できないって事かな。

 俺達は新参者で、よそ者だからな」


「私達が新参者でよそ者なのは、ロランでもそう変わらないわよね?」


「それでも、ダニエルのおっさん経由とは言え、ギルドマスターや町長と面識があって、ある程度温情がある分違うだろ。……なぁ、レオ」


「何?」


「お前に言っても無駄かもしれないが、これ以上問題起こすなよ?」


 真顔で言うアランに、レオナールは肩をすくめた。


「私がいつ問題起こしたのよ?」


「おい、こら、いつも起こしてるだろうが! コボルトの巣から帰ったその日に、ギルド前で絡まれたりしてたくせに」


「私のせいじゃないわよ。向こうから絡んできただけだもの」


「とにかくお前はラーヌ滞在中は、絶対、単独行動禁止だからな。わかったか?」


 渋面のアランに、レオナールは肩をすくめ、立ち上がった。


「何処へ行くつもりだ?」


「ちょっと、喉が渇いたから水でも飲んで来るわ」


 その返答に、アランは一瞬考えたが、それくらいなら良いか、と頷いた。


「わかった。なるべくすぐ戻って来いよ?」


「はいはい、本当うるさいわね、アランってば」


 そう言ってヒラヒラと手を振って、レオナールは丸腰で外に出た。


(いっそのこと、全員殺してスラムとやらに埋めるか、《炎の壁》あたりで証拠隠滅しちゃえば簡単だと思うのにね。面倒臭い)


 そして、一階に降りたレオナールは、軽く目を瞠った。


「あら」


 おかみが何かを叫ぼうとしたが、薄汚い格好のチンピラに殴りつけられ、崩れ落ちた。

 一人だけ優雅に椅子に腰掛けた金髪碧眼の男が、階段前に立つレオナールを見た。


「やあ、新人君。昨夜は良く眠れたかい?」


 ベネディクトの傍らに魔術師風の男と、白地に金と銀の刺繍が縫い込まれた、光神神殿の神官服を着た男が立ち、スラムのチンピラと思しき男達が、ナイフや片手剣や斧や鈍器などを構えて、二十数人でレオナールを取り囲む。

 レオナールはニンマリ楽しそうに、微笑んだ。


「残念ながら、学習能力はないみたいねぇ」


 鼻で笑うように言ったレオナールの言葉に、男達は殺気立つ。


「てめぇ、丸腰で良く言いやがる! 命が惜しくねぇみたいだなっ!」


 男の言葉にフッと鼻で笑うと、大仰に肩をすくめた。


「それは、こっちの台詞でしょう? 雑魚をいくら集めてもムダだって理解できない頭の出来じゃ、同じ失敗を繰り返すしかないわね。

 おバカさんって、本当お気の毒。死ななきゃわからないみたいね」


「てめぇっ! ぶっ殺すっ!!」


「ふふっ、掛かってらっしゃい」


 そう言って、右手の平を上へ向け、右人差し指をクイクイ軽く動かし、挑発した。

 激昂して一番先に飛び掛かった男の足を素早く右足で払い、左手でその手首を握ると、ひねり上げ、盾とする。


 仲間に胸から腹辺りを斬り付けられて、絶叫する。それを見て、いく人かためらう者もいたが、ほとんどの者がかまわず飛び掛かる。

 レオナールの背後は階段であり、半円状に取り囲まれ、武器を振るわれるが、それらを軽く避けては、武器を持った腕を狙い、あるいは捕まえて盾にして、少しずつ数を減らして行く。


「何の騒ぎだ!」


 アランが背後から駆け下りて来た。


「ちょうど良いわ、アラン。獲物よ。向こうから出向いて来たみたい」


 レオナールが返すと、アランが舌打ちした。そして詠唱を開始する。


「おい」


 椅子に腰掛けたままだったベネディクトが、傍らの男に指示を出す。

 魔術師と神官が詠唱を開始するが、それに気付いたレオナールが手近の男の剣を奪い取り、投げつけた。


「っ!?」


 詠唱を中断した魔術師が慌てて飛び退き、神官はそのまま詠唱を続けて、魔法を発動させる。


「《方形結界》」


 投げつけられた剣が弾き返され、近くにいたチンピラの後頭部に直撃して、昏倒した。


「《眠りの霧》」


 アランが《眠りの霧》を発動させ、残りのチンピラ達が全員眠り、崩れ落ちるように倒れた。

 レオナールは男達を見回し、一番程度の良さそうな片手剣を拾い上げると、そばにいる男の足の腱を切り裂いた。

 悲鳴を上げて転げ回る男の頭を、柄で殴り、気絶させた。


「おい!」


「ロープがないんだから仕方ないでしょ?」


 咎めるように睨むアランに、レオナールが肩をすくめた。


「そういう時は、服を脱がして裂けば良いだろ。ついでに武装解除もできる。

 あいつらは《方形結界》使ったから、こちらにしばらく手出しはできない」


「ねぇ、アラン。ルージュを連れて来て」


「えっ……、あれをか? おっさんじゃなくて?」


「師匠より、面白い事になると思わない? ここは私がいるから、しばらくは大丈夫」


 アランは嫌そうな顔になったが、舌打ちして、了承した。


「わかった、ちょっと待ってろ。どうせろくでもない事考えてるんだろうが、どっちにしろ、あまり大差ないだろうからな」


「そんな事ないわよ? 師匠はほら、あれで一応『人間』だから」


 レオナールはニヤリと笑った。


「相手が結界を解除しない限り、何もできないとは思うが、なるべく殺すなよ。後が面倒になるから」


 アランはそう言うと、裏口の方へ走り去った。


「おい、誰を呼びに行こうとしてるかしらないが、この町で僕に逆らうとどういう目に遭うか、まだ学習できていないようだな」


 ベネディクトの言葉に、レオナールは冷笑した。


「学習できてないのは、そちらでしょう? ここまで来てわからないなんて、お気の毒。

 あなたは自分の常識が通じない相手がこの世に存在するって、知らなかったのかしら。

 世間知らずの箱入りのワガママお坊っちゃまに、振り回される人達も自業自得とはいえ、御愁傷様。


 もう手遅れだけど、良い事教えてあげるわね。私、売られた喧嘩は買うし、襲われたらやり返すけど、自分から手を出した事は、今のところ一度もないの。

 だってその辺の有象無象どもには、興味ないもの。私が興味あるのは、目の前にあるものを斬っても良いかどうか。それと、斬って楽しめるかどうかよ。


 それ以外は食べられるかどうかだけど、安心して。人や生肉や内臓を食べたり、生き血をすすったりはしないから。

 もっとも調理済みで材料不明だったら、気にしない場合もあるかもしれないけど、それは仕方ないわよね?」


「は? 何を言ってるんだ?」


「まぁ、目の前にいるのがゴブリンだろうが、人だろうが、大きさや動き以外は些細な違いよね。

 どうせ相手が何かさえずっていても、私には理解できないもの」


 そう言うと、レオナールの顔から表情が削げ落ち、無表情になった。目線はベネディクトに向けられているが、焦点は合わされていない。

 訝しげな顔のベネディクト目掛けて、レオナールが駆け出した。


「バカが! 《方形結界》の効果が続く限り、どんな攻撃も無駄だ。全て弾かれる。これだから無知で物知らずな新人は……っ?」


 レオナールは、ベネディクト達の手前、一番近い場所にあるテーブルを勢い良く蹴り上げ、途中で受け止めた。

 残り二本の足で若干斜めではあるが、テーブルがほぼ垂直に立った。


「……何をしている?」


「このくらいの位置だったかしら?」


 そう呟いて、レオナールはテーブルを足で押しながら、位置をずらすと、途中で止まった。


「うん、これくらいね。じゃあ、後は」


 更にもう一つテーブルを蹴り上げて垂直に立たせると、それが結界に阻まれ動かなくなるまで押し引きずらせた。

 神官がハッと顔を強張らせ、慌ててベネディクトに進言する。


「若様、ここは一度引きましょう」


「何?」


「このままでは、逃げられなくなります」


「何を言っている。これくらいのもの、障害物でも何でもない。何故、僕たちが逃げなければならないんだ。たかがFランクの新人相手に」


「今は問答している場合ではありません。さぁ、早く!」


 神官が促そうとするが、


「あら? 冒険者になりたての駆け出しの新人から、逃げるの? 愚かで卑怯な臆病者。

 まだ何もしてないのに、わざわざこんなところまで何をしに来たのかしらね? 物見遊山? 酔狂なことだわね」


 レオナールが煽った。


「何?」


「ちょっとくらいなら、遊んであげても良いのよ? 逃げたいならそれでもかまわないけど、その代わり今日一日かけて色々なところで、あなたの弱虫っぷりと情けなさを吹聴してあげるわね。

 ついでにあのワガママぼっちゃまは、まだオシメが取れていなくて、ママンのお乳が恋しいみたいだって、大きな声で喧伝してあげる。

 きっと楽しい事になるわね。本人が嫌がるような醜聞や、他人にとって面白い噂って、どういうわけか広まるのが早いもの」


 レオナールは三つめのテーブルを蹴り上げ立てると、それも同じようにする。


「待て、いったい何をしている?」


 ベネディクトが怪訝そうに尋ねた。


「何をしているように見えるかしら?」


 レオナールはそう言って、四つめのテーブルを立てて押しやった。《方形結界》に接触し取り囲むように四つのテーブルが立っている。

 その足は全て外側を向いている。


「よいしょ、えい!」


 レオナールはテーブルの一つを少し手前に動かし、結界側にテーブルを傾けるように倒した。

 触れた瞬間、反対側に弾かれるが、それを靴底で受け止め、レオナールはふむと頷いた。


「なるほど、同じくらいの強さで弾かれるのね。という事は……」


「おい、レオ。何をしている?」


 アランが宿屋の正面入口に立っている。


「あら、アラン。連れて来てくれた?」


「ああ、連れて来たが、どうするんだ? まさか中に引き入れろとは言わないよな?」


「別にそれでも良いんだけど、この宿の耐久性がちょっと心配だから、今回は良いわ。

 修理代を代わりに払ってくれそうな人はいるけど、万が一の事があると困るものね。

 ……ルージュ! いつものやつお願い、いつもより大きな声でやっても良いわよ!!」


「え?」


 アランが嫌な事を聞いた、という顔になり、慌てて両手で耳をふさいだ。


「ぐがぁあああああおぉおっ!!!」


 幼竜が、いつもより大きめの声で咆哮した。


「ぐあっ! なっ……何の声だ!?」


 明らかに魔獣・魔物かその類いの咆哮に、ベネディクト達が焦る。レオナールがおもむろに手近のテーブルを蹴り上げると、跳ね上げられたそれが三人に向かって倒れ込む。


「何っ!?」


 レオナールがそれを確認して、強く踏み込みながら、神官目掛けて剣を振るい、魔術師を蹴りつけた。


「アラン!」


 レオナールの声に、アランが慌てて詠唱を開始する。


「くそっ、なんでっ!?」


 慌てつつも、ベネディクトは腰の剣を抜き放ち、レオナールが振るう剣を打ち払う。


(ちょっと、いつもより射程が短くて軽いから、目測が甘いかも)


 レオナールが舌打ちをし、更に踏み込み、速度を上げ、時折右から左へ、あるいは左から右へと素早く持ち替え、縦横無尽に剣を振るう。


「なっ、くそっ、ちょこまかと!」


 ベネディクトにとって、レオナールの剣は軽いが速い。

 しかも彼が見慣れた者達は利き腕でしか扱わず、逆の手に持つとしたらマンゴーシュや丈夫なダガーか盾であるのに、予備動作なしに同じ剣を左右に切り替え、読みづらい剣閃を描く。

 視線・視点も何処へ向けられてるのかわかりにくく、表情もないため思考なども読みづらい。

 それでも、拮抗し、打ち払う事が出来ていたのは、レオナールが相手の急所や腕や肩などの関節を狙うからだ。


「《眠りの霧》」


 アランの詠唱が終了し、発動した。魔術師と神官にはかかったが、ベネディクトはかろうじて抵抗できた。


「アラン! これ、使いにくいから部屋から持って来て!!」


「無茶言うな! あんな重いもの、俺に運べるわけないだろう!!」


 アランの返答に、レオナールは眉間に皺を寄せた。


「ぐがぁあああああおぉっ!!」


 ルージュが更に咆哮し、どおん、と体当たりした。


「ちょっ、待っ、駄目だっ! やめろ、ルージュ!!」


 アランが慌てて怒鳴るが、幼竜が言う事を聞くはずがない。

 どたどたと後退すると、勢いよく踏み込んで、駆け出し、宿の入り口を体当たりで拡張した。


「なっ!?」


 大音響を上げて、石の壁が崩れ、破壊され、吹き飛んだ。アランがガックリと脱力し、その場で座り込んだ。


「ぐぁお」


 ルージュが甘えるように鳴き、どたどたとレオナールの方へ走り寄り、驚いて目を見開くベネディクトを天井近くまで跳ね飛ばした。


「あら、ルージュ」


「きゅきゅーっ!」


 撫でろと言わんばかりに、鼻を突き出す幼竜に、レオナールは苦笑し、手に持っていた剣をその場に突き立てると、ルージュの鼻先をそっと撫でてやった。


「そうね、有り難う。今ちょっと手持ちはないけど、後でご褒美をあげるわね」


 レオナールはニッコリ笑い、ルージュは嬉しそうに鳴いた。


「……修理代どうすんだよ、おい」


 アランが床にうずくまったまま、ぼやいた。

というわけで、次回は後始末編になります。


以下修正。

×サブウエポン

○予備武器


×まさか商会に

○商会に

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