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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
1章 ダンジョン出現の謎 ~オルト村の静かな脅威~
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7 剣士と魔術師はダンジョン探索中(2)

戦闘・残酷な表現があります。

※ゴブリン戦を微修正しました。

 食料庫の外は、廊下だった。一階で見た廊下よりも狭く人間二人がギリギリ擦れ違える程度で、薄汚れており、絨毯などは敷かれておらず、調度品や絵画の類も一切なかった。


「ねぇ、アラン。行きたくない方角はどっち?」


 レオナールは首を傾げ、アランに尋ねる。


「……お前、それ聞いて俺が答えるとでも思ってんのか?」


 仏頂面でアランが言うと、レオナールは肩をすくめた。


「ふぅん、じゃ、こっち行こうかしら」


 そう言って、レオナールはクルリと方向転換して、食料庫を出たすぐの廊下を右に歩き出す。


「ちょっ、待て! なんでそっちへ行こうと思った!!」


 途端にアランが慌てた。


「ん~? 直感?」


「いや、違うだろ! なんか俺の顔見てから、決めただろ!? なんでわかった!? 今のなんでバレた!?」


 狼狽するアランに、レオナールはくすくす笑う。


「まぁ、別に良いじゃない。どうせ最終的には行くんだから」


「そういう問題じゃ……くそっ、なんでだよ。そんなに顔に出てたってのか?」


「気にしない、気にしない。落ち着いて、アラン」


 楽しそうに、レオナールは歩く。


「ああ……すごく嫌な予感がする」


 アランはぼやきながら、トボトボとついて行く。



   ◇◇◇◇◇   



「オーロンさん、茶を淹れたので、そろそろ休憩してはいかがかな?」


「ほう、これは有り難い」


 オーロンは肩に巻いた手拭いで額の汗を拭って、農夫が手渡したマグを受け取った。


「これは、麦の香りですかな?」


「その通りで。育ち損なったクズ麦を煎った物と、ここらで採れるアヌアの木の葉を刻んだものだが、暑い日に汗をたくさんかいた時に、これを飲むとスッキリして疲れにくいと、この季節には良く飲みますな」


「ふむ、それは良い。おい、ダット! ……ダット……?」

 オーロンは辺りを見回し、小人族の姿を探すが見つからない。小さいから見つからないのか、と思いかけたオーロンに、


「そう言えば、オーロンさんが連れて来られた子供は、畑仕事に飽きたのか、四半刻くらいでキョロキョロしながら、あちらの方へ行ってしまいましたな」


「何!?」


「あの年頃の子供ならば、遊びたい盛りなので、仕方ないですな。あちらには川がありますから、水浴びにでも行ったのですかなぁ」


「申し訳ない、イーヴ殿。その子供は小人族の成人男性でな。暫くわしが面倒見る事になったのだが、元が浮浪児だったもので、色々問題がありましてな。途中で放り出すのは面目ないが、後日この埋め合わせはするので、今日はここで失礼しても良いだろうか?」


「なんと、それは大変ですな。わかりました。本来はわし一人の畑、ここは気にせず行って下され」


「本当に申し訳ない。おそらくダット、あの小人族がここへ戻ってくる事はなかろうが、もし村の中で見かけたら、教えていただけると有り難い。では、お暇を」


 オーロンは頭を下げると、慌てて指し示された方へと向かう。どうか問題起こしてくれるなよと、祈りながら。



   ◇◇◇◇◇   



「おかしいな、なんかやたら広くないか? 使用人区画のはずなのに、これ、敷地外にはみ出してないか」


 何処までも真っ直ぐ伸びる廊下を歩きながら、アランが眉をひそめる。ここまでに使用人の寝室や、待機所や倉庫・物置と思われる部屋をいくつか見てきたが、めぼしい物は見つかっていない。酒蔵と思しきところは、空の樽が転がっているだけだった。


「そりゃダンジョンだから、一般常識に当てはめて考える方がおかしいでしょ。それよりも、どうして何も出ないのかしら」


「そうそう何か出てたまるか。しかし、ダンジョンという割に、それっぽいのがまるでないって、どういう事だ」


「ちょっと変だな、って思う程度よね。それよりアラン、まだこっちへ行きたくないと思う?」


 レオナールが尋ねると、アランは苦虫を噛み潰すような顔になる。


「時折思うんだが、お前、実は俺のこと嫌いなんじゃないか? 俺の嫌がる事をする時のお前、どういうわけか顔が輝いて見えるぞ」


「別に悪意も悪気もないけど、私の趣味・嗜好とあなたのそれが違い過ぎるせいだから仕方ないわね。私が楽しんでる時は、たいていあなたは不機嫌だもの。諦めなさい」


「諦められるか! だいたいな、お前が嬉々としてる時は、絶対、ろくな事にならないんだ!!」


「だから、あなたにとっての『ろくでもない事』が私にとっての『楽しい事』なんでしょ? それが嫌ならパーティー解散して別行動するしかないけど、アランってば嫌そうな顔してても、絶対私について来るじゃない。だから、諦めろって言ってるの。

 ここまで親切に解説してあげるなんて、私ってば本当優しいわよね!」


 にっこり笑うレオナールに、アランはガックリ肩を落とした。


「……くそ、自業自得だとでも言う気かよ……ちくしょう……泣きたい……」


「泣くのは宿屋に戻ってからにしてね。面倒くさいから」


 きっぱり言われて、アランは溜息をついた。いくつかの部屋を調べ、何の収穫もないまま歩いていたが、急に廊下が広くなり、石灰石の床がごつごつとした黒っぽい玄武岩へと変わった。


「何だ、これ……」


 周囲を見渡すと、壁も、天井も玄武岩だ。廊下、もとい通路の幅は今までの約六倍以上、天井は十倍以上の高さになっている。後ろを振り返れば、今まで通って来た廊下と扉が見える。


「これじゃまるで、洞窟……」


 アランが呆然と呟くと、レオナールは嬉しそうに微笑んだ。


「なるほど、『ダンジョン』らしくなってきたわね!」


 アランは嫌そうな顔になった。


「なぁ、すっごく嫌な予感がするんだが、一度戻らないか?」


「え? なんでよ。ようやく面白くなってきたのに。何が出てくるか楽しみでしょ」


「楽しくなんかねぇよ! ゴブリンとコボルトだけで十分だ!!」


「だってあいつら弱すぎてつまんないじゃない」


「大量に出てきたら十分脅威だろ!!」


「でも、全然出てこないじゃない」


「あのな、さっきのは巡回してたやつらだろ? 巡回とか哨戒ってのは、定期的に時間を置いて、一定のルートを回るわけだ」


「そうね。で?」


「つまり、たいてい、一定の時間で戻ってくる。が、先程の三匹は俺達が倒した。だから、巡回が終わる時間になっても戻らない。戻らないとなると、巡回させてるやつはどうすると思う?」


「う~ん、追加の巡回または偵察を出す?」


「そうだな。普通に考えたら、何かあったと見て、偵察か応援出すよな。何事もない状態が続いていたならともかく、俺達の前に何回か冒険者が入ってるわけだから」


「わかった! 少なくともさっきよりは手応えある敵が来るってわけね!」


「おい、喜ぶな。俺達に気付かれないようこっそり偵察に来て、俺達を発見して慌てて応援呼んだり罠を張ったりする可能性もあるんだからな。だから一度外に出て、村長に一時報告しないか? それで、続きは明日にでも……」


「大丈夫よ! 食料は五日分と予備で更に二日分あるんだから」


「そういう問題じゃない。この情報が外に出てないというのが問題なんだ。隠蔽されているだけなのか、それとも報告したくても出来なかったのか、現時点では判断できないんだからな」


 恐い顔をするアランに、レオナールは満面の笑みを浮かべた。


「そうね。でもわかってる事が一つあるわ」


「何?」


「アランがそう言って、この先に進ませないようにしようと思ってる事くらい、お見通しなんだから」


 嬉しそうに言うレオナールに、アランは顔をしかめた。


「……レオ、お前」


「だから、アランが行きたくないなら、私一人で進むわ。アランは好きにして良いわよ!」


 そう言ってレオナールは駆け出した。


「おい! 待て!!」


 アランが制止しようとするが、遅かった。元々の基礎体力や身体能力が違うのである。しかも、レオナールは回避とスピード重視の剣士である。


「わかった! わかったから!! 一緒に行くから、置いていくな!!」


 大声で叫び、はぁと溜息をついてから、のろのろと歩き始めた。 


「……玄武岩って確か、耐熱性が高くて燃えにくいんだよな」


 アランはボソリと呟き、不安そうに高い天井を見上げた。



   ◇◇◇◇◇   



 洞窟内は、今が初夏とは思えないほど、ひんやりとしていた。アランは時折、壁に手を触れては、憂鬱そうに天井を見上げたり、嬉々としている相棒を見る。洞窟に入ってから暫く経った頃、レオナールが表情を引き締めた。


「……来るわ」


 その言葉に、アランが杖を構え、いつでも詠唱できるよう準備する。通路の向こうから、ギギとかいう鳴き声と、鉄か何かが擦れ合うような音が聞こえて来た。

 レオナールはじりじりと前進し、いつでもダッシュで飛び出せるよう低い体勢になる。


 レオナールはカンテラを足下に置いて、更に前進すると、振り向いてアランと目を合わせると、開いた手の平を見せたあと、指を一本だけ立てた。アランが頷くと、ダッシュで駆け出す。


 現れたゴブリンは、ショートソードを持ったのが三匹、柄が折れたのか中途半端な長さの槍を持ったのが一匹、弓矢を持ったのが一匹、杖を持ったのが一匹。


「死ねぇええええええっ!!」


 雄叫びを上げるように、低めの大きな声で叫ぶレオナール。ゴブリン達の視線が集中する。

 バスタードソードを大きく横に薙いで、前衛を牽制する。ショートソードの二匹が足下を斬られて転がり、もう一匹のショートソード持ちを巻き込んで転倒した。槍のゴブリンが狙いもつけずに突き出すのを鼻で笑い、右足で蹴り飛ばす。

 更に踏み込んで、杖持ちの側頭部に左肘を叩き込み、背後に回り込んで右手に握った剣をその背中に叩き込む。杖持ちのゴブリンは、本来曲がらない方向にくの字になって、崩れ落ちた。


「《鈍足》」


 アランの詠唱した魔法が、前衛の四匹にかかる。弓矢を持ったゴブリンは慌てて距離を取ろうとするが、レオナールがそれを許さない。右手の剣を左に切り替え、横に薙ぐ。弓矢持ちの側頭部に当たり、よろめいたところへ、更に両手で握った追撃が腰へ来る。悲鳴を上げて吹っ飛ぶ弓矢持ち。

 そこへようやく槍持ちが来て、レオナールの背目掛けて槍を突き出す。そのすぐ後ろにはショートソードの三匹。


「《炎の旋風》」


 ショートソード持ちを中心に、炎の風が渦を巻きながら、音を立てて燃え上がる。レオナールは慌てて転がりながら怒鳴る。


「ちょっと! 範囲攻撃魔法使う時は、声かけてよね!!」


「レオなら野生の勘とやらで大丈夫だろ」


「何それ! ぶっ殺されたいの!?」


「すまん。……俺のミスだ。次から気をつける」


 アランが謝罪すると、レオナールは肩をすくめた。槍持ちは直撃は食らわなかったが、背中を焼かれて床を転がっている。ショートソードの方は放っておけば死ぬだろう。

 レオナールは槍持ちに駆け寄り、下腹部を踏みつけ、両手で握った剣を胸と腹の間に、思いっきり突き立てた。悲鳴を上げて、もがくゴブリン。グリグリと突き込み、痙攣し始めたところで引き抜いた。

 杖持ちの絶命を確認し、弓矢持ちにトドメを刺して、レオナールはアランの元へ戻って来た。


「言っておくけど、槍持ちのが攻撃仕掛けて来ようとしてたのは、気付いてたんだからね」


「……悪かった」


 アランが俯くと、レオナールは頷いた。


「ま、いいわ。槍のはともかく、ショートソードのに、時間差で追撃食らってたら面倒だったし。アランは単体攻撃魔法は問題ないけど、範囲攻撃だと、ちょっと精度が甘いのよね」


「今度練習しておく」


「実践でやった方が、上達早いと思うけど?」


「お前と一緒にすんな。俺は小心者なんだ」


「んー、萎縮されると面倒なんだけど」


 レオナールがしぶい表情になった。


「仕方ないわね。……アラン」


「なんだ?」


 レオナールが苦笑を浮かべて、アランの肩先に肘をぶつけた。よろけるアランに、


「いつも言わないけど、感謝はしてるわよ」


 と耳元で言って、背を向けた。驚いてアランが顔を上げたが、レオナールはすたすた歩き始めていた。


「お、おい!」


「さ、気分切り替えて、次へ行きましょ!」


「なぁ、レオ。お前、熱でもあるのか? 調子悪いなら無理しない方が……」


 アランがおろおろと声をかけると、レオナールは立ち止まり、アランを振り返ると睨み付けた。


「それ以上言うと、叩き斬るわよ?」


 アランは口を閉じた。

どのくらいの表現で警告入れるべきか、よくわかってなかったりしますが。

この調子なら、十話以内に冒頭シーンまで持っていけそうだな、とか思ってます。要らなそうなシーンがっつり削ったので、当然かもですが。

良く考えたら、この小説の主要人物だいたいトラブルメーカーじゃね?とか思ったりしてます。


以下修正。

×ハーフリング

○小人族


×面倒臭い

○面倒くさい


×ショートソードを持ったのが二匹

○ショートソードを持ったのが三匹


×側頭部を左肘を叩き込み

○側頭部に左肘を叩き込み


×ショートソードの二匹

○ショートソードの三匹


うっかりゴブリン戦を、6匹なのに5匹で戦闘シーン書いてしまったので、こっそり修正。たぶん最初はもう1匹分別の倒し方するはずでしたが、うっかり失念して書き忘れたので、他のやつらと一緒にまぜて数だけ修正(せこい)。

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