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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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30 駆ける剣士と憂鬱な魔術師とマイペースな盗賊と

軽めですが、人間相手の戦闘シーン・残酷な描写があります。苦手な人はご注意を。

 宿の前の通りに入る直前、アランは背筋にゾワリと悪寒を覚えて、思わず足を止めた。


「どうしたの、アラン」


 怪訝そうに尋ねたレオナールは、アランの顔を見て、あら、と肩をすくめた。

 アランは無言で、堅く強張った表情で、眉間に皺を寄せて、通りを見つめる。


「なるほど、宿の方ね。じゃ、私が先行するわ」


 レオナールはそう言って、駆け出した。


「おい! 待て、レオ!!」


 慌てるアランに、最後尾にいたダニエルが近付いて来て、声を掛ける。


「どうした、アラン」


「……たぶん待ち伏せされてる、と思う。レオが一人で行きやがった」


「マジで便利だな、それ。でも大丈夫だろ、宿の方ならダオルがいるし、問題ない。

 それより、こんな所で立ち止まってる方があれじゃねぇの? まぁ、俺がいるから、大丈夫だとは思うが」


 ダニエルの言葉に、アランは渋面になりつつ、戦闘に備えて《灯火》を唱える。


「おっさんにも《灯火》掛けるか?」


「俺はなくても良い。このくらいの灯りがあれば問題ない」


「なら、このまま進むぞ」


「了解。それでアランは準備良いのか?」


「良くはないけど、仕方ない。どうせ着いた時には始まってるだろうしな。用心深く隠れている伏兵とかがいれば話は別だが」


「じゃ、ま、行くか」


 ダニエルの言葉に、アランは頷いた。



   ◇◇◇◇◇



 駆け出したレオナールは、通りに入ったところで、辺りが静まり返っている事に気付いた。


(別に、周囲に隠れてるってわけでもなさそうね。

 一日に三度襲撃するくらいなら、一度に掛かって来れば良いのに、もしかしてものすごくバカなのかしら?

 それもこれで嫌がらせのつもりなのかしらね)


 と、気配を感じて走りながら抜刀し、飛来した物を叩き斬った。短めの矢が、落ちる。更に三本の矢が飛んで来た。


(右の建物の影に一人、左に一人、もう一人が右斜め向かいの建物の二階、か。屋内にいるやつ以外はやれそうね)


 まずは手近にいる右の弓術士を狙う事にした。背を低め、地面を強く蹴ると、一気に距離を詰める。

 慌てて逃げようとする男の左肩を斬り付ける。悲鳴を上げて転がる男の腹を踏み抜き、逆の足で右の手首を踏み砕く。

 次に、左の弓術士へ向かおうと振り向いた時には、既に逃げ出していた。


 レオナールは舌打ちし、先程回収した鋼糸を巻いたミスリル合金と取り出すと、グルグル振り回し、投げつけた。

 男の背中に当たり、悲鳴を上げながら倒れ込む。それを見た屋内の男が、窓の向こうへ顔を引っ込める、が。


「あら」


 レオナールは軽く目を瞠り、そして、唇だけで笑みを浮かべた。そして抜刀したまま、男のいた建物へ飛び込んだ。


「なっ、何だ、あんたっ!!」


「死にたくなければ、邪魔しないで!」


 酒場の主人らしき男に言い捨てると、そのまま階段へと駆け走る。弓矢を射った人物の気配は既にない。

 更に上へ昇る。三階奥の部屋の窓が開かれる音を聞いて、飛び込んだ。


「ちょっ、早っ!」


 窓枠をまたぐように腰掛けた状態の、灰色ローブ姿の小人族がそこにいた。


「こんなところで会うとは奇遇ね、ダット。どうしてここにいるのかしら?」


 レオナールは右手一本に剣を掲げ、慌てて屋根に上がろうとした小人族の足を左手で掴んで、引きずり下ろした。


「ぎゃー、やめてやめて! 兄さん達が対象だって知らなかったんだよ!!

 だいたい、オイラだって最初からこんな面倒事には巻き込まれたくなかったんだから!」


「へぇ、何か面白そうな話が聞けそうね?」


「ないってば、ない! 何にもないって! 金の兄さんが喜びそうなネタなんて何も持ってないから、お願い離してっ!!」


「そんなのは聞いてみなくちゃ、わからないでしょう?

 ふふっ、別に素直に話したくないって言うならそれでも良いのよ? 少しずつ削いであげるから」


「どこをだよ!! やめてよ! この襲撃に参加しなくちゃ売り飛ばされるか、集団で袋叩きにされて身ぐるみ剥がれそうだったんだから、仕方ないだろっ!!」


「仕方なかったかどうかは、後で判断してあげるわ。さ、ここを汚すのも何だから、移動しましょう」


「ぎゃーっ! やめてやめて! 殺さないでっ!!」


「ねぇ、ダット? あまりうるさいようなら、喉を切り裂いて、二度と声を出せないようにしてあげても良いのよ?」


 レオナールがニンマリ笑うと、ピタリと黙った。


「そうそう。わかったなら、そのまま抵抗しない方が良いわよ。意外と物わかりの良い子ね、あなた」


 ダットはグッタリと脱力した。レオナールはダットを肩の上に担ぎ上げると、階下へ降りた。


「おい、剣士の兄さん、それ……っ」


「知り合いなの。お騒がせしたわね、皆さん。じゃあ、失礼するわ。おやすみなさい」


 艶然と微笑み、右手に抜き身の剣を提げ、腰を揺らして立ち去るレオナールを、酒場の主人と客は、しばし呆然と見送った。

 レオナールが建物の外に出ると、ダニエルとアランが宿の前で戦闘開始したところだった。


「あら、次の戦闘が始まっちゃったみたいね」


 そう言って、アランの元へと駆け寄った。


「ごめんなさい、ちょっと遅くなったわね」


「え、レオ? って言うか、おい、それ……」


「急いでたから拘束してないけど、預かっててくれる?」


「ちょっ、レオ!」


「じゃ、行って来るわ!」


 制止しようとするアランの足下に小人族を荷物のように転がすと、ダニエルのいる方へと駆け走った。


「待てよ、おい!」


 慌てるアランに構わず、手近にいる男へ斬り付けた。

 ダニエルは剣を抜かずに、素手や蹴りでチンピラたちを転がしていた。そこへ飛び込み、腕や肩、腹などを次々に斬り付け、薙ぎ払った。


「おい、レオ。折角殺さないよう手加減してんのに、何やってんだ」


「え? これくらいじゃ死なないわよね?」


 ダニエルの言葉に、レオナールが首を傾げて言った。


「いやいや、腹は深いとまずいだろう」


「そんなに深く切ってないわ。表面だけよ」


「……そう言えば、お前、夕飯まだだったか」


 ダニエルはチッと舌打ちした。


「んじゃ、とっとと早く終わらせるか」


 そう言って抜刀して、駆け抜けた。常人の目には視認できない速さで剣を振るい、腕や手首などを斬り付け、鎧越しの胸や腹を払い転がす。

 それを見て、アランがうわぁ、と呻き声を上げた。


「なんか、すごいね、あの人」


 ケロッとした顔でダットが言って、肩をすくめた。


「おい、盗賊。なんで、お前、こんなとこにいるんだ」


「うーん? ちょっと、色々あってね。

 宿屋に泊まろうとしたら、この人達に絡まれて、協力しないと奴隷として売り飛ばすか、身ぐるみ剥いで袋叩きにするって脅されたんだ。

 で、弓矢射ってたら、金の兄さんに捕まったと」


「お前、それ、射る前に相手がレオだと気付いてただろう?」


「標的は金髪の剣士と黒髪の魔術師だとは聞いてたけど、まさか兄さん達だとは思いもしなかったよ。偶然って恐いね」


 アランは絶対嘘だ、と思った。だいたい、この小人族と来たら、全く動じていない。


「それよりも、全然話が違うんだけど。まぁ、報酬なんて雀の涙だし、とりあえずの目的は済ませたし、もうこの町は出てもかまわないんだけどね」


「とりあえずの目的?」


 アランが怪訝な顔になると、ダットは肩をすくめた。


「矢と食料と飲料水の補充だよ。後は軽い金策、かな」


「ほう、どこで仕事した?」


 アランがジロリと睨み付けると、ダットは大仰に肩をすくめた。


「いやいや、そんな黒の兄さんが心配するような事はしてないよ。オイラは穏和で善良な小人族だよ?」


「嘘つきが。どうせどこかで盗みでも働いたんだろう?」


「んー、疑い深いのは良くないよ? そういうのって疑心暗鬼ってやつだと思うね!」


 明るく一見無邪気そうな笑顔でダットは言ったが、アランはこの小人族を信用する気は毛頭ない。


「確かロランで貴族令嬢や《静穏の閃光》と一緒にいたよな。まさか、あの連中から盗みを働いて逃亡中っていうんじゃないだろうな?」


「まさか。契約完了して報酬貰ったから、さよならしてきたのさ。

 元々オイラはラーヌへ行くつもりだったし、あの人達はロランが目的地で、本来なら街門くぐったところで契約完了するはずだったんだ。

 それがゴブリンどものせいで、やつらの討伐が終わるまでは、戦力と見なされない自由民は、許可がなければ外に出られないとか言われて、仕方なく調査隊に臨時メンバーとして加わる羽目になったんだ。


 全くさ、一昨日までは結構順調に来てたのに、兄さん達があんな連中に目をつけられたせいで、こっちまでとばっちりさ。

 なるべく身の振る舞いには気をつけてたつもりだったのに、あいつら、人数集めをどぶさらいの要領と同じだと思ってるんじゃない?

 ああしろこうしろとは言われたけど、具体的な説明や支援はないし、矢はタダじゃないのに最低限の支給もなし、飯も自腹。唯一寝る場所は用意してくれたけど、どこのどいつか知らない、殴るのと撫でるのの区別もつかない荒くれ連中と同じ部屋で、薄手のかび臭い毛布一枚で雑魚寝とか、勘弁して欲しいね」


「そいつは気の毒かもしれないが、俺たちのせいじゃないだろ。強いて言うなら日頃の行いが悪かったからだろう」


「オイラの日頃の行いが悪いというなら、兄さん達のがひどいと思うね。少なくともオイラは、荒事とは無縁の、か弱くいとけない、平穏と自由を愛する小人族だからね」


「良く言う。どうせ、チンピラどもに遭遇しやすく絡まれやすい界隈をうろつき回ってたか、金持ちの懐狙って怪しげな動きでもしてたんだろ」


 アランが皮肉げな口調で言うと、ダットはムッとした顔になった。


「仕方ないだろ。この風体じゃ表通りのご立派な店は、門前払いだ。

 大抵裏通りの小さな店か、スラムみたいなところじゃないと、取引にも応じて貰えないんだ」


 それを聞いて、アランはマジマジとダットを見つめた。


「……なるほど、少なくとも金持ちには見えないし、亜人嫌いはもちろん、そうじゃなくてもある程度高額な、まともな取引ができるようには見えないからな。

 もっとマシな服や装備を買ったらどうだ? 少なくとも俺達と一緒に拾ったミスリル合金が適正価格で売れたら、一切合財新調できただろう。

 俺より多く持ち帰ってたみたいだからな」


「適正価格で売れたならね」


 その言葉にアランは眉をひそめた。


「まさか」


「二束三文で買い取られそうだったから、諦めて退散したよ。もしかしたら、もっとマシなとこも見つかるかもしれないからね」


「あー、それは残念だったな」


「別に、いつもの事だし。小人族とバレたり、子供と勘違いされれば、大抵軽んじられたり、見る目がないと思われてカモだと思われる。

 平民でちゃんとした身分保証のある純人の兄さんには、関係ないだろうけどね」


「俺達の場合、カモられそうになっても、それを糸口に交渉したり、ブラフ使ったり、レオが殴ったりしてるからなぁ」


「へぇ、暴力以外の方法も使ってるんだ」


「おい、盗賊。お前、俺達をいったい何だと思ってるんだ。言っておくが、犯罪者とその予備軍以外には、概ね穏健だぞ、俺は」


「冗談はさておき」


「冗談じゃねぇよ! ただの事実だ!!」


「戦闘終わったみたいだよ?」


 肩をすくめ、指差しながら言うダットに、アランがそちらを向くと、レオナールとダニエル以外に立っている者はいなくなっていた。


「待ちなさい!」


 レオナールが叫び、剣片手に駆け出した。アランがハッと視線を戻すと、ダットの姿がない。

 レオナールが逃げ出したダットの後を追い掛け、路地の向こうへ姿を消した。


「前から思ってたが、油断も隙もないな、あいつ。逃げ足だけは早いというか」


「なんだ、アラン。あの小人族、知り合いなのか?」


「ああ、ちょっとな。あいつ流れの盗賊で、以前宿の天井裏にいたのをレオが捕まえた事があるんだ」


「へぇ、あいつ、良く逃げられたな」


「未遂で被害がないからって、お人好しなドワーフがあいつの面倒見るからと、解放するように言われたんだ」


「そのお人好しなドワーフは?」


「たぶんロランにまだいるだろう。でなかったらオルト村だ」


「面倒見れてないよな、それ」


「今はもっと世話と手間が要りそうな、面倒臭くて厄介そうな身の上の少女の世話で手一杯なんだろ。

 その内余裕ができたら、回収しに来るつもりなんだろうが」


「それ、大丈夫なのか?」


「知らない。俺達には関係ない事だからな。もちろんあいつに迷惑被るようなら、容赦する気はないが」


「ふぅん」


 ダニエルは肩をすくめた。


「レオはどうなんだ?」


「どうって?」


「あの小人族とそのドワーフだよ」


「どっちも嫌いだろ。あいつ、小人族の事はゴミとか言ってたと思う。ドワーフは苦手そうだったな。

 あの小人族は、今回の襲撃した一味に加わってたらしいから、捕まえたら戻って来るだろう」


「ふぅん、レオが追い掛けっこしてる間に片付けておくか。アラン、後は頼んだ」


「へ?」


 ダニエルの言葉にアランはキョトンとした。


「レオのフォローとか、夕食の段取りとかな。早くしないと、おかみと主人が眠っちまうだろう。

 この時間じゃ屋台も怪しいし、酒場は空いていてもまともな飯が食える店があるかどうか」


 ダニエルの言葉に、アランは蒼白になった。お腹を空かせたレオナールと同室で就寝など、想像したくもない。干し肉など夜営用の食材はたっぷり用意してあるが、


(さっきの怒り具合から言って、まともな肉料理を食えなかったら、どんな事になるか)


 苛立ちをチンピラどもや《疾風の白刃》に向けるのは良いが、うっかりそのストレス解消の矛先が自分に向けられたら、と全身に寒気が走った。

 慌ててアランは宿に駆け込み、料理または軽食が出せないか、駄目なら自分が作るので厨房が借りられないか、交渉した。


 使った食材の代金や薪代などを負担するという条件で、厨房を借りて軽食を作る。

 通常なら四人前の分量で、肉や野菜やチーズなどを巻いたクレープを焼いた。

 冷めても食べられるようにという配慮である。


「旨そうだな、一つくれ」


 そう言ったダニエルに、


「レオナールが食べた後に残ったらかまわないが、今は駄目だ」


 とアランはキッパリ断った。ダニエルは肩をすくめて断念した。

昨日は更新しそこねました。すみません。

ダットの名前の由来は脱兎です(超テキトー)。


ちょっと読み返してみたら前章でキッシュとスフレが混雑してました。最初スフレで書いて、かぼちゃのキッシュに変更したら、直してないとこがあったみたいです(大ボケ)。

後で修正しますが、他にも大ポカやらかしてそうです。


以下を修正。

×ハーフリング

○小人族


×静止しようとする

○制止しようとする


×日頃の行いか悪いというなら

○日頃の行いが悪いというなら


×買い取られそうになったから、逃げてたよ

○買い取られそうだったから、諦めて退散したよ

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