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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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27 踊る剣士と、怒鳴る魔術師

戦闘および残酷な描写・表現があります。人間相手の戦闘描写があります。苦手な人は注意して下さい。

 レオナールの剣は、槍斧(ハルバード)の男の右肩の皮一枚をわずかに切り裂いた。男が驚愕した顔になる。

 当然だろう。男の上半身は、おそらく鋼鉄製と思われる金属鎧で覆われている。先に当てたミスリル合金によって傷付けられた箇所を強撃で叩き付け、重量などで押し切ったのだ。

 先に当てられたのがミスリル合金と知らなければ、同じ鋼鉄製に見える剣に斬られたように見える。


「貴様、まさか魔法を使えるのか!」


 レオナールのバスタードソードは、駆け出しの新人が持つにしては、かなりの良品ではあるが、どう見ても魔剣や魔力付与加工された代物には見えない。

 また、レオナール本人が魔法を使う事はできないが、その発動や魔力の流れなどを、感知する事ができる。

 筋力はそこそこといったところだが、魔法に弱い剣士・戦士の方が多いため、見習い魔術師くらいには匹敵する魔力を持ち、標準的な魔術師並の魔法抵抗力を持つ剣士は、稀少だ。

 レオナールが剣だけではなく、魔法・魔術にいくばくかの興味を見いだす事が出来れば、前衛で剣を振るいながら魔法も使える、魔法戦士となる事も不可能ではなかったはずである。

 実際は、魔法・魔術には露程も興味を抱かず、剣を振る事、剣で斬る事にしか、興味を持てない上に、自分が興味のある事以外は全く記憶できず、思考をめぐらすこともない、脳筋なのだが。


「あなたには、そう見えるの?」


 レオナールは笑った。男には魔法・魔力の素養はない。男の知識は、自分が仕えるベネディクトの知るものに準じる程度のものでしかない。

 ベネディクトは、彼の魔術の教師たちに言わせると、魔術師として大成するほどではないが、その魔力のほとんどを身体能力向上に使えば、魔法戦士としては才能があるだろうと言われていた。


 魔術師は近接戦闘に弱い。だが常に遠距離から攻撃する事が出来れば、剣士や戦士よりも強い。

 男は、魔力が伸び、魔法に精通すれば、魔術師と戦う事ができる剣士に育てる事ができるかもしれない、という夢を見た。

 だが、この目の前の剣士が既にそれを可能としているなら。一瞬、焼け付くような嫉妬を覚えた。

 自分の預かり知らぬところで、既にそんな剣士・戦士が存在していたなら、それは自分の功績ではなく、他人の功績・才能であり、先駆者である。


「ふざけるな!」


 男は激昂し、槍斧(ハルバード)の中央に近い部分を握って、レオナールに斬り掛かる。

 レオナールが哄笑を上げて、ステップして避け、槍斧(ハルバード)の刃を払う。


「やる気になってくれたのは嬉しいけど、猪武者には用はないわよ。それじゃオークや雑魚と斬り合うのと何が違うのよ?」


 アハハ、と笑うレオナール。鬼の形相と化した男は、先程までとは雲泥の速さ・強さで槍斧を振るうが、同時に冷静さや理性、計算を忘れ、技術も何もない。

 その攻撃はわかりやす過ぎ、単調過ぎた。速さというアドバンテージがなければ、何処を狙っているのか見える攻撃は、払うも避けるも、容易である。


「あまりガッカリさせないでよ。あなた、あらゆる武器のスペシャリストなんでしょ?」


 レオナールが男を挑発する。


「ここは舞踏会会場じゃないわ。踊りたいだけなら、他でやってくれないかしら?」


「貴様っ!!」


 ますます剣戟が激しくなったが、攻撃は更に単調になった。レオナールはなるほど、と考える。

 挑発される側はただムカつくだけだが、する側になるとこうなるのか、と。

 これならいくら攻撃を繰り出しても翻弄され、無駄な体力を消耗するだけである。身体の力が入り過ぎると、かえって動きが悪くなる事もわかった。

 熱くなって視界が狭くなれば、見えるはずのものが見えなくなる。良い学習材料だ、とレオナールは思った。


「ふふっ、もっとちゃんと見せてよ? 槍斧相手に真剣で打ち合う機会って、意外と少ないんだから、ちょっとは頑張ってよね!」


 そう言って、手足を狙うような攻撃にシフトする。ことごとく打ち払われるが、最初の時ほど余裕を持って行われてはいない。

 この血の気の上りようでは、やりようによっては、早く終わらせられない事もなかったが、


(それじゃ、ちょっと面白くないものね、ふふっ)


 レオナールは、ストレス発散と怒りの解消を兼ねて、遊ぶ事にした。


(まずは体力を削ってあげるわね、おじさん)


 そして、速さ重視で消耗戦を狙い、小刻みに攻撃部位を変えながら、上下左右に振り回す。

 力を込めるのは、ヒットする瞬間だけで十分である。それ以外は力を抜いた方が、より速く、なめらかに動かせる。

 緊張したり、熱くなりすぎれば、筋肉に余計な力が入って、動きが鈍くなるし、視界も狭くなり、集中力はかえって落ち、感知能力も反応力も低下する。


(師匠はこれを教えようとしてたのかしら?)


 しかし、あの師匠の場合、あれが素だとしか思えなかったりするのだが。



   ◇◇◇◇◇



 アランは《風の乱舞》を詠唱し、弓矢による攻撃を妨害する事にした。ついでにまだ残っている魔術師の集中力を削ぐ事ができれば、有り難いのだが。レオナールは、槍斧の男との戦闘に夢中である。


(あれは、ちょっと周りが見えなくなってるかな)


 直接、彼に攻撃する者があれば別だが。アランの詠唱中に、無傷な魔術師が詠唱を開始したが、それを察知したレオナールが、槍斧の男がその射線に入るよう移動したので、魔術師は一度詠唱を中断した。

 おそらく、その魔術師の位置からは、レオナールを視認しづらかったのだろう。

 こういう場合、体躯に恵まれない事も利点となる。視界の悪さも影響しているのかもしれないが。

 アランはレオナールの援護をすべく、《風の乱舞》をエルフ語で素早く詠唱する。


「《風の乱舞》」


 《風の乱舞》が発動し、周囲の砂埃を巻き上げ、放たれた矢は的を外れ荒れ狂う風に翻弄される。

 誰かが、先程レオナールが投げたミスリル合金の欠片を投擲したが、それも《風の乱舞》の影響を受け、舞い狂う風に乗って、制御不能の飛来物と化す。


 念のため、アランはレオナールにも《鉄壁の盾》を唱える。この魔法は一度だけ、物理または魔法による攻撃を無効化する。

 《守りの盾》は発動した直後からの数秒だけの盾なので、攻撃を受けるまでは効果が持続するという点で、こちらの方が使い勝手が良い。

 ただし、効果時間は《方形結界》と然程変わらないため、掛け直ししないと、効果は消えてしまう。


 魔力の流れを感知したレオナールが、チラリとアランを振り返る。アランは詠唱途中なので、左親指を立てて、レオナールを指し示し、左右に振った。

 それで頷き、槍斧の男に視線を移した。槍斧の男は、自分との剣戟との最中にレオナールが目を離した事に激昂し、力任せに大きく脇腹を斬り払おうとするが、素早くレオナールはそれを打ち払った。


「《鉄壁の盾》」


 魔法が発動し、レオナールに《鉄壁の盾》が掛かった。次に、《炎の矢》を無傷の魔術師を標的に詠唱する。

 複数相手には範囲魔法の方が楽ではあるが、《炎の旋風》では加減をしたり、攻撃する位置などを調整するのは難しいためだ。

 おそらく、本人自身も装備も、魔法抵抗が高いであろうから、かすめる程度に当てれば、死にはしないだろう、と判断した。

 唐辛子等の散布は、レオナールを巻き込む率が高いため使えないし、その他に調合した毒や薬などは、魔術師よりも戦士や弓術士対策であるため、使っても動きを鈍くする程度の効果しか期待できない。


(折角作ったとりもちもどきも、視界が悪い上に乱戦だと使いづらいしなぁ)


 魔術師対策は、今後、何か考えた方が良いかもしれない。殺したり、重傷を負わせても問題ないのならば、簡単なのだが。

 魔術師に負傷させて集中力を低下させたり、行動不能にできれば、《眠りの霧》を発動するつもりである。

 レオナールには効果がないので、巻き込んでも全く問題ない。


「《炎の矢》」


 杖を握る腕をかすめるような位置を狙って、発動する。魔術師は何か呪文を詠唱中だったようだが、アランの攻撃により、中断する。

 重傷を負わさないよう気を遣いすぎて、少し軽傷過ぎたようだ。夜目や暗視のスキルや魔法がなくても、相手がこちらを睨んだのがわかった。


(《眠りの霧》はエルフ語にしても、詠唱時間がちょっと長いからな。あっちが妨害に何か唱えたら面倒かな)


 と、思いかけて、一番最初に《鉄壁の盾》を唱えた事を思い出した。舌打ちして、《眠りの霧》をエルフ語で詠唱する。

 《鉄壁の盾》の効果時間が切れるまでは、最初の一撃は無効化できる。

 相手がそれを予想していたり、その詠唱・発動がバレていれば、複数の魔術師・弓術士がいるあちらが有利だが、こちらを見ている魔術師以外は、レオナールを標的・標準としているようである。

 ならばアランの仕事は、こちらの意図や思惑に気付かれない内に、なるべく多くの敵を無力化する事だ。


 案の定、こちらを見ていた魔術師が、アランを標的に何らかの魔術の詠唱を開始した。

 《炎の矢》だ、と思ったその時、それが発動したが、《鉄壁の盾》により無効化される。

 魔術師が何かを叫ぼうとする、その直前に詠唱が完了した。


「《眠りの霧》」


 半ば祈りを込めて、発動させた。なるべく人の多い場所を狙ったが、発動した魔法で倒れたのは、狙った内の2/3というところだろうか。

 人数で言えば11、2人というところだ。その内、弓術士が4、魔術師が1。残った弓術士1、先程《炎の矢》を発動した魔術師を含む魔術師が2、残っている。


 アランは慌てて《鉄壁の盾》をエルフ語で詠唱する。《炎の矢》が飛来するが、ギリギリ間に合った《鉄壁の盾》により、無効化された。

 再度、《鉄壁の盾》を詠唱する。詠唱が必要ないため、連射が可能な弓術士の攻撃については、《風の乱舞》が反らしてくれる事を祈るしかない。


「《鉄壁の盾》」


 これで次の一撃は、どうにか凌げる。その隙に、最低1人の魔術師を潰しておきたいが。


(くそっ、やっぱりもう一人盾役または、優秀な前衛が欲しいよ、これ! レオはやっぱり複数の対人とか、知恵の回る複数の魔物相手じゃ、頼りにならねぇよ!!)


 ちょっぴり泣きそうな気分になりつつ、一番速く詠唱できる《炎の矢》を詠唱する。


「《炎の矢》」


 最初にこちらへ《炎の矢》を放ってきた魔術師を標的に、発動する。先程は腕を狙って失敗したので、今度は脇腹辺りを狙ったのだが、悲鳴を上げて転がる魔術師を見て、舌打ちした。


(くそっ、焦ると加減が難しいな。でも頭や首はもっとヤバイだろうしな。どうしろってんだ)


 不意に背後から足音を聞いて、アランは一瞬ギクリと硬直した。


「おい、大丈夫か!」


 聞き覚えのある声に、アランは舌打ちした。


「来るな! 邪魔だ!!」


 足音は二人分。ジャコブと、アントニオだ。


「おい、応援に来てやったのに、邪魔はないだろ、邪魔は」


 ジャコブが軽口を叩くように、文句を言う。


「うるせぇ、余裕ない時に、声掛けて来んな!」


 アランは怒鳴りつけて、《炎の矢》の詠唱を開始する。


「一応、オレも多少は剣を使えるんだが」


 ジャコブがこぼすように言ったが、無視して詠唱に集中し、発動させる。


「《炎の矢》」


 もう一人の魔術師の肩をかすめ、最後の魔術師が転がった。ジャコブがそれを見て口笛を吹いた。


「すごく速いな、詠唱。これで成人したての駆け出しとか、嘘だろう? 優秀じゃないか」


「なんで来てるんだよ、こんなとこに! 危ないだろ!!」


 アランが渋面で怒鳴ると、ジャコブが肩をすくめた。


「助けに来たのに、怒鳴られるとか、ひどいな、おい」


「そんな暇があるなら、宿へダニエルのおっさんを呼び出しに行ってくれた方が、有り難い」


「もしかして、オレ、暗に足手まといだと言われてる?」


「それ以外に聞こえたなら、俺の言い方が悪かったな」


 そう吐き捨てて、アランは次に弓術士を標的に《炎の矢》の詠唱に入った。


「……なんか、オレ、アランの印象、だいぶ変わったんだが」


 アランは無視して、詠唱を完了させ、魔法を発動させる。


「《炎の矢》」


 そして、弓術士の右肩を負傷させ、とりあえず一息をついた。


「アランは、戦闘中に性格変わるのか?」


 ジャコブが真顔で尋ね、アランが渋面になった。


「どういう意味だよ。人が集中したい時に声掛けて来るとか、勘弁してくれ。こっちは、相手を殺さないよう加減するのに、精一杯なんだ。

 向こうがどういうつもりかは知らないけどな」


「あっちは手加減する気皆無だと思うぞ」


「そうか。じゃあ、帰ってくれ」


 アランが素っ気ない口調で言い捨てると、慌ててジャコブが追いすがる。


「いや、でも、応援は必要だろ!?」


「必要ない。とにかく、ここにいるとあんたらも巻き込まれるから、とっとと、去れ。いない方が集中できる。

 それとも、邪魔しに来てるのか?」


 アランが真顔で睨むと、ジャコブが引きつった顔になる。


「えっ、なっ、何かすごい恐いんだが、おい。何だよ、それ。折角心配して来てやったのに」


「迷惑だ。邪魔したいんじゃなければ、早くこの場を去ってくれ。頼むから」


「……ものすごく好意的に解釈したいんだが、ちょっと凹むな、これ」


 ジャコブがぼやくが、アランは無視して、《眠りの霧》の詠唱に入った。


「行こうぜ、ジャコブ。これじゃ本当に邪魔してるみたいだ」


 アントニオが、ジャコブに言った。


「え? でも……」


「どう見ても、アランも、レオナールも、助けは必要ないだろ。アランの言う通り、おれ達が助力しようとする方が、邪魔になる。

 だったら、他の方法で助力した方が良いだろう」


 アントニオの言葉に、ジャコブが渋面になったが、こちらを見向きもせずに詠唱を続けるアランをチラリと見遣り、溜息をついた。


「……そうするか」


 そして、アントニオと共にジャコブは、その場を去った。

 アランはそれらの声を意識から遮断して、詠唱を完了し、先程標的にしなかった連中目掛けて、発動した。


「《眠りの霧》」


 6人が倒れ、残りは槍斧(ハルバード)の男だけとなった。もちろん、他に隠れていなければ、だが。

 アランは鋭い目つきで周囲を見回し、他に連中の仲間がいないか、目を凝らす。

と、風切音を聞いた。


「っ!」


 耳元ギリギリを、矢羽根が通過した。その射線を追って目をやると、酒場か飲食店と思しき建物の二階部分の窓が開いていた。

 標的は見えない。アランは舌打ちした。


(どうする?)


 非殺傷で見えない標的を無力化する魔法の手持ちはない。アランの筋力や運動神経では、投擲などであそこに何かを当てるような事も不可能だ。


(上手く行くか、正直自信はないが)


 昼間作った唐辛子と胡椒を細かく磨り潰した薬包紙を取り出し、先程耳元をかすめた矢を拾い上げた。

 そしてとりもちもどきを取り出し、薬包紙を矢羽根に取り付ける。そしてそれを左手で構え、右手の杖で矢を標準し、詠唱を開始する。


風の精霊(シ・エル)ラルバの祝福を受けし(ディ・ロア)疾風よ(デルファ・ラ)其れの周囲を包む(エ・ディ・ファス)追い風となれ!(サウ・デ・ラ) 《俊敏たる疾風》」


 そして、矢をその窓目掛けて投擲した。駄目元でやってみたのだが、思ったより上手く飛んでいる。


(あ、でも)


 若干上過ぎた。窓枠をかすめて、跳ね返る。だが、怒号のようなものが聞こえて、窓が音を立てて閉じられた。

 アランはそれを見上げ、首を傾げた。


「あれ?」


 矢はそのまま、落下していく。上手く行ったのか、どうなのか、良くわからなかった。


「……そんな事より、他にいないか、探すか」


 あの位置からまた弓を放たれないのならば、それで良い。あの窓またはその周辺が開かれないか、注意を払っておくべきだろうが。

 あと一撃分の保険は残っているとはいえ、見えない敵から集中攻撃されるなど、悪夢である。


(本当、荒事は苦手だってのに)


 眉間に深い皺を寄せ、アランは左右を見回した。

いつもの戦闘と比較したら、わりと軽めじゃないかな、と思いつつ。

次回でとりあえず戦闘終了予定。

不憫なジャコブさん回?


以下修正。


×鉄鋼製

○鋼鉄製


×ダンスホールでも、舞踏会会場でもない。

○舞踏会会場じゃないわ。

(中世ファンタジーなのにダンスホールはないですね。すみません)

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