26 マイペースな剣士と、魔術師の憂鬱
戦闘および残酷な描写・表現があります。人間相手の戦闘描写があります。苦手な人は注意して下さい。
レオナールとダニエルが宿に戻ると、食堂に背に大剣を担ぎ、動きやすそうな革鎧を身につけた、褐色の肌に、金茶の短髪、淡褐色の瞳の大柄な男がいた。
「よう、ダオル、久しぶりだな。お前が来るとは、予想外で驚いた」
ダニエルがそう声を掛けると、大男はゆっくり近付いて来て、明るく人なつこい笑みを浮かべて、答える。
「ああ、ずっと辺境にいたんだが、ラーヌへ行くよう言われてな。あっちの仕事は終わったところだから、問題ない。
どうせおれはこの風体だ。王国内じゃ何処へ行っても目立つからな。出来る仕事は限られている」
「ああ、そうか、なるほどね。っていうか、辺境からだと、俺が連絡してから移動しても間に合わねぇだろ? って事は王都へ帰還中だったのか?」
「まぁな。ちょうどこちらの方向へ移動する最中だった。それで、おれが出した手紙は読んだか?」
「ああ、読んだから来た。で、そいつらはどうした?」
「おかみの好意で、拘束して空き部屋に閉じ込めてある。アランに魔法で眠らせて貰ったから、しばらくは保つ。
俺は戦闘はともかく、尋問はあまり得意ではないので、していない」
「ああ、尋問はわりと特殊な技能だからな。あとは慣れだ。でも、俺がやるから問題ない」
「出来るのか?」
不思議そうな顔で尋ねられ、ダニエルは苦笑する。
「何度もやった事はあるから、大丈夫だ。それに、俺の顔は有名だからな。顔見ただけでチビったり、勝手にペラペラ話してくれるやつもいる」
「ほう、それは便利だな。で、その隣の青年が、お前の弟子のレオナールか」
「ああ。そう言えば会うのは初めてだったな。レオ、こいつはダオル。南国、ラオリ諸島連合国の出身で、大剣遣いだ。
基本ソロで、パーティーを組む事はほとんどない。ええと今のランクは何だっけ?」
「去年、Aに昇格した」
「という事で、Aランクらしい。ダオル、遅くなったが、ランクアップおめでとう」
「ああ。出来る事が増えるのは良い事だ」
ダオルはそう言って頷き、レオナールに向き直る。
「ダオルだ。はじめまして」
身長は1.94メトルくらいだろうか。ダニエルより若干高く、手足は更に太く、胸板も厚いので、大きく見える。
笑顔を浮かべず無表情で近寄られれば、威圧感を感じる事だろう。
「はじめまして、レオナールよ」
レオナールが挨拶すると、ダオルは少し目を瞠ったが、何も言わなかった。
「それでもう宿は取ったのか?」
「ああ、3階に。隣に連中を閉じ込めてある」
「ふうん、わかった。後で案内してくれ。あ、俺も3階の一番奥の部屋だ」
「了解した」
ダオルが頷く。それからレオナールにまた向き直ると、微笑んだ。
「ああ、レオナール。今後、時折顔を合わす事になるかもしれないが、その時はよろしく頼む」
ダオルの言葉に、レオナールは肩をすくめた。
「わかったわ。ソロでAランクって人に、冒険者登録したてのFランクがよろしく頼まれる事態なんて、ほとんどないとは思うけど。
じゃあ、私は部屋へ行くわ。しばらくはラーヌに滞在する予定だから、顔を合わせる事はあるでしょうけど」
ヒラヒラと手を振って、レオナールは背を向け、階段へと向かった。ダオルはその背を見送り、怪訝そうな顔でダニエルを見遣る。
「おれは彼が不快になるような言動をしただろうか?」
「気にすんな。あいつ、あれで意外と人見知りするんだ。喧嘩売られたり挑発的に振る舞われなかったなら、問題ない。
レオの初対面時の人間の振り分けは、『敵』か『身内』か『それ以外』だからな。
たまに初対面の人間相手に、3つの内のどれにも当てはめられないやつもいなくはないが、『それ以外』に認定されるのが大半だ。
何度自己紹介しても名前を記憶されない事もあるが、何度か顔を合わせて『こいつは大丈夫だ』と判断されれば、覚えるから安心しろ」
「……それで冒険者が務まるのか?」
「相方のアランがいるからな。交渉事全般はそっちが担当している。
見たらわかるだろうが、対人関係でもっぱらトラブルを量産してるんだよ、あいつ。しかもわざとやってる場合と、無自覚でやってる場合とがあるからな。
跳ねっ返りな上に強気なのは見てて面白いけど、危なっかしくて時折ヒヤヒヤする」
「わかってるなら、注意してやらないのか?」
「あいつ、興味ないから言ってもすぐ忘れるんだよな。あれは人間、または生きる事に興味を持たない限り、無理だろう」
ダニエルの言葉に、ダオルが眉をひそめた。
「そうなのか?」
「ちょっと特殊な育ち方していてな。たぶんあれは、人間嫌いなんだと思う。嫌いというよりは、興味がない、かもしれないが。
俺としては、その内で良いから、剣を振る事と同じくらい『他人』に興味を持ってくれるようになってくれると嬉しいけど。まぁ、こればかりは人に言われてどうにかなるもんじゃねぇからな。
あいつの殻をガツンと突き破って揺り動かしてくれるような出来事が起これば、嫌でも変わるだろう。良くも悪くもな」
「せっかちで短気なお前にしては、悠長なんだな。だが、言いたい事はわかる。俺も一時期は、何も見えない時期があったからな」
「そうだな、元自殺志願」
「よせ」
ダオルが渋面になった。
「お前のそういうところ、嫌われる元だぞ」
「ハハッ、他人の弱味をいじるのって楽しいよな! でもま、嫌な事言われて、ムカついたり怒ったりできるのは良い事だからな。
俺だって相手は選ぶさ。傷付いて内に籠もるやつ相手には、やらないって。見返してやるって気持ちで、奮起してくれたらよっしゃ!とは思うが」
「言っておくが、誰にでもそういうやり方が通じるわけじゃないからな」
ダオルが嫌そうな顔で言った。
「おう。でも、お前もレオも俺が全力で踏みに行っても、自力で立ち上がる力と根性、持ってるからな」
「たまには優しくしてやれ、まだ子供と言って良い年齢だろう」
「子供扱いされたくねぇらしいけどな。俺なりに可愛がってるつもりだぞ? 頭撫でると嫌がられるけどな!」
「お前は絶対結婚したり、父親になったりしない方が良いな」
「あー、それは自分でもそう思う。たぶんそういうの向いてねぇわ」
ダニエルは肩をすくめた。
◇◇◇◇◇
レオナールは自分達が宿泊している部屋の扉に近付き、朝出る時にはしなかった臭いに気付いて、立ち止まる。
(……ああ、あれかしら)
見当を付けて、ノブには触れずに、扉をノックする。アランが応答し、扉を開いた。
「どうしたの、これ」
レオナールが尋ねると、アランは大仰に肩をすくめた。
「心当たりねぇか?」
その言葉に、レオナールは一瞬キョトンとする。
「金髪碧眼の剣士1、槍斧を持った戦士1、大きな盾と槍を持った戦士1、魔術師1、神官1。
もう一人の魔術師は見掛けなかったが、宿にスラムを拠点にしているとかいうチンピラどもが来たから、それを呼びに言ったか何かで別行動してたんだろう」
アランに言われた内容をしばらく考え、ようやく《疾風の白刃》の事だと思い出した。
「ギルドの鍛錬場で会ったわ。何か言ってたかもしれないけど、良く覚えてないわね」
「……覚えておけよ、そういうのは。喧嘩売るか、売られるか、絡まれるか何かしなかったか?」
「確か、挨拶とか応援とか言ってたわね。やり合ったのは《蛇蠍の牙》の方だけど、そっちを魔術師以外全員転がしたら、何か良くわからない事言って、出て行ったわ。
アランのところへ行くくらいなら、私と遊んでくれれば良かったのに。《蛇蠍の牙》は転がしがいのない雑魚だったけど、あっちはもう少しやりがいありそうなのが、混じってたんだけど。
どうしてそっちへ行ったのかしら?」
不思議そうに首を傾げるレオナールに、アランは渋面になった。
「お前とやり合うより、俺の方がやりやすいと判断したんだろ。お前、他に何かやらかしてねぇの? 念のため確認するけど」
「やらかす? 何を? 素振り中だったから、剣は使ったけど、殺さなかったし、致命傷になりそうな場所も狙わなかったわよ。
文字通り『転がした』だけだから」
アランの眉間に深い皺が寄った。
「……おい、その『転がした』基準が良くわからないし、殺さなかったのはともかく、剣を使ったってどういう事だ。まさか真剣じゃないだろうな?」
「真剣だけど。何か問題ある?」
怪訝そうな顔のレオナールに、アランが無表情の半眼になった。
「よし、わかった。お前、そこに座れ」
アランが指差した先は廊下である。
「え? なんで? 部屋に入れてよ。汗かいて気持ち悪いんだから」
「その前に、説教だ。一応確認するが、その時、相手は武器を抜いて構えていたか?」
「完全装備だったけど、最初は抜いてはいなかったわね。ただ、私が素振り中なのに、迂闊に近寄って来たから、多少脅しはしたけど。
でもこっちに襲いかかって来た時には、抜いてたわよ。だから、そのまま剣で応戦したんじゃない。
確か、無手で殴り掛かって来た時はダメで、武器持って襲われた時は、こっちも剣で応戦しても良いんでしょ?
それに手加減はしたわよ? 回復魔法使える連中がいるから、安心してやったのは確かだけど。
それに《蛇蠍の牙》の魔術師は、回復魔法で止血はしてたけど、こっちには来なかったから手出しはしてないわ」
ほら、問題ないでしょう、と言わんばかりの口調と態度で言うレオナールを見て、アランは眩暈と頭痛を覚えた。
「おい、なんでそれを、自信持って言えて、自分が何もやらかしてないと思えるんだ。それ、剣抜かなくても対処できたんじゃないのか、なあ」
「ちょっぴり斬ったけど、斬ったとは言いがたいくらいにしか斬ってないわよ? それに、あの場に回復魔法使える人がいなくても、死なない傷だし。
あー、最初のやつだけ、見せしめに脇腹斬ったから、あれはすぐ治療しないとダメだったかもだけど、でも大丈夫だったから、問題ないわよ」
「……お前の『大丈夫』と『問題ない』の基準が知りたいよ……」
思わず額と顔を手で覆い、扉の内側に寄り掛かったアランの前を通って、レオナールが室内に入る。
そして呻くアランを無視して、剣帯を外し、鎧を外し始める。
「あ、そうだ、アラン。その《疾風の白刃》だけど、師匠に頼んだから」
「……え?」
アランが顔を上げ、キョトンとした顔になる。
「期待して待ってろって言ってたから、たぶん心配する必要ないわよ。それに、また何かして来たら、やり返しても良いって言われたから」
レオナールに都合の悪い事は省いてあるが、嘘ではない事だけを告げる。その言葉に、アランはようやく安堵した。
「あー、あのダオルさんて人も何とかするとか言ってたしな。じゃあ、どうにかなるかな」
「そうそう、アランは何も心配しなくて良いから」
「でも、しばらくは単独行動するのは、やめた方が良さそうだな。近いうちに、この宿の近所の薬と雑貨の店と、情報屋に行きたいんだが、付き合ってくれるか、レオ」
「んー、師匠との鍛錬する時以外なら別に良いわよ。今日はちょっと早く帰って来ちゃったし、次の予約入れないできたから、いつになるかわからないけど」
「ふぅん、じゃ、ギルドへの報告もあるし、情報屋は今夜、買い物は明日にするかな」
「そうね。それでかまわないかも。に、しても、何か臭いがするんだけど、何してたの?」
「ああ、念のため、ちょっとな。たぶんもうあまり残ってないと思うが、ノブの薬も拭き取っておく」
「って、ノブにかぶれ薬塗ったって事は、ここまで来たの?」
「ああ、そうだ。窓も割られたから、木戸を閉めた」
アランに言われて、窓の木戸が閉まっていて、代わりに《灯火》で部屋が照らされている事に、レオナールはようやく気付いた。
「怪我はしなかったの?」
「《方形結界》使ったからな。お前が帰るまでに掃除したから、痕跡は残ってないはずだが」
「マメねぇ。そんな事、宿屋の人にまかせれば良いのに」
「人に頼むより、自分でやった方が早い。それに、ここは室内に踏み込まれなかったけど、他に荒らされた部屋とかはあったみたいだしな。
襲撃してきた連中は、ダオルさんっていう戦士の人が全員捕まえたから、たぶん盗みとかが仮にあったとしても、没収できたはずだと思うが。
《疾風の白刃》は盾持ってたやつだけしか捕まってないから、また何か動きがあるかもしれない。
あと、リーダーの金髪剣士が、ボナール商会の孫らしいから、もしかしたらボナール商会、またはそいつらに報酬を貰ったスラムのチンピラの襲撃か妨害、嫌がらせとかが起こる可能性もある」
「面倒くさそうね、それ」
他人事のような顔で言うレオナールに、アランは渋面になる。
「俺だけじゃなくて、お前も対象だからな。お前、本当に《疾風の白刃》もしくは金髪剣士には、喧嘩売ってないのか?」
「特に記憶にないわね」
そう答えるレオナールに、アランは絶対信じられない、と憂鬱になった。
(ああ、嫌な予感がする……)
ここはラーヌだ。土地勘はなく、知り合いもほとんどいない。
とにかく、ここを出るまで、あるいは事が終わるまでに、出来る事はしておこう、と気を引き締めることにした。
◇◇◇◇◇
ダニエルとダオルはやる事があるという事で、ダニエルは嫌な予感はするが、ジャコブが以前連れて行ってくれた家庭料理の店、《日だまり》亭へと向かった。
「いらっしゃい。あら、この前、ジャコブさんと来た、ロランの冒険者の人? ジャコブさんなら来てないわよ」
看板娘のアメリーが、二人を見て、すぐ気付いて声を掛けて来た。
「いや、良いんだ。アントニオさんが来たら、声を掛けてくれるか? 奥のテーブルに座っているから」
「わかったわ、アントニオさんね。注文はどうするの? お肉は角兎と、角猪、珍しいところで大瑠璃尾羽鳥が用意できるけど」
「折角だから、大瑠璃尾羽鳥をいただくわ。近くで獲れたのかしら?」
「ええ。常連さんが獲って来てくれたの。今日の目玉よ。そんなに量が多くないから、全員には出せないんだけど」
「あら、良いの?」
「お客さん達、コボルト討伐してくれたんでしょう? 感謝の気持ちよ」
アメリーがウィンクして言った。
「じゃあ、他に、エールとパンとスープとサラダと、何かおすすめ料理を頼む」
アランが言うと、アメリーが嬉しそうに笑った。
「ええ、注文うけたまわりました。じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言って、奥へ消えた。レオナールとアランは一番奥のテーブルに座った。
「あの子、お前に気があるんじゃないか?」
アランが言うと、レオナールは肩をすくめた。
「まさか。そういうのがあるとしたら、アランでしょ」
「何で俺だよ。だって、お前が肉しか頼まないのわかって言ってただろ、あれ」
「それくらいで、どうして私に気があるって話になるのよ。客商売なら、そんなもんでしょ。新顔の客の好みを覚えてたら、たいていの客は気分良くなるでしょうし。
それに前回来てから、そんなに間がないから覚えてただけでしょ」
「まあ、別にどうだって良いけどな」
アランは肩をすくめた。
「どうだって良いなら、何故話を振ったのよ?」
怪訝そうに、レオナールは首を傾げた。
「いや、お前は相変わらずだと思ってさ。興味ないんだろ?」
「何をよ?」
「うーん、まぁ、俺もあんまり人のこと言えないからな。まぁ、良いか。
とりあえず、アントニオさんが来るまで適当に時間潰すから、あまり急いで食うなよ? ちょっとなら、追加注文しても良いから」
「わかったわ。どんな料理が来るかしら?」
「そんなに数はないって言ってたからなぁ。煮込みかソテーだとは思うが。量を増やすなら煮込みじゃないか?」
「もう一品肉料理頼んだ方が良かったかしら?」
「たぶん頼まなくても、もう一品は肉料理になると思うぞ」
「そうなの?」
「俺の予想が当たればな」
のんびりした口調でそう言って、目を瞑り掛けたアランが、ハッと目を瞠り、ガタリと音を立てて、立ち上がった。
「え? 何?」
キョトンとするレオナールに、アランが真顔で告げる。
「……店を出るぞ」
「え?」
驚いた顔になったレオナールに、低くささやく。
「嫌な予感がする。ここにいると、店に迷惑が掛かる。外に出よう」
「注文はどうするの?」
「仕方ないから、取り消すしかない」
「ふぅん。……ねぇ、もし襲われたら、死なない程度なら、何やってもかまわないかしら?」
レオナールが表情を消して、ヒヤリとした声音でボソリと言った。
「重傷は負わせるなよ」
アランが言うと、頷いた。そして、アメリーを捕まえると、急用が出来たので注文は取り消して帰ると告げ、足早に外に出た。
「で、どっち?」
唇だけでニヤリと笑うレオナールが尋ねた。
「こっちだ」
アランは店の入り口から見て右手を指差した。
「本当便利ね、それ」
「有り難いと思うべきかどうなのか、時折自信なくなるけどな」
寒気にブルリと身体を震わせて、アランは答えた。そして、その方角へと歩き始めた。
「ああ、なるほど」
レオナールの《暗視》か聴覚または嗅覚に感知したのか、レオナールが満足そうに頷いた。
「……何人くらいだ?」
「ざっと二十人はいるわね。もしかしたら、他にも隠れているかもしれないけど。
町中だと、人の気配が多過ぎて、色々なにおいが混じってるから、正確に判断するには、ルージュを連れて来なくちゃ難しいかもね」
「幼竜を連れて町中歩くわけにはいかないだろ」
「羽を閉じていたら、トカゲと間違う人もいるかもしれないわよ?」
「そんなウッカリ人間ばかりじゃ、かえって困るだろ」
アランがぼやくように言った。
「弓が最低でも5、魔術師っぽいのが3、後は棍棒とか剣とか槍とか斧とか槍斧かしらね」
「了解。ああ、そうだ、これ、いるか?」
「何? これ」
「ミスリル合金を磨いて、鋼糸を巻いた。きつめに巻いたが、巻き付けて縛っただけだから、すっぽ抜けるかもしれない。
使えるかわからないが、作ってみた。準備に時間が取れれば、鍛冶屋にでも持って行って、きちんと加工したいところなんだが」
「なるほどね。試しに使ってみるわ。幸い的は多いし、当たらなくても牽制にはなるでしょ」
「とりあえず、俺に盾を唱えて、次に鈍足か束縛を唱える。その後は、弓と魔術師優先で攻撃魔法を使うが、お前の方が早いようなら、お前にまかせる」
「わかったわ」
そう答えて、レオナールが駆け出し、アランはまず《鉄壁の盾》を詠唱する。
「其れは、我の身を守る、容易に破れぬ鉄壁の盾、《鉄壁の盾》」
レオナールが、先頭にいた数人の腕や腹などを狙い、剣を横に薙ぐ。悲鳴を上げる男達。
アランはまず視界を確保するため、《灯火》を唱える。
その間に、レオナールは、次々と斬り付け、魔法を詠唱しようとした魔術師の一人を、側頭部に回し蹴りを放って昏倒させる。
「散れ! 散開しろ!! 固まるな!!」
槍斧を持った男が叫ぶ。それを見て、レオナールはニヤリと笑う。
「見~つけたっ!」
更にもう一人の魔術師の腹を殴って、舌なめずりしながら、槍斧の男に飛びかかる。
「っ!」
レオナールが振り下ろした剣を、男は槍斧で受け止め、払った。
「ふふっ、見掛けた時から斬りたいと思ってたのよね」
そう言うと、素早く左右にスイッチしながら、剣を振るう。男はそれを左右に払いながら、後退する。
アランの《灯火》が発動し、周囲が照らされた。
「今度は遊んでくれるんでしょう?」
笑いながら言うレオナールに、男は眉をひそめる。
「……戦闘狂か」
それが自分に当てはまる言葉なのか、レオナールにはわからないが、思わずニヤリと笑った。
「防御だけじゃなくて、攻撃もしてよ。楽しくないでしょう?」
そう言って、更に速度を上げた。男は舌打ちし、石突き部分で大きく強めに払った。
レオナールは一度大きく後ろに飛んで、着地と同時に地面を蹴り、また距離を詰めた。
「攻撃を、したくても、リーチが違うんだが、な」
男がレオナールの剣撃を払いながら、答える。
「手を抜いてるくせに、良く言うわ」
そう言って、右手で振るった剣を払われた瞬間、左手で先程受け取ったものを投げつけた。
「っ!」
男の右肩に当たったそれを、鋼糸を引いて、引き戻す。そして、それをそのまま、グルグルと縦に回した。
レオナールの背後から近寄ろうとした者の腕に当たり、悲鳴を上げて飛び退いた。
アランの《鈍足》が、周囲の何人かに掛かる。レオナールがそのまま手を離すと、前方へ飛来し、囲もうとしていた一人の肩に当たって、そのまま倒れ込んだ。
「晩飯の恨み、覚悟しなさい!」
低く吠えるように叫ぶと、両手で握った剣を構えて振り上げ、男の右肩へ斬り付けた。
というわけで次回も引き続き戦闘です。
以下を修正。
×殴り掛かった来た時は
○殴り掛かって来た時は
×フル装備
○完全装備
×言い難い
○言いがたい
×面倒臭そうね
○面倒くさそうね
×臭い
○におい
×そんなに量が多いから
○そんなに量が多くないから
×《暗視》か嗅覚に
○《暗視》か聴覚または嗅覚に
×負わすなよ
○負わせるなよ




