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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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21 《蛇蠍の牙》と《疾風の白刃》と《一迅の緑風》

人間相手の戦闘描写があります。苦手な人は注意して下さい。

 レオナールに最初に飛び掛かったのは、《蛇蠍の牙》のリーダー格の、大剣遣いである。

 抜刀してそれを振り下ろすが、レオナールはそれを斜め前方に足を踏み出す事で避けると、男の左脇腹に斬り付け、薙いだ。男が悲鳴を上げて、崩れ込む。

 躊躇いのない動きに、《蛇蠍の牙》の幾人かが思わず息を飲むが、激昂した戦斧の男が斬り掛かる。昨日、レオナールに殴り掛かって最初に倒された男である。


「貴様ぁっ!!」


「雑魚が」


 吐き捨てて、レオナールが男の戦斧を、剣の腹で打ち払って、下腹部辺りを蹴りつける。

 そこへ矢が飛んで来るが、顔を傾げる事で避けると、その隙を狙って突いてくる槍を、右にステップして躱す。


「クソがっ!!」


 戦斧遣いが我武者羅に武器を振り下ろしながら、レオナールの右手から駆け寄り、槍遣いが左手から素早く連続して突いて来る。

 更に槍遣いの後ろを回ってロングソード遣いが走り、それらの背後から弓術士が矢を射って来る。

 魔術師の男が呻きながら自力で這って移動してきた大剣遣いに、回復魔法をかけて止血している。《疾風の白刃》の連中は傍観するようだ。

 レオナールは戦斧遣いは、攻撃が大振りで避けやすいため後回しにして、先に面倒そうな槍遣いを潰そうと考えた。

 が、そこへ盾を構えたロングソード遣いが駆け込んで来たため、先にそちらを倒す事にした。


「死ねぇっ!!」


 怒号と共にロングソード遣いの右腕に強撃を叩き込む。


「ぎゃあっ!!」


 思わずロングソードを取り落としバランスを崩すが、慌てて男は盾を構えた。


「遅いわ!」


 男に足払いを掛けながら、槍遣いから見て間にロングソード遣いを挟む形に回り込み、左肩目掛けて剣を叩き込む。


「うがぁっ!!」


 ロングソード遣いが崩れ込むと、側頭部に左肘を叩き込み、大きく踏み込んだ右足で、男の左膝付近を踏みつけ、槍遣いの脇腹目掛けて右手で握った剣を振るう。


「くそっ!」

 慌てて槍遣いがバックステップして、ギリギリ躱す。そこへ戦斧遣いの戦斧が、右斜め後ろから振るわれる。

 レオナールはそれを屈んで避けると、その場でクルリとターンして、剣を右手から左手に持ち替えて、そのまま薙ぐ。


「がっ!!」


 槍遣いが背後から突こうとするのを、戦斧遣いの腕を掴んで盾にする。危うく同士討ちを避けるために寸止めすると、レオナールはニヤリと笑った。

 戦斧遣いの腕を放して、放り投げると、その死角になる角度から剣を振り上げ、槍遣いの右腕を斬り付けた。


「うっ……! くそっ……てめぇっ……!!」


「卑怯とか言わないでよ。それ言うなら、数で掛かって来るのはどうなのって話になるから」


 そう言いながら、右足を振り上げ、脇腹辺りに回し蹴りを叩き込む。槍遣いが倒れ込むと、慌てて弓術士が構えていた矢を放つ。

 だが、それを紙一重で避けると、弓術士に駆け寄り、慌てて武器をショートソードに変更しようとしている男の側頭部に蹴りを叩き込んで、昏倒させた。

 それらをただ黙って眺めていた魔術師が、口笛を吹いた。


「すっげぇな、とても成人したてのFランクの新人とは思えないな。師匠の薫陶か?」


 その言葉に、レオナールが眉を顰める。


「何? あなた、この人たちの仲間じゃないの?」


「パーティーは組んでるが、別に仲間ってわけじゃねぇな。他にいいところがあれば、そっちへ行く」


「ふぅん。襲って来ないなら、やるつもりはないけど、それで良いの?」


「俺レベルでも魔術師ってのは、一応稀少なんでな。需要はある。こいつらが俺を必要だって言うなら、報酬貰える内はいてやっても良いが、それが損になったり、報酬を渋るようなら、離れるだけだ」


 そう言って、他の倒れている男達にも回復魔法をかけて、最低限の止血だけする。


「で、あなたたちも私と遊んでくれるの?」


 レオナールが《疾風の白刃》を見遣り、肩をすくめる。


「ずいぶん思い切りが良いな、新人君。犯罪者として手配されても良いのかい?」


 ベネディクトがニヤニヤ笑いながら言う。


「犯罪者? 全員死んでないし、手加減したわ。初級とは言え回復魔法が使える魔術師がいて、更に強力な治癒魔法が使える神官までいるんだから、即死させない限りは、よっぽどじゃなければ死なないわよね。

 それに、そっちから喧嘩売っておいて、犯罪者扱いは失礼ね。降りかかる火の粉は払うし、武器を持って襲って来る人間相手なら、武器で応戦するのも問題ないわ。

 それにここは、鍛錬場だもの。死なない程度に揉んであげただけよ」


 そして、レオナールは剣を正面に突きつけた。


「それとも、何か、反論がある? 文句があるなら掛かって来なさい。死なない程度に遊んであげるわ」


 レオナールは毒気たっぷりな艶のある笑みを浮かべて、挑発した。


「ベネディクト様」


 ハルバードを背負った男が近付き、ベネディクトに何かをささやく。ベネディクトはそれに頷き、口を開いた。


「君は確かに問題児で、特別な教育が必要なようだが、僕達もあまり暇ではないのでね。今日のところは失礼するよ。また日を改めよう。

 その時までに、その反抗的な態度が改善されていると良いんだが」


 もったいぶった口調でベネディクトは言い放ち、部屋を出て行った。《疾風の白刃》の他の5人もそれに続き、出て行った。そこへ慌ただしく駆ける足音が聞こえてきて、扉が大きく乱暴に開かれる。


「おいっ! だいじょ……っ!?」


 そこへ駆け込んで来たのは、《蛇蠍の牙》の面々と同じくらいの年齢の6人の男女である。内訳は女性弓術士1、女性魔術師1、男性魔術師1、男性剣士2、男性槍術士1。


「えっと……」


 怪我をしているが、最低限の応急処置的な回復魔法で止血済みの《蛇蠍の牙》の面々が床に転がり、その傍らに《蛇蠍の牙》メンバーの魔術師がしゃがみ込んでいる。

 一人だけ直立しているレオナールをマジマジと見て、最初に飛び込んできた剣士の男が怪訝そうに尋ねた。


「あー、もしかして、君がロランから来たFランクの新人剣士でレオナール?」


「そうだけど。あなた達は?」


 レオナールが聞き返すと、男が頷き、答える。


「俺達は《一迅の緑風》だ。君が《蛇蠍の牙》と《疾風の白刃》に締められそうになっていると聞いて、慌てて駆けつけたんだが……遅かった上に、必要なかったみたいだな。すまない」


「なんだ、あっさり負けたから応援が来たのかと。違うのなら良いわ。邪魔だから全員出てってくれると有り難いけど」


「なんだ、見学させてくれないのか?」


 《蛇蠍の牙》の魔術師が言う。


「見学?」


「あんた、《疾風迅雷》の唯一の弟子なんだろ? 体力と持久力はオーガ並みってあんたの相方が言ってたのは、確かに事実みたいだが、噂の英雄《疾風迅雷》直伝の力を是非見せてくれよ」


 魔術師の言葉に、《蛇蠍の牙》の面々が口々に声を上げる。


「そんな事は聞いてねぇぞ! おい!! どういうつもりだ、ジェローム!」


「アホか! 《疾風迅雷》の弟子だと知ってたら、こんな……っ!」


 魔術師は大袈裟に肩をすくめて、首を左右に振る。


「はぁ、俺は一応言ってやっただろうが、やめとけって。どうしてもやりたけりゃ、お前らだけでなく人数集めて、一斉にかかれって」


「はぁ!? 普通、Fランクの新人相手にそんな事するわけねぇだろ!! だいたい、先に聞いていたら、こんなやり方はしなかっただろ!

 だいたい、お前も《蛇蠍の牙》のメンバーだろう!? 毎回思ってたが、そのやる気のなさは何なんだ! いったい!!」


「だ~からさぁ、無償で面倒な事はやる気がねぇって言ってんだろ。俺に協力して欲しいなら、報酬払えよ、報酬を」


 騒ぎ始めた《蛇蠍の牙》の面々を、レオナールは嫌そうに見て、面倒臭そうに溜息をつく。


「その、怪我はなかったのか?」


 《一迅の緑風》のリーダーと思われる剣士の男が、心配そうに尋ねてくる。


「おかまいなく。問題なく無傷よ。治癒師や薬師が必要なのは、あちらだけどね」


 そう言って、掲げていた剣の血を拭って、鞘に納めた。


「へぇ、新人だって聞いてたのに、ずいぶん強いんだな。それで、本当に《疾風迅雷》ダニエルさんの弟子なのか?」


 興味津々といった口調で聞かれ、少々うんざりした気分になりながら、レオナールは頷き、肯定する。


「そうよ」


 すると、男の目がキラキラと喜びに輝く。


「じゃあ、もしかして、さっき見掛けたダニエルさんも、こっちへ来るのか?」


 期待に満ちた声に、レオナールは顔をしかめつつ、頷いた。


「ラッキー! ダニエルさんに直に会えるとか!! ここで待ってたら、剣の腕も見られるよな!」


 居座る気満々の男の言葉に、レオナールの眉間に皺が寄った。


「ねぇ、まさかあなた、ここで師匠が来るまで待つつもりなの?」


「頼む、是非見学させてくれ!! 君の鍛錬の邪魔はしないし、させないから!!」


 キラキラした少年のような目で、男ががっしり両手でレオナールの手を握り、懇願する。

 レオナールが気持ち悪いものを見る目つきで、相手を見るが、意に介しない。というか、全く気付いてもいないようである。


「できれば今すぐ、出てって欲しいんだけど」


 レオナールがぼやくように言ったが、他の《一迅の緑風》メンバーおよび《蛇蠍の牙》の魔術師が、一斉に頭を下げて声を揃えて、大きな声で叫ぶ。


「お願いします!!」


 レオナールは大仰に顔をしかめた。



   ◇◇◇◇◇



 結局、レオナールは、この場にいる全員をいない者として無視する事にした。話しかけられてもひたすら無視して、剣を振る。


「すごいな、さっきからずっと休みなしに降り続けてるのに、息も切らさないとか。そんなにやって、疲れないか?」


 悪気はないようだが、《一迅の緑風》のリーダーはお喋りな質のようである。

 呻いたり文句を言ったりしていた《蛇蠍の牙》の面々も壁際に寄ってグッタリと寄り掛かり、思い思いに休んでいて、動く気配がない。

 魔術師は声は掛けて来ないが、興味津々といった目つきで、こちらを見ている。


(聞こえない、聞こえない。あれは雑音。反応したら負け)


 一心不乱に強撃を打ち込み続けるレオナール。振り下ろしは連続で百回振り終わったので、今は振り上げである。

 更に右からと左からの薙ぎを振ったら、右手のみで同じく繰り返し、左手のみで繰り返し、である。

 邪魔が入ったので、ダニエルが来るまでに、全部振り終えられない可能性が高いのだが。


(とにかく強撃だけでも消化しておかなくちゃ)


 目の前の事にだけ集中しようと、気を引き締めながら、ひたすら剣を振り続ける。

 思い浮かべる標的は人型の黒い靄に包まれているが、その体格は良く知る者──元シェリジエール家当主で爵位は子爵、名をオクタヴィアン──のそれである。

 口元に緩く笑みを浮かべ、感情を削ぎ落とした視線の中に映る幻影は、どれだけ強く剣を振っても揺るぐ事がない。


 シーラの奴隷契約を解除する前に、オクタヴィアンを処刑すれば、シーラの命も絶たれるという。

 だが、その契約は『犯罪奴隷契約』であり、元は滅びた魔術大国の古き知識を元にした術式であり、完全に解明されていないため、通常の方法では解除できないとの事。

 故に、ダニエルはそれを解除するための方法を探し出すと、レオナールに約束したのだが。


(どうでも良いわ)


 確かにシーラは幾度もレオナールを守ろうとし、彼女なりに努力し続けたのだが、レオナールにとっては、それすらもどうでも良かった。

 シーラの命も、自分の命すらも、大事なものとは思えなかったし、それ以外の人間のそれも、守らなくてはならない物だとは思えなかった。


 レオナールの言葉遣いや仕草のほとんどは、母親であるシーラを真似たものである。

 彼の用いる言葉の大半は、これまで彼がどこかで見聞きしたものであり、発音や使い方も、それらを真似たものである。

 レオナールは、普通の子供が親や周囲から自然と教わる事柄の大半を知らずに育った。

 それの意味するところを正確に理解できなくても、表面上真似る事で、大抵の物事はどうにかなった。

 どうすれば良いかわからない時は、誰かの真似をするか、無視して反応しないというのも手段の一つだと学習している。


 ただ、剣を振る時、何かを斬る時、心地良さを、快感を覚える。生きるという事がどういう事かは良くわからない。


(剣を振っている時、斬っている時、とても楽しいと思う)


 それだけで十分だと、本当は思うのだが。それだけでは駄目だと、アランとダニエルは、きっと言うのだ。

 レオナールは、何故二人がそう言うのかはわからない。理解できない。どれだけ説明されても、わからなかった。

 おそらく、これからも理解できないだろうと思う。彼らの言う事の大半は理解できないのだから。

 でも、嫌いではない。ちょっと面倒だとは思うけれど、しかし、相手を斬りたくなるほど、殺したいと思うほど嫌ではない。


 レオナールにとって、大事なのは、それを斬りたいと思うか、そうではないかだ。

 それ以上の難しい事は、良くわからない。アランは経験を積めば自然と学習するものだと言うが、正直なところ、レオナールはそうはならないのではないかと考えている。

 言ったら長々と説教されるのは間違いないので、口にはしないが。


(どうしたら、もっと大型の魔獣や魔物を斬らせて貰えるようになるのかしらね)


 レオナールには理解できなかった。一番の問題は、自分の命を大事にしないからだ、という事すらわからなかった。

死亡者はいないけど、一応警告つきで。

一番問題なのは、戦闘描写より、レオナールの思考回路&倫理観だという気がしなくはないですが。

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