20 更に剣士は絡まれ、囲まれる
レオナールとダニエルは、身支度および着替えを終えて、防具や剣の簡単な手入れをしている。
その傍らで持参した茶を淹れながら、アランがダニエルに尋ねた。
「で、結局、どうしてあの二人の事に関しては、メモすら残しちゃいけないんだ?」
「アラン、お前、《混沌神の信奉者》に関して、どのくらい知っている?」
ダニエルが鎧を布で拭いながら、聞く。
「二十年程前に、王都に魔物を呼び寄せて王国転覆を狙ったり、三年前に貧しい平民や自由民の女子供を誘拐したり、複数の人身売買組織から買い取ったりして集めたり、二年ほど前に、ウル村郊外で生贄の儀式を行っているのが発見された、という話だな」
アランの声が最後だけ若干低く、小さくなった。そんなアランを、チラリと横目で見たレオナールが、肩をすくめて言う。
「ねぇ、アラン。私は気にしないわよ?」
「……お前はそうだろうけどな、俺としては、あの時のお前の姿は、一生忘れられそうにねぇよ」
アランが呟くような声で言い返した。ダニエルが溜息をついて、立ち上がり、ガシガシとアランの頭を撫で、ついでとばかりにレオナールの頭も撫で回す。
「ちょっ! 目に髪が入る!!」
ダニエルの腕を振り払って、レオナールが髪を梳かし直す。
「まっ、あの時のレオは薬で眠らされてたし、アランは正気だった上に、何も知らず覚悟もなく見ちまったから、仕方ねぇよな。
念のため知り合いの治癒師と神官呼んでなかったら、死んでたんだぞ、お前」
「記憶ないから、そんな事言われてもサッパリだわ。目が醒めた時には、傷は全部治って動けるようになってたもの」
レオナールは肩をすくめた。
「……あれ、見る前までは、平気で鶏絞めたり捌いたりして、料理できたんだけど、あれ以来、血や内臓を見ると、思い出しそうに」
アランが青白い顔で言うのを見て、
「悪ぃ」
ダニエルが謝った。
「あれは子供に見せるようなもんじゃなかったよな。俺もあそこまでは予測してなくて、うっかりしてた。
アランが着いて行きたいと言った時に、断れば良かったと、俺も反省してるよ」
「いや、それ自体は後悔してないからな! それに、必要となれば、ちゃんと魔獣や魔物の腹もかっさばけるし、討伐証明部位の剥ぎ取りも出来るんだ。別に生活に支障は出ていない。
まぁ、生きてるやつのは無理そうだが、魔術師に近接戦闘は期待しないだろ?」
「アランみたいに、ひ弱な人にやらせるわけないでしょ? ただコボルト程度の攻撃は、避けられるようになってくれないかとは思ってるけど」
「防御系魔法の必要性は、常々感じているよ。修得する機会があれば、借金してでも修得するつもりだから、安心しろ」
「さすがに借金はやめた方が良いだろ。って言うか、シーラのやつ、防御系教えてないのか?」
「俺が使えるのは、《炎の矢》《炎の壁》《炎の旋風》に《岩の砲弾》、《灯火》《解錠》《施錠》と《束縛の糸》《鈍足》《眠りの霧》の十個だけだ。
風系は攻撃・支援・防御・その他全て習ったけど、文言は正しいのに、何故か発動しなかったから諦めたんだ」
「文言が正しいなら、普通は発動するんじゃないのか?」
ダニエルが不思議そうな顔になる。
「シーラさんが言うには、イメージが足りてないんじゃないかって。確かに書物を読むだけじゃ、想像し難いんだよな、風系魔法」
アランの言葉に、ダニエルが眉根を寄せる。
「おい、ちょっと待て。お前、今、お前、何かおかしな事言わなかったか? 書物を読むだけって……なぁ、実際に発動した魔法は見た事ないのか?」
「シーラさんは、古代魔法文字の読み方・発音や意味は教えてくれたけど、実演はしてくれなかったな」
「……あー、普通の魔術師は、師匠の発動した魔法を実際、自分で見聞きして、何度も練習を繰り返して、魔法を修得するんだが」
「え……っ?」
大きく目を見開き、硬直したアランに、ダニエルが気まずげな顔で言う。
「そもそも、魔術を教えたり修得したりするのに、書物を読むだけって、かなり魔法・魔術に習熟していて、古代魔法語の知識があって自信があるやつか、専門の研究者くらいしかいないぞ?
それだって、初歩の魔法や最初に修得した魔法は、そんな無茶な覚え方してないと思う。それって、シーラが魔法を発動できなくて、そうしてたのか?」
「えっ……いや、全く使えないというわけじゃなさそうだったけど……?」
アランが思い出しながら答えると、ダニエルがうーむと唸った。
「あいつ、性格けっこう悪いからなぁ……冗談でやったら、あっさり修得されて、引っ込みつかなくなったか、悔しくなって、そのまま続行したとか? 十分あり得そうだな……。
悪ぃな、それ、普通の修得方法じゃねぇわ。たぶん、普通の魔術師が覚える方法だったら、普通に使えるようになると思うぞ?
文言を正確に覚えてるなら、問題ない。たぶん、実際誰かが使うとこ見たら、あっさり修得できるだろう」
「えっ、そうなのか?」
「お前がちゃんとした魔術師に、普通のやり方で習いたいなら、紹介してやれるぞ。
ロランに知り合いの魔術師はいないが、確かこの町ならアネット婆さんがいたはずだからな!」
「あ、そのアネットさんって、この町の冒険者に大銀貨1枚で初級の回復魔法を伝授してくれるって、昨日教えられたんだが」
「初級回復魔法で、大銀貨1枚? 相変わらずボッてるなぁ。それ、俺の紹介状で、半額以下になると思うぞ。他の魔法教わっても、たぶんお釣りが来る」
ダニエルが言うと、アランの急に目がキラキラしたものになる。
「本当か!? おっさん!!」
「お、おう。あの婆さんが俺を覚えていれば、間違いない。もし、忘れたとか言いやがったら、『ブラックドラゴンの牙と鱗の代金を払え』って言ってやれば、言う事聞いてくれるはずだ」
「有り難う、ダニエルさん! 俺、初めて、あんたを心から尊敬した!! あんたにも、ちゃんと使えるコネってあったんだな!!」
嬉しそうに、若干頬を紅潮させ、興奮した口調で、満面の笑みを浮かべた少年のような顔のアランに、ダニエルは困惑する。
「お、おう。なんか色々引っかかる事はあるが、そんなに喜んで貰えるとは思わなかったな。じゃあ、後で紹介状書いて渡す。
まぁ、ちょっと面倒臭いところもある婆さんだが、お前なら大丈夫だろう。
あ、一応言うけど、レオは連れて行かない方が良いぞ。ろくな事にならないからな。
あの婆さん、シーラと仲があまり良くないから、シーラの話題も出さない方が良いだろう」
「そうなのか?」
「ああ。エルフがあまり好きじゃないみたいでな。若い頃にエルフとトラブったみたいで、それが原因らしいんだが、地雷っぽいから深くは聞いた事がない。
お前もそれについては、触れない方が良いと思うぞ。あの婆さん、ヒス起こすと会話できなくなるからな。
元は小身貴族出身らしくて、実は結構礼儀作法とか気にするタイプだから、最初から敬語で行った方が、受けは良いだろう。
気に入られれば、わりと面倒見は良い方だから、損はないはずだ」
「わかった、有り難う。いや、本当、助かる!」
ニコニコしているアランに、ダニエルが苦笑しつつも、頷いた。
「いや、別にたいした手間じゃないからな」
そんな二人に、レオナールが首を傾げながら、尋ねる。
「ところで、師匠。《混沌神の信奉者》がどうのって話、途中じゃなかった?」
「ああ、それな。別に隠す事じゃねぇし、たぶんその内バレると思うから言っておくが、それについての調査をしているんだ。一応機密事項だから、人には言うなよ。
で、連中にも、俺が動いているのはバレてるもんだから、ちょっと動きにくくてな。
まぁ、王宮に何度も通い過ぎたり、王都でちょっと派手に行動し過ぎたせいもあるんだが。
それで、ここ一年ちょっとで、幾人かの貴族とかの処罰もしたから、恨みも買ってる。
でも、俺に矛先が向く分には、問題ない。どんなやつが送られて来ても、大抵どうにかなるからな。
問題は知らずにこの件に関わったやつや、俺の下で働いてるやつだな。
部下に関しては割れないように、王宮以外で直接的な接触は避けてるんだが、それ以外がちょっとキビシイ状態なんだ。
把握出来た分には保護したり、情報や痕跡消したり、努力はしてるんだが、何人か姿が見えなくなったり、死亡が確認されたりしているんだ。
で、ロランにはいないけど、他の支部はちょっと怪しいんだよな。
一番怪しいのは、王都支部で、何番目かの候補にラーヌ支部もあるんだが、もしかしたらギルド職員もしくは幹部の中に、《混沌神の信奉者》のメンバー、もしくはそれと繋がってるスパイがいる」
「えっ!?」
アランは勿論、レオナールも目を見開いた。
「だから、証拠になるようなものや、情報が漏れる要因になるものは、なるべく残さない方が良い。
書き損じでも、下手に拾われると、厄介な事になるかもしれないからな」
「えっ、じゃあ、今後、報告出す時は、どうしたら良いんだ?」
「ロランでは今まで通りで良い。王都支部も、ギルドマスターとサブマスターは問題ない。怪しいのは顧問と、一部の職員だけだからな」
「ああ、候補は一応絞れているんだな?」
「ちょっと時間は掛かったけどな。いずれ絞り出せると思うから、その辺は心配するな。俺が直接やってるわけじゃねぇけど、状況報告だけは聞いている。
クロードやリュカにも協力して貰ってるから、お前らがロランで活動する分には、支障はないはずだ。
ラーヌでの活動については、俺がちょっと手を回しておくから、大丈夫なはずだ」
「え? 何か企んでるのか、おっさん」
「企むとか、俺が腹黒みたいな言い方すんなよ。ま、お前らが面倒な事考える必要はねぇって事だ! 大船に乗った気でいろ。
困った事があれば、俺に相談・報告しろよ。俺に直接は無理でも、クロードかリュカ経由ででもな!」
ダニエルはカカカと笑って、自分の胸を拳で叩いて、胸を張る。アランが怪しげな人物を見る目を向けて言う。
「いや、おっさんは十分腹黒だろうが。基本、脳筋思考と見せといて、演技や誤魔化しなんかも大得意だろ。
酒飲んで酔ってる時は、ただのダメ人間だけど」
「師匠が面倒なおっさんなのは、今更でしょ」
「ははは、酷い言いようだな、おい」
苦笑しながら、ダニエルは立ち上がった。
「じゃ、そろそろギルドの鍛錬場に行くか。アランはどうする?」
「本当は、レオとおっさんがやってる間に報告しようと思ってたんだが、後の方が都合良いんだよな?」
「二度手間になるからな。ま、でも一緒にギルド行くか?」
「え? でも、脳筋二人の打ち合いとか見てもなぁ」
アランが肩をすくめた。
「うーん、そろそろ王都からのが来てもおかしくはないんだがな。何かやりたい事とかあるのか?」
「特にはないが。報告書も一応書けたし」
「あ、そうだ。それ見せてくれ」
「ああ、はい」
アランが報告書を手渡し、ダニエルがそれをざっと目を通す。
「ふぅん。いつも思うけど、ちゃんと細かく地図とか描いててマメだよな、お前」
「きちんと計測してるわけじゃないから、結構おおざっぱに描いてるけどな。でも、俺以外が見て把握できるように心がけてる」
「うん、それが結構難しいと思うけどな。おかげでわかりやすくて助かってる。その調子で真面目に仕事してたら、指名依頼とかも増えると思うぞ」
「Fランク相手に指名依頼するような酔狂な人はいないだろう。最低でもCランク以上じゃないと」
「で、ランクアップするには、レオにも状況判断できる能力がつかないと、って話になるわけだろ?」
「そんな事言われても、難しい事はサッパリなんだけど」
「いや、全体について把握しろとは言ってないぞ。俺が言ってるのは、戦闘時についてだからな。探索時については、これまで通りで問題ない。暴走されるのは困るけどな」
肩をすくめるレオナールに、アランが言う。
「まぁ、レオは頭で考えるより、身体で覚えるタイプだからな。とりあえず、いくつか叩き込んで学習させてやるか。慣らしは今朝の狩りで済んでるだろうから、鍛錬場行ったら、すぐ始めてもかまわないだろう?」
「望むところよ」
レオナールが挑戦的な目つきで、答える。その返答に、ダニエルが嬉しそうに笑った。
「おーし、死なない程度に遊んでやるよ」
「師匠こそ、ぎっくり腰とかにならない程度に頑張ってね」
「ははは、面白い事言うなぁ、レオ。翌日筋肉痛で泣くなよ、おい」
「暑苦しいから、ここで師弟の心温まる挑発会話するのやめてくれないか? 最近ただでさえ気温上がり始めてるのに、更に無駄に室温が上がるだろ」
「え? いやいや、俺らが会話したくらいで室温あがったりしないからな?」
「暑苦しいのは師匠だけで、私は関係ないでしょ。だいたい、何よ? 心温まる挑発会話って」
「文字通りの意味だろ。まぁ、程々に頑張って来いよ、レオ。少なくとも報告と魔法の修得が終わるまでは、ラーヌに滞在するつもりだから、今日は別に倒れるまでやってもかまわないけど、怪我とかはなるべくしないようにな」
「あ、そうか。アネット婆さんの紹介状書いておけば、アランが今日にでも行けるんだな。なんか紹介状書くのに良さそうな上質な紙って持ってるか?」
「うーん、普段持ち歩くのは、あまり上質なやつじゃないからな。報告書用に使ってるのが、一番良い紙なんだが」
「これか。んー、ちょっと質は落ちるが、ま、仕方ねぇか。どうせアネット婆さん相手だしな。
よっしゃ、ちょっと紙とインクとペン貸してくれ。銀貨1枚で足りるか?」
「いや、大銅貨で十分お釣りが来るからな。駆け出しに、そんな高い紙が買えるわけないだろ」
「じゃ、大銅貨1枚だな。ちょっと待ってろ」
ペンにインクを付け、サラサラと文面を書く。
「え? なんかそれ、適当すぎないか? 書き出しが『よぉ、婆さん元気か? 俺だ、ダニエルだ』とかって何か酷くねぇ?」
「大丈夫、大丈夫! 逆に、俺が形式張ったキッチリ整った紹介状なんか書いてみろよ。俺の筆跡を真似た偽物だと思われるのがオチだろう?」
「……あー、言われてみればそうかも」
アランは納得した。
「だから、テキトーで良いんだよ、テキトーで。俺からだって確実にわかれば良い話だしな!」
「納得したくないが、納得した」
アランが渋面で答えた。
◇◇◇◇◇
そして、途中まで同行したが、アランはアネットの家へと向かい、レオナールとダニエルは冒険者ギルドへと向かった。
「よぉ、ジャコブ」
「おはようございます、ダニエルさん、レオナール。先に宿の方へ連絡した通り、鍛錬場の予約は取れています。
時間前でも空いているので、使おうと思えば使えますが、どうしますか?」
ギルドに入ると、混雑のピークは過ぎたとは言え、まだ幾人かの冒険者達がたむろしており、ダニエルの姿にざわつく者も複数いる。
「とりあえず、もうしばらくレオとアランが滞在するみたいだから、ラーヌ支部の職員や幹部に挨拶しておきたいんだが、今、大丈夫そうか?
難しそうなら、後でも良いんだが」
「だっ、大丈夫だと思います。あ、でも、ちょっと確認してきても良いですか?」
「おう、かまわないぞ。少なくともギルドマスターとサブマスターには、挨拶しておきたいと思っている。
時間に都合がつくようなら、顧問のガストン殿とも顔を合わせておきたいな。
レオ、お前はどうする? 着いてくるか?」
「面倒臭そうだから、別に良いわ」
「ふうん、別に損にはならないと思うぞ? 俺の弟子だって事を宣伝する良い機会だ。面倒事になる率が下がると思うぞ?」
「かえって別の面倒事が来そうじゃない。どうせそんなお偉いさんと顔を合わす機会なんて、そうそうないんだから、問題ないでしょ?」
「ま、どっちでも良いけどな。じゃ、お前は先に鍛錬場行くか?」
「そっちの方が良いわね」
「そうか。ってなわけで、頼めるか?」
ダニエルがジャコブに尋ねると、ジャコブが頷き、隣の席の女性職員に、ギルドマスターに連絡するよう告げる。
「ちょっと待って下さい」
そうして受付の外へ扉をくぐって回って来た。
「先触れは出したので、鍛錬場を回ってから、応接室へ案内します」
「了解」
そしてジャコブは、地下1階奥の鍛錬場へ案内し、レオナールをそこに残して、2階の応接室へダニエルを案内した。一方、残されたレオナールだが。
まずは、とバスタードソードを抜き放ち、素振りを始めた所で、鍛錬場の扉が開かれた。
腕を止めて、そちらを見るレオナールの前に、五人の冒険者が乱暴な足取りで現れる。
「おい、お前! 見ない顔だが、いったいダニエルさんといったいどういう関係だ」
剣呑な目つき、あるいは怪しい者を見るような訝しげな目つきで見られているようだが、武器を抜いて襲いかかりそうな人物はいない。
一名だけは弓術士なようだが、それ以外は全員、いかにも戦士または剣士といった装備の男達である。
それを確認して、レオナールは無言で素振りを再開した。
「おい、聞いているのか!?」
リーダー格と思われる、一番体格の良い大剣遣いが、激昂する。だが、レオナールは柳に風とばかりに、無視をする。
一撃、一撃に力を込めた強撃の振り下ろしを繰り返す。
「おい!!」
男が、レオナールの斜め後ろの位置に歩み寄り、右肩に手を掛けようとした瞬間、ビュッと音を立てて、右手一本で握られた剣の先が、男の右頬から拳一つ分の距離で寸止めされる。
「……っ!!」
「真剣で素振りしている人のそばには近寄っちゃいけないって、習わなかったの?」
無表情で、感情を削ぎ落とした抑揚のない、それでいてやけに室内に響く高めの声で、レオナールが告げた。
「こ、声を掛けられているのに無視するのは、どうなんだ!」
「自分の名もまともに名乗れないのに、相手に自己紹介しろという人間相手に? それとも、あなた、殺されたいのかしら?
命知らずの自殺志願者または被虐趣味の変態だとしても、私に係わらないで欲しいわね」
冷徹な声音で、氷のような視線を向けるレオナールに、男は渋面になる。
「おい! 黙って聞いていれば貴様!! おれたちを誰だと思っている!!」
周囲の男達が激昂し、騒ぎ出す。
「知らないわね。ラーヌに来たのはつい先日だし、長居する予定もないもの。
わかってるのは、あなた達が初めて会った人間に、まともに挨拶する事もできないゴブリン並の低脳揃いだって事くらいかしら?」
そう言って、冷笑する。リーダー格っぽい男が口を開こうとした時、扉が開かれ、新たな人物が入室する。
金髪に深い緑色の瞳の、優男の剣士と、魔術師風の男だ。
「僕は《疾風の白刃》のベネディクトだ。昨日は、彼ら、《蛇蠍の牙》の連中を一方的に叩きのめしたそうだね?」
にっこり笑う優男。その台詞で、改めて周囲を見回し、なるほどと頷いた。
「ああ、身綺麗になってるから気付かなかったわ。昨日の人達だったのね、あなた達」
そこへ、更に5人の男達が入って来る。戦士が1人、魔術師2人、盾職1人に、神官1人である。
「今日は、あの黒髪の魔術師は連れていないようだな」
ベネディクトと共に入って来た魔術師の男が、ベネディクトのそばからリーダー格以外の《蛇蠍の牙》4人の元に近付きながら言った。
「よくわからないけど、報復、という事かしら?」
レオナールは《蛇蠍の牙》の大剣遣いから距離を取って、剣を構え直す。
「いやいや、ちょっとした挨拶だろ? ほら、コミュニケーションは大事だろう」
《蛇蠍の牙》の魔術師がそう言い、ベネディクトがふふっと笑う。
「挨拶どころか、道理のわからない常識知らずの新人君がいると聞いたからね。応援に駆けつけたよ」
「へぇ」
レオナールが半眼になった。
「じゃあ、師匠が来るまで、全員で遊んでくれるって事かしら? 有り難いわね」
そう言って、ペロリと下唇を舐めた。
「死にたいやつからかかって来なさい!!」
レオナールが低く叫んだ。
というわけで次回、《蛇蠍の牙》《疾風の白刃》との戦闘です。
以下を修正。
×書けだし
○駆け出し
×戦斧それを確認して
○それを確認して




