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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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19 剣士の師匠は魔術師の逆鱗に触れる

「おはよう、おっさん、レオ」


 レオナールとダニエルが宿屋に戻ると、1F食堂でアランが待っていた。


「おはよう、アラン。不機嫌そうね」


「おう、おはよう、アラン。なんかブッサイクな顔してんな? どうした?」


「不細工とか余計だ。着替えたら、朝食食うだろ?」


「えっ、アランってば、俺にメシ抜きで、レオと真剣でやり合えっての? それはキッツくねぇ?」


 大仰に肩をすくめるダニエルに、アランがギロリと睨む。


「いつ、誰がそんな事を言った。勝手な脳内変換するなよ、おっさん」


 ダニエルはアハハと笑いながら、ポンとアランの肩を叩いて言う。


「やだなぁ、アラン。ちょっとした冗談じゃないか! 目くじら立てちゃイヤン」


 ダニエルがウィンクする。


「なぁ、レオ。朝食済んでも、すぐには行かないんだろう?」


「え? そうね。ええと、ジャコブからの連絡では、いつだったかしら?」


「鍛錬場のことなら、二つ目の鐘から使えるって話だったな」


「らしいわよ」


「……お前、どうしてそういうのを、覚えられないんだよ」


「聞いても、何故かすぐ忘れちゃうのよね。不思議だわ」


「いや、俺の方が不思議だよ」


「まぁ、でも、これじゃ、レオに大切な用件一人で聞かせるのは、危険だわな。だけど、これ、ちゃんと対策した方が良くないか?」


「前に、大切な用件はメモしとけって言ったはずなんだがな」


「記憶にないわね」


 レオナールは肩をすくめ、アランは溜息をついた。


「これだもんな。まぁ、良い。報告書まとめてるんだが、お前の意見も聞いておきたい。

 あと、おっさんにも聞きたい事っていうか、直接じゃないけど確認しておきたい事あるんだが」


「うん? 何だ?」


「いや、後で良い。早く汗流して、飯を食いたいだろ? だからその後で、少し時間取ってくれると有り難い」


「了解。アランに頼まれ事されると、ちょっと嬉しいな」


「いや、報告書書くのに必要な事を、いくつか聞きたいだけだからな。一部は例の魔術師関連だし」


「あー、それか。悪ぃ、それ、丸ごと全部、俺に預からせてくれないか? ギルドへの報告は控えた方が良い」


「え?」


 アランは驚き、目を見開いた。


「丸ごと全部って、襲撃された事とかか? でも、あいつ、絶対今回の巣の件に関わりがあるはずなんだが。

 転移陣描いたのはあいつじゃないにせよ、俺達が破壊したから、確認のために現れたとしか思えないし、あいつが何処から、どの時点で俺達に気付いて移動したのとか、後日調査しないと危険じゃないか?

 尋問では聞き出せなかったが、たぶんあいつら、魔物の強化あるいは、低ランク冒険者の磨り潰しか消耗を狙っている。

 でなけりゃ何らかの実験か、練習だ。今回はコボルトで、前回はゴブリンだったが、次回はもっと強い魔獣・魔物かもしれない。そうなってからじゃ遅い。おっさんならわかるだろう?」


「なら、わかってるよな、アラン。もし仮にそうだとしたら、お前の手に負える事態じゃないって事も」


 ダニエルが真顔で答えた。アランは思わず息を呑んだ。


「……だっ……でもっ……!」


「まぁ、お前の気持ちはわからなくはないぞ? 自分が関わった依頼で、実際対峙した相手で、だから最後まで関わりたいとか、調べたいとか、真実を突き止めたいとか思うのは、自然な事だ。

 でも、自分の手に負える事かどうか、考えてみろ。中途半端に関わって、でも、自分の手には負えませんでしたってなるのと、今の時点で手を引くのと、どちらがマシだ? どちらが最善だと思う?」


「……っ!」


 たしなめるような口調のダニエルに、アランは悔しそうに、唇を噛む。それを見て苦笑したダニエルが、アランの頭をゆっくり撫でた。


「悪ぃな、横からかっさらってくみたいな事になって。けどまぁ、悪いようにはしねぇから、安心しろ」


 最後にポン、ポンと叩いて、手を離す。


「今日辺り、その件とか関連について調査する人員が、王都から来る予定だ。だから、ギルドへの報告はそいつが着いてから頼む。

 あと、捕まえた二人に関しては、報告書には勿論だが、後に残る物には何一つ書き残すな。

 既に書いた物があるなら、焼却処分するなりして、誰にも見られないようにしろ」


「え? なんだよ、それ。どうしてそこまで……」


「あー、後で話す。こんなとこで話せる内容じゃないからな」


 ダニエルの言葉にハッとして、アランが周囲を見回す。数は少ないが、ポツポツと宿泊客が、朝食を取るために集まって来ている。商人や冒険者などが主だ。


「悪い、俺。気が回ってなくて」


「気にすんな。たいした事は言ってねぇしな。そんな事より、メシだ、メシ。さっさと着替えて来るから、ちょっと待ってろ!

 っておい、レオ? 何故椅子に座ってるんだ?」


 レオナールはアランの隣に腰掛けて頬杖をついている。


「うん? お腹空いたから。朝食注文しといたわよ、三人分」


「え? 鎧は? っていうか汗かいたんじゃないのか?」


 怪訝そうに尋ねるアランに、レオナールは答えた。


「そうなんだけど、我慢できる気がしないもの。先に食べるわ」


「お前がそれで良いなら、別にかまわないが、今日はそんなにハードだったのか?」


「えっ、そんな事はねぇだろ。森鹿6頭に、角猪1頭しか狩ってないし。移動が駆け足だったくらいで、疲れたとか言わねぇだろ?」


 ダニエルも不思議そうに首を傾げる。


「普通は十分疲れる内容だと思うが、いつもはもっと、大量に狩ってるよな?」


「成長期だから、運動するとお腹が空くのは仕方ないわよね!」


「疲れたとかだるいとか、そういう理由じゃないなら良いけど、身体や体調に違和感あるようなら、ちゃんと言えよ?」


「大丈夫よ。心配性ね、アラン」


 レオナールが肩をすくめた。


「はい、お待ち」


 そこへ宿屋のおかみが、角猪肉のソテーの大盛りをテーブルに置く。どう見ても三人前には見えない──少なくともその倍の人数分に見える──が、置かれた。

 取り皿は三枚、並べられたフォークも三本である。一瞬、硬直して、それを見つめたアランだったが、


「注文はこれで良かったね」


「ええ、有り難う。おいしそう」


「ははっ、そりゃ良かった。たくさんお食べよ」


 そう言って、おかみが背を向けて厨房へ向かうのを見て、ハッと我に返る。


「おい、お前、まさか肉しか頼まなかったんじゃないだろうな」


「肉だけよ。アラン、朝食は軽めで良いのよね?」


 きょとんとした顔で、レオナールが聞く。


「……最低限、パンと野菜くらいは付けろ、このバカ!」


 アランが低い声でレオナールに怒鳴り、慌てておかみを追いかけ、パンと野菜と軽めのスープの追加注文をした。


「アランってなんで、あんなに短気なのかしら」


 呟くレオナールに、ダニエルが呆れたような顔になる。


「だから、お前、肉以外も食えって言ってるだろ、レオ。っていうか、若いってすごいな。この量を朝から食うのか。

 俺も結構食う方だと思ってたけど、お前には負けるよ」


「三人分のつもりで頼んだんだけど、多かった?」


「うーん、お前、ちょっと、他人の食べる量とか覚えておいた方が良くないか?」


 肩をすくめるレオナールに、前髪を掻き上げながら、ダニエルが言った。



   ◇◇◇◇◇



 朝食後、三人はレオナールとアランの宿泊する部屋へと移動した。宿の下働きの少年が、水の入ったたらいを部屋へ運ぶ。

 アランが一人だけ、書き物机に座り、レオナールとダニエルが床に座り込んで、剣帯や鎧などを外す。


「……で、レオ。俺とおっさんが念のため外を確認中、あの《黒》とかいうやつに襲われた以外、何らかの異変とか異常とかあったか?」


「ないわよ。コボルトが矢を射って来たけど、全部ルージュの鱗に弾かれて、こっちには来なかったし、通路いっぱいルージュの身体が塞いでいたから、コボルトたちは1匹も来なかったし。

 たまに近付くやつがいても、自滅してたしね」


「了解」


 サラサラと書き込んで、最後に自分の名前を署名する。


「一応これ、後でレオも確認して、最後に自分の名前を書いてくれ」


「わかったわ」


「その前に俺が見てもかまわないか?」


 ダニエルが尋ねると、アランが頷いた。


「ああ、かまわないが。……もしかして、おっさんの駄目出し食らったら、書き直しか?」


「《黒》と《混沌神の信奉者》の襲撃に関しては書いてないんだろう?」


「ああ。コボルト討伐と、その巣を塞いだ事と、行き先不明の転移陣があったが、放置するとコボルトやらゴーレムやらが転移してくるから全部潰しましたって内容になってる。

 他に書きようがないからな」


「それなら書き直す必要はないだろう。でも、一応目を通しておきたいからな」


 アランの眉間に皺が寄った。


「なぁ、おっさん。もしかして、俺が今まで書いた報告書、少なくともオルト村ダンジョン辺りからの内容、知っているのか?」


「おう。王都支部から回って来たやつの写しを見た」


「俺、冒険者ギルドに出した報告および報告書って、基本的に部外秘だと思ってたんだが」


「部外秘だぞ?」


 ダニエルが頷き、アランの眉間の皺が深くなった。


「……で、どうしておっさんがその写しを目にする機会があったんだ? オルト村ダンジョンの追加調査は《静穏の閃光》ってAランクパーティーに依頼されたんだろう?」


「誰に頼めば良いかって打診されて、俺が推薦しといた。子飼いの連中で適当なの見繕っても良かったんだが、今はパーティー単位で動けそうなのはいなかったんでな。

 あ、そうそう。王都ギルドで名誉顧問とかいう名ばかりの役職貰ってるんだ、俺。これといって決まった仕事はないし、報酬も出来高払い的な、雀の涙だがな!」


「それ、初耳なんだが」


「おう、王都に行ったら頼まれてな! 別に損になる事もねぇから受けといた。やっぱギルドの情報網はでっかいからな。

 依頼受注リストと報告リストのまとめを毎月貰って、気になったとこだけ、写しを貰う事にしてるんだ。さすがに全部に目を通すのは無茶だからな。

 実は、お前らの初依頼から読んでる。俺の部下が、お前を勧誘したいつってたぞ。俺が断っておいたが。

 お前、やっと念願の冒険者になったのに、王都で事務系の仕事とかしたくねぇだろ?」


「俺は魔術師になりたくてなったのに、どうしてそんな勧誘が。俺、そんなに魔術師向いてないか?」


「そんなことはねぇと思うけどな。ま、お前の筆記は見目も良いし、報告書の内容や書き方も、見やすい上にわかりやすいからな。

 簡潔だけど、必要な事は全部記載されてるってのも高評価らしいぞ?」


「……複雑だ」


 アランは渋面になった。


「それに比べ、レオナールの書く文字は、本当ひどいよな! アランに習って、書き取りの練習した方が良いんじゃねぇの?」


「判別できれば良いのよ、判別できれば」


 レオナールがツンとした顔で言う。読めれば、じゃないところがミソである。アランが頭痛をこらえるように額を押さえる。


「あー、それに関しては俺もどうにかしてやりたいと思うんだが、何度教えても、ペンの握り方がおかしいんだ。

 スプーンやフォークはちゃんと使えるようになったんだが、どうして同じようにペンが握れないのか、俺も本当不思議で。

 正直、あの握り方で、ちゃんと線が書ける事が不思議だ」


「いや、線って、おい。……確かに定規を引いて書いたみたいな署名だったが、あれ、文字として見たらおかしくないか? 大きさもばらついてるし、毎回微妙に違うし」


「一応、角度はだいたい同じだろう? 文字の大きさとかバランス取る事までさせると、書類が何枚あっても足りないから、読めなくても誰が書いたかわかるレベルなら、マシなんじゃないかと思うんだが」


「なあ、お前ら二人とも、それで良いのか?」


 ダニエルが不思議そうな顔になる。


「別に良いじゃない。署名って誰が書いたか、わかれば良いんでしょう?」


 レオナールが面倒臭そうに肩をすくめた。


「一応知らないやつが見ても、読めた方が良いと思うけどな」


「署名に関しては、何度も書いてる内に覚えるだろうから、その内なんとかなるだろ。大丈夫、時間はいくらでもある。

 いくらレオでも、毎回書いてるんだから、少しずつでも全く上達しない事はないだろう、たぶん」


 アランが半ば諦念の表情で頷いた。ダニエルは呆れたような顔になったが、それ以上言うのはやめたようである。上衣を脱ぎ捨て、たらいに浸けておいた布を絞って、身体を拭う。

 レオナールは装備を全て脱ぎ終え、新しい着替えを取り出し、自分のベッドの上に置いてから、同じように布を手に取った。


「髪を洗うのは後にした方が良いかしら?」


「どうせまた汗をかくだろう? 好きにすれば良いが」


「洗うのは良いけど、乾かすのがちょっと面倒なのよね。うーん、耳の下くらいの長さに切りそろえた方が良いかしら?」


「うん? 切るのか? 俺はその金髪、結構好きなんだが」


「師匠は金髪碧眼の女の人が好きよね。……何、私の性別間違えてないわよね?」


 ダニエルの言葉に、レオナールがジットリとした半眼になる。


「いやいや、わかってるから! そういう意味じゃなくて、絹糸みたいに細くてサラサラしててキレイじゃないか。

 光を浴びると、キラキラ光って見えて、動いてると更にキラキラして、見てるとなんか、良いよなって気分に……」


「それ以上何か言ったら、闇討ちするわよ」


 レオナールが無表情でボソリと言った。


「す、すまん……」


「おっさんが金髪コンプレックスか、フェチなのはわかった。そう言えば《静穏の閃光》にいた女魔術師も金髪碧眼だったよな」


「い、いや、別にそういう理由で推薦したわけじゃないぞ!? だいたい、子供に興味はない!!」


 慌てて弁明するダニエルに、アランとレオナールが白い目を向ける。


「そういや、おっさん。アドリエンヌって名前に聞き覚えないか?」


「うん? 知らないな。記憶にはないが」


 ダニエルの返答に、アランが溜息をついて、瞑目する。


「王都の魔法学院の講師補佐で、古代魔法語のスペシャリストの褐色髪(ブルネット)の美女なんだが、本当に全く覚えてないのか?」


「魔法学院の講師補佐? そんな肩書きのやつには、会った事ないな。で、それがどうしたんだ?」


 ダニエルはきょとんとした顔をしている。本気で記憶にないらしい。


「クロードのおっさんが言うには、彼女が十代の頃に、おっさんに告白したら、酷い振り方されたって話なんだが」


「そうなのか? いやでも、ほら、俺、良くモテるからな! そういうのは日常茶飯事だし、しかし、酷い振り方ねぇ。悪ぃ、全然記憶にねぇわ。勘違いじゃないか?」


 ダニエルにケロッとした笑顔で言われ、アランの眉間に深い縦皺が何本も入った。


「おっさんは一度、死んだ方が良くないか?」


 アランの感情を押し殺した低い声に、ダニエルがギョッとした顔になる。


「えっ、なんでだよ? ってか、おい、どうして怒ってるんだ、アラン」


「まぁ、アランが怒るのは仕方ないわよね。詳しくはクロードのおっさんに聞いてみれば良いわ。アランに無茶振りしたのは、あの人だから」


「えぇっ? それ、俺関係なくねぇ?」


「それも確認してから判断した方が良いと思うわよ? 私は別にどうだって良いけど。これ以上、絡まれなきゃね」


 レオナールは肩をすくめた。

というわけで、ダニエル本人は、悪気なし&記憶なし。

思ったより長くなったので、報告次回です。すみません。


以下修正。

×装備を全て脱ぎ終え、鎧の下に着ていた

○(上記削除。ダニエルは装備なしだったの失念してました←どあほう)

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