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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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18 剣士は林に狩りを楽しみ、魔術師は報告書を記しながら思案する

 翌日、早朝。レオナールが身支度を調え、装備を身に付け、厩舎へ向かうと、ダニエルが待っていた。


「よっ、おはよ!」


「おはよう、師匠。……手ぶらな上に、鎧もないように見えるけど、それで良いの?」


「朝飯前に完全装備とかだりぃじゃん。面倒臭ぇ。散歩だ、散歩」


「師匠がそれで良いなら別に良いけど」


「おう。じゃ、行くか。で、何処へ行くつもりだ? 東の山林か、西の森か。まさか平原の兎や鼠なんか狩らねぇだろ?」


「東の山林よ。盗賊の拠点とコボルトの巣が潰されたんなら、他の魔獣や魔物の動きや行動範囲も変わってるんじゃないかと思って。

 餌は豊富にありそうだから、コボルトが消えた分、その縄張りが空白になったんだから、他の魔獣たちは狩りがしやすくなってるはずでしょ?」


「そうだな」


 レオナールがルージュのいる房に近付くと、ルージュが嬉しそうに起き上がる。

 出入り口部分の柵の横木を開閉させて、ルージュを外に出すと、レオナールに鼻を擦り付けて来る。


「ふふっ、おはよう、ルージュ。さぁ、今日も狩りに行きましょうか」


「きゅきゅう」


「すごいなついてんなぁ、そいつ」


 ダニエルが感心したように言う。


「そりゃ、どんな生き物も餌をくれる人にはなつくでしょ?」


 ルージュの鼻先を撫でながら言うレオナールに、ダニエルは肩をすくめた。


「そういうもんかねぇ。でも、お前だって満更じゃねぇだろ?」


「そうねぇ。子供で、お腹空かせてなくて、怪我もしてなかったら、迷わず斬りに行ってたと思うけど」


「うん? お前、ドラゴン斬れる自信あるのか?」


「自信はなくても、機会があれば斬りに行くでしょ?」


「あー、まぁ、そうかもしれないが、お前にはまだ早いだろう。自分でもわかってるんじゃないか?」


「確かにまだ斬れそうにないわね。斬ろうとしても、ルージュの体表に弾かれる内は、全然よね」


「当てた事はあるのか?」


「一度だけだし、かすっただけよ。距離が近くて、一瞬ヤバイかなと思ったけど、ここで振らないと逃がすと思って振ったら、ちょっと。

 どうも同時に同じ獲物狙っちゃったみたいで。肝心の獲物は、一歩遅くてルージュが倒しちゃったけど。

 最近は狙う獲物は最初に分けて、相手の担当分には手を出さない事にしたから、大丈夫よ。

 早い者勝ちにしちゃうと、どうしても最後の数匹は狙いが被りやすいのよね」


「同士討ちとか、人間相手だとちょっとでもうっかり攻撃当てると、かすっただけでもトラブルの元になるからな。今の内に練習しとけよ」


「もう大丈夫だって言ってるでしょ。ニアミスしそうになっても、寸止めも出来るから、問題ないわ。

 最初は私の方が足が速かったけど、この子、最近どんどん動きが良くなってるから、今は同じくらいじゃないかしら。

 速度や距離を読み間違わない限り、絶対やらないわよ」


「ふうん。間違って俺に当てるなよ? 一応避けるけど」


「そう言われると当てたくなるわね」


「お前、本当、無駄に負けず嫌いだなぁ」


 ダニエルは声を上げて笑った。東門を出た後は、駆け足で林の中を駆けた。


「ルージュ、どっち?」


「きゅきゅーっ!」


 尻尾を振り上げ、南東を指し示す。


「了解! ガンガン行くわよっ!」


 レオナールはそう言って、速度を上げた。南東へしばらく進むと、小川が見えて来た。

 そこには、森鹿と呼ばれる魔獣が十数頭ほど、水を飲んでいた。少し手前で速度を落とし、その背後へ忍び足で近寄り、抜刀する。

 首を両断される若い雌。森鹿たちが高い鳴き声を上げ、一斉に駆け出した。その正面にルージュが回り込み、咆哮する。


「ぐがぁあああああおぉっ!!」


 数頭ほどが動きを止め、残りは動きが鈍くなる。だが、ルージュが駆け出すと、一斉に散開し、バラバラに逃げ出した。

 動きの悪い3頭ほどを、レオナールが擦り抜けざまに斬り、ルージュが特に大きめの個体を狙って前足を振り下ろし、2頭ほどを倒し、そこで動きを止めた。

 森鹿の群れは一気に速度を上げて逃走していった。レオナールはそれを見送って、血振りをし、剣を鞘に納めた。


「きゅう」


 ルージュがレオナールにお伺いを立て、レオナールが頷き、許可を出す。ルージュが飛びつくように、自分が仕留めた森鹿にかぶり付いた。

 そこへダニエルがレオナールに近付いた。


「いつもこんな感じなのか?」


「そうよ。今日は森鹿だったから、加減したけどね。ロラン周辺だと、なかなか見つからないのよね」


「まぁ、この環境だと、ロランよりは多そうだよな。とはいえ、どっちかって言うと稀少な方だろうが。ハンターの獲物としても狙われやすいだろうしな」


「森鹿肉って、結構おいしいものね」


「そうだな、魔獣の中では比較的高値で取引されてる方だろうな。高く売れる状態で狩るのは、難しいだろうが」


「生息数だけの問題じゃなくて、逃げやすいから?」


「そうだな。動きも速い方だしな。何より頭が良い。今回ここで狙われたから、少なくとも一月以上はこの場所には来ないだろう」


「そうなの?」


「そうやって、敵から逃げては餌場や水場を変えまくるから、場合によっては、次の餌場が見つからずに群れが全滅する事もある」


「えー、何それ」


「とは言えそれは冬期の話で、この時期にはないし、ここみたいに餌が豊富なら、もしかしたら冬でも大丈夫かもしれない。

 動ける範囲も、餌場も水場も山ほどあるからな」


「アランが好きな薬草とかもいっぱい採れそうよね」


「ハハハ、俺たちは見てもサッパリだけどな」


「見たって、全部同じ草にしか見えないもの。においは覚えられたとしても、名前と効能が覚えられないからサッパリだわ」


「興味なけりゃ、そんなもんだ」


 ダニエルがうんうんと頷きながら言う。


「で、師匠から見て私の腕はどうなのよ?」


「だから昨日も言っただろ。『やっとまともに剣を振れるようになった駆けだし』だって。

 刃の使い方がわかってなくちゃ、まともに斬ることなんか出来やしないし、身体が出来てなけりゃ、まともに剣は振れない。

 狙った獲物が斬れないなら、それは振り方が悪いか、刃の使い方が悪いか、獲物または武器が悪いかだ」


「この前のゴブリンキングの時に、最初のナイトとの戦闘、ちっとも当てられなくて、避けられまくったのよね。別に相手が見えてないわけじゃないし、間合いが遠かったわけでもないのに。

 威力を犠牲にして速度上げて、狙いを変化させるようにしたら、当たるようにはなったけど」


「そりゃ、あれだろ。お前の剣筋が素直過ぎたり、単純過ぎるからだろう。ここを狙ってます、てのが丸わかりじゃ、避けて下さいっつってるようなもんだろうが。

 確かに全力で力一杯振るのは気持ち良いだろうが、素振りならともかく、ちょっとでも知能のある魔獣・魔物相手に、真正面からそれじゃ避けられても仕方ない。

 一撃必殺は決まるとすげぇ楽しいから、気持ちはわからなくはないけどな。

 敵に視認されない速度で振れないなら、直に急所狙うのはやめとけ。動き止めたり鈍らせたり、弱らせてからにしろ。

 敵に自分の思惑や意図を悟られないよう、目線や身体の動きでフェイク作って騙すのも良い。攻撃すると見せかけて、タイミングずらす、とかもな。

 もしかして、対人戦が足りないのか? もっと頭使って剣を振れ。じゃなきゃ相手に気取られないように、忍び寄って不意打ちで先制攻撃で一撃必殺または重傷負わせるしかねぇだろ?」


「……つまり、剣筋が読まれてたから、避けられたのね。速度では、絶対私の方が勝ってたはずなのに」


「悔しいか?」


 ダニエルが尋ねると、レオナールは頷いた。


「でも、次にゴブリンナイトと対峙した時は、あんな事にはならないわ。前回はルージュの支援・補助がなければ、無理だったけど、次こそは独力で倒してやるんだから」


「その気持ちがあって、原因がわかったんなら、次はどうすればわかるよな?」


「師匠、練習に付き合ってくれるわよね?」


「良いぞ。んじゃ、今日はあれか、斬り合いよりそっち重視か?」


「力じゃ負けるけど、剣速勝負もしたいわ。あと命中精度も」


「それもまだ無理だろ。《疾風迅雷》なんて呼ばれてて、お前みたいなガキに、剣速や動きの速度で負けてたまるかっつうの。

 でも俺が見えない速度で動いちゃ可哀想だから、適当に手を抜いてやるから、安心しろ。

 当たりそうで当たらない速度の方が、楽しいだろ?」


「その言い方、ムカつく。油断してるとこに当ててやる」


 ニヤニヤ笑って言うダニエルに、ムッとした顔のレオナールが呟いた。


「おう、当てられるもんならな!」


 楽しそうな笑顔でダニエルは言った。



   ◇◇◇◇◇



 昨夜は早めに就寝したので、アランは起きて身支度を調えると、早速報告書の作成、とりまとめに掛かった。

 まずまとめるのはコボルトの巣関連である。《黒》という暗殺者や、《混沌神の信奉者》の項目は別紙にまとめるつもりで、除外する。

 まとめている最中に、ふと、討伐したコボルトの数が多すぎるのではないかという事に気付いた。


(まぁ、巣の中に転移陣があって、その対になるものがあそこで見つからなかった、という事は、他から送られて来たって事になるわけだが)


 巣の外で倒したコボルトの数が合計28匹。巣の内で倒した数は、300匹前後。

 いくらフェルティリテ山とそのすそ野の山林に餌が多く実り豊かであっても、全てのコボルトが常時巣にいたとは思えない。

 ここ3ヶ月で、近隣の魔獣や魔物の生息数や生息域に、大きな変動がないとなれば、なおさらだ。


(なら、いったい、どこからそのコボルト達は送られて来たんだ? そして、どこに生息していた?)


 アランはゾワリ、と背筋に寒気が走るのを感じた。転移陣を早々に潰した事には、後悔はない。

 どう考えても、レオナールと二人きりでは、あれを潰さずに全てのコボルトおよび敵を倒せたとは思えない。

 仮に、転移陣の対になる場所の確認をしなかったのが、誤りだったとしても、自分たちにはそれを確認できるだけの戦力や余裕はなかった。ダニエルが同行していたなら、話は別ではあったが。


 あの魔術師風の男が現れたのは、転移陣を使用不可能にしたからだろう。あの男は転移陣の確認に来たのだ。男は徒歩だった。

 という事は、最初の転移陣を潰してから移動できるくらい近くにいた、あるいはそのくらい近くに別の転移陣があったのだろう。


(それはいったい何処だ?)


 男がラーヌから来たのであれば、然程問題ではない。門を通ってはいなかったとしても、手掛かりが皆無という事はないだろうし、掃討や探索にかかった時間を考えれば、魔術師にしては移動時間が短いが、不可能というレベルでもない。


(もしかしてマズったか?)


 いや、しかし、男はまだ生きているはずで、おそらくダニエル配下の者により尋問が行われているだろう。


(朝食時にでもおっさんに聞いてみるか)


 アランは頷き、報告書の続きに取り掛かった。

ちょっと短いです。すみません。次回報告その他。


以下修正。


×フル装備

○完全装備


×臭い

○におい

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