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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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17 帰り道および、宿屋にて

「まぁ、あれだ。こいつら色々面倒臭いとこもあるけど、ラーヌ滞在中は、よろしく頼む、ジャコブ」


 笑顔で右手を差し出しながら言うダニエルに、ジャコブが力強く頷き、その手を取って握手する。

 握力強めのダニエルが加減しつつも、若干強すぎる力で握ったので、ジャコブの笑顔が一瞬引きつったが、ダニエルは全く気付かない。

 すぐ離されたが、握手した右手の指が若干白くなっている。アランが気の毒げにジャコブを見て、瞑目した。

 レオナールは、ミスリル合金の欠片を入れた革袋を胸元から取り出し、袋の口に付いている革紐を、右人差し指と中指に絡ませると、クルクル回しては止め、回しては止めを繰り返し、紐を巻き直して長さを変えたりして、何かを確認しているようだ。


「こちらこそ。今回、彼らに会えた事は、オレとしては幸運だと思っています。

 本来なら、コボルト討伐なんて、ラーヌ支部で解決すべき事だと思うのですが、恥を忍んでロランに応援を依頼して良かったです。彼らは稀少な存在だと思いますから」


「そうか。そんなに評価してくれてんのか。おい、お前ら、期待裏切るような真似すんなよ? そこまでバカじゃねぇのは知ってるつもりだが、お前ら二人とも、時折とんでもない無茶するからな」


 ダニエルが笑顔で言うと、レオナールとアランが仏頂面になる。


「師匠に言われたくないわよ」


「全くだ。おっさんこそ無理・無茶・無謀の体現者じゃないか。まぁ、常人にとっての基準で、おっさんにとってはまた別なんだろうが、普通の人間なら死んでるような真似ばっかしてんのは、おっさんの方だろ」


「え~? お前らの俺の評価ってそんななのかよ? 仕方ねぇだろ、俺が常人には理解できないレベルの天才で完璧なのは!」


「まぁ、それはともかく、おっさんはいつまでラーヌに滞在するつもりなんだ?」


「何事もなければ、もう2、3日ってとこだな。たぶん何もねぇと思うが、念のためな」


 ダニエルのその言葉にアランが真顔になる。


「おい、おっさん。まさか、」


「あー、アラン。言いたい事は何となくわかるがな、それは黙っとけ。俺が言いたいこと、わかるよな?」


 ダニエルがニヤリと笑う。アランが眉間に皺を寄せた。


「だいたい、なんで本人には……」


「あー、だから黙っとけっての。地獄耳に聞こえちまうだろ?」


「え? 何よそれ、私のこと?」


 レオナールがキョトンとした。アランが慌てて口を閉じる。ダニエルは笑って、レオナールの頭をグリグリ、グシャグシャと強めに撫で回した。


「ちょ、何よっ!」


「まぁ、ここにいる間は、特に俺宛ての仕事が入らない限り、お前らに付き合ってやるから、感謝しろ! 特にレオはたっぷり可愛がってやるからな! ハハハッ」


「うぅ、髪がぐしゃぐしゃ……」


 何とかダニエルの腕から逃れたレオナールだが、乱れた前髪を手ぐしで直しつつ、恨めしそうにダニエルを睨む。

 ニヤリと笑ったダニエルが、アランの頭も撫でようとするのを、察知したアランがジャコブの裏に隠れた。


「えー、何だよ、それ。逃げなくても良いだろう?」


「おっさんのバカ力で撫で回されたら、俺の首が折れる。または髪が抜けたりちぎれるだろう」


「は? いやいや、それはちょっと大袈裟だろう、アラン」


「俺はうっかりで死にたくない。頼むからそれ以上近寄らないでくれ」


「ええっ!? そりゃいくらなんでもひどくねぇ?」


「アルコール入ってる時のおっさんは信用できない」


 キッパリと言うアランに、ダニエルは肩をすくめた。



   ◇◇◇◇◇



 店から少し歩いたところで、ジャコブと別れ、一行は宿へと向かう。レオナールは指に絡めた革袋を高く投げ上げては受け止める、を繰り返している。


「なぁ、レオ。お前、何やってるんだ?」


「う~ん? ちょっとね、確認? ねぇ、師匠、ちょっと試してみても良いかしら?」


「うん? 何をだ?」


 怪訝そうに首を傾げるダニエルに、ニンマリ笑ったレオナールが、


「避けないでね」


 と言って、手の中の革袋を投げ上げたかと思うと、指に絡めた紐でグルグルと縦回転させ、それをダニエル肩先目掛けて投げつけた。

「おっ、ちょっ、痛っ! それ確かちょっと尖ってる箇所あったよな? 我慢できないほど痛くはないが、なんか地味に痛いんだが、おい。

 何だよ、レオ。俺、お前に何かしたか?」


「師匠は頑丈だから、利き腕に当てても大丈夫だと思って。飛び道具ないとちょっと面倒だなって思ったから、ずっと考えてたのよね。

 普通ならスリングとか使うんでしょうけど、わざわざ用意するのもアレだし、ナイフやダガー投げると、破損とか考えると、手近にあるもの使うのが良いんじゃないかと思って。

 本当は、硬貨をいっぱい詰めた袋とか使った方が効果ありそうだけど、中身ばらまいたら面倒でしょ?」


「……あー、あれか。魔術師対策とかか」


「そうね。遠距離攻撃してくるやつ相手にした時、距離を詰めるまでの間に攻撃したり、気を逸らしたり、集中力切らしたりできたら良いなって思って」


「鎧着てるやつには、効果薄そうだが、軽装の魔術師相手なら、良いんじゃないか? 最終的には近付いて斬るつもりなら、当たらなくても牽制になりそうだし。

 でもミスリル合金使う必要ねぇだろ。石とか砂で十分だろう」


「古釘とか鉄くずでも良さそうよね」


「釘はやめろよ、釘は。危ないだろ」


 ゾワッとした顔で言うアランに、レオナールが首を傾げる。


「え? 何でよ? 敵に使うんだから、何でも良いでしょ?」


「お前のその発想が恐いよ! なんか古釘とか、うっかり刺さったら、後が酷いことになりそうじゃないか!!」


「だから良いんでしょ? 何を言ってるのよ」


 キョトンとするレオナールに、アランがうわぁという顔になる。


「アランは妙なところで感受性豊かというか、想像力豊かだな。敵の心配までするとか、その内頭が禿げるぞ?」


 ダニエルが不思議そうに言う。


「……昔、親父に、遠い親戚のおじさんが古釘を踏んで、その後、足が腐り落ちて死んだという話を聞いた事があってな」


 アランが眉間に縦皺を寄せ、蒼い顔でボソリと言う。


「あのクソ親父、その経過をやけに細かく、聞いただけでその情景が目に浮かびそうなくらいに、説明しやがって……!」


「ああ、なるほど」


 ダニエルがポンと右手を左手で打った。


「そういう逸話なら、俺も昔、駆けだしの頃に、先輩冒険者とやらから聞かされたぞ。一応実話を元にした話らしいけどな。

 要するに傷口から毒素が入ったりして、身体の一部が壊死するってやつだよな。あれ、実は早めに回復魔法かけたりすれば、防げるんだぞ?」


「え? そうなのか?」


 アランが驚き、安堵した顔になった。


「ああ。ただ、治癒師や薬師がいない田舎や、たいした事がないと思ってまともな治療も薬も使わず放置したり、不衛生だったり、傷が膿んでも放置したりすると、ヤバイけどな」


「……ああ、そういう事か」


「俺の聞いた話の場合は、『だからどれだけ腕に自信があっても、最低限、傷薬や、傷口を洗い流すための水やアルコールは携帯しとけ』ってオチだったぞ。

 お前の親父さんの話には、そういうオチはなかったのか?」


「うちの親父が、そういう事に気が回るわけないだろ。あえて言うなら『危険だから、大工や家具屋が作業している現場には近付くな』だったかもな」


「それはそれで、一応正しい教訓になってるから問題ねぇだろ? だいたい、興味本位で子供に手元覗かれたら、困るだろうし」


「そりゃそうだが。俺、だから恐くて、釘はこれまで触れなかったんだが」


「ぶはっ、釘を触ったくらいで、そんな事になるかよ、ブフッ」


 ダニエルがブフブフ笑うのを横目に見て、アランはしかめ面になった。


「変な笑い方すんなよ。笑いたければ、大声で笑えば良いだろ、おっさん」


 アランが言うと、ダニエルは途端に吹き出し、腹を抱えて笑い転げた。アランはそれを見て不機嫌そうに黙り込む。


「アランは本当、時折妙な事言い出すわよねぇ?」


 レオナールの言葉に、アランが心外だ、という顔になった。


「え、おい、いくらなんでもお前にだけは言われたくないぞ、レオ」


「え? その言い方ひどくない? アラン」


「全然ひどくないぞ。これだけは自信持って断言できる」


「ええーっ? ちょっと、師匠、笑ってないで、何か言いなさいよ!」


「あ~? いや、お前らの会話、はたから聞いてる分には、十分面白いけどな」


「何それ、どういう意味よ?」


「いや、若いって良いよな! 俺もトシ食ったわぁ、マジで。うんうん」


 笑いながら頷くダニエルに、レオナールがムッとした顔になった。


「なんかその笑顔、胡散臭くてムカつくわ」


「どうせ俺は胡散臭いおっさんですよっと。まぁ、あれだ。お前らは、今の内に色々楽しんでおけ! 今の楽しみや喜びは、今の内しか味わえない物が多いからな!

 おっさんになると、感動する事も少なくなるし、そういう感情とか情動自体薄くなっちまうから、つまんねーのよ。

 確認するまでもなく、なんとなくわかっちまうとか、すげークソつまんねぇんだよな。

 でもさ、念のため、違うかもしれないと思って調べてみたりすると、本当、最初の予想通りだったりすると、微妙な気分になるんだよ。

 冒険したくても、冒険する事や機会が少なくなるっつうか、冒険じゃなくただの作業になったりとかな。

 本当はもっと冒険したいし、知らない魔獣や魔物斬りまくりたいのに! 面倒臭い事ばっかりで、本当腹立つっての。

 たまに、全部ぶっ潰して破壊しまくった方が楽じゃねぇかと思うけど、それやったらどうなるかもわかっちゃってるから、すげーつまんねぇの。

 俺、別に暴君や荒くれ者や犯罪者になりたいわけじゃねぇしな」


「おっさんが暴走とか、冗談でもやめてくれ。冗談じゃない」


 アランがゲッソリした顔で言った。


「やらないぞ? でも、嫌いなやつ、ムカつくやつ、全部まとめてぶっ殺したら気持ち良さそうだな、とは考えるな。実際やったら、後始末面倒だから、やらないけど。

 俺が嫌いだっつっても、別のところでは、それなりに役に立つ事もやってるらしいから、気に入らないからって排除すると、あちこち不自由出るしな。

 でもたまに出奔したり、放浪したくなるのは仕方ねぇよな」


「師匠も魔獣狩りする? ルージュ、結構量食べるから、ガンガン狩っても大丈夫よ?」


「ん~、気が向いたらな。どうせこの辺じゃ思い切り剣振れるような獲物、いねぇだろうしな。

 お前が捕まえなかったら、万全の体調・体勢で《黒》と斬り合えたかもしれなかったんだが」


「え、私のせいなの?」


「そうは言わねぇけどな。まぁ、斬り合いしたいなら、王都でなんか適当に探して見繕うから、心配すんな!

 いざとなったらギルドで公募すんのもアリだろうしな!」


「それ、ろくでもない事にしかならない気がするんだが」


「大丈夫! 剣をまともに持てないやつ相手に、本気にならねぇから」


「……ねぇ、師匠。師匠の基準だと、私はどのくらいなわけ?」


「んー、やっとまともに剣を振れるようになった駆けだしってとこかねぇ?

 あ、一応言うが、ある程度筋肉ついて身体が出来てこねぇと、振るのもキビシイからな。しばらくはもっと振って、剣とか、刃の使い方に慣れる事だな。

 基本は一通り教えたはずだし、応用なんかはもう、これだって教えるより、実践で考えて身につけた方が良いだろうしな。

 つうか、ほら、俺とお前じゃ体格とか身体のつくりとか、全然違うだろ?

 俺のやり方教えたって、お前に再現できるはずねぇんだから、その辺は身体で覚えて、自分で考えろとしか言えねぇよ。

 だから、聞きたい事あったら質問しても良いけど、お前にとっての最善を教えてやれるとは限らないぞ。

 俺だったらこうする、でもお前がやるならどうするか考えろ、って答えになるだろう」


「…………」


 無言でレオナールが考え込んだ。


「お前にとっての最善は、お前にしかわからない。俺が考えたとしても、それがお前の最善になるなんて断言できないからな。

 でも、俺にはお前より、三十年近い経験がある。だから、困った時や迷った時は、俺に頼れ。

 全てキレイに解決してやるとは言わないが、俺で出来そうな事は協力してやる。阿呆な事言われたら、どつくけどな」


 ダニエルはそう言って、レオナールの頭をポンと叩いた。


「……ちょっと、痛いんだけど。もしかして酔っ払ってる?」


「ハハハ、俺があの量のワイン飲んだくらいで酔ってるとでも? 冗談キツいぞ、レオ。お前ら宿へ送ったら、ちょっと追加で飲みに行こうかね」


 笑いながら言うダニエルに、アランが慌て、レオナールが肩をすくめた。


「それはやめてくれ、おっさん。それは絶対トラブルの元だ」


「そうね、酔った師匠は、明らかに詐欺な戯言にも、軽く騙されそうだものね」


 やけに真剣な目つきの二人に言われて、ダニエルは面倒臭げな顔になったが、


「んー、まぁ、今日はやめとくか。明日は早起きしないと、いけないしな」


 と頷いた。


「そうしてくれ」

「それが良いわよ、師匠」


 ハモる二人の声に、ダニエルは溜息をついた。



   ◇◇◇◇◇



 ダニエルは、レオナールとアランが部屋に入るのを確認してから、最上階に取った自分の部屋に向かった。


「え? 殺した?」


 《黒》こと本名フェリクスの報告を聞いて、軽く目を見開いた。


「おい、いったいどうしてそうなった?」


 怪訝そうに尋ねるダニエルに、フェリクスが渋面で、抑揚を押さえた低く平坦な声で報告する。


「すまない。殺すのは得意なんだが、手加減はした事なくて。もちろん、殺さず捕まえるべきだというのはわかってたんだが、うっかり急所に飛礫を投げて即死させてしまった。

 俺の時は、武器解除するのに服まで剥いだのに、まさかあの男には身体検査してないとは思わなくて油断していた。本当に申し訳ない」


「あー、あいつら素人だし、あれでFランクの駆けだしだからなぁ。うっかり忘れたんだろう。魔術師捕まえるのは、結構大変だしな」


「一応、装備と服は剥いで、そこの袋に入れて保管してある。死体は首だけ残して、あとは処分しておいた。これが、その首だ」


「まぁ、胴体は残しておいても、重い上に腐るだけだからな。わかった。慣れない事させてすまなかった。俺も配慮が足りなかったかもな。

 で、何か聞き出せたか?」


「ああ、たぶん全部は聞き出せなかったし、裏は取れていないが、多少は引き出せたと思う。拷問はあまり経験はないが、一応薬も使った。

 あいつ、魔術具の発動体を持っていた。それはなくすといけないから、こっちで持ってる。これだ」


 黒い魔石のはまった指輪を差し出した。


「俺は専門家じゃないから、どういった効果のものかわからないが、あんたに渡せば問題ないだろう?」


「ああ、王都にいるやつに調べさせる。先に魔術具で連絡しておくから、お前はこれらを持って、王都へ向かえ。

 あ、これ、連絡用の魔術具な。じゃ、尋問内容とか、そっちの報告を聞こうか」


 ダニエルの言葉に、フェリクスは頷き、次の報告を開始した。

サブタイトル、これで良いのか悩みつつ。

《黒》の名前がようやく出せました。ルヴィリア(妹)と名前のバランス取れてないですが。

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