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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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15 剣士と魔術師は身支度する

 ジャコブは件の魔術師を確認すると、レオナールやアランたちと共に宿へ向かう事にした。


「どうせ暇だし、二人だと見張りとか大変だろ?」


「そうだな、レオ一人にしても問題なければ、それほど大変ではないはずなんだが」


「え~? 私のせい?」


「学習能力ないのが一番問題なんだが、いくら言ってもどうせ忘れるだけだからな」


 アランが何か諦めたような口調で言った。


「心当たりが全くないんだけど」


 レオナールが言うと、やれやれとばかりにアランは首を左右に振った。


「ああ、そうだろうとも。わかってるから、それはもういい。俺がわかっていれば済むだけの話だ」


「なぁ、アラン。お前、それで良いのか?」


 心底不思議そうにジャコブが尋ねる。アランは眉間に縦皺を寄せながら答える。


「良くはないが、いくら言ってもどうせ数秒後にはなかった事になるんだから、仕方ない」


 その答えを聞いて、ジャコブの視線が生温いものになった。


「そうか、頑張れ」


 形ばかりで、誠意も心もあまり篭もってない言葉だったが、アランは頷いた。時折油断して後悔する羽目にはなるが、アランにとっては今更の話である。


「《蛇蠍の牙》の連中が帰って来たという事は、他の連中、あいつらの同期の《一迅の緑風》やBランクの《疾風の白刃》も同じくらいか、今日明日くらいには戻って来るって事だろう。《一迅の緑風》はたぶん大丈夫だが、《疾風の白刃》の連中には気を付けろ。

 あいつら、素行の悪さは《蛇蠍の牙》と似たり寄ったりだが、悪知恵が働く上に立ち回りが上手い。ギルド上層部とも癒着している。

 リーダーのベネディクトが男爵家の庶子で、母方がラーヌの老舗商家のボナール商会と来てる。ちょっと面倒臭いやつだから、なるべく近寄らない方が良い」


「……可能なら、近寄りたくはないが、そいつの特徴って何かあるか?」


「金髪に緑の瞳で、ちょっとキレイな顔してる優男だな。とは言え、お前の相方ほどじゃないが。

 ただまぁ、良く見ると目つきがちょっとアレっつうか、下種くて抜け目なさそうって印象か。身長はお前よりちょっと高いくらいだな。

 あと一応剣士なんだが、ひょろく見えるかもな。剣の腕はそこそこだが、身体強化系の魔法が使えるから、それが強味だ。

 パーティーメンバーは優秀で、内訳は戦士が1人、魔術師2人、盾職1人に、神官1人だ」


「理想的な構成だな」


「元は、やつの教師として雇われた連中らしい。戦士は剣も槍も斧も槍斧も使えるオールマイティだ」


「金とコネがあるって羨ましいな」


「おい、アラン! お前、金はともかくコネはあるだろう、コネは!」


 ジャコブがジロリとアランを睨む。


「だっておっさんは、頭の中身はレオとたいして違わないんだぞ。いや、さすがにレオよりはマシだろうし、国王や王族、領主様含む様々な貴族と面識もコネもあるんだろうが、それを上手く利用して上手く立ち回ろうとか、それを俺達のために使おうって気がないんだから、意味ないだろ?

 もっと要領良かったり、気の回る人だったり、俺達を甘やかそうって気が少しでもある人なら、また違うんだけど、あのおっさん、結構スパルタなんだぞ。しかも、本人その自覚がなさそうだし。

 あとおっさんが必要だと思う事以外は教えないってとこがあるから、別のやり方すればもっと簡単なのに、ものすごい遠回りさせられたりするんだ。

 コボルトの巣でも、わざわざ罠を発動させて、解説したりな。……おかげで後頭部に瘤が出来た」


「コボルトの巣の罠って、どうせ落とし穴とかだろう?」


「巣の入口すぐで、俺の頭を粉砕しそうな鉈が、天井から降って来たぞ。あれ、知らずに迂闊に巣に入ったら、結構ヤバイと思う。

 俺達以外入ってないんだよな?」


「入口で即死罠とか、古代の魔術師とかが悪ふざけで作ったとかいった悪質なBランクダンジョン並みだな。

 報告は全く入ってないし、ラーヌでわざわざ依頼も受けずに、コボルトの巣に足を踏み入れるようなやつはいないと思う。

 他にもっと、楽でおいしい仕事はあるしな」


「問題がないなら、それで良い。巣の中にいるやつは全部討伐して、巣の入口は、天井崩して塞いで来たから、別の魔獣・魔物や盗賊なんかの住処になる事はないだろう。中にあった転移陣も全て破壊した」


「転移陣? コボルトの巣にか?」


「それがたぶん《混沌神の信奉者》の痕跡だ。中央のシンボルが混沌神で、魔法陣の古代魔法語の構成や識別名の付け方が、これまで見てきたやつと似てたからな。

 おそらく、今回捕まえたやつじゃなく、別のやつが描いたんだと思うが、その辺はさすがに口を割らなかったからな。

 野営する気はないし、一応抵抗はしなくなったから、早々にラーヌへ戻る事にした」


「……お前ら、Fランクのくせに尋問とかもするのかよ。末恐ろしいな」


「あー、その辺は、まぁ、おっさんの教育の賜物だな。一応野営もできない事はないし、今の季節なら食料が全くない状態でも、数ヶ月以上野外生活できなくもないが、すぐ近くに町があるのに、わざわざ外で寝たくはないからな」


「なぁ、アラン。俺の常識だと、下手するとBランクパーティーでも、野営はともかく野外生活とかはきびしいと思うぞ?」


「金に余裕がなかったり、逃げたくても逃げられなかったり、必要に迫られれば、最低限の知識と経験は必要だろうが、きっと誰でも出来るようになると思うぞ。最後は覚悟の問題だ」


「……そんな覚悟したくねぇな」


 ジャコブがブルリと震える真似をして見せた。それを見たアランは肩をすくめる。


「ああ、しないで済むなら、その方が良いだろう。これもいつか、糧になると思いたいんだが、必要なければ、その方が有り難い」


 宿屋に行くまでの道中、問題が生じる事もなく移動する事ができた。


「じゃあ、俺がダニエルさんを呼んで来る」


 ジャコブの言葉に、アランが頷く。


「ああ、頼んだ。俺達はここで待ってる。おっさんにこいつを託してから、厩舎へ行く方が良いだろうしな」


「こいつを担げって言うなら、私が担いで運んでも構わないけど?」


 レオナールの言葉に、アランが渋面になる。


「だって、この幼竜、お前の言う事しか聞かないだろう。俺とジャコブじゃ、一人で運ぶのはきついからな。お前一人残して、さっきの二の舞になるのは御免だし」


「え~? もしかして、私、見張りが必要だと思われてるの?」


「さっき大丈夫かと思って一人にしたら、早速揉め事起こしただろうが! ここのギルドには正直顔が利くとは言い難いし、ダニエルのおっさんは今だけで、いついなくなるかわからないんだから、余計な揉め事とかはない方が良いし、可能性はできるだけ低くするべきだ」


「アランがいても、問題が起こる時は起こるわよ?」


「不吉な事を言うな! お前が言うと、現実になりそうだから、勘弁してくれ!!」


「え~? それはさすがに被害妄想ってやつじゃない?」


「いや、これまでの経験上言っている。お前が不吉な予言すると、何故かそれが起こる事が多いんだ」


「でも、必ずってわけじゃないでしょう? それに、絶対、アランの『嫌な予感』の当たる率の方が高いじゃない。

 っていうか、今のところ拍子抜けする事はあっても、何もなかった事は一度もないわよね?」


 レオナールの言葉に、アランは沈黙した。中空をぼんやり見つめるような様子から、何か思い出しているようだ。

 その顔がどんどん虚ろになって行くのを見ながら、レオナールは肩をすくめた。

 それから、ガイアリザードの背に載せたままの男の様子を確認する。アランの飲ませた睡眠薬が良く効いているようである。


(そういえば、魔術師だから拘束を優先して、ちゃんと武装解除してなかった気がするわね。後でしっかり没収しとかないと)


 そこへジャコブが、ダニエルと共に戻って来た。


「おう、お疲れ。妙なの拾って来たんだってな? お前ら、本当、変なのに当たったり、拾って来る事多いよな」


「師匠に言われたくないわよ。それで、こいつなんだけど、どうする?」


「俺もこの宿に部屋を取ったから、そっちに運ぶ」


「良いの?」


「ああ、どうせ下っ端がそいつの面倒見るから問題ない。そいつを運んで身支度整えたら、メシを食いに行こう。ジャコブも一緒だ」


「え? そうなの?」


 レオナールは目をパチクリさせる。


「お前ら暫くラーヌに滞在するつもりなんだろ? 今日は慰労を兼ねて親睦会として、明日にでもギルド幹部に挨拶しに行く。

 俺もいい加減、王都戻った方が良いのかもしれないが、まだ助けてくれとか戻って来いとか催促されてないからな」


「催促されなきゃ戻らないつもりなの?」


 首を傾げるレオナールに、


「催促されても、暫くは余裕あるだろうから問題ないだろ。連絡は魔術具でやってるから、即連絡つくし、大丈夫だ。

 俺じゃなきゃ対処できない問題なんて、強力な魔獣・魔物が出た時くらいだろうからな。

 それ以外の用件なら、幻術使えるやつが、適当な形代に俺の幻影映して座らせておけば問題ない。

 どうせ貴族や商人が俺と面識持ちたいとか、どうでも良い内容だし。代理人には、そういうのは話半分に聞いて、貰えるもんを貰ったら、後は適当に慇懃無礼に無視っとけって言ってあるからな!」


「えー、そんなのが常態なの?」


「おう。これまで、それで問題起きたことは今のところ、一度もないぞ」


 レオナールとダニエルの会話に、ジャコブが苦笑を浮かべる。アランはまだ思考に没頭中である。


「おい、アラン」


 ダニエルがポン、とアランの肩を叩くとハッと我に返る。


「おっさん! いつの間に!!」


「いや、さっきからいるからな? その捕まえた男は俺が、より正確には俺の部下っぽいやつが面倒見るから、荷物片付けたり、汗を流したり着替えたりして、メシ食いに行く支度して来い。ええと、店の名前は何だっけ?」


「《豊穣なる麦と葡萄と天の恵み亭》です」


「ああ、それ。そこ行くから。服装は適当で良いよな?」


 ダニエルの言葉に、ジャコブが一瞬硬直したが、頷いた。


「身綺麗なものであれば、問題ないかと。店の方には通達済みですから」


 その様子を見て、本当はダメなんだろうな、とアランは思ったが、口にはしなかった。だいたい王都から十日もほぼ徹夜で休憩なしで移動してくるような男が、高級レストランに行けるような服を持参で来るはずがない。

 金はさすがに持ってるだろうとは思うが、ダニエルは食事するために服を買うという発想はない男である。必要に応じて、気を利かせた周囲が用意する事はあるが。


「悪いな、ジャコブ。この人、こういう人なんだ」


「いや、店にはSランク冒険者のダニエルさんが行くから、問題ないように扱ってくれと頼んである。

 一度も会った事のない連中でも、絵姿とかで知ってたりして、有名だからな。俺でさえ知ってたくらいだ」


「そんなに似てる絵なのか?」


「ああ、本物そっくりだ。それに吟遊詩人が良く謳う歌の生きている伝説だからな」


「……生きている伝説」


 アランが頭痛をこらえるような表情になった。


「お前達にとっては身近な人なんだろうが、あまり人前でタメ口利かない方が良いと思うぞ? 目を付けられる元になりそうだからな」


「そうだぞ? 崇めろとまでは言わねぇが、お前らちょっと敬意と愛が足りねぇぞ? おら、超絶強くてカッコイイ俺を、称えて褒めろ!」


 ダニエルがニッコリ笑って言う。レオナールとアランは聞こえなかった振りをし、ジャコブが作り笑いになった。


「じゃ、おっさん、頼む! 俺達荷物下ろしたり、準備したりするから」


 そう言ってアランがガイアリザードから荷物を下ろして、宿の中に入る。


「じゃ、私もルージュたちを厩舎に連れて行って休ませてあげるから、また後で」


 レオナールはヒラヒラと右手を振りながら、ルージュとガイアリザードを連れて、厩舎へ向かう。ダニエルがその背を見送り、ジャコブに目を向けた。


「すみません。オレも色々準備があるので、失礼します。では、後ほど」


 ジャコブは頭を下げて、ギルドのある方角へと戻って行った。ダニエルは肩をすくめ、眠っている男を肩に担いで、自分が取った部屋へと向かった。



   ◇◇◇◇◇



 アランとレオナールは荷物を部屋に置き、アランが頼んで運ばせたタライの水で、手早く汗を拭うと、比較的小綺麗な服に着替えた。さすがにアランはいつものローブを着るのはやめたらしい。


「あら、着ないの?」


 と首を傾げるレオナールに、


「さすがに高級料理店に、着て行くはずがないだろう。お前も、鎧や剣は絶対置いて行けよ。わかってるだろうが」


「ダガーを見えないところにつるすのは良いわよね?」


「ダガーも置いて行けよ」


「え~?」


「え~、じゃない。メシ食うのに要らないだろ?」


「万が一、襲われたらどうするのよ?」


「ダニエルのおっさんが同行するのにか? あれ以上の護衛なんかいるはずないだろう。

 それに最悪、《眠りの霧》を使う。杖がないと発動にちょっと時間がかかるが、一応無手でも使えるしな」


「……なんかずるいわ」


「ずるくない。ほら、お前も早く着替えろよ」


「私は髪が長いし、鎧を外したりするから、アランより身支度に時間がかかるのよ。わかってるくせに、急かさないでよ」


 ムッとして返すレオナールに、アランは仕方ないかと頷いた。


「悪かった。俺のが準備早くなるのは、当然だよな。でも、日が暮れる前に頼む」


「女の子じゃないから、そこまで時間掛からないんだけど」


 不機嫌そうなレオナールに、アランは肩をすくめた。


「いや、別に皮肉や揶揄のつもりはなかったんだが。気分を害したなら、すまなかった」


「まぁ、良いわ。ちょっと待ってて。髪を洗う時間はあるかしら?」


「……うーん、予約の時間聞いておけば良かったな。でも、髪を洗うのは、別に夕食後でも良いんじゃないか?」


「頭皮の汗とかも気になるのよね。ほら、どうしても全身汗をかくから。髪ってなんだか、臭いがつきやすい気がするのよねぇ」


「そんなに気になるなら、切ったらどうだ?」


 アランが言うと、レオナールは溜息をついた。


「髪を短くしたら、耳が見えるでしょ? 面倒臭いじゃない」


「すまん、気が回らなくて悪かった」


 アランは即座に謝った。


「まぁ、それがなければ、別に短くても問題ないんだけど。皆が見ても見なかった振りしてくれるなら、楽なんだけどね。見えなければ、人間扱いで済むってのも不思議なんだけど」


「ちょっとキレイな外見の人間って範疇で済むのは、確かだな。シーラさんレベルになったら、耳を隠したくらいじゃすぐバレるけど」


「そうね。そこら辺は良かったかもね。どうせ外見なんて皮一枚のことで、ちょっと傷が付いたり、皺が増えたり、骨がゆがめば、評価なんて簡単に覆るものだと思うけど」


「俺は、別に気にしないけどな。お前がどんな見てくれだろうが、中身は変わらないだろうし。見るからに痛々しいのは、見ててゾワッとするから勘弁して欲しいが。

 男の傷は、歴戦の勇者の証って、単に治療が上手く行かないくらいの重傷負ったか、金かけたくなくて、ケチったとしか思えないしな」


 アランは肩をすくめた。即死せずに済むレベルの怪我なら、どんな傷でも金と時間さえ掛ければ、回復魔法で跡形もなくきれいに回復出来るのである。

 自分の身を守る事のできない一般人ならともかく、自分の身を守る術を持ち、稼ぐ手段もある冒険者としては、むしろ恥だとアランは考えている。おおっぴらに言うとひんしゅくを買うから、公然とは言わないが。

 二人が身支度を終え、階下に降りると、ダニエルとジャコブが待っていた。

 ダニエルの服装は替わっていなかったが。一行は《豊穣なる麦と葡萄と天の恵み亭》へと向かった。

以下を修正。

×一番問題ないんだが

○一番問題なんだが


×蛇蝎

○蛇蠍

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