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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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11 コボルトの巣の攻略4

戦闘および残酷な描写・表現があります。

「さて、と」


 ダニエルは、コボルトの巣からしばらく歩いた辺りで、担いでいた男を地面に下ろした。


「その銀髪紫眼、もしかして占術師の小娘の血縁か?」


「っ!?」


 男が驚き、無言でダニエルを睨み付けた。


「少し調べたんだが、お前、あの小娘のいた孤児院を壊滅させているよな? それが原因で、最初の報奨金が掛けられた」


「…………」


「おい、死にたいなら無言を貫いても良いが、条件次第じゃ、お前にかかってる全ての賞金を撤回した上で、安全な隠れ家と、表を大手振って歩ける身分保障を付けてやれるんだが」


「……何の冗談だ?」


 男が鋭く硬い口調で尋ねる。容姿に比べると、やけに低い声音である。ダニエルは苦笑した。


「お前がどこまで知っていて、あの孤児院を襲撃したかによるな。正直、頭の軽い殺戮・破壊好きの、ただの犯罪者を拾い上げてやる酔狂は持ち合わせてない」


 しばらく男はダニエルを見つめ、その瞳が揺るがないのを確認して、ようやく答えた。


「あの孤児院が、人身売買組織と繋がっていたからだ。養っている子供達の中で、要望に見合う子供を引き渡したり、それに見合う教育を施す役割を担っていた。

 俺も売られた一人だが、あいつらルヴィリアまで──俺の妹まで売ろうとしやがった」


 それを聞いて、ダニエルは肩をすくめた。


「どうせそんな事だろうとは思ったが。その人身売買組織だが、三年前に活動が確認された《混沌神の信奉者》と繋がっている事が判明している。

 それをきっかけに、密かにシュレディール王国の王宮内に、その調査と対策のための組織が結成された。

 お前にその気があるなら、その組織に所属する密偵として勧誘したい」


「何!?」


「もちろん断るなら、ここで死んでもらう。だが、王国と国王陛下に忠誠を捧げ、王国のために身骨を砕いて、その身を捧げる覚悟があるなら、拾って面倒を見てやろう。

 働きに見合う報酬も国庫から出る」


「……俺にかけられた賞金や報奨金は、あの金髪の剣士に全部やるとか言ってなかったか?」


「俺のポケットマネーで十分払える金額だからな」


「……金持ちが」


 男が吐き捨てるように言う。ダニエルは肩をすくめた。


「金なんかめったに使わねぇのに、いくらでも入って来るからな。貯金ばかりたまって使う暇がない。いい加減働き過ぎだと思うんだよな、俺」


「金に困ってるやつが聞いたら、くびり殺したくような台詞だな」


「お前も人のこと言えないだろう。で、どうする? 俺としては、どちらでも良いんだ。

 使える駒はいくらでも欲しいが、使えないならゴミだ。ゴミは速やかに処理しないとな。じゃないと、他のものまで腐っちまう」


 ニッコリ笑うダニエルを、男が冷たい目で睨んだ。


「そんな事で良いのか? 《疾風迅雷》。あんた、国の英雄なんだろ?」


「好きなことやってたら、いつの間にかそうなってただけだからな。別になりたくて、なったわけじゃない。

 今やってる事だって、俺がやりたいから、やってるだけだ。別に正義のためでも、王国のためでもない。

 まぁ、今の国王陛下と王妹殿下には義理と恩があるから、それなりのものは返したいとは思っているが、居心地が悪くなったり面倒になったら、国を出てもかまわないとは思ってるな」


「それでいて、俺には王国に忠誠を誓い、身を捧げろと?」


「当たり前だろ、賞金首。お前には実績と信頼がない。《黒》という犯罪者のそれでは、意味がない」


 真顔で告げられ、男は冷たいものを飲み込むような表情になった。


「で、否と言えば、この場で殺す、か。それって、ほぼ一択じゃないか?」


「一応、殺す前に希望を聞いてやってるだろう?」


 ダニエルは穏やかに微笑んだ。


「俺って本当、親切だよな!」


 その言葉に、男は渋面になった。


「……あんた、いい性格してるな」


「おう、なんか良く言われる。で、どうする? 好きな方を選べ」


「返答する前に、一つだけ聞きたい。俺が、お前や王国に従い恭順した場合、妹の身分保障、あるいは保護は頼めるか?」


「小娘本人が望めば、出来なくはないと思うが、拒否されれば、難しいぞ?」


「自由民は、王国も含め、誰にも税を払う必要もないし、恩も義理もないが、保護も身分保障もない。

 あいつはその気になれば、自力で稼ぐ事も出来るし、今は俺からかすめた金もある。平民としての人頭税は十分支払えるはずだ」


「お前がレオを襲ったのは、あいつのやった事を誤魔化すためか?」


「……そうだ。あいつは裏社会を舐めている。裏社会にも、それなりの仁義がある。

 何の後ろ盾も、義理も通さず、あんな真似をすれば、俺が放置しても、他のやつがあいつの命を狙う。

 連中は、面子を大事にするからな。素人に面子を潰されて利用されたとなったら、必ず報復する。

 俺が一人で仕事しているなら、その辺はどうにかなったんだがな」


「ご愁傷様ってとこか。で、足抜けするには、どういった条件がある? もしくは、どこのどういう組織と敵対する必要があるんだ?

 一応聞いておかないと、後処理が面倒だからな」


「俺が所属する組織は《闇の咆吼》。足抜けする方法は、死のみだ。直接の上司は誰になる?」


「一応今のところは俺かな。でなかったら、王妹殿下、アンジェリーヌ様だ」


「何?」


 男は、おかしな事を聞いた、という顔になった。


「だからお前の上司は俺。俺が不在の時は、アンジェリーヌ殿下だ」


「……そんな組織に、俺を勧誘すると?」


「心配すんな。お前以外に過半数は平民に自由民、多種族だ。貴族や王族に対する礼儀作法とかは、特に要求されないから、安心しろ。で、どうする?」


「妹の保護を頼めるなら、お前に全面的に従う。他の条件は特にない」


「了解。人手が足りなくて困ってたんだよ。有能そうなやつが入ってくれるのは、有り難い。その分、俺が楽できるからな!」


 嬉しそうに笑うダニエルに、男が渋面になる。


「おい?」


「いやぁ、予定とはだいぶ違うが、ラッキーラッキー! これで仕事も順調に進んでくれりゃ、更に最高だな! おっし、やる気出てきた!! ハハッ」


 楽しそうな鼻歌まで歌い出すダニエルに、男は不安そうな顔になった。


「……本当に大丈夫なんだろうな?」


「何がだよ?」


 きょとんとした顔で、ダニエルが聞く。


「今、聞いた事、全部だ。今更吹かしだとか言わないよな?」


「なんでだよ。全部本当だぞ? 何ボケかましてんだ。それとも、逃げたくなったか? だったら今すぐ息の根止めてやる」


「いや、気が変わったわけじゃない。間違いじゃないのならば、問題ない。でも、あんたが俺の上司なのか……」


「おう、指示に従う内は、悪いようにはしないから、大船に乗ったつもりで安心しろ!」


 男は全然安心できない、という顔になったが、ダニエルは気付かなかった。



   ◇◇◇◇◇



 一行が左の通路へ向かうと、その部屋の中央にも転移陣が描かれていた。そこにいたコボルトたちを倒すと、アランが転移陣を確認してから、触媒の一部をナイフで削り取って、使用できない状態にした。


「識別名《麦の道》、場所名《弱き3》だな。となると、少なくとももう一つどこかにある」


「この部屋の通路は、さっき来たとこ以外は、右前方のやつしかないみたいね」


 アランは転移陣から顔を上げ、立ち上がるとそちらを見る。ゾクリと寒気が走るのを感じた。


「……っ」


「ふふ、何かいるのね?」


 嬉しそうにレオナールが笑った。


「いったい何がいるのかしら? さすがにもうドラゴンはないかしらねぇ。いたら、師匠が喜びそうなんだけど」


「お前やダニエルのおっさんが喜ぶような魔獣や魔物とか、本当勘弁してくれ。そんなんじゃない、思いたいが……」


「違うの?」


 レオナールが尋ねると、アランが嫌そうに顔をしかめた。


「だから、良くわからないって言ってるだろ? なんでそう感じるのか、わかってたら最初からそうだって断言出来る。

 出来ないから、嫌な予感と表現するしかない」


「便利な能力だと思えば良いじゃない。そっちへ向かえば、とりあえず一番の問題は片付くって事でしょう?」


「コボルトだけなら、本当に良かったんだが。くそっ、こんな時におっさんがいないとか」


「師匠がいなくちゃダメなレベルなの?」


「そうじゃない事を祈るしかないだろ。近付いたら、いつでも発動できるように《炎の壁》あたり詠唱しておく」


「念のため、ガイアリザードに騎乗したら? その方が安心でしょ」


 レオナールの言葉に、アランは渋面になった。


「え? 何、さっき外に出た時、降りる時とか平気そうだったじゃない。慣れたんでしょ?」


「街道を移動する時くらいの速度だったからな。全速力で駆けるつもりだったら、無理だぞ。その状態で魔法を詠唱したり、発動できる自信は無い」


「ゆっくりなら大丈夫なの?」


「ああ、それなら問題ない。お前が全開の速度で駆けるつもりなら、無理だが」


「なら、ゆっくり行きましょう。騎乗してたら、魔法撃ちながら移動できて便利でしょ。

 さっきみたいな状況になった時、アランの背後や周辺に注意払いながら立ち回るの、ちょっと面倒だもの。数が少ないなら問題ないとは思うけどね」


「……わかった」


 レオナールの助けを借りて、アランがガイアリザードに騎乗した。


「何度も乗り降りするようなら、今後、何か考えた方が良いかしら?」


「あー、それは後日考えておく。今は、コボルトに集中しよう」


「了解」


 そして、奥へと進んだ。奥の部屋では十数匹のコボルトたちが待ち伏せしていた。射程距離に入ると、一斉に弓矢や魔法などで攻撃してくる。

 が、アランを狙ったものは、一部の魔法を除いて角度的に難しいのか、ほとんどガイアリザードの体表に弾かれた。


 一本だけかすめた《炎の矢》が、チリリと余波でアランの左頬を炙った。


「っ!」


 ほぼ無傷と言って良い軽傷だが、頬に小さな水膨れができ、腫れ上がった。アランの目つきが半眼になり、早口で《炎の旋風》を詠唱を始めた。

 レオナールとルージュが右と左に分かれ、コボルトたちを薙ぎ払う。そこへ、アランの《炎の旋風》が発動し、慌ててレオナールが飛び退いた。


「ちょっと! アラン!! 範囲魔法使う時は、事前に声かけるか、合図してって言ってるでしょ!」


「……悪い」


 アランが肩をすくめた。レオナールが眉間に皺を寄せて、アランを見上げ、首を傾げた。


「あら? 頬が赤く腫れてるけど、怪我したの?」


「軽い水膨れだ。問題ない」


「ふうん。まっ、いっか。じゃあ、次行きましょうか。ルージュ、終わったら、ここのコボルト後で全部食べて良いからね? 今は先を急ぎましょう」


「きゅう」


 餌を名残惜しげに見つめながら、ルージュがレオナールに従って、食べたいのをこらえている。通路は右と左に分かれていた。


「アラン、どっち?」


「右だ。……次ではないはずだが、そろそろ近い。気を付けろ」


 アランの言葉に、レオナールはニンマリ笑った。


「うふふ、楽しみねぇ、ルージュ。ルージュの餌になるものか、金になるような獲物なら良いんだけど」


「きゅきゅーっ!」


 ルージュが嬉しげに尻尾を左右に振った。右の通路を進む一行、特に耳の良いレオナールとルージュに、何か鈍く響く重い金属音が聞こえて来た。思わず足を止めるレオナール。


「どうした? レオ」


「アランには聞こえない?」


「何がだ?」


 怪訝そうに聞き返すその顔に、レオナールは肩をすくめた。


「響くような重い金属音が聞こえるの。何かしら、これ」


 レオナールの言葉に、アランの表情が硬くなった。


「なぁ、レオ。ものすごく嫌な予感がするんだが、それ、もしかして、オルト村の時に聞いた事ある音じゃないだろうな?」


「え? オルト村?」


 きょとんとするレオナール。その言葉を聞いたルージュが大きく高い鳴き声を上げる。


「きゅきゅきゅーっ!」


「えっ? 何、あなた、あれが何かわかったの?」


「きゅきゅきゅ、きゅっきゅーっ!」


 ルージュが興奮したようにバシンバシン、と尻尾を地面に叩き付けるように上下に振りながら鳴く。


「え? 何それ。それって私も知ってなきゃおかしな事?」


「そうだとは思いたくないが、その、それ、ゴーレムの足音、なんて言わないよな?」


 おそるおそるアランが尋ねると、ルージュが頷きながら高く鳴いた。


「きゅきゅきゅーっ!」


「あら? そうなの?」


 首を傾げるレオナールに、ブンブンと首を縦に振るルージュ。思わずアランは眩暈を覚えた。レオナールが満面の笑みを浮かべた。


「アラン、ゴーレムの足音で間違いないみたいよ?」


「……勘弁してくれ」


 アランは呻くように呟いた。


「そうと決まれば、急ぎましょう!」


「おい、レオ!! 急がなくても、ここには俺達しかいないんだから、大丈夫だ! 落ち着け!!

 ミスリルゴーレムだったら、魔法じゃないとダメージ入らないんだぞ!」


 早速向かおうとするレオナールに、アランが慌てて怒鳴り声を上げた。

たぶん次がゴーレム戦になるはず。

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