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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
1章 ダンジョン出現の謎 ~オルト村の静かな脅威~
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5 わがままオネエ剣士はご機嫌ナナメ?

「あー、身体がバキバキする」


 顔をしかめて伸びをしたり前屈したり、腕を回したりしているアランを横目で見ながらレオナールが笑う。


「どうでもいいけど、寝る時までそのローブ脱がずに着たっきりとか、どうなの? それ洗濯とかしているの?」


「このローブは汚染除去と浄化の付与魔法もかかっている上、簡単な傷やほつれなら自己修復されるんだ。例えばドラゴンの爪なんかで引き裂かれるとかいった攻撃を受けて、大きく破損しない限り、どの付与魔法も永劫に継続する」


「ちょっと待って。確かそれ、軽めだけど、打撃軽減と斬撃軽減と刺突軽減と属性魔法軽減と、重量軽減もかかっていたはずよね?」


「ああ、その通りだ。他にもある程度の冷気や熱気を防いだり、サイズ変更、形状維持の魔法もかかったりしている」


「それって、もし壊れたら修復・修繕できる職人や魔術師っているの? だいたいそんなに大量の付与魔法を維持できるなんて、おかしくない?」


「なんでも周囲の自然魔力を吸収する効果があるらしくて、それによって維持しているらしい。だから自然魔力のない場所では効果がなくなってしまう可能性はあるらしいが、そんな場所がこの世に存在するはずがないからな。

 なんでも迷宮発掘品らしくて、庶民には稀少で貴重ではあるらしいが、古い家系の貴族なら、先祖代々受け継がれる品の一つや二つに混じってたりする事が多いから、新興貴族や成金、高ランク魔術師が買う事が多いとか。

 まぁ、俺はシーラおばさんから譲られただけだけど」


「……私の鎧と剣は師匠のお下がりで、付与魔法なんて一つもかかってないのに」


「だって、お前、シーラおばさんの昔使ってた装備、何一つ使えないじゃないか」


「剣士に魔術師用の装備なんて宝の持ち腐れでしょ? 稀少な迷宮発掘品だなんてずるいわ。私も欲しい」


「でもこれ、ある程度魔力持ってないと着られないらしいぞ。それにいくら付与魔法の効果がすごくても、元がただの布だからな。物理防御力に関しては、お前の鎧の方が上だぞ?」


 アランの言葉に、レオナールは怪訝な顔をした。


「なら、そのローブと鎧を併用すれば良いじゃない」


「馬鹿、俺の非力さ舐めんな。お前の着てるような鎧を装備したら、ろくに身動きできなくなる。胸当てのみの革鎧でも足元がふらつくんだ。その状態で杖構えて魔法詠唱とか無理に決まってるだろ」


 それを聞いて、レオナールは呆れたように肩をすくめた。


「ねぇ、アラン。あなた少しは筋肉つけた方が良いわよ?」


「余計なお世話だ! 魔術師に肉弾戦や筋力・耐久力を期待するな。魔術師に求められる仕事ならやるけどな」


 アランはフンと鼻を鳴らした。


「そんな事よりさっさと準備しましょう。念のため聞くけど、ローブの下は着替えてるわよね?」


「お前、俺を馬鹿にしてるのか? ちゃんと着替えてるぞ」


「ローブを着てるせいで、何を着ても見えないけどね。たぶんギルド関係者やロランの人達は、アランがいつも同じ服を着てると思ってるわよ」


「あー、形状維持のおかげで皺にならないのは良いんだが、下に何を着ても身体や服の線が出ないんだ。だから袖が膨らんだ服を着ても、袖が全くない服を着ても、ローブを着ると見た目に変化はない」


「裸でも大丈夫そうね、それ」


「さすがに何も着ないとゴワゴワすかすかして気持ち悪いから、服の上に着ないと地味に辛いぞ。それにいくら低防御の魔術師と言っても、心許ないからな」


「戦闘とか探索用に、クロスアーマーとか買わないの?」


「どうだろう? けど、クロスアーマーよりこのローブの方が高いし性能良いと思うぞ。このローブが破損するような攻撃受けたら、クロスアーマーも破損すると思う。

 どうせローブ着たら見えないんだから、着心地重視の服で十分だ」


「ふぅん、戦闘や探索に問題ないなら、どうでもいいわ。ちょっと水浴びして着替えて来る」


「わかった。朝食を済ませたら、荷物を取りに来て、それから村長のところへ向かおう」


「じゃあ鎧は朝食後で良さそうね。着るとさすがに食べづらいのよね」


「そりゃあんな重量の鎧着たらそうなるだろ。肩とか上腕も動かしづらくなるだろうし」


全身板金鎧(フルプレート)にするとさすがに動きが悪くなるから、肘とか手首、膝や脛は革製なんだけどね。たまに血や汗で、手の平が滑りそうになる事があるから、革製の滑り止めのついた指貫グローブか手甲を買うか悩むのよね。

 盾を持たないから、左手で簡単な防御できるように手甲を装備するのも手かとは思わなくもないけど。でも敵の攻撃受け止めるより、避けたり受け流したり攻撃した方が楽なのよね」


「その辺については、俺には専門外でサッパリだからな。お前の都合良いようにすれば良いだろう。近接戦なんて自分でやらないからな」


「そっちに敵が近付かないようなるべく気をつけてるつもりだけど、アランはちょっとは近接戦闘の練習した方が良いと思うわよ? 魔術師用の杖は打撃用に出来てないから使えないでしょうけど、雑魚ゴブリン程度の攻撃なら軽く避けられるようになった方が良いと思うわよ」


 レオナールが言うと、アランは渋い顔になる。


「汗臭いのとか、身体動かすのとか苦手なんだよな」


「あなたガリガリで貧相だけど、私より身長高くて手足も長いんだから、もっと肉つけて筋力体力つけたら、多少はマシになりそうなのにね。あなたの家族とか見る限り、私と違って筋肉付きやすそうだし」


「そうかもしれないが、持って生まれた性格とか性質はそう変えられるもんじゃないぞ。読書したり魔法覚えたりするのは全く苦にならないが、間近で武器を向けられただけで身体が上手く動かなくなるんだ。距離があれば魔法詠唱が間に合うから落ち着いて行動できるが、距離を詰められたらただ逃走することすらまともに出来るか自信がない」


「アランは見掛けによらず小心者よね。私からすると、なんでそんなに恐がりなのか不思議だけど」


「図太い神経のお前と違って俺は繊細なんだよ。普通の人間は当たれば死ぬかもしれない攻撃間近にして、笑ってられないんだからな。

 俺は臆病な小心者だから自分は絶対に安全な距離で、間違いのない攻撃手段で余裕を持って敵を確実に葬りたい」


「それってかなり贅沢よね」


「せっかく魔術師の才能を持って生まれたんだ。卑怯でも贅沢でも自分勝手でも、自分が確実に勝てる敵だけ相手して、強い敵からはすぐ逃げて戦闘は避けたい。

 持てる能力使って可能なだけ楽して安全に着実に攻撃したい。面倒なこと困難なことは全力で回避したい。命は一つしかないからな」


「私は目の前に剣が振るえる敵がいれば、それで十分だからどうでもいいわ。勝てるか勝てないかは実際にやってみるのが一番だし。頭で考えるのは性に合わないから任せるわ。

 たいていの事は直感がどうすれば良いか教えてくれるし、気付いた時には勝手に身体が動いてるから問題ないもの」


 肩をすくめるレオナールに、アランは溜息ついた。


「……この脳筋が」


「じゃ、遅くなっちゃうから行って来る。身体を拭うだけでも大丈夫そうだけど、きちんと汗を流してから鎧着た方が、においとかが軽減される気がするのよね」


「わかった。俺は探索用の荷物の最終確認やっておく」


「了解。じゃあね」


 ヒラヒラと手を振りながら、レオナールは部屋を出て階下に降りた。

 朝食は現在作っている最中のようだ。前日、場所は確認しているので、声をかけずに宿の裏手にある井戸へと向かう。


「あら」


 そこにはドワーフと小人族がいた。オーロンがダットの髪をゴシゴシ洗っており、ダットは目を瞑っておとなしくしているように見えるが、顔の表情は嫌そうだ。

 面倒臭いのに出くわした、とレオナールは思ったがなるべく目線を合わさないように井戸へ向かった。


「おはよう、レオナール殿」


 桶を手に取ったところで声をかけられ、レオナールは今朝の水浴びを簡単に済ませる事に決めた。

 水を汲んで、服を着たままザブリと水をかぶる。そのまま服の上から持参の手拭いでゴシゴシ身体を擦る。

 その様子を見て、オーロンは怪訝な顔になる。オーロンの手が止まったのでダットが目を開き、その姿を目にしてポカンと口を開いた。


「え、何それ? 服を脱がずに行水するの? ていうか服の上から身体擦るの?」


 ダットが話しかけてくるが、レオナールは答えず作業を続ける。


(昨夜も洗ったんだから、だいたいで良いわ、だいたいで。流すのは寝汗くらいだものね)


 聞こえてくる声や雑音は無視して、目的だけ手早く済ます事に留意する。


「あっれ~? 低血圧で不機嫌なの? それともまだ寝惚けてて聞こえないの?」


「レオナール殿?」


 擦るのと水をかぶるのを三、四回くらい繰り返し、濡れた髪を搾って水を切り、濡れた服を脱ぐ。素早くタオルで髪や身体を拭うと、着替えの服を着る。


「ふーん、金の兄さん、細身の優男かと思ってたら意外と筋肉あるんだねぇ。そういえば、バスタードソードを両手でも片手でも軽々と振ってたもんね。あれ、いきなりリーチが伸びるから慣れないとびっくりするよね」


「ほう、そうなのか」


「うん、切り替えのタイミングが滑らかで事前動作がないから、初見だとちょっと恐いよ。右手だけかと思ってたら左手でも持てるんだもん。

 まぁ、腕が伸びたりはしないから、目が良ければ見えるから避けられると思うけど」


 レオナールは唇をグッと噛みしめ、無言でその場を後にした。何か言われているが、ひたすら聞こえないフリをする。


(あ~、朝から気分悪い)


 苦虫を噛み潰したような顔のまま部屋に戻った。


「お、レオ、思ってたより早い……なって、どうした?」


「別に? 何もないわ」


 思いきり何かありましたと顔に書いてあるが、昨夜の様子からだいたいの予想はついたので、アランは追及しない事にした。話したければ自発的に話すだろうし、話したくないとなれば、いくら聞いても口を割らないだろう。表情を見る限りではそれほど深刻な理由ではないだろうと気にしない事にした。


「どうする? 食堂行くか?」


「頼んだら何か軽食作って貰えないかしら? また下に降りるの、なんだか面倒になって来たわ」


「了解。ちょっと行って聞いてみる。場合によっては、俺が運ぶから安心しろ」


 アランはそう言って立ち上がる。


(どうせあのドワーフか小人族とでも鉢合わせて、顔を合わせたくないとかいう理由だろうしな)


 ふて寝するようにベッドにゴロリと寝転がった相棒を尻目に部屋を出た。



   ◇◇◇◇◇   



 簡単な軽食を作って貰う事が出来たので、部屋で速やかに朝食を済ませると、宿を出て村長の家に向かった。


「おはようございます、村長さん。昨夜もお会いしました冒険者ギルド・ロラン支部から依頼を受けて来たアランとレオナールです」


 爽やかな笑顔で明るく愛想良く挨拶する好青年ぶりには、普段相方とのやり取りの時の様子など欠片もない。別人のようだ。


「おはよう。これから探索かね?」


「はい、そうしたいと思います。鍵を貸していただけますか?」


 レオナールはいつ見てもアランのニコニコ顔は気持ち悪いと思う。日頃の彼を知らない他人には概ね好評のようだが。ただの愛想笑いで、心の底から笑っているわけではないと、知っているからだろう。


「こちらだ。どのくらい潜る予定だ?」


「中の状況がわからないので、入ってみないと明言できませんが、最長で5日、内部の状況がどうであろうと、それより前には戻る予定です。それより帰還が遅い場合、不測の事態に陥って退却できなくなったと思われるので、その場合はロラン支部へ連絡していただけたら幸いです。

 言うまでもない事でしょうが、決してダンジョン内には立ち入らないで下さい。危険です」


 アランの言葉に村長は頷く。


「調査依頼の成功と無事の帰還を祈ろう。よろしく頼む」


 互いに気持ちのこもらない儀礼的な挨拶を交わして、村長の家を後にする。


「あ~、気持ち悪い。アランの愛想笑いって、詐欺師や山師が悪巧みしてるみたい」


 レオナールがうんざりした口調で言うと、アランは嫌そうな顔になる。


「あー、悪かったな、愛想笑いが似合わなくて。一言も喋らなかったのはともかく、お前、態度悪かったぞ。言うだけ無駄だとは思うが」


「わかってるなら言う必要ないでしょう。さ、早くダンジョンへ向かいましょう」


 アランは溜息をつき、諦めたような顔で丘の上の邸宅を見やった。

 現実逃避である。



   ◇◇◇◇◇   



 鍵を開けて両開きの扉を押し開けると、貴族の邸宅らしい、立派な絨毯が敷かれた広いエントランスが見えた。天井は吹き抜けになっており、エントランスの正面奥の両脇には二階へ昇る白亜の階段がある。

 ここ暫くまともに掃除がされてないせいか、扉の開閉時に、薄く積もった埃が舞ったため、ランタンに照らされたそれがキラキラと光り、舞い降りる。


「《灯火》」


 アランの唱えた呪文により、熱のない魔法の光がアランの前方に浮かび上がる。


「普通の貴族の邸宅に見えるな」


 アランは周囲を見回しながら言う。入ってすぐの左右に廊下があり、そちらを見ると左右に部屋が並んでいて、向かって右手の通路は突き当たりで、左手の通路の先は右に折れている。


「右手は大広間、左手は普通の部屋と小部屋、かな」


「どうするの? 順に探索する? それともすぐ二階か地階へ進む?」

「面倒でも確実に行った方が良いだろ。まずは一階だ。廊下やエントランス見ただけじゃダンジョンにはとても見えないが、事前調査した連中がダンジョン化していると明言してるんだから、何かあるんだろう」


「じゃ、まずは右手から行くわね」


「ああ。いつもの通り、頼む」


 アランが言うと、レオナールはにっこり笑って剣を抜いた。邸内はしんと静まりかえっている。二人分の足音がやけに響いて聞こえる。日は昇っているのに、全体的に暗い。

 夜目の利く亜人ならともかく、人間のアランでは、灯りなしに進む事は難しいだろう。レオナールはハーフエルフなので、昼夜問わず目が良い。耳も人間よりは良く聞こえるようだ。


 レオナールが大広間の扉に手をかけ、おもむろに蹴り飛ばす。

 音を立てて開いた先には三匹のゴブリンが待ち伏せしていた。前衛の二匹は赤錆びたショートソードを、後衛一匹は弓矢を構えている。


 扉が開き切る前から駆け出し、向かって右のゴブリンを左下から右斜め上へと、切り上げる。悲鳴と血飛沫を無視しそのまま返して左のゴブリンに切りつけた。

 右のゴブリンはそのまま崩折れ、左のゴブリンは斬撃の勢いで吹っ飛んだ。

 後衛のゴブリンが慌てて矢を放とうとした時には、アランの詠唱が終わっていた。


「《炎の矢》」


 魔法できた炎の矢が、後衛のゴブリンの眉間を居抜き、悲鳴と共に燃え上がった。

 レオナールは吹き飛ばされたゴブリンに近付き、絶命している事を確認すると頷いた。


「部屋は広いけど、これだけか?」


 アランが首を傾げた。がらんとした大広間は長らく掃除してないのか厚く埃が溜まっていた。


「他に足跡がないか確認するわ」


 レオナールの言葉に、アランは頷いた。

以下を修正

×ハーフリング

○小人族


×臭いとかが

○においとかが(レオナールの台詞のため)

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