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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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10 コボルトの巣の攻略3

戦闘および残酷な描写・表現があります。

 ルージュがコボルト用の狭い通路に突進して拡張し、アランがルージュとガイアリザードを盾にしながら、《眠りの霧》や《炎の矢》などでコボルトたちを無力化し、レオナールが背後からの敵に備えて索敵し周囲に注意を払う。

 《眠りの霧》で眠らされたコボルトの大半は、ルージュの突進やガイアリザードの歩行により、踏み潰され、万一生き残っても、レオナールに止めを刺される。


「よし、思った通り順調だ。後は魔力切れに注意をするだけだな。適度なところで休憩を取ろう」


「これ、討伐というより駆除とか作業よね。つまんないわ」


 レオナールが首を大きく左右に振り、溜息をついて言った。


「おい、つまらないとかそういう問題じゃないだろ」


「私はこう、もっと斬ってるって感じが好きなのに。力一杯剣を振れないなんて、なんのための討伐なのよ」


 アランがたしなめようとするが、レオナールはムッと不満げに眉間に皺を寄せ、剣を握りしめる。その様子に、アランは小さく肩をすくめた。


「そんなに言うなら《眠りの霧》じゃなく《鈍足》か《束縛の糸》に切り替えるか?

 そっちの方が、魔力の節約にもなるし。その代わり、被弾の確率も上がるんだが」


「矢を射たせる前に倒せば良い話よね。もっとも狭すぎて、いつも通りに移動ができるか微妙だけど」


「やっぱり広いところに出るまでは、現状維持だな。広くなってお前が動けるようになったら、切り替える。一応事前に合図するから」


「了解。やっぱり魔獣・魔物討伐はガンガン斬らないとね」


 嬉しそうに笑うレオナールに、アランはしかめ面になるが何も言わなかった。不満を溜めすぎて、思わぬところで暴発・暴走されるよりはマシだと判断したためだ。

 それから暫く歩き、ようやく広めの場所に出た。が、コボルトの姿は見えない。アランが顔をしかめたその時、不意に背後からレオナールに突き飛ばされた。


「っ!?」

 すぐそばを《炎の矢》が通過する。レオナールは、アランを突き飛ばした直後に、駆け出していた。

 その背を見て、アランは舌打ちする。レオナールが駆け出したその先に、慌ててカンテラを掲げ、そこにコボルトの群れを確認した。

 すぐさま《鈍足》の詠唱に入る。レオナールに続き、ルージュも駆け出した。ガイアリザードが、アランの視界を遮らない程度に前に出る。

 膝をついたままの姿で、詠唱を完了させ、発動させる。


「《鈍足》」


 ギリギリ、レオナールの突入前に間に合った。レオナールが抜刀と同時に、コボルトたちを薙ぎ払う。

 ルージュがそこへ突進し、コボルトたちの間を駆け抜けた。レオナールが更に右に薙ぎ、スイッチして左に薙ぐ。

 そこへ背後に回ったルージュが、尻尾を振るった。薙ぎ倒されたコボルトが何匹かは、暗くてアランには数え切れなかったが、残りのコボルトは十数匹。

 《炎の矢》の詠唱に入ろうとしたアランの右側に、ガイアリザードが移動した。


「グギィ」


 ガイアリザードの鱗が、飛んできた矢を弾き返した。


「っ!」


 慌てて、そちらにカンテラを掲げ、舌打ちし、早口で詠唱する。


「其れは、汝らの四肢を束縛する、幾重にも絡む数多の魔術の糸、《束縛の糸》」


 魔法が発動し、右手から来たコボルトたちの動きが、目に見えて鈍くなる。続けて詠唱開始。


「火の精霊アルバレアと、風の精霊ラルバの祝福を受けし、炎の旋風よ、標的を中心として、渦巻き、焼き尽くせ、≪炎の旋風≫!」


 発動と同時に、新たに現れたコボルトたち全てが、炎に巻かれ、燃え上がった。


「グギァアッ」


 ホッとする間もなく、新手が現れた。今度はアランの背後だったが、同じくガイアリザードが盾となった。

 今度は弓矢ではなく《氷の矢》だ。アランは《炎の矢》を詠唱しながら、カンテラを掲げ、魔術師の姿を目で探した。

 そして、盾を掲げたコボルトたちに囲まれ、詠唱中の杖持ちを視認する。


「≪炎の矢≫」


 発動した魔法が、魔術師コボルトの額に命中した。それと同時に、盾を捨てたコボルトがダガーや鈍器を振りかぶりながら駆けて来る。

 《炎の旋風》を唱える暇はないと見たアランは、右手のレオナールを振り返った。


(よし!)


 咄嗟にそちらへ駆け出した。


「レオ!!」


 掃討を終えたレオナールが振り返り、駆け出した。


「おおおおぉおおおおっ!」


 アランと擦れ違い、低い雄叫びを上げながら、剣を掲げ、右上から左下へと振り下ろす。

 コボルトたちが悲鳴を上げながら、転がった。


「あははっ! 数だけは多いみたいだけど、本当、雑魚ね! 当たれば倒れる弱さなんだから、ポツポツ来ないで、もっと一斉に一気に、壁になって来なさいよ!!」


 レオナールは楽しそうに笑いながら、踊るように剣を振るい、周囲に血飛沫を撒き散らす。

 アランはうわぁ、という顔になりつつ、カンテラを掲げて、新手が来ていないか周囲を確認する。


「ぐがぁあああああおぉっ!!」


 ルージュが大声で低く、やけに響く、唸るような鳴き声を上げた。慌てて振り返り、ルージュの見る方角を確認すると、最初にコボルトが現れた通路から、コボルトたちが駆けてくるのが見えた。

 慌てて《炎の旋風》を詠唱する。アランは嫌な予感を覚えて、額に汗を滲ませた。


「《炎の旋風》」


 1匹除いて全てのコボルトが炎の渦に巻き込まれた。かろうじて逃れたコボルトも、ルージュの前足で頭部を砕かれ、即死した。


「レオ! たぶんこれ、今来た通路以外全て、囲まれてるぞ!!」


「了解! 一度、最初の通路に撤退する?」


「いや、戻ったら、また引っ込まれて待ち伏せされるだけだ。危険を承知で、一番敵が少ない通路に飛び込んで、確保しよう」


「わかったわ!!」


 最初に敵が現れた通路へ、レオナールが駆け出し、次いでルージュ、アラン、ガイアリザードの順で続いた。

 奥にはコボルトたちが待機していたが、アランがたどり着くまでに、レオナールとルージュで行動不能にする。

 背後からの弓矢や魔法はガイアリザードが盾になるが、弓矢はともかく、魔法は痛みを覚えるらしく、かすめる度に鳴き声を上げる。

 アランはギリッと唇を噛みしめつつも、無言で走る。


 レオナールはそこで立ち止まらずに、更に左手の通路に走った。アランは休む事なく、それに続いた。

 その部屋の中央には、転移陣が記されていた。


「っ!」


 青白く発光し、コボルト3匹が現れた。


「がああぁあああっ!」


 雄叫びを上げて、レオナールが駆け寄り、斬り払った。その場に音を立てて崩れ落ちるコボルトたち。

 咄嗟にアランは《炎の矢》を詠唱し、転移陣を標的とする。レオナールが転移陣から距離を取ったところで、発動させる。


「《炎の矢》」


 転移陣中央の内円の一部を穿つように、炎の矢が突き立ち、小さな炎を上げて、触媒の一部を燃やし、炭にした。


「……これで、使えなくなるの?」


 レオナールが尋ね、アランが頷く。


「これで、これの対の転移陣は、行き先不明の片道切符になるはずだ。事実上の無効化と変わりない。

 念のためメモを取る。索敵と周辺の警戒を、頼む」


「了解」


 素早く、転移陣の文字を書き取った。


(識別名《麦の道》、場所名《弱き1》、残りは定型、か。1って事は他にもある可能性が高い、か?)


「よし、良いぞ」


 アランが顔を上げる。ここには3方向に通路があるようだ。通って来た通路から見て左右に通路が伸びている。


「どっちへ行く?」


 アランが尋ねると、


「左はいないみたい。右へ行くわよ。体力は大丈夫?」


「今のところは。それより、この転移陣、他にもある可能性がある。気を付けろ。気配がない場所でも、転移陣で新たに現れる可能性がある」


「それ、常時索敵してても、不意打ちされる可能性があるって事よね」


 レオナールが肩をすくめた。


「こういうのって良くあるの?」


「あるわけないだろ。あったら、コボルト討伐がFランクになってるはずがない。

 たぶん、オルト村のと同じやつが描いた転移陣だ。中央のシンボルが混沌神の上に、識別名の付け方が似ている。

 カンテラは仕舞って《灯火》を使う。こっから移動が多くなりそうだからな。

 なるべく早く他の転移陣を壊さないと、時間が経つ毎に厄介になる可能性が高い」


「了解」


 アランの言葉に、レオナールが頷いた。


「其れは、我の周囲を穏やかに点す、闇を照らす光、《灯火》」


 魔法が発動し、熱のない魔法の光がアランの前方に浮かび上がる。アランはその場に屈み、カンテラの火を消し、暫く冷ましてから背嚢から、カンテラが入るピッタリの大きさの革袋を取り出し、それに仕舞った。

 革袋はカンテラを保護するため、二重の革の間に綿などを詰めて縫い込んである。それを背嚢の中の野営用毛布にくるんで、中に仕舞った。


「レオにも掛けるか?」


「必要ないわ。隠し通路があったとしても、ルージュが臭いで見つけるから」


「了解」


 そして、右の通路へと歩き出した。部屋へと出る直前に、アランが《鈍足》の詠唱を開始、発動と同時に、レオナールが駆け出す。


「《鈍足》」


 《灯火》に照らされた室内に待機していたコボルト6匹全てに《鈍足》の効果が及ぶ。レオナールが向かって右の3匹を、ルージュが左の3匹を倒した。

 他に敵の姿は見えない。この部屋も3方向に通路がある。


「どうだ?」


「右前方、左前方、共に同じくらいいるわね。アラン、どっちに行きたい? もしくは行きたくない方向はある?」


「……左、かな」


 苦笑を浮かべながら、アランが答えた。


「行きたくない方向が?」


 レオナールがニッコリ微笑んで尋ねる。


「ものすごく行きたくないわけじゃないが、出来れば行きたくない方向だ」


「って事は、そんなに強くないのかしらね?」


「厄介だとは思うがな」


「この巣のパターンは掴めそう?」


「……わからない。一つ言えるのは、この転移陣描いたやつは、ものすごく性格が悪い」


 アランは首を左右に振った。


「どうしてそう思うの?」


「ゴブリンの巣は、範囲と効果時間の長いわりと強力な魔法陣と、オルト村探索パーティーや、ロラン東の森で消えた冒険者の装備で強化されていた。

 この巣のコボルトたちは強化はされてないとは言え、即死する可能性のある罠を複数仕掛けたり、複数の転移陣で速やかに援軍を移動させる事で、断続的ではあるが、物量作戦で侵入者を足止めし、疲労させる事が出来る。

 これの何処が性格悪くないと言えるんだ?」


「……なるほど。疲労を蓄積させれば、数か罠で、侵入者を仕留める事が出来るってわけね?」


「そういう事だ。このコボルトの巣は、討伐や調査のため、中に入った侵入者、おそらく人間、依頼を受けた冒険者たちを、殺すか疲弊させるために作られている。

 転移陣の繋がってる場所が、この巣の中だけであれば良いが、もし巣の外に繋がっていたら、コボルト以外の敵が現れる可能性もゼロじゃない」


「えっ、本当!?」


「だからって、転移陣を1つでも残せというのは、ナシだからな! 見つけ次第、全て壊して使用不可にする。

 お前だって、索敵が役立たなくなるのは、困るだろう?」


「うーん、いっぱい狩れるのは、特に問題ないんだけど、アランの体力か魔力が尽きるわね」


「それがわかってるなら、言いたい事はわかるよな?」


「……アランにも帰って貰えば良かったかしら?」


「おい!?」


 アランが睨むと、レオナールは肩をすくめた。


「もちろん、冗談よ」


「嘘だ。今の、かなり本気入ってただろ?」


 アランが詰問すると、レオナールは苦笑した。


「ごめんなさいね、悪気はないのよ? ただちょっと、本音がちょろっと出ただけで」


「あのなぁ、レオ。もしかしたら、お前一人で討伐はできるのかもしれないが、調査とか報告とか、出来るのか?」


「絶対無理ね!」


 胸を張って明るく笑いながら言うレオナールに、アランは軽い頭痛を覚えた。


「って言うか、何のための仲間(パーティー)だと思ってるんだよ?」


「私が出来ない事、やりたくない事を、アランがやってくれるんでしょ? で、私が魔獣や魔物を狩る」


「まぁ、そうだな。で、お前は俺に、何を期待する? 俺の役割は何だと思ってる?」


「ええと、周囲の情報収集とか、いざという時の危険・強敵の探知、あと、見つけた物の調査や判断。私の代わりに、面倒な事や良くわからない難しい事を考えて答えをくれる便利な人、かしら?」


「で、このコボルトの巣の探索・討伐に、その役割は必要? それとも不要か?」


「必要、ね。コボルト討伐と、転移陣の破壊だけなら、できなくはないと思うけど、それ以外に何かあったら、私じゃ判断つかないもの」


「なら、言う事があるよな?」


 アランが真顔で、じっとレオナールの目を見た。


「本当に、ごめんなさい。アランがいないと、困ります。だから、失言を許してくれるとありがたいんだけど」


 深々と頭を下げたレオナールを見て、アランが頷く。


「わかってくれるんなら、それで良い。次から気を付けろよ? お前は要らないとか言われたら、俺だって傷付くんだからな」


 アランが言うと、レオナールがちょっぴり申し訳なさそうな顔で、再度謝った。


「ごめんなさい。もう言わないわ」


 その言葉を聞いて、アランは苦笑した。


「じゃ、次行くか」


 もちろん行く方向は左である。

以下を修正


×ただし、今度は弓矢ではなく

○今度は弓矢ではなく


×パーティー

仲間(パーティー)

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