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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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7 コボルトの巣までの道中

戦闘シーンがあります。描写は今回軽め。

 コボルトの身長は0.6~7メトル。乳幼児くらいの大きさであり、その体躯を生かしてちょこまか走り回り、暗視能力を持つ。

 巣の外にいるコボルトは、それほどたいした事のない雑魚であり、全ての魔物・魔獣の中で最弱と言われている。

 彼らは、その弱さのため、しばしば他の魔物に隷属し、こき使われている事が多いが、彼ら単独の巣を作る場合がある。


 彼らは強い敵はなるべく避け、かなわないとなるとすぐ逃走し、攻撃する場合には、その中で一番弱い、あるいは一番弱っている敵を狙おうとする。

 彼らは弱いが狡猾であり、どうすれば敵により被害を多く与えられるか、自らの被害を最小限にできるかを知っている。

 他の魔物に隷属していないコボルトは、頭を使って戦闘する。


 彼らの巣の通路は、大抵狭く造られており、罠を作るのが大好きで、意外と器用である。光に弱く、暗闇を好む。

 少数ではあるが攻撃魔法を使ったり、稀に回復魔法を使用する個体もいる。彼らは弱く、まともに一対一で相対すれば、鍬や鎌を持った農夫にも倒せるほどだ。

 しかし、だからと言って油断していると、武装していても、経験の浅い駆けだしの冒険者では、はめられて逆に殺される場合もある。


 アランは、コボルトの好きな戦法や罠のパターンを、調べられる限り調べ、記憶している。

 それはこの依頼のために調べたものではなく、半ば趣味の一環、また冒険者たるものが最低限知っているべき知識の一つだろうと、判断した結果である。


「まぁ、そんなもん資料なんか読むより、実際に見た方が手っ取り早いと思うがな」


 ダニエルが笑顔で、アランの努力を全否定するが、後悔はしていない。どう考えても無知であるよりは、わずかでも予備知識があった方が、断然有利なのである。


(この脳筋1号が)


 2号は相方のレオナールである。ルージュを3号とすべきか、魔物・魔獣は含めないべきか、少々悩むところである。あまり考えたくはないが、これ以上増えたらどうしよう、と。

 宿でルージュとガイアリザードを回収して、東門を通って、外に出る。門に近付いた辺りから、左前方にフェルティリテ山が見えて来た。それほど高くはないが、自然豊かな美しい三角錐に近い山である。


 ダニエルが一緒だと、若干門番の対応が丁寧になる事を初めて知った。ロランでも知名度が高く人気はあったが、門番や領兵が特に特別扱いする事はなかったのだが。

 その事を疑問に思ったアランが口にすると、ダニエルは肩をすくめた。


「ロランはそこそこ程よく田舎だからな」


 意味がわからないと首を傾げるアランに、苦笑しながらダニエルが答える。


「ここの連中ほど腐ってないって事だろ。一般兵士達はもちろんピンキリだが、金や利権や権力・コネなんかにギラギラ欲望たぎらせても、あっちとこっちじゃ、入って来るものも出ていくものも、だいぶ違うからな」


 と、親指と人差し指で丸を作る。


「金……賄賂とか、か」


「それだけじゃないだろうが、まぁ、誘惑の多いところと、そうでないところの違いだな。

 相手によって態度を変える癖っていうか習慣がついてるんだろう。事情聴取の時もそんな感じだっただろ? ちらっと金や権力ちらつかせれば、態度が変わる。

 伯爵も直轄地に関しては頑張ってるが、全ての領地を思うようには回せてないみたいだしな。

 生きていくには必要だから、お金大好きでもかまわないが、金に振り回されるようになったら、人生つまんねぇと思うぞ。

 上手く回りゃ、金なんてあくせくしなくたって勝手に転がり込んで来るもんだからな」


「さすがにダニエルのおっさんのは参考にならないぞ。普通はあくせくしないと、金は手に入らないからな」


「金の方から勝手に転がり込んで来てくれるなら、詐欺師も泥棒も物乞いも貧乏人もいないわよね」


 アランが呆れた顔になり、レオナールが肩をすくめる。


「そうか? でも、俺、そんな金に困った記憶ねぇぞ。まぁ、いざとなりゃ野宿して魔獣狩って食えば良いしな」


「そりゃ、おっさんはそうだろうけど、俺達は、っていうか普通の人間は、そういうわけに行かないからな」


「俺が普通じゃないって遠回しに言われてる?」


「おっさんが人外なのは、今更だろ」


「それよりアラン、そろそろガイアリザードに乗ったら?」


「え? 何でだよ?」


 顔をしかめて聞き返すアランに、レオナールが胸を張って答える。


「当たり前でしょ? アランってば、森や林歩く時、ものすごく遅いし、すぐ息が切れちゃうじゃない。

 頑張っても私たちとペース合わせられないんだから、折角騎乗もできる魔獣がいるんだから、乗れば良いじゃない。

 ルージュは嫌だって言ったけど、この子ならおとなしいし、歩くのも上手で揺れにくいから、大丈夫でしょ?」


「……おい、レオ。お前、問答無用で乗せようとしてないか?」


 青ざめるアランの背を、レオナールがぐいぐい押して、ルージュの無言の指示でしゃがんだガイアリザードの膝の上に押し上げる。


「ご託や言い訳は良いから、早く乗ってよ、ほらほら!」


「ちょっ……おい、人の話を聞け! そりゃ確かに俺は足手まといかもしれないがな、最初から荷物のような扱いは……っ! おい!!」


 アランをガイアリザードの背に押し上げようとするレオナールの姿を見て、ダニエルもそれを手伝う。

 その時になってアランはようやく気付いたが、馬車に繋げられていた時のハーネスは、金具によって、馬車へ繋ぐための革のベルトを取り外す事ができたようで、現在はその金具に(あぶみ)や鞍など、騎乗用の革製の道具が付け替えられているようである。


「……お前、最初からそのつもりだったのか? っていうか、いつの間に付け替えた?」


 二人がかりで背に押し上げられ、呆然とアランが呟いた。


「ふふ、これでアランを気にする事なく、思いっきり駆けられるわね、ルージュ」


「きゅきゅーっ!」


 嬉しそうな一人と一匹の声に、アランはガックリと肩を落とした。


「でも、俺もその方が良いと思うぞ? アラン。お前、魔術師で体力もねぇんだから、無理すんな」


「……普通のパーティーでは、魔術師に無理させるような移動とかしないと思うんだが」


 半目になったアランが、恨めしそうにダニエルに言う。


「諦めろ」


 爽やかな笑顔で、ダニエルが言った。



   ◇◇◇◇◇



 そして、アランは諦念の表情で巨大な騎獣の鞍に跨がり、一行は尋常ではない速度──常人で言えば駆け足くらいの速度──で、林の中を行軍した。

 山を左に見ながら、東門からほぼ直進ルートである。


「で、地図によれば若干南寄り、だな。近くなったら、餌か何かを探してるコボルトが徘徊してるだろうから、そいつを目印にすれば良いよな」


「そうね。ちょっと大雑把な地図だものね。アランが描いた地図なら、近隣に生えてる草木の種類まで細かく記載されてるのに」


「今回、それは期待出来そうにないぞ。あいつさっきから、半分死んでるみたいな状態だからな。たぶん周囲の植生とか、方角とかの確認できてないっぽい」


「そうねぇ、いつもの倍に近いハイペースで移動したから、仕方ないかしら? ねぇ、ルージュ。あなた、ここまでのルートとか、巣の場所は覚えられそう?」


「きゅきゅーっ!」


 まかせておけ、と言わんばかりの顔と態度でルージュが鳴く。


「そう、有り難う。お礼にいっぱい食べさせてあげるからね。コボルト以外でも、ルージュが好きそうな獲物を見つけたら、狩ってあげるわ」


「便利だな、その幼竜。俺も一匹欲しくなった。どっか山でドラゴンの巣を探したら、見つかるかな?」


「伝説通りなら、運の要素が強そうね。ドラゴンはめったに卵を産まないらしいから」


「しらみつぶしにドラゴンの巣は潰すなって、国から言われてんだよな。暴れたり、人民に被害を及ぼすのだけにしろとかって。俺は狩れるもんなら、ガンガン狩りたいのに、面倒臭ぇよな、本当」


「ねぇ、師匠。私がいつか狩る分ちゃんと残しておいてね」


「ハッ、んなもん、早い者勝ちに決まってんだろ。狩りたきゃ俺に狩られる前に、勝手に狩れよ」


「だって、今は無理そうだもの」


「じゃあ、諦めろ!」


 アランはルージュに乗せ、いや載せられた時よりはマシとは言え、揺らされて、目はかろうじて開いているが、グロッキー状態である。

 確かに、上下左右の揺れはルージュよりはマシだったが、良く考えれば──たぶん考えなくても──木の幹・枝・根を避けて進むのには変わりはないわけで、不意に左右に激しく揺れたり、細かく急に加速・減速するのは、馬やロバには到底ありえない動きなのである。


(あー、なんとなくわかってきたぞ。上下動より左右に大きく揺さぶられる方が、気持ち悪くなるんだな。

 良く考えたら、人間が普通に歩く時は、上下はともかく、左右にはあんまり揺れないもんなぁ。

 後はあれだな、急加速と急減速。あと細かく周囲に気を配ろうとすると駄目っぽい。視界が目まぐるしく変わるとまずいのかな。

 結局こいつに乗る時も、目を瞑っておくのが一番、マシって事なんだろうな)


 帰りも乗せられるんだろうか、と考えると憂鬱になった。が、行きよりはマシだと思いたい。


(いっそ寝てしまおうかな)


 アランはぼんやりと考えた。


「きゅきゅきゅーっ!」


 ルージュが高く鳴き声を上げた。


「どっち?」


 レオナールが尋ねると、ルージュはバシッと尻尾で右斜め前方を差す。


「索敵までするとか、本当便利だな」


 感心したようにダニエルが言う。


「そうね、この子、鼻と耳が良いから、障害物が多いところでは、私の索敵より範囲が広くて、精度も高いのよね」


「よっしゃ、この件済んだら、俺もドラゴン探す事にする! 卵や幼竜じゃ無理そうなら、成獣でも良いや。ある程度頭の良いやつなら、死なない程度に刻めば、なんとかなるだろ」


「恨まれても良いなら、それで良いんじゃない? でも師匠はいつか私が斬るんだから、私の知らないとこで勝手に死なないでよ」


「お前、本当、可愛くねぇなぁ。素直に心配だから危険なことすんなって言えば、俺もちょこっとほだされるかもしんねぇだろ」


「はっ、バカな事言わないでよね! 今でも斬れるもんなら斬ってみたいのに、まだ無理そうだから言ってるのに」


「はいはい、了解了解!」


 そして一行は、ルージュが見つけたコボルトの方へと走る。が、アランがコボルト達を目視できる距離に入った途端、コボルト達が一斉に散開し、即座に逃げ出した。


「ルージュ!」


 レオナールの指示で、ルージュが口を大きく開け、息を吸う。


「ぐがぁあああああおぉっ!!」


 大声で低く、唸るような鳴き声を周囲に響かせた。その途端、コボルト達の動きが鈍くなった。レオナールが駆け出し、抜刀、一番近い場所にいたコボルトを斬り捨てる。

 それを見て、一番遠いところにいたコボルトが、脱兎のごとく逃走する。しかし、それには構わず、レオナールは次々に手近なところから、行動不能にして行く。

 結局逃げた一匹以外は全て斬った。それを見てダニエルが口笛を吹く。


「へぇ、面白いな、それ。無詠唱で《鈍足》を発動するようなもんか。たぶんきっと、威圧とかそういう類いなんだろうが」


「私がやるより効果範囲が広くて、効果が高いのよね。まぁ、練習する前は、あんまり上手じゃなかったけど」


 レオナールが肩をすくめた。アランは静止したガイアリザードの背で、ぐったりともたれ、目を閉じて動かない。


「おーい、生きてるか? アラン」


 ダニエルが声を掛けてもピクリともしない。


「そういや、俺が二十代の頃も、シーラやオラースをこのくらいの速度で連れ回して、文句言われた気がすんな。シーラとか意外と口が悪いから『死ね』とか言われたな。

 あ、でも、シーラ達だけじゃなくて、カジミールやジルベールも『少しは加減しろ』って言ってたか」


「やっぱり駄目なのかしら? って言うか、それ、パーティー全員に言われてない?」


 レオナールが首を傾げる。


「ふうん、どのくらいが良いのかサッパリだな」


「そうね。自分の感覚じゃないから、良くわからないわよね」


 アランは聞こえても聞こえない振りをしていた。まともに捉えたり考えると、腹が立つだけなのは良くわかっている。

 どうせこの二人は、誰かに何か言われたくらいじゃ、反省も後悔もしないのだから。


「で? 一匹だけ逃がしたやつの臭いを追うってわけか」


「そのつもりよ。真っ直ぐ巣に向かってくれてると良いんだけど」


「こっからは、ちょっと速度落として、周囲に他の痕跡ないか探しながら、索敵しつつ行くか」


「そうね。さっきのやつが、巣以外の場所に逃げてたら、ちょっと面倒だもの」


 ダニエルの言葉に、レオナールは頷き、それからはいつもよりは若干早いが、かなり落ちる速度で歩き始めた。

 おかげで、少しずつアランも回復してくる。それでも念のため目を閉じ、なるべく物を考えないように、揺れに身体を任せ、じっとする事にした。

 この林は、ブナ、シイ、ニレ、オークやザクロ、ヤマモモなど広葉樹が多く生えているが、たまにモミやナギなどの針葉樹も見える。


「あ、アーモンドの木が生えてる。ここ、野宿するには良さそうなとこね」


「食うにはまだ少し早いな。実った頃に、また来るか?」


「え? 師匠、今回だけじゃなく、また来るつもりなの?」


「あー、それはどうなるか良くわからねぇな。予定は決まってないが、今はちょっと色々様子見中だから、いつどう事態が動くか、わかんねぇしな」


「ふぅん、王都でいったい今、何やってるの?」


「うん? 気になるか?」


「別に。どうでも良いけど、豪遊するんじゃなかったの?」


「んー、なんかちょこっと調べてみたら、面倒そうな事に首突っ込んじまったらしくてな。もうちょい掛かりそうなんだわ。

 俺、どうも目立つらしくて、一応人を使って内偵っぽい事とかもしてんだが、最終的には俺が動く事になりそうだしな。

 あ、一応言うけど、国王陛下の許可とか取ってあんぞ。事前の根回しとかコネとか結構大事だって、学習したしな。

 だから今滞在してんのも、公爵家の持ち物なんだよ。今回のためだけに用意した物件らしいけどな。

 俺がそこに住んでるのは大々的に公表してっから、王都来たら訪ねて来ても良いぞ。その時、俺がそこにいるかどうかはわからんが、ギルドに顔出して名前言えば、詳しい場所教えて貰えるはずだ」


「面倒臭そうだから、絶対行かないわよ。王都へ出向いても、自由に人が斬れるわけでもないんだし」


「阿呆、どこのどの国に、自由に人が斬れる場所や町や村があるんだよ。そんなもんあるとしたら、非合法の人斬りオタクの集まる怪しげな施設か、《混沌神の信奉者》の拠点や神殿くらいだろ。

 何、お前、犯罪者や賞金首になりたいのか?」


「犯罪者になると、後が面倒だから合法的に斬れれば良いなと思ってるけど、なかなか機会がないわね」


 レオナールが溜息をついて言うと、ダニエルが嫌そうな顔になる。


「おい、あんまりバカな事言うなよ、レオ。で、俺と別れてから、何人斬った?」


「殺したのはまだ一人だけよ? ソロの盗賊で、一応賞金首だったから、報奨金貰ったけど。後は、死んでないし、『正当防衛』だから大丈夫」


「……お前の教育、どっかで間違ったかな」


 はぁ、とダニエルが深い溜息をついた。


「大丈夫よ、アランや師匠が嫌がるような事はしてないから、一応ね」


「頼むから『一応』とかつけずに済むように心がけてくれよ。アランが泣くぞ」


「へぇ? それが脅しになるとでも?」


「お前、アランの事、結構好きだろ? 俺に対してより、気配りとか手控えしてんじゃねぇか。怒らせたり、困らせたりはしてるっぽいが」


「そういうの、正直良くわかんないのよね。でも、嫌いじゃないわよ。っていうか、嫌いな相手と一緒に行動できる自信ないわね」


「まぁ、良いや。一応『正当防衛』で、お前が挑発したとか、先に抜いたって事じゃないんだろ?」


「そうね、挑発の範囲がどこまでになるかわからないけど」


「クロードの阿呆、そんなこと手紙に全く書いてなかったぞ」


「あのおっさん、そういう事テキトーだものね。アランとサブマスを良く怒らせてるわ」


「済んだ事は仕方ないからまぁ良いとして、でもなるべくアランが泣くような事はすんなよ。あれをお前の良心の基準にしとけ」


「良心、ねぇ?」


「お前がそういう、他のやつなら成長過程で、自然と習ったり学んだりする常識的なものがひどく欠けてて、基準となる価値観をろくに持ってないのは知っている。

 他にも色々足りてないし、知らない事もたくさんあって、どう振る舞えばわからない時は、あいつを基準値にしとけば、だいたいは間違いないだろう。あいつもちょっと変だが、お前よりはマシだからな。

 俺が教えてやれれば良いが、俺もちょっとずれてるらしいから、上手く教えてやれる自信ねぇからな」


「そういうのって必要なの?」


「人間社会で生きていくには、ある程度必要だろうな。お前はまだ、人や世間に触れ、自由に行動できるようになって、それほど間がない。自分で何か考えて判断下すのは苦手だろう? 迷った時は、周囲の人間に頼れば良い。

 でも価値基準を他人に依った時、それを複数の人間に振ると、その度毎にぶれて、周囲の評価は『いつどんな時に何をするかわからないやつ』になるから、概ね安定していて中庸な考え方ができて、お前がなるべく合わせられそうなやつを参考にした方が楽だろう」


「なるほど、それでアランなのね?」


「お前が一番良く知ってて理解できそうなのもアランだろ。あいつは嫌がりそうだが、わざわざ好きこのんで、積極的にお前の面倒見ようとするやつだから、別にかまわないだろう。

 もしかしたら後で抗議されるかもしれないが、基準値が全くないよりはマシだろうからな。

 それで少しずつでも学習して、お前自身の価値観とか基準値を培って行け。お前の人生を楽しみながら生きられるようにな。

 周り全てに排斥されるようになったら、さすがにキツイだろ」


「う~ん、良くわかんないけど、周り全員敵だと、好きなだけ斬りまくれるってわけじゃないのかしら」


「阿呆、お前、野宿で自給自足より、屋根のある場所で、火を入れたまともな料理を食って、暮らしたいんだろ? だったら必要だ。

 人間社会で自給自足以外に暮らすには、金銭が必要なのと同じくらいにな」


 レオナールがはぁ、と溜息をついた。


「人間って難しいわね」


「エルフだとしても、エルフの価値基準から激しく逸脱すれば、排斥される。人間は数が多い上に、ある意味ではエルフより寛容だから、お前は人間社会で生きる方が良い。

 引きこもって静かに自給自足生活するなら、エルフの方が都合良いだろうが、お前には無理だろ?

 雑多で多様性があって比較的おおらかで、ある程度の実力があれば、多少の事なら許容されるという点では、王国内ではロランが一番だろう」


「師匠が私たちをロランに連れて来たのは、周囲に生息する魔獣や魔物が弱くて、低ランク冒険者向きなのと、知り合いがギルマスだからだと思ってたわ」


「それもある。あと、事情を知ってる伯爵の領内で、特別扱いはされないが、ある程度融通利かせて貰えそうなのや、俺がいなくてもウル村へ帰れそうな距離である事も、理由の一つではある。

 けど、俺なりに考慮した結果だ。お前がちょっとでも人間らしく生きられそうなところを、選んだつもりだ」


「ありがとうと言うべきかしら?」


「それは今後、心の底からそう言いたくなった時にしてくれ。上っ面だけで言われても、面白くもクソもねぇからな。別に礼を言って貰うためにしたわけでもねぇし」


「へぇ、じゃあなんのため?」


 レオナールが尋ねると、ダニエルはニヤッと笑った。


「そうだな、今は内緒って事にしておくか。別に隠すような事じゃねぇが、今のお前に言ってもたぶん理解できねぇだろうし、どうせすぐ忘れちまうだろうからな。

 お前が本当に笑えるようになった頃に教えてやる」


「ふうん」


 レオナールは白けた顔で頷いた。それからルージュの先導で黙々と歩き、開けた場所に出た。


「あれか」


 自然に出来た断層の崖下に、土煉瓦と砂岩を積み上げて拡張した構造物。ちらほら、コボルトの影が見え隠れする。


「ちょっとは楽しめると良いんだけど」


 レオナールが笑みを浮かべて言うと、ダニエルは肩をすくめる。


「お前が楽しめるかどうかは、何とも言い難いな。ただ、人によってはウザイとか面倒だとか鬱陶しいとか言うな。俺は結構楽しいと思うが」


「どういう風に楽しいと思うわけ?」


「あいつら単体だとすげぇ弱いけど、頑張ってんだなと思うな。自分達の弱点を理解した上で、それを頭使って、逆に強味にできるってすごいと思わねぇか?

 考えようによっては俺達が逆の立場になった時、あいつらのやり方って迂遠で面倒だけど、参考になるとこあるんじゃないかと思うな。

 参考になった事は一度もないが」


「……最後で台無しなんだけど」


「コボルトの巣は、基本的に自分たち以外のやつは、自由に行動できないよう制限されるような造りになっている。

 これを無視できる子供サイズの生き物、例えば小人族や妖精族、あるいは逆に狭い通路を壊しながら進める頑丈な生き物や使役ゴーレムなんかが天敵だな。

 コボルトの作った罠は人間サイズの敵だと効果的だが、ドラゴンやガイアリザードなんかはそもそも敵に想定されてない。普通はコボルトの巣なんか襲わないだろうし、まず入口や通路を通れない」


「つまり、ルージュとガイアリザードに通路を壊しながら進ませたら、罠も侵入避けも、意味がなくなるってわけね」


「コボルト達にとっては、これ以上なく不運で災難な事にな。でも、こいつらは入口に置いて、勉強のため俺達だけで入ってみないか? その方がコボルトの巣を堪能できるぞ?」


 ダニエルが良い笑顔で言うと、ノソリと顔を上げたアランが口を挟む。


「そうはさせませんよ。確かに、こいつらを同行させたら、コボルトの巣は滅茶苦茶に破壊されて元の原型は残らないでしょうが、普通に攻略したら、最悪甚大な被害受けますからね、主に俺が」


 ダニエルが大仰に肩をすくめる。


「なんだよ、お前、最初から幼竜先行させて、罠や巣を力ずくで壊すつもりだったのか?」


「どうせ、レオが連れて行きたがると思ってましたしね。ここのコボルトは全て俺達が倒してもかまわないようなので、ついでに二度と住めなくしてやるのも良いでしょうし、他の魔獣や魔物が再利用できないようにしてやった方が、後々楽でしょうから」


「でもそれだと勉強にはならないだろ?」


「俺達はコボルトの巣の見学や勉強に来たわけじゃなく、討伐と中の巣の様子を調べて報告しに来たわけですから、最後に入口は、岩か何かで埋めるつもりです」


「え~っ、じゃあ俺の講義は必要ないのかよ?」


「参考になりそうな事があれば聞いても良いけど」


 アランはそろそろとガイアリザードの背から降りる。それに気付いたレオナールが、ガイアリザードをルージュを介して屈ませ、アランが降りる時に介助する。


「とりあえず、こいつに乗る時は、目を瞑って何も考えないようにした方が良いみたいだ」


「それ、地図とか描けそうにないわね」


「速度と揺れがなんとかならないと無理だな。動きが急じゃなければ大丈夫だと思うが」


「せっかく鞍を購入したのに」


「そんな事言われても。これって何とかなるもんか?」


 アランは首を傾げた。レオナールは無言でダニエルを見た。


「うん? 俺に参考になるような事言えってか? 俺は薬師や治癒師でも、研究者でもないからなぁ。まぁ、忘れなかったら今度知り合いに聞いてみる」


 首を傾げるダニエルを見て、アランはたぶん駄目だろうなと思った。

気になったので、年表きちんと書いて数え直したら、師匠との再会が3ヵ月なのは間違いないけど、ギルド登録から1ヵ月と10日じゃなく、2ヵ月と10日でした。

該当箇所は明日にでも修正しますが、今章終了したら年表つけて、次章から年表もつけようと思います。

なくても大丈夫かと思ってたら、うっかりボケかましました。

すみません。


以下を修正。

×人民に被害を及ぼすだけにしろ

○人民に被害を及ぼすのだけにしろ


×人が斬れる場所が町や村が

○人が斬れる場所や町や村が


×ハーフリング

○小人族


×ノーム

○妖精族(正確には違うけど、変更します)

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