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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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4 男性ギルド職員と情報屋と、怪しい男

 全員の酒と料理が来たところで、ジャコブが簡単にコボルトの巣について説明した。

 件の巣が見つかったのは先月末のこと、発見者は薬草採取と、牙角馬──角と新鮮な肝は薬として、たてがみは弓の弦や革鎧を縫う糸などとして利用される事が多い──を狩りに行った冒険者である。

 コボルトが、彼の狙っていた牙角馬を先んじて狩ろうとして失敗、逃がすところを目撃した彼は、万一の可能性を考えて牙角馬を諦め、コボルトの後をつけたところ、巣を発見したらしい。


「《隠形》スキル持ちか。良い腕と判断の冒険者だったみたいだな」


「ああ、ソロの弓術師で、天性の狩人だと思う。ソロだからコボルトの巣の探索は無理だが、魔獣を狩らせたらピカ一だ。獲物を見付け出す技術に才能、ほとんど無傷で倒して、剥ぎ取りも完璧。

 あれでもうちょい愛想が良くて、コワモテではなく口下手じゃなければ、勧誘されまくりの逸材だろう」


「うちのパーティーに欲しいな。その前に盾役が必要だが」


 アランが頷く。


「あ、いや、でも、レオとルージュがいたら折角の《隠形》も無駄になるか。仲間(パーティーメンバー)って難しいな」


 アランは溜息をついた。


「あ~、まぁ、ソロも含めどこの冒険者も、そいつは大なり小なり苦労しているだろうな。金とコネのあるやつ以外」


「……そうだよな。俺達なんかコネらしきものはかろうじてあっても、何の役にも立ってないし。まぁ、あのおっさん達、一応元Sランクでも人間的にはちょっとなぁ……」


 親しくなったり、相手を良く知ればお近づきになりたくなくなる類いの人物の人脈(コネ)など、あってもなくてもそう変わりないだろう。結局のところ、そういう人物と付き合えるのは、割り切って付き合える合理主義者か、似た者同士・同類などという連中なのだ。


(問題児はレオ一人で手一杯だ。真面目で誠実で、使える人材転がってないかな)


 もちろんそんな人材がいたら、引く手あまたで、目の前にどうぞと言わんばかりの状態で、転がってるはずがないのである。


「確認のため現地に向かった調査員は、巣に出入りするコボルトの数と頻度が多かったため、位置は確認したが、内部の様子は全く不明だ。

 狩りの様子からいって、それほど強くはなさそうだという事で、一応Fランクに設定した。ソロには無理だが、パーティーなら問題ないだろうという判断だ」


「報酬がずいぶん低すぎるようだが」


「う~ん、うちは宿場町というだけあって、依頼は他にもいっぱいあるからな。先日、ロランであった強化されたゴブリン騒ぎみたいに、コボルト達になんらかの異常や異質な点が見られるとか、クイーンや特殊個体の発見とかそういうのはないからな。

 それに今の話題と緊急性は、ランク不問依頼の盗賊団の方が高い。そっちに取られて、こっちに回す予算が、な。

 一応規模や新たに発見したりわかったものの内容次第で追加報酬はつける予定だが、正直、上層部はこの件を重視していない。盗賊団と違って、商人や民間人の被害が出ていない、または確認されていないからな」


「被害者が出た時点で手遅れだろうに、呑気なものだな。コボルトの特性や習性は、どこの町や村でも良く知られたものだろう?」


「ああ、全くだ。だが、良く知られたありふれた弱い魔物だから、軽視されているのも事実だな。

 異常事態が生じない限り、コボルトやゴブリンの討伐や巣の探索なんて、面倒な割にうま味がない仕事は、低ランク冒険者をこき使ってやらせておけという考えなんだろう。

 オレとしては今回、お前らみたいにFランクの新人なのに、たかがコボルトと軽視しないで、本気で真面目に取り組んでくれる、慎重さも持った連中が来てくれたのは、大歓迎だ。

 どうしてもラーヌじゃ軽視されがちだし、それを受ける冒険者も嘲られる傾向があるからな。先を見る目のない力自慢のバカばっかりだ。

 もちろん、そんな連中ばかりじゃないが、真面目に実直に仕事するやつは引く手あまただからな。ランクも高いし、多忙過ぎて、とても頼めない。しかも報酬が言っちゃなんだがゴミみたいなもんだからな。

 銀貨2枚は庶民にとっちゃそこそこ高額だが、初期費用や恒常的に経費のかかる冒険者にとっては端金だ。冒険者に成り立ての低ランクだって、見向きもしない。

 魔術師のいないパーティーの新人が、まともに討伐・探索調査なんかすれば、赤字は目に見えてるからな」


「金の悩みや問題は、どこも深刻で大変みたいだな。俺としては、この時期に新たなコボルトの巣、それも大きそうなのが見つかったというのが、すごく怪しいと思うんだが」


「何?」


 ジャコブが顔をしかめた。


「それは、どういう意味だ?」


「まだ何の証拠も確証もないし、想像とか妄想の域に近いから、あんたの胸の内にしまっておいて欲しいんだが、たぶんこのコボルトの件も先日のゴブリンの件に関わってるんじゃないかと思っている。

 何の調査も、情報収集もしてないから、憶測だが、ゴブリンの強化を狙った黒幕が、何らかの形で関わってる可能性が皆無じゃない。そいつがどういうやつなのか、人間なのか、そうでないのかすら全くわかっていないが、残された魔法陣から《混沌神の信奉者》である可能性がある」


「《混沌神の信奉者》……二十年程前に王都に魔物を呼び寄せて王国転覆を狙ったり、数年前だったかに領内で怪しげな儀式を繰り返していた連中か」


 唸るような低い声になるジャコブに、アランは神妙な顔で頷いた。


「盗賊団の方は、問題なく片が付きそうなんだろ?」


「ああ。一応Bランク1組に、Cランクパーティーが2組、計18名に見届け役のギルド職員で自衛はできるやつ1名が、討伐に向かったからな。ボスはBかC級だと目されているが、他は一般人に毛が生えた程度だからな。魔術師が5人もいるし、問題ないだろう」


「宿場町だし、もしかしたら、目眩ましに使われた可能性は皆無じゃないだろうが、一連の件とはたぶん関係ないだろう。

 問題というか異常事態が生じた場合は、認識を改める必要もあるかもしれないが」


「アラン、お前がそう考える根拠は何だ?」


「今のところは、ただの勘だとしか言えないな」


「は? なんだ、ただの勘かよ。人騒がせな」


「ただ、気のせいだとか気の迷いだとか、思えないんだ。楽観的に考えて失敗するより、より悪い方を想定して事に当たった方が、何かあってもなくても、幾分マシだ。

 妄想傾向のある心配性だと思ってくれても良い。ただ、ちょっと頭の隅にでも置いておいてくれ。何もなければ、ただの笑い話だ」


「ふぅん、まぁ、お前とはまだ会って間もないが、真顔で戯言や冗談言えるほどさばけてるわけでも、腹芸がうまいわけでもなさそうだからな。半信半疑で覚えておくよ」


「ああ、そうしてくれ。気のせいなら、それで良いんだ。何事もなければ、それが一番だからな」


 アランは頷いて言った。


「あと、出来ればで良いから、ここ2、3ヶ月で何かいつもと違った事があったり、何かふと気になった事があるなら、知りたいんだが」


「……と、言われてもな。思い当たるような事は特にないな。何かあるとしたら例の盗賊団関連くらいだが、それだってこの町の役割や特性上で言えば、特別おかしな事でもないからな。

 人や物が多く往来する場所では、犯罪やトラブルも多発しやすい。人の出入りや増減も激しいからな。全体の動きが活発だから、どうしても個々、あるいは細々とした事に対する注意は疎かになる」


「ギルド職員より、飲食店や宿屋やその他の店の店員に聞いた方が、良いかもしれないな」


「それがコボルト討伐や巣の探索・調査に必要なのか?」


「半ば俺の趣味みたいなものだな。役に立つ事もあれば、そうでない事もある。後者の方が圧倒的に多いが、まぁ、俺が拠点として活動しているのは、ラーヌに比べたら人も情報も少ないロランやその近郊だからな。

 人が少ないから、情報収集の難易度も量も、その取捨選択もそれほど難しくはない。ここみたいに全体の数も量も多くて、動きも激しいと、期間や情報の種類を絞っても、色々難しいだろう。

 たぶんこれほど大きな町だと、情報屋かその類いの仕事してるやつもいるんだろうが」


「ああ、確かに情報屋とか何でも屋とか、口入れ屋のついでの副業みたいな、そういう生業のやつは幾人かいるな。非合法やもぐりのやつ、新参についてはサッパリだが」


「この町だと、占術師みたいなのもいそうだな」


「ああ、そこそこいるな。そう言えば、先週くらいから東通りで仕事始めた占術師が、評判良いみたいだ」


「そう、それ! そういう新しく商売始めたやつの話とかが知りたいんだ」


「そう言われてもな。オレは休日以外は、ほとんどギルド受付に座ってるか書類仕事や雑用やってるし、休日は寝倒して過ごすから、そういうのはサッパリだ。

 ほら、見目が良くて若い女ならともかく、オレみたいなむさいの相手に、世間話や雑談するような酔狂なやつも、そういないからな」


 ああ、なるほどとアランは思い、しげしげとジャコブを見た。無精髭を生やしたボサボサ頭の茶髪に明るい緑の瞳の、大柄だが、地味でも派手でもなくごく普通の、これといった特徴も、潤いも癒しも欠片もない、少し腹の出かけた中年男。

 悪い男ではないが、特に用もなく仕事でもないのに、人が話しかけたくなるようなタイプではないだろう。


「何か失礼なこと考えてないか?」


 ジャコブが胡乱げな目付きで言った。


「いや。まぁ、暇な時で気の向いた時にでも、他のギルド職員に世間話か雑談として、聞いて覚えていてくれると助かる。無駄になる可能性もあるが、何か目新しい発見もあるかもしれない」


「ふぅん、わかった。じゃあ、お前達は今日は情報収集で、明日探索予定か?」


「ああ、そのつもりだ。土地勘も顔見知りもいない場所で、自力で情報収集はきびしいから、腕の良い情報屋を教えてくれると助かる」


「それなら、もうしばらくしたら、そいつもここへ夕食取りに来るはずだ。あいつは娘みたいな年なのに、アメリーがお気に入りらしくてな。粉かけたり、自分から進んで話しかけたりはしないが、孫娘を見るジジイみたいな顔で、店にいる間中眺め回している」


 それを聞いて、アランはうわぁという顔になる。


「なぁ、そいつ大丈夫なのか?」


「眺めてるだけじゃ、犯罪にはならないからなぁ。アメリーもそういうのには慣れっこで、気にしてないらしいから、第三者のオレがどうこう言う筋合いはないしな。

 眺めているだけで満足していると言うなら、放置して関わらないのが一番じゃないか? 下手に刺激しておかしな事になるのも恐いからな」


「幼女趣味という年齢でもないだろうしな」


「ああ、少し幼く見えるがお前らと同年代だ。一応ギリギリ成人している。それに護身の類いはある程度身に付けてるようだからな。昼間以外に買い出し以外に、一人で外出するような事もないから、たぶん大丈夫だろ」


「まぁ、何も知らない無知な町娘というわけじゃないだろうし、俺達が心配しても仕方ないな。じゃあ、そいつが来たら教えて紹介してくれ。依頼に関する話はこれで全部か?」


「まぁ、話しておくべき事は、全部話したつもりだ。あと補足は資料で事足りるだろうし。

 しかし、まさか町の外にあるコボルト討伐と巣の調査で、ここ最近の町の事について尋ねて来る冒険者がいるとはな。十年以上職員やってるが初めてだ」


 ジャコブの言葉にアランは苦笑する。


「ああ、俺は心配性で臆病だからな。誰が見ても安全に見える石橋だとしても、なるべく事前に入念に叩いて、後顧の憂いをなくしてから渡りたい」


 アランが言うと、ジャコブは肩をすくめた。


「最初は新人の割にはずいぶん毛色の変わったやつが来たもんだと思ったが、面白いな、アラン。

 まぁ、冒険者稼業に飽きたら、俺のところへ顔を出せ。その頃、俺がラーヌで職員やってるかは不明だが、お前だけなら何とか都合つけてやる」


「たぶんそういう予定は皆無だと思うが」


「そりゃ、今は若いし健康だからな。そんな事はまだ考えられないかも知れない。だが、怪我をしたり体力的にきびしいと感じたら、冒険者やってくのはキツイ。金とコネの大切さはわかってんだろう?」


「必要ないとは思うが、有り難いと記憶しておくよ。あんたに心配されるほど、頼りないつもりはないんだが」


「頼りないとかいう話じゃないぞ。気に入ったからだ」


「そいつはどうも」


 アランは半ば困惑、半ば照れた顔で、かいてもない汗を拭う仕草をした。


「この角兎のソテーのタレ、美味しいわね。お土産に持って帰れないかしら」


 レオナールがボソリと呟いた。


「それは難しいだろ。文字通り飯の種で、それが売りなんだろうから」


 アランは苦笑しながら答えた。


「良い魔獣肉が狩れたら、持ち込みで何か作って貰えるかしら?」


「後で聞いてみるか? それなりの代金払えばいけそうな気もするが」


「大丈夫だろ。たまに買い取りとか、持ち込みとかあるからな。適正な代金払うなら問題ないだろう」


 レオナールの疑問にアランが答え、ジャコブが保証した。それに安心し、嬉しそうな顔で黙々と肉を食べるレオナール。


「おい、野菜とスープもちゃんと食えよ。そう言えば、腹が減ってきたな」

「冷めない内に食ってしまうか」


 そして、アランとジャコブも食事に集中する事にした。食後にレオナールとアランは茶を、ジャコブは麦の蒸留酒を頼んだ。

 その茶を飲み終えるかどうかくらいのタイミングで、情報屋がやって来たので、ジャコブが手招きする。怪訝そうな顔で近付いて来た情報屋に、ジャコブが二人を紹介する。


「こいつらはロランから来た冒険者で、黒髪がアラン、金髪がレオナールだ。腕の良い情報屋を紹介して欲しいという話だから、お前を紹介する事にした。

 で、アラン、こいつがその情報屋で、名前はアントニオ。ラーヌでもそこそこ古株で腕は確かだ」


 アントニオはスキンヘッドに、目の大きさが判別できなくなるほど分厚い眼鏡を掛けた、無愛想な中年から老年に差し掛かろうという風体の、中肉中背の男だった。


「はじめまして、アランだ。こっちは相方のレオナール」


 アランが一礼して挨拶すると、レオナールは無言で会釈する。


「情報屋のアントニオだ。見たところずいぶん若そうだが、予算はいくらくらいだ?」


「内容によっては大銀貨3枚、いや10枚くらい、かな。ここ最近3ヶ月ほどで、ラーヌの町中や周辺で何か変化した事や、通常とは異なる何かがあれば、それが知りたい」


「年齢の割にそこそこ懐に余裕があるようだが、ずいぶん曖昧で返答しにくい質問だな」


「俺が知りたいのは、魔物や魔獣の、通常通りではない行動などの微妙な変化や環境の変化、あるいはそれまでいなかった新参・新規の人や組織の動向や傾向、だな。

 何も問題なければ良い。あと、プロの目から見て、何の異常も変化もなかったというなら、それでもかまわない。

 別にそれが俺の知りたい、とりたてて役に立つ情報でなくてもかまわない。今回、初めてこの町に来て、事前情報も予備知識も全くない状態だからな」


「おい、ジャコブ。こいつはいったい何者だ?」


「だからロランから来た冒険者で、登録してから1ヶ月ちょっとのFランクの新人魔術師だ。面白いやつだろ? さっき勧誘したが、断られた」


 ジャコブが答えると、アントニオは頷いた。


「なるほど、普通の新人の世間知らずな坊やとは思わない方が良いな」


「いや、普通に新人で世間知らずなんだが」


 アランが困惑した顔で言うと、ジャコブとアントニオは揃って肩をすくめた。それを見てレオナールはニヤニヤ笑っている。


「その若さで情報の大切さや、必ずしも全ての情報が役に立つわけではないとわかっているやつは、そうそういないし、何より役に立たない情報にも、金を払うと言えるやつは少ないだろう。謙遜も過ぎれば嫌味だぞ」


 アントニオが苦笑しながら言う。


「別に謙遜してるつもりはないし、事実しか言ってないんだが。ともかく、特に何もなかったという内容でも、支払いを渋るつもりはない。

 予算を超えるようなら困るが、あんたはプロだ。俺みたいな若造に、払えない情報を売る気はないだろ?」


「そうだな。その点は安心して良い」


「ならば、頼む」


 アランが頭を下げると、微苦笑しながら、空いた椅子、レオナールとジャコブの間に座った。


「魔獣・魔物に関しては、特に専門というわけではないが、この町に商品として入ってきた分には概ね把握しているつもりだが、ここ3ヶ月で変わった獲物が獲れたという話や、生息地や収穫量などの変化についての噂話などは特にない。

 新規に訪れた人間に関しては数えきれないほど、具体的には三桁ほどいて、現在そのままラーヌに留まったやつは、ごく数人で、後は出て行って戻って来てはいないと思われる。これは宿場町だから当然だな。

 その内、新たに商売を始めたやつの話を、まずするとしよう」


 アランはメモを取りながら、情報屋の話に熱心に耳を傾ける。


「まず、評判なのは、先週から東通りで営業始めた占術師だな。白いローブ姿の、フードを被った、あまり特徴のない地味な老婆で、水晶玉とカードを使うという話だが、これが良く当たると噂になっている。

 失せ物、対人や相性、悩み事などピタリと当てて、適切な助言や答えをくれるらしい。王都から来た流れの自由民で、知名度はそれほどではないが、王都でも知る人ぞ知るという、悪い話は聞かない占術師らしい。

 もっとも、それほど腕が良いなら、より稼げる王都ではなく、宿場町で比較的人が集まりやすく稼ぎやすいとはいえ、このラーヌまで来たのか不明だが。

 あと、裏通りで営業を始めた薬も扱う雑貨屋だな。店を構えた場所が場所だけに、細々とした商売だが、田舎から財産一切合財担いで家族総出で来たようだ。

 もっとも、息子は表通りの建具屋で、娘は近くの薬屋で働いて、夫婦で店をやっている。店の評判は良くも悪くもない。

 が、このまま少しずつでも常連客がつけば、そうそうに潰れる事もないだろう。雑貨屋はともかく、薬の方はそこそこ需要があるからな」


「なるほど。占術師はともかく、その雑貨屋に関しては、その、一家総出で出てくるのは珍しくないのか?」


「まぁ、田舎で食い詰める前にとか、一攫千金を夢見てとか、良くあるありふれた話だな。もちろん失敗して夜逃げするやつの方が断然多いが。

 薬屋なんて、田舎の方が稼ぎは少ないかもしれないが、長くやっていくには良い気もするが、それぞれ事情があるだろうしな」


 アランは頷いた。


「まぁ、田舎で細く長くやって行こうという人も、都会で成功したい人もいて当然だな。俺も、田舎から出て来た口だし」


「後は、外から来た輸入物の高級嗜好品を扱う行商人だったが、この町の大店の後押しと融資を受けて、市民権と店舗を持った男だな。

 こいつは副支配人の姪の婿となったから、店の名前や名義こそは別だが、実質は大店の新規事業の一号店みたいなものだな。

 町の住人からはあいつは遣り手で、上手く玉の輿に乗っただとかやっかみ混じりで評判だな。珍しい話と言えなくはないが、大店の経営者が引き込みたいと思うような商才のあるやつだったんだろう。

 他には、元からこの町にいた雇われ料理人が独立して始めた料理屋だな。この店と同じ通りにある、十人も入れば満員になる小さな店で、一人でやっててテーブルなしのカウンターのみ、夜だけ営業している。

 流行ってるとは言い難いが、前に勤めていた固定客がそのままついていったから、そこそこ上手くいってるんだろう。

 ここ3ヶ月で商売始めたのは、これくらいだな。後は、娼館で用心棒として勤め始めた、幼少時はこの町の住人だった元傭兵に、田舎から恋人と出て来て酒場に新規で入った娘。この恋人とやらは毎晩別の酒場で呑んで、娼婦を口説いたり、管を巻いてるヒモだな。

 他に、田舎から登録のため出てきた新人冒険者4名と、他の町から仕事求めて移って来た中級冒険者パーティーが6名だな」


 アランはそれらをサラサラと書き留め、顔を上げる。


「これで終わりだ。銀貨1枚で良い。たいした情報でもないからな」


「良いのか、ずいぶん安くないか?」


「お前は、またその内必要になったら、買いに来るだろう? 常連になりそうな若い客だから、初回のみのサービス価格だ。恩に着てくれるつもりなら、また何か情報を買いに来るか、酒でも奢れ」


 そこでアランは銀貨1枚を支払い、看板娘を呼んで、お薦めの酒を一杯と、情報屋の夕食の注文を、アランの支払いで頼んだ。

 情報屋が目を細め、酒も入ってないのにわずかに紅潮した緩んだ表情で、アメリーの一挙一動を観察する姿が視界の端に映るのには、少々微妙な気分になったが。

 明日の事もあるので、まだ飲むという二人を残し、支払いを済ませてアランとレオナールは宿屋に戻る。その途中で、ふとレオナールが立ち止まり、アランを振り返った 。


「どうした、レオ」


 怪訝な顔になるアランに、唇の前に指を一本立てたレオナールが、アランの腕を引く。


「?」


 そして、レオナールは足音を立てないようゆっくり歩いて、宿泊先の宿の裏手に回った。

 そこには、バスタードソードを振るう茶髪の長身の男と、全身黒ずくめの衣装を身にまとい、髪も顔も布で覆い隠した小柄な痩せ型のダガーを握る男とおぼしき人物が、激しい剣戟を交わしていた。


「え? ……ダニエルのおっさん?」


 アランは思わず、小さな声で呟いた。

というわけでやっと師匠登場です。

長くなったので分けるべきか悩みつつ。

次回探索行けたら良いけど、この進み具合だと微妙です。


以下を修正。

×黒づくめ

○黒ずくめ

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