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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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3 男性ギルド職員の慰めは、心に響かない

 男性職員ことジャコブが案内したのは、庶民的で良心的な価格で酒と料理を出す家族経営の店だった。


「ここは酒の種類が豊富で飯もうまい、店主の娘で看板娘のアメリーは、気立てが良くて可愛くて、冒険者はもちろん、一般市民にもそこそこ人気の店だ。

 今は時間が少し早めだから空いてるが、もうしばらくすると混み出す。奥のテーブルへ行こう。空いてる内に話を済ませてしまおう」


「了解」


 三人がテーブルに着くと、アメリーが注文を取りに来た。


「とりあえず飲み物はエールで」


「肉を何でも良いから、大盛りでちょうだい」


 アランが飲み物を注文しようとすると、それまでずっと黙っていたレオナールが口を開いた。その口調が顔に似合わぬ女性口調なのに、看板娘と男性職員の顔が一瞬硬直したが、すぐさまアメリーは笑みを浮かべ、


「角兎のソテーと煮込みが提供できますが、どちらになさいます?」


 と、尋ねた。


「両方お願いするわ。あ、これ私の分だけで同行者の分は入ってないから、注文は別に聞いてね。飲み物は、冷たいならただの井戸水でも良いけど、ないなら私もエールで」


 レオナールは髪を掻き上げ、にっこり微笑んだ。それを見て、アメリーは耳まで赤く染めたが、努めて平静な声で、


「承りました。お連れ様はどうなさいます?」


「俺は何か適当に、スープや野菜がついた定食みたいなものがあるなら、それで良い。あ、そいつにもスープと何か野菜つけてくれ」


 アランが言うと、ジャコブも注文する。


「俺はいつもの定食と、まずはエール。食い終えたら、また何か酒を注文するが、料理を一通り運び終えたら、呼ぶまでしばらく放置で良い」


「わかったわ。お仕事なの? ジャコブさん」


「ああ、こいつらはロランから来た冒険者だ」


「そうなのね。では、しばらくお待ち下さいね」


 アメリーは一礼して立ち去った。


「さっきは済まなかったな」


 ジャコブが気まずそうな顔で言うのに、アランはきょとんとする。


「ん、何がだ?」


「娼館の話だ。まさか、そういう趣味だとは、」


「おい、何の話だ。ジャコブ、あんたまさか妙な勘違いしてるんじゃないだろうな?」


 アランが剣呑な顔で、ギロリと睨んだ。


「違うのか?」


 怪訝そうに尋ねられるのに、アランはゲッソリした顔になった。


「当たり前だろ! 見てくれはどうであれ、俺は男に、それも中身はオーガみたいなやつ相手に、欲情する趣味はない。くそっ、なんでこんな事をまた説明しなくちゃならないんだ。ロランでやっと周知できたのに!」


「そりゃ、ここがロランじゃないからでしょう? 心配いらないわ、アラン。また絡まれたり、ふざけた事言って嘲られたら、全員口が利けなくなるまで、ぶちのめせば済む事よ」


 レオナールが肩をすくめて言うと、アランが髪を掻き乱して嘆いた。


「だから、そういうのはやめろって言ってんだろ、この脳筋が! ……ああ、くそ、またあの悪夢の再来とか勘弁してくれ。動かないやつの心臓が止まってないかと、脅えて震える日々を過ごしたくない」


 呻くアランに、レオナールが楽しそうに笑う。


「大丈夫よ、相手が武器を抜かない限りは、殺したりしないから」


「だから無闇に殺そうとするなと……っ!」


 唸るような声を上げるアランと、すこぶる楽しそうなレオナールを見て、ジャコブは何かを察したようだった。


「ああ、猛獣と猛獣使いみたいな関係か」


 ポンと手を打つジャコブに、アランが苦虫を噛み潰した顔で言う。


「ロランから、こいつに関する注意事項とか申し渡しとか、なかったのか?」


「そういうのは聞いてないな。ただ、Fランクではあるが実力はそれ以上の、ちょっと変わった新人二人組が来るとだけ」


「それ書いたの、もしかしてギルドマスターのクロード、とか?」


「おう、良くわかったな。その通りだ」


「あのおっさん、マジで一回死ねば良いのに」


 アランは呪詛を呟いた。


「絶対、皆にそう思われてるわね、あのおっさん」


「……ロランのギルドマスターと親しいのか?」


「今は色々あって、居候している」


 アランの返答に、ジャコブは何か言いたげな顔になったが、それを口にはしなかった。アランはうんざりした顔で言う。


「あんたもこいつと一度でも狩りや討伐に行ったらわかる。こいつのオーガ並みに無尽蔵な体力と特攻癖に付き合うには、万全の体調で挑まないといけないんだ。

 それがわかってたら、俺が仕事の前日に酒を飲み過ぎたり食い過ぎたり、その他体調を崩すような事をやらかしたりせずに、なるべく早めに就寝したがる理由が良くわかるはずだ。

 魔物の巣やダンジョンで置いてきぼりにされたり、幼竜の背中に荷物のように縛り付けられて運ばれたり、ろくな目に遇わないんだぞ!?」


「幼竜?」


 ジャコブがおかしな事を聞いた、とでもいった表情になった。


「それも説明しないといけないのか。くそっ、あのおっさん、いったい何を考えて仕事してるんだ。帰ったら、食事にこっそり下剤盛ってやろうかな」


「ついでに斬って内臓出しても良い?」


「それはやめとけ。下剤もバレない程度にするつもりだから、お前はせいぜい殴る程度で済ませろ」


「……なんか聞いてはいけない襲撃計画ていうか、予告を聞いちまったような」


 ジャコブがぼやいた。


「大丈夫、死ななきゃ良いのよ」


「あと、犯罪として認知・立件されなきゃ問題ない」


 レオナールとアランの言葉に、ジャコブは頭が痛そうな顔になる。


「……お前らを敵に回したり、恨まれたりしたら、すごく面倒臭そうな事は良くわかった」


「それで幼竜の説明だったな。今は宿の厩舎に、ガイアリザードの成獣と一緒に預けてあるが、こいつ、レオナールがダンジョンでうっかり手なずけたレッドドラゴンの子供だ。

 今は体高2.6~8メトル近くあるが、ブレスや魔法は使えないし、人間の言葉も話せない。かろうじてレオとだけは会話できるようだが、どこまで通じてるのかは検証したわけじゃないからサッパリだ。

 わかってるのは、レオと恐ろしいくらいに息が合ってて、双方共に敵の真っ只中に突っ込んで行く脳筋で、ゴブリンやコボルト相手なら、ほぼ蹂躙といって良い戦闘力と殲滅力を持っている。

 俺程度の魔術師じゃ、下手すると足手まといじゃないかと思うくらいだ」


「おい、待て。ガイアリザードの成獣に、幼いとは言えレッドドラゴン? お前ら正気か?」


「証拠が見たいと言うなら、今から宿の厩舎へ連れて行って見せても良いが」


「いや、それは後で良い。それにしても、吹かしや冗談じゃないんだな?」


「ああ。だから、ギルドマスターが前もって通達してくれてたら、こっちも楽だったんだが。南門で、使役魔獣と騎獣だって言ったら普通に通れたんたが、もしかしてまずかったか?」


「くそっ、あいつらまともに仕事してねぇだろ。その幼竜は翼を閉じている状態だったか?」


「当然だ。翼を開いた状態で門をくぐれるはずがない」


「種類も聞かずに通した?」


「その通りだ」


「すまん、それ、門番の怠慢だな。たぶんどちらも種類名を言っていたら、事前予告なしに通れなかったはずだ」


「……もしかして、ガイアリザードって」


「使役魔獣や騎獣として、一応認められてはいるが、確かきちんとした認可と領主の許可証、それに移動前に申請というか事前通告が必要なはずなんだが、ロランでそういう事は聞いてないか?

 性質は確かにおとなしくて、慣れてさえいればそうそう暴れる事もないが、皆無ではないし、肉も食う。今のところ死肉を食ったという目撃例しかオレは聞いた事はないが、なにせ大型の魔獣だからな。ちょっと暴れただけで被害は甚大だ。

 まぁ、幼いとは言えレッドドラゴンが一緒なら、そちらの方が脅威だが」


「厄介なのを掴まされたような気がしていたが、どうやら悪徳業者か、夜逃げ寸前のやつに、ババを掴まされたな」


 アランがチッと舌打ちした。


「ロランに帰ったら、斬っても良い?」


 嬉しそうに尋ねるレオナールに、アランは渋面で答える。


「たぶん戻った頃には、とっくに逃げてるだろ。もうロランには、お前に喧嘩売る店や商人はいないと、油断してたな。

 切羽詰まってたのかもしれないが、かといって手加減してやる気はない。ここで甘い顔見せたら、他のやつにカモられる。

 被害を受けたのはロランだが、ここで詐欺の被害届けとか出せるか?」


「ちょっと面倒だが、一応出せない事はない。同じ領内だからな。この町に常駐しているのも、セヴィルース伯爵の領兵だ。ただ、上はともかく、下は現地採用がほとんどだから、門番辺りには抜けてるのも混じってる」


「ロラン北門の門番も、見逃してるからな。ジェラールのバカが、女旅芸人の尻や胸元ばっかり気にして、仕事に手を抜きやがるから。これで減俸を食らうな、ざまあみろだ」


「まぁ、自業自得よね」


 レオナールが他人事のように肩をすくめる。アランがギッと睨み付ける。


「あのな、レオ。発端はお前が悪徳業者に騙されて、あんなばかでかい魔獣を売り付けられたりするからなんだぞ」


「え~? だって、私は純然たる被害者よ?」


「いや、お前が被害者かどうかはともかくだな、とにかくバカで悪賢い商人の口車に、容易に乗るからいけないんだ。

 お前がバカな脳筋だと知ってて別行動させた上、ロランを出る前にきちんと確認しなかった俺もバカだが、これに懲りたら、軽々しく銀貨以上の買い物を、即決するな。せめて俺に相談してからにしろ」


「例の肉屋も?」


「あそこは良心的で、しかもお前で儲ける必要のない老舗かつ大店みたいだから、問題ないだろ。

 普段、利用しない店や商人との買い物・交渉には気を付けろ。悪意を持ってやらかすやつは、いくらでもいる。そういう連中は逃げ切れば、問題ないと高をくくって、反省も後悔しないからな」


「見つけたら殺して良い?」


「ダメだ。見せしめに殺しても、運が悪かったと思うだけで、効果がない。犯罪行為をおかしたやつは、きちんと法律で裁いてやらないとな。

 単独ではない可能性もあるし、たぶん他にもやらかしてる。そこらへんをキッチリつまびらかにしないと、他の被害者も気の毒だ。似たような案件が、今後出ないとも限らないしな」


「斬ってルージュの餌にでもすれば、証拠隠滅できるのに」


「だから単独犯じゃなく、裏で犯罪組織と繋がってる可能性もあるだろ? ジャコブさん、ガイアリザードって正式な認可がいるって事は、本来ならばきちんとした大店しか扱えない商品だよな?」


「そうだな。申請する場合、きちんとした飼育環境や、教育ができると認められなければ、認可は降りない。

 ガイアリザードは、性質や習性から言って、害獣扱いや討伐対象じゃないから、狩るにも事前の許可が必要だ。故に、冒険者ギルドの依頼に載る事もない。

 専門の騎獣または使役魔獣を狩る業者しか、普通は狩らない。つまり、それ以外のやつが狩ると密猟として処罰される。

 とは言え、初犯なら罰金刑で、悪質と見なされても数年の禁固だな」


「軽い刑罰なんだな。ってことは、悪徳業者や犯罪組織に騙されて、ギルドを通さずに依頼を受けて、狩るやつもいる?」


「ああ、そういう連中は、罰金刑受けて、初めて犯罪だと知るって事もあるな」


 ジャコブの返答に、レオナールが目を軽く見開く。


「え? 何? 騙されて狩った場合も、罰金払わされるの?」


「当然だろ? 口では何とでも言える。知ってたか、知らなかったか、証明する方法がない。

 もちろん、《嘘発見》の魔法をかけてみるって手段もなくはないが、その場合、それを使える魔術師を招聘する必要があるからな。たぶん、そっちの費用の方が、払わされる罰金より多いんじゃないのか?」


「その通りだ。だから、大抵は泣き寝入りだな。……ていうか、なぁ、アラン。お前、いったい年齢いくつだ?」


「紅花の月中旬に成人したばかりの15歳だ。レオの成人が翌月の若緑の月の頭だったから、その日にギルド登録した。ギルド登録から、数えて2ヶ月と10日、か」


「お前、冒険者にしておくのは惜しいな。どうだ、ショボいFランク魔術師なんかやめて、冒険者ギルドに就職して職員にならないか? お前みたいな部下が欲しい」


「ちょっと! 勝手に勧誘しないでよね。確かにアランは魔術師より事務系職員とかのが向いてそうかもしれないけど、引き抜かれたら、こっちだって困るんだから!」


「……俺の魔術師としての才能、全否定かよ……」


 アランがガックリ肩を落とした。


「あ、そうだった。アランは魔術師として、自分の力を振るいたいんだから、絶対、ギルド職員とかにはならないわよね」


 レオナールの言葉に、アランがジットリとした目線を向ける。


「おい、お前、今それ、完全に忘れてただろ」


「そんな細かい事は気にしちゃダメよ、アラン。大丈夫、私と一緒に行動する限りは魔術師として、存分に力を振るえるし、大好きな魔法陣や古代遺物だって、きっといっぱい見つけられるわよ!」


「とってつけたように言われても」


 ぼやくアランに、


「そんな事より、早くさっさと依頼の件、聞いて用件済ませてしまいましょうよ。ゆっくり夕食取りたいでしょ?」


 誤魔化すようにレオナールは笑った。そんな二人を見て、ジャコブはだいたいの力関係?を把握した。


「大変だな、アラン」


 肩をポンと叩かれ、アランは嫌そうな顔になった。


「……まあ、とにかく、俺はせっかくなれた魔術師やめる気はないし、ショボい魔法しか使えなくても、今後勉強と研究を続けて、少しはマシなレベルにはなれると思いたいから、勧誘とかは諦めてくれると助かるんだが」


「ああ、うん、勧誘はしないから、頑張れ。応援するよ。……まあ、料理が来たら話そう」


「長くなりそうなのか?」


「そうだな、たいした話でもない、か。とりあえず1部しか用意してないが、渡す資料は用意してある。ロランのギルドマスターが言うには、1部で十分で、2部あっても用紙とインクの無駄らしいんでな」


「全くその通りだな」


 アランが頷いた。ジャコブがこっそりレオナールの顔色をうかがったが、全く興味なさげで、ケロリとしている。ふむ、と頷きつつ資料をアランに手渡す。


「コボルトの巣が見つかったのは、ラーヌ東の山林だ。地図で言うと、ここ」


 アランの手元の資料の中に、簡単なラーヌ周辺地図があり、そこに赤いインクで×が記されていた。先日のゴブリンの巣は、ラーヌの南の森であり、今回の目的地とは別の場所である。ちなみにラーヌのやや東寄りの北東に、フェルティリテ山があり、その麓の林の中である。


「あと、注意事項としては、近くで新興の盗賊団《狡猾な森狼》とかいう連中の拠点が見つかって、その討伐に2、3のパーティーが入ってるから、もしかしたらコボルトの巣へ向かう途中で、出くわすかも知れない。

 ちなみに、その拠点はここ、山の中腹だから、近寄らなければ会わないはずだが、連中が向かってもう3、4日経ってるからな。戻って来る連中に、遭遇する可能性はある。

 ちょっと荒っぽい連中ばかりだから、お前らみたいな面と品の良さげな若いやつ見たら、ちょっかい掛けて来る可能性はある。バカばっかりだが、悪いやつらじゃないから、なるべく穏便にな」


 ジャコブの言葉に、アランがレオナールを見遣るが、聞いている風はない。無表情になったアランが、


「出来るだけ善処します」


 と答えた。それを見て、ジャコブは肩をすくめる。


「まぁ、殺さない程度に頼む。あいつら、じゃれるのと殴るのと、たいした違いはないと思ってやがるからな」


「という事は、多少痛めつけても問題ない?」


 真顔で尋ねるアランに、ジャコブは渋面になる。


「推奨はしてないからな。良いな、一応俺は忠告というか警告しておいたからな」


「ああ、言いたい事はわかる。わかるが、足の速い体力バカの剣士と、同じく無尽蔵の体力を持つドラゴンが暴走したら、ひ弱な俺には止められないからな。

 あいつらに、ついて行くので必死で精一杯なんだ。しかも、更に騎獣が増えたからな。いい加減人間の、会話が通じて責任を共有してくれる仲間が欲しい」


 どこか虚ろな瞳と声で、切実に告げるアランに、ジャコブはなんと返すべきか迷った。


「……ええと、頑張れ?」


 アランは乾いた笑みを洩らした。

ダメかもしれない、と思ったのだけど、もしかしたら違うかも、と思いましたが、やっぱり次回も巣の探索には出られないと思われ。

すみません。次回もラーヌの町です。


以下を修正。


×元棒食らう

○減俸を食らう


×きちんと飼育環境や教育できると

○きちんとした飼育環境や、教育ができると


×その通りですね

○その通りだな


×紅花の月、下旬

○紅花の月中旬


×その一週間後の

○翌月の


×1ヶ月と10日

○2ヶ月と10日

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