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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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2 剣士と魔術師はラーヌへ到着

「これは……トカゲ、か?」


 アランは半ば呆然と、呟いた。


「ガイアリザード、岩石小竜とも呼ばれるトカゲ型魔獣らしいわよ。おとなしくて動きはノッソリしているけど、体力と持久力はあるから、馬より圧倒的に少ない休憩で長時間・長距離を移動できるらしいわ」


「でかすぎないか? それに馬車? 2人しか乗らないのに」


 そのガイアリザードの四肢や背には、頑丈そうな魔獣革製のハーネスが取り付けられ、中古だがしっかりとした造りの幌馬車がつながれている。


「力持ちだから引いても引かなくても速度はあまり変わらないし、たくさん荷物が持てるわよ」


「なぁ、レオ。嫌な予感がするんだが、こいつ、貸出用の首輪もタグもつけてないように見えるんだが」


「銀貨3枚で良いから、買ってくれと泣きつかれたのよね」


 肩をすくめるレオナールの返答に、アランの顔が引きつった。


「……おい、こいつ、餌は何を食べるんだ?」


「雑食で、穀類でも草でも肉でも何でも食べるらしいわね。道端に生えてる雑草とかでも良いらしいわ」


「絶対餌代かかるだろ」


 アランはガクリと肩を落とした。ガイアリザードの体高は3メトル前後、体長は尻尾を伸ばした状態で5~6メトルはあるだろうか。頭頂部付近から背中にかけて、岩石のようにも見えるゴツゴツとした瘤のようなものが、生えている。

 目蓋のないギョロリとした丸い瞳、爬虫類特有の縦長の細い瞳孔、は見ようによってはユーモラスというか愛らしく見えないこともない。その大きささえ考慮に入れなければ。


「大丈夫よ、アラン。なんとかなるわ」


「既に赤字なんだが」


「よくある事よ」


 項垂れるアランを放置して、レオナールはアランの購入した荷物を馬車の荷台に積み込んだ。それぞれの部屋に置いてあった野営道具なども、運び込む。

 ふとアランが気付いた。


「なぁ、やたら荷物が多くないか? ラーヌまでは約半日で、直接コボルトの巣穴近くへ向かっても、1日かからない距離なんだぞ?」


「ラーヌの南東に、新しいダンジョンが見つかったって噂を聞いたのよね」


「おい、まさか」


「帰りで良いから、ついでに寄って行きましょうよ」


「……ダンジョンは、ついでで行くようなところじゃないんだが。それに、そんなダンジョンの話なんて聞いたことないぞ」


「騎獣屋で値切ったついでに、何か面白い情報ないか聞いたのよ」


 それはただ普通に尋ねたわけではないのだろうな、とアランは思った。


「大サービスでルージュの牙を間近で見せてあげたら、いっぱいオマケしてくれてね。この馬車も中古だけど、タダでつけてくれたの。すごく丁寧で親切だったわね」


 それは脅しというやつではないだろうか。アランはクラリと眩暈を覚えた。


「ああ……ヤバイ……これがバレたら、また何か言われるんじゃ……くそっ、俺のせいじゃない、俺のせいじゃないはずだ……っ!」


 こんな事になるとは予想もしなかったアランは、現実逃避に入った。そんな相方の姿に、レオナールは肩をすくめ、ガイアリザードの鼻先を撫でた。


「まぁ、アランはいつもああだから、気にしないで。よろしく頼むわね、岩石小竜くん」


「ギグゥ」


「きゅきゅーっ!」


 ガイアリザードが低く響くような鳴き声を上げ、ルージュが嬉しそうに尻尾を振りながら鳴く。


「ルージュもこの子と仲良くやって行けそうで良かったわ。一応、躾ければ、戦闘できるかもしれないって話だったけど、どうかしらね?」


「きゅう?」


 レオナールが首を傾げて言うと、ルージュも首を傾げる。そして、


「きゅきゅう、きゅきゅきゅ、きゅう?」


 何やらガイアリザードに話しかけ、


「グギギィ」


 ガイアリザードが低く鳴き、頷くように首をゆっくり上下に振った。


「きゅきゅーっ!」


 ルージュがバシバシ尻尾で地面を叩きながら、嬉しそうにレオナールに報告する。


「……えーと、ルージュ、あなた今、その子に戦闘できるか確認取ったのかしら?」


「きゅきゅう!」


 そうそう、と言わんばかりに頷きながら、ルージュが答える。


「ふうん、その子も戦闘できるなら、アランの壁、もとい盾、ええと護衛?は任せて良いのね?」


「きゅきゅーっ!」


 ルージュがぶんぶん頷きながら、ガンガン尻尾で地面を叩いて、掘削する。


「あ、ルージュ。それ以上地面を掘らないでね。馬車の通行に問題あるから」


 レオナールが指摘すると、ルージュはハッとするように硬直し、おそるおそる周辺を見回し、先程尻尾で叩いたところが大きく抉れている事に気付くと、尻尾で周囲の地面を撫で回し、なんとかその穴を埋めるだけの土をかき集めると、ジャンプして両足で土を固める。そして、ある程度固めると、そろりと後ずさり、大きく後ろ右足を上げると、ドン、と踏み下ろす。

 そして地面が陥没していない事を確認すると、どうだと言わんばかりに、レオナールを振り返った。

 思わずレオナールは苦笑した。


「ふふ、まぁ、良いんじゃない? あなたが踏みつけて大丈夫なら、馬車くらい軽いでしょうし。良くやってくれたわね。後でご褒美に何かあげるわね」


「きゅっきゅーっ!」


 嬉しそうにルージュが鳴いた。その大きな鳴き声に、アランがハッと我に返る。


「……あっ、いかん、こんな事をしている場合では!」


「アラン、荷物は全部積み終えたから、後は馬車に乗って、町を出るだけよ?」


「え?」


 きょとんとするアランの腕を引いて、レオナールは馬車に乗り込む。幌馬車の中は、半分近くは荷物に占領されているが、残り半分はがらんとしている。

 さすがにルージュやガイアリザードが寝そべる事ができるほどではないが、人間やハーフエルフの成人男性二人ならば、十分適切なスペースを取って、足を伸ばして寝る事ができるだろう。予備の水樽も4つ載せられている。


「なぁ、おい、俺が用意した食料は、余裕を見て十日分なはずなんだが」


「ええ、私がその倍くらい買い込んでおいたわ」


 アランの見たところ、倍どころか合わせて二人分の食料が一ヶ月分くらいある。


「……お前、ケチなのか何なのか、本当、金の使い方がおかしいぞ」


 アランがゲッソリした顔でぼやいた。


「なぁ、なんで一ヶ月分も食料が要るんだ、おい」


「大は小を兼ねるって言うでしょ?」


「いくらなんでも多すぎるだろ!」


「大丈夫、余ったら岩石小竜くんの餌になるから」


「それ、お前の財布から出してるのか?」


「共有の方だけど、不満なら出しても良いわよ?」


 レオナールの言葉に、アランは一瞬迷い、首を振った。


「いや、良い。まぁ、もしかしたら必要になるかもしれないからな」


「え? 何? また何か嫌な予感でもするの?」


 嬉しそうにレオナールが尋ねると、アランは嫌そうな顔になる。


「……お前、本当、嫌なやつだな」


「やったぁ! 今度は何かしら!? 良くわからないけど、楽しい事になりそうね!」


「俺はちっとも楽しくねぇよ、くそっ。嫌な予感はするけど、行かないわけにはいかないし、俺達が受けなかったら、もっととんでもない事になりそうだからな」


 渋面で言うアランに、わくわくするレオナール。


「今度は何が出るのかしら? それとも黒幕さんとか? ゴーレムや強力な魔物が出るってのも、良いわね!」


「……追加報酬で、今回の赤字が解消されると良いんだが」


 憂鬱そうに、アランは呟いた。



   ◇◇◇◇◇   



 ラーヌはロランの北北東、オルト村からだとやや北寄りの北東にある宿場町である。ロランと同じく、セヴィルース伯爵領内であり、王都からは早馬で十日、乗り合い馬車では十三日半ほどの距離である。ロランとの距離は、街道沿いで馬で移動すると、途中4・5回ほどの小休憩を入れて半日、つまり3刻ちょっとの距離である。

 ガイアリザードの引く馬車だと、昼食を兼ねた休憩1回で、3刻ほどで到着した。オルト村のような近い場所はともかく、それ以外の距離のある場所であれば、ガイアリザードの方が、場合によっては速いかも知れない。


「……意外と揺れなかったな」


「そうね、街道沿いを来たせいもあるとは思うけど、馬より安定してるかもしれないわよね。騎獣屋で、そういう訓練を受けてたのかもしれないけど」


 ラーヌの南門で、ギルド証を提示して、簡単な確認を終えると、ギルドの場所とお勧めの宿屋を聞いて、ラーヌの町の中へ入った。


「まずは宿屋、だな」


「そうね。宿は先に確保して置いた方が安心よね。ここは、王都や他領へ向かう人たちも集まる町だし。その分、宿屋の数も多けりゃ、質もピンキリみたいだけど」


「一晩だけでも、大部屋で雑魚寝とかは、勘弁して欲しいからな」


「私だって嫌よ。泥棒を気にしながらの雑魚寝じゃ、寝た気がしないもの」


「それもそうだが、ここじゃ新参者だと舐められて、ろくな目に遭いそうにないからな」


「そういう時は、突っかかってきたのを全員ぶちのめしてあげれば良いのよ」


「俺はそういうのを見たくないから言ってんだよ! ああ、何事も起こりませんように。頼むから、無闇に武器を抜いたり、殺したりするなよ?」


「命の危険を感じた時以外は、でしょ?」


 レオナールがにっこり微笑む。その笑顔だけなら、爽やか好青年風と見えない事もなかったが、


「自己防衛のために、仕方なくなら、うっかり殺しても許されるのよねぇ」


 うっとりと告げるその顔と声には、毒気がありすぎた。


「……うわぁ……マジで勘弁してくれ」


 アランがゲッソリした顔でうつむき、肩を落とした。門番にお勧めされた中級の宿屋は、かろうじて部屋を取れた。


「個室じゃなくて、二人部屋か」


 アランが憂鬱そうに呟く。


「別に一晩寝るだけなんだから、問題ないでしょ?」


「そうかもしれないが、もし、オルト村みたいな事があったらと思うとな……」


「あはは、嫌だわ、アラン。そうそうあんな事があるとしたら、それって、『不運』ってやつじゃない? 普通、そんな事、何度も起こるはずないじゃない」


「何だろう、今、それが起こる可能性が更に倍増したような気がする」


「アランは本当、心配性ね。そこまで行くと、病気の域に近いわよ?」


「……気のせいだと思えない事が多すぎるんだが」


「ま、安心しなさいよ。変なのが侵入して来たら、今度こそ切り捨ててやるから問題ないわ」


「……それが一番心配なんだが。頼むから、部屋や備品は壊さないようにしてくれよ?」


「なるべく気を付けるわ」


 レオナールの返答に、これはダメだ、とアランはガックリした。きちんとした頑丈な厩舎に、ガイアリザードとルージュを預け、チップと餌代に大銀貨2枚を渡して、貴重品と装備だけを身につけて、冒険者ギルド・ラーナ支部へと向かった。

 ラーナの町南東部に、建物はあった。夕刻過ぎのギルド内は、帰ってきた冒険者達で混雑している。レオナールとアランが入ると、幾人かの視線を受けた。ギルド内は混雑していたが、依頼受注受付は空いており、誰もいなかった。真っ直ぐそちらへ向かい、暇そうな男性職員の前に立つと、怪訝そうな顔で見上げて来た。


「ロラン支部所属の冒険者、レオナールとアランだ。コボルトの巣の件で依頼を受けて来た。一応、こちらにも顔を出すように言われてるんだが」


 アランがそう告げ、ギルド証を見せると、ああ、と男性職員は頷いた。


「連絡は来ている。そうか、もう来てくれたのか」


「早ければ早い方が良いだろう。早速明日にでも、向かいたい。詳しい話は聞けるだろうか?」


「ああ、この時間に受注受付に来るようなのんびり屋はいないからな。もちろん、他のギルド支部から来た者や、護衛依頼でこの町に来た者は別だが。ちょうど暇してたところだ。

 ……でも、ここはちょっとうるさすぎる。別室を用意して、そちらで話そう。夕飯は済ませたか?」


「まだ、これからだ」


「そうか、手短に済ませるのも良いだろうが、それよりオレの通いの料理屋で夕食がてら、話す事にしよう」


「そちらの都合は良いのか?」


 アランが尋ねると、男性職員は肩をすくめた。


「見ての通りだ。書類仕事も全て済ませて、これ以上やる事はないが、就業時間内だから、椅子に座ってるだけだ。席を離れる口実が出来て、万々歳ってとこだな」


「なら良い。こちらもラーヌの事は良く知らないので、助かる」


 アランがそう言うと、男性職員はニヤリと笑った。


「見たところずいぶん若そうだが、良ければ娼館とかも紹介してやるぞ?」


「あー、そういうのは良い」


 アランが困ったように言うと、男性職員は目をパチクリさせた。


「お? 大抵の若いやつは、連れてってやると、喜ぶんだがな。ああ、でも、お前ら、そんなに困ったりするタイプじゃないか。逆にモテてモテて、断るのに困ってるとか?」


「そういうわけじゃないんだが、余分な金もないし、明日からコボルト討伐と巣の探索しなきゃならないのに、余分な労力使いたくない」


 真顔で答えたアランに、おかしな事を聞いたとでも言いたげな顔になり、男性職員はレオナールの方を見るが、レオナールは素知らぬ顔である。


「あ、そっちは俺以上にそういうのに興味ないぞ。そいつが興味あるのは、目の前にいるのが、剣で斬って良い相手かどうかだ。興味がない事には、全く関心を払わないし、すぐ忘れる」


 アランがそう付け足すと、男性職員は肩をすくめた。


「……お前ら変わってるな」


「良く言われる」


 アランは肩をすくめた。

次回、コボルトの巣の詳細説明と準備その他になります。

なるべく早く巣の探索行けると良いなぁ、とか思いつつ。

また筆が滑って予定より長くなったらどうしよう、とか思ってます。


以下を修正。

×占領している

○占領されている


×寝そべられるほどではないが

○寝そべる事ができるほどではないが


・追加

 アランの見たところ、倍どころか合わせて二人分の食料が一ヶ月分くらいある。


×他のギルド支部からの来た者

○他のギルド支部から来た者


×それよりはオレの通いの料理屋で

○それよりオレの通いの料理屋で


×困ったりしそうなタイプ

○困ったりするタイプ

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