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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
3章 コボルトの巣穴 ~ラーヌに忍び寄る影~
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1 師匠の剣士は王都で暗躍中

「《(ノワール)》に連絡を取りたい」


 黒衣の男が、占術師らしき白いローブにフードを被った老婆に、声をかけた。老婆も男も、フードを目深に被り、容貌は良くわからない。

 老婆は唇をニンマリ歪めた。


「では、話を聞こうか。さぁ、椅子に座って、この水晶玉の上に手を置いて」


 男は頷き、言われた通り右手を水晶玉の上に置いた。


「……とある男を殺して貰いたい」


「前金は?」


「金貨2枚出そう」


「おやおや、ずいぶん太っ腹だねぇ。期限でもあるのかい?」


 老婆はしわがれた声でクックッと笑った。


「特に期限はない。が、これまで送った暗殺者の内2名が失敗している。だが、《黒》なら問題ないだろう?」


「安物買いの銭失いってやつだね、そりゃお気の毒様。そうさねぇ、私が仲介始めてからは、一度も《黒》が仕事に失敗という話は聞かないねぇ。

 だが、《黒》よりは未熟とは言え、前金に金貨2枚払う能力のあるあんたが、見繕った暗殺者だ。完全な無能というわけじゃなかったんだろう?」


「それに関しては、標的について少しでも情報を集めれば、すぐわかる。とにかくそいつを殺して欲しい。

 名前はレオナール、先月頭に冒険者登録したFランクの剣士だ」


「ほう?」


 老婆は眉を上げた。


「……知っているのか?」


 老婆は唇に笑みは浮かべたが、明確な返答はしない。


「なるほどねぇ」


「……とにかくそいつをやって欲しい。期限は半年。それを超えるようなら、話はなかった事にして貰う」


 男はそう言って金貨2枚を置き、立ち上がる。


「毎度あり」


 笑いながら、老婆が呟き、男が人目を気にしながら立ち去ると、水晶玉を胸元に入れ、ゆっくりその場を立ち去ろうとした。

 不意に、その首元に刃が当てられた。


「なんだ、素人か」


 大振りのダガー片手に老婆の背後に立つ、茶髪の長身の男が、低く呟いた。


「おい、小娘。お前、いったい何故こんな真似をしている?」


 恫喝するわけでもない、平坦な声音で耳元にささやく。


「……私の幻術が効かないとか、はぁ、勘弁して欲しいわね」


 老婆の幻影をまとった白ローブの少女が、溜息をついた。


「確かにお前の幻術は、その若さに似合わぬ腕だろうが、そこらの一般人は騙せても、心得のあるやつを騙したり惑わしたりするレベルじゃないな、お粗末だ」


「一瞬、本物の《黒》が現れたかと思ったけど違うみたいね。あなたこそ何者? 刃を突き付けられるまで、気配すら感じなかったわ」


「俺は、お前の目的について、質問している。正直、お前自身の事はどうでも良い。娘くらいの年齢の子供に、興味ないからな。

 それより、命が惜しければ、さっさと答えろ。早死にしたいなら、それでも良いが」


「おっかないわね、お兄さん。わかった、答えるわ。《黒》に対する営業妨害という名の嫌がらせよ。

 そろそろ本物にバレそうだから、今夜で王都を発つつもりだったの。宿賃と交通費は、そこそこ稼げたし」


「暗殺の前金の横取りか?」


「ええ、そうよ。どうせ後ろ暗い金だもの。ちょっとくらい掠めても、かまわないでしょ。

 これで暗殺対象の命も救われるし、私の懐も潤う。一石二鳥でしょう?」


「本物にバレたら、殺されると思うが」


「だから今夜でやめるつもりだったってば。まぁ、仮にあのいけすかない野郎に見つかったとしても、殺される事はないわ。ちょっと面倒な事にはなるだろうけど」


「……知り合いか?」


「まぁ、顔見知りね。こっちは善良で平凡な流れの自由民だってのに、どういうわけか目をつけられて絡まれたおかげで、太客になってくれそうな相手に逃げられたの。だからお返しの腹いせ?」


「ずいぶん太い度胸と神経だな。なら、先程の依頼を遂行するつもりはない?」


「当たり前でしょ。あなたもわかっただろうけど私、暗殺者じゃないもの。ただ、ちょっと裏社会の知識のある、ずぶの素人よ」


 そう答えると、男はダガーを引いた。少女はゆっくり振り返り、あら、と声を上げた。


「あなた、近頃評判の《疾風迅雷》さん? なんでこんな事してるの?」


「先程の暗殺対象は、俺の不肖の弟子なんでな」


「ああ、なるほど。じゃあ、さっきの男が言ってた暗殺失敗の原因って、あなたなのね。

 そりゃいくら依頼しても失敗するわよね。それにしても、ずいぶん過保護なのね」


「まぁ、ちっともなつかない可愛くないガキだが、下手に野良猫拾ったからには、せめて自立できるまでは面倒見てやらないとな。

 暗殺依頼理由の半分くらいは、俺が原因というか、関わってるし」


「知ってるかもしれないけど、私があの暗殺対象の名前聞いたの、3件目なんだけど」


「知ってる。エルフに、貴族に、黒衣の魔術師。全員背後は洗ってあるし、今夜の寝床もわかってる」


「で、そっちは泳がせてるわけね」


「そうだな。トカゲの尻尾切りされたんじゃ、いつまで経っても解決しないからな」


「ふーん、大変ね。何をやってるか興味ないけど、ま、頑張って。私は見つかって捕まる前に、トンズラするわ」


「そうか。関わらないならどうでも良い。お前、まだガキなんだから無茶はすんなよ、小娘。命あっての物種だからな」


「ありがとう。じゃ、そろそろ行くわ」


「……念のため言っておくが、俺や弟子には近付かない方が良いぞ。まともな格好すれば、そこそこ見目は良さそうだから、変なのに目をつけられかねないからな」


「基本的に、日頃から幻術と精神魔法で誤魔化してるんだけど、ダメかしら?」


「下っ端ならともかく、中級以上は無理だろう。自分が可愛いなら、身辺に注意を払うのはもちろん、厄介事には近付くな。じゃあな」


 そう言って茶髪の男こと《疾風迅雷》ダニエルは立ち去った。


「あそこまで言われると、逆に気になるんだけど。いったい何なのかしら? どうして《疾風迅雷》の弟子とは言え、Fランクの駆け出し冒険者が同時に3件も暗殺依頼出されるのかしらね」


 女は首を傾げながら、その場を歩み去る。そのまま乗り合い馬車乗り場へと向かい、最初に来た乗り合い馬車に乗った。


(行き先はラーヌ、か。王都の南西の田舎街ね。まぁ、何処でも良いわ。早くここを離れられるなら)


 老婆の幻影をまとった少女は、目を閉じた。



   ◇◇◇◇◇   



「コボルトの巣の探索?」


 冒険者ギルド・ロラン支部受付で、アランが首を傾げる。


「大きいのが見つかったのか?」


「そうみたい。ロランの北北東にあるラーヌの近郊で見つかったらしいわ。一応あっちでも、探索依頼を出してるらしいけど、報酬がショボいせいもあって、受ける人がいないって話ね」


 ジゼルが肩をすくめて答える。


「なんでそんな依頼、紹介するのよ?」


 不思議そうにレオナールが首を傾げた。


「だってレオナールは、斬る事ができれば、どんな獲物でも気にしないでしょ?

 たかがコボルトとはいえ、かなり大規模な巣穴で、この前のゴブリンの巣より数が多いらしいから、受けたがる人がいないって事らしいのよね」


「なるほど、確かに俺達向けの依頼だな」


 アランが首肯する。


「調査内容によっては、一応追加報酬が出るらしいから、頑張ってね。他にはランク不問で、新興の盗賊団の討伐なんてのもあるけど、」


「私、そっちのが良いわ!」


「ダメだ!! 絶対許すわけないだろ!! 単発・単独、少数の集団ならともかく、お前にはまだ、人間相手の大量討伐依頼は受けさせられない。どうなるか、目に見えてるからな」


 アランが言うと、レオナールが舌打ちする。


「既に受けてるパーティーが複数あるから、今から受けて出掛けても、間に合わない可能性のが高いわよ、って言おうとしたんだけど」


「……なんだ、じゃあ、どうでも良いわ」


「おい、ジゼル。仮にも受付担当のギルド職員なんだから、不用意な事言うなよな。こいつ、下手すると暴走して一人でも突っ走りかねないんだから」


「ごめんなさい、アラン。でも、Fランク冒険者に紹介できる依頼って、少ないのよ。

 だいたい、あなた達に普通のFランク向けの薬草採取とか、町中の雑用とか紹介しても意味ないでしょ?」


「……確かにそうだが」


「正式な冒険者登録から丸2ヶ月経ったでしょ。あなた達、ランクアップしないの? どう見てもFランクじゃないでしょ」


「アランに言ってよ」


 レオナールは大仰に肩をすくめる。アランが仏頂面で答える。


「あのな、こいつがこの調子なのに、ランクアップなんか出来ると思うか? Eランクに上がったら、オーガはまだだが、オークも狩れるようになるんだぞ?

 レオがもうちょっと落ち着くか、他にパーティーに入ってくれる仲間ができない限り、俺はまだ受けたくないぞ」


「ごめんなさい。私がバカだったわ」


 ジゼルが謝った。


「え? 何よそれ、仲間とか、そんなのいる? だって、ルージュがいるじゃない」


「あの幼竜は、実質ドラゴン版レオだろ。突撃・特攻癖のある前衛ばかり増えても意味ないに決まってんだろうが」


「ああ、アランの壁がいるのね」


「お前らは平気だろうが、俺は絶対、オークの一撃で死ねるからな。お前、常に後ろ気にしながら戦う気あるか?」


「……面倒くさいわね」


「だから、お前には期待してない」


 きっぱり言うアランに、レオナールは肩をすくめた。


「まぁ、期待されても困るし面倒だけど、そんな理由だとは思わなかったわ」


「考えればわかるだろうが」


「ねぇ、アラン。私がそんなこと、自分で考えたり、気付いたりすると本気で思ってる?」


 レオナールが残念な人を見る目でアランを見ながら、そう言った。


「……おい、お前、今、自分がものすごいバカだって自己紹介してるって自覚あるか?」


 アランが顔をしかめると、レオナールはふぅと大きく溜息をつく。


「諦めなさいよ」


「なんで、俺をたしなめるような言い方になってんだよ! 普通、逆だろ!? おい!!」


「ねぇ、アラン。そんな事より、依頼、どうするの?」


 荒立つアランに、ジゼルが冷静に尋ねる。


「……っ、受ける。受諾書をくれ。……だいたい、コボルトなんて、ゴブリンと同じくらい弱いけど繁殖力高いんだから、放置しっぱなしとか、バカばっかりだろ。

 こういうのは報酬がショボかろうと、率先して受けないと、手に負えないくらい増えたら、被害食らうのは自分達なんだからな」


「まぁ、その報酬ってのが、追加なしだと銀貨2枚なんだけどね」


「……おい、それ、冒険者舐めすぎじゃないか?」


 アランが顔をしかめた。


「銀貨2枚じゃ、2人分1ヶ月の食費くらいだろう?」


「だからショボいって言ってるでしょ。大丈夫、きっと追加報酬出るから」


「……なんだかんだ言って、この前のゴブリン討伐の追加報酬、まだなんだが」


「あれ、キングとクイーンにいくらつけるかで、上と揉めてるのよね。ほら、あれでロラン所属のほぼ全ての冒険者に報酬支払ったでしょ?

 その上、AランクやBランク冒険者への報酬も支払ったのに、Fランクに倒せるキングなんて、とかって言う人もいるわけよ。

 もちろんうちじゃないわよ? 王都のお偉いさんとか、領主様から派遣されて来た偉そうな下級役人とか。

 ギルドマスターとサブマスターが頑張って交渉しているし、こっそり領主様にも連絡入れたから、近日中に決着つくと思うわ」


「……生活費は当分心配要らないとは言え、入るはずのものが入らないって、本当嫌な気分になるもんなんだぞ。この依頼終わるまでには、なんとかなるんだろうな?」


「そうなってくれるはずだと思うけど、確約はできないわね。だって、私が会議に参加してるわけじゃないんだもの」


「まぁ、ジゼルに文句言っても仕方ないよな。魔法書や古文書購入はまた貯金してからだな」


「代わりに大量に触媒購入したものね」


「おかげで、研究ははかどったと思うんだが、目新しい発見は、あまりなかったかもな。

 野営用の魔法陣が1つ開発できたくらいか。結局、あれ以上の効果が期待できるようなものって作れなかったからな」


「魔法陣を1つでも新規に開発するとか、それ、王都の魔術師が聞いたら、発狂すると思うわよ?」


「そうか? 王都の高位魔術師なら、それくらい軽いだろ? だって開発するための金も時間も資料も、有り余るくらいあるんだからな。

 それで成果無いとか言ったら、ただの給料泥棒じゃないか」


「…………」


 ジゼルが溜息をついて、瞑目した。レオナールは大仰に肩をすくめた。


「本当、天然って恐いわよね」


「何の話だ?」


 アランがきょとんとした顔になった。


「別に。アランが元気そうで絶好調で良かったわねって話よ」


「え? なんかそういう感じじゃなかっただろ?」


「そんなことより、依頼受けるんなら、さっさと受諾書に署名して、準備してラーヌへ向かいましょう。ぼやぼやしてたら、日が暮れちゃうわ」


「そうだな。じゃあ、レオ、準備の方頼む。移動の食料品とかは俺が買いに行くから、それ以外の馬とか……いや、幼竜がいるのに、普通の馬がまともに動いてくれるかな?」


「大型の騎獣とか、そっちで探してみるわ。ルージュを連れて見に行けば、萎縮しないのがいるか判断つくでしょう?」


「じゃあ、細かい備品とかも俺の担当にした方が良さそうだな。手分けして準備しよう」


「そうね。じゃ、また後で」


「おう、またな」


 レオナールが歩み去り、アランは受諾書に署名し、ギルドを後にした。

サブタイトル、ちょい悩みつつ、一応これで。

3章開始です。


以下を修正。

×1ヶ月

○2ヶ月


×面倒臭い

○面倒くさい(レオナールの台詞のため)

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