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12 ゴブリンの巣の探索1

戦闘・残酷な描写・表現があります。

 岩壁を左に、少し歩くと、洞穴と見張りと思われるゴブリン2体が立っているのが、見えて来た。


「やったわ! 新たなゴブリンの巣よ。さぁ行きましょ」


「ちょっと待て、突入するなと言われたはずだよな? おい」


「ギルドマスターは『なるべく』と言ったわ、絶対じゃないから大丈夫! 好きに動いて良いって言われたでしょ?」


「絶対違うからな! 絶対そういう意味じゃないからな!? どうしても必然性がある時はともかく、その必要がないのに入るなって意味だからな!」


「やぁねぇ、あの人が私の性格知らないわけないじゃない。なるべくってのは、サブマスの手前つけただけで、私が新たな巣を見つけたら、絶対中に入る事はわかってるわよ。

 だいたいアランは、私があきらめるとでも思ってるの?」


 その言葉にアランは一瞬絶句し、ニヤニヤ笑うレオナールの顔を見て、ガックリと肩を落とした。


「……お前なんか嫌いだ」


 アランはぼやいた。


「大丈夫、なんとかなるわよ。アランは本当に心配性ね。ダメそうだったら、退却すれば良いじゃない。

 通常のゴブリンよりは強いと言っても、大勢で密集して襲いかかられない限り、問題ないレベルでしょ」


「嫌な予感しかしないな」


 はぁ、とアランは溜息をついた。


「え? 本当?」


 レオナールが嬉しそうに聞く。アランは嫌な顔をする。


「一応言うけど、お前が期待するような意味じゃないからな」


「なんだ、つまらないわ」


 アランはさすがにちょっと、逃げたい気分になってきたが、ここで放置するとどうなるかは良くわかっている。


(結局、こいつを見捨てられない俺が、割を食う羽目になるんだな)


 頭は痛いし、胃も痛くなりそうだが、諦めた。そうとなると、気分を切り替えるしかない。


「すぐに突入はするなよ? 念のため見張りは《眠りの霧》で眠らせる。下手に応援呼ばれたりすると、ヤバイからな。

 あと、中に入ってからも、先制できるようなら、魔法を最初に使う。頼むから、無闇に特攻するのはやめてくれ。

 お前が確実に敵を葬れるよう、お膳立てしてやるから」


「了解」


 レオナールはニンマリ笑った。それをなるべく見ないようにして、アランは杖を構え、《眠りの霧》の詠唱を開始する。

 レオナールは剣の柄に手をかけ、体勢を低くして、いつでも駆け出せるよう準備はしているが、アランの魔法が発動するまでは、動くつもりはないようだ。そのことに安心しながら、詠唱を完了する。


「《眠りの霧》」


 魔法が発動し、見張りの2体が、その場に崩れ落ちる。レオナールが駆け出し、その身体が地面につく前に、向かって右の首を切り落とし、その死体を抱き留める。

 もう一方のゴブリンは、ルージュが首元に噛み付き、息の根を止めた。そして、レオナールを伺い、レオナールが頷くと、咀嚼を始める。


 レオナールは見張りのゴブリンたちが手にしていた槍を手に取り、その穂先をマジマジと見る。


「ねぇ、アラン。これ、見て」


 呼ばれてアランが覗き込む。それは、血や泥などで薄汚れてはいたが、比較的新しく、品質も中級ぐらいのものだった。

 アランは思わず顔をしかめた。


「これはあれか、冒険者の持ち物か?」


「やっぱりゴブリンが持ってたにしては、そこそこ良品よね?」


「……囚われてたり、しないよな?」


「さぁ? そんなの私にわかるはずないわ。でも、ギルドが把握していない被害はありそうよね」


「……リュカさんに突入について何か言われたら、これを理由にするか。ゴブリンに囚われているかもしれない冒険者を救い、解放するために、やむを得ず入ったと言えば、命令違反とか独断専行とか言われずに済むだろう」


「建前はあった方が楽だものね」


 レオナールがにっこり笑う。アランは肩をすくめた。


「まぁ、嘘も方便だよな。あの人を敵に回すのは正直恐い」


「ふふ、アランが協力的になってくれて、本当うれしいわ」


「お前が諦めてくれるなら、それが一番だけどな。どうしてもやるってんなら、最善またはよりマシな方を選ぶさ」


 本音は逃げたいけどな、とぼやく。レオナールが喜ぶだけだから言えないが、実際のところ、強敵あるいは厄介事の気配がぷんぷんする。

 アランは気を落ち着けるため、深呼吸すると、レオナールを見た。


「行きましょうか?」


 疑問形だが、実質選択肢はない。アランが頷き、一行は薄暗い洞穴の中に進んだ。

 ルージュがギリギリ通れるくらいのゴツゴツとした岩肌の通路だ。レオナールが先頭、次にルージュ、最後尾がアランである。

 入り口から十数歩と進まない内に、レオナールが立ち止まり、アランを振り返った。指を両手で6本立てる。

 アランは頷き、杖を取り出した。ギャッギャッという鳴き声と共に足音が聞こえて来る。詠唱だけ先に済ませて置き、目標を確認したところで、魔法を発動した。


 身長0.9メトルちょっと、緑の肌に赤い眼のゴブリンたちが、バタバタと倒れていくのを、レオナールとルージュが片っ端からトドメを刺していく。

 ルージュがねだるようにレオナールに鼻を擦り付け、レオナールが許可を出す。


「どうも《灯火》は使わない方が良いな」


 アランは顔をしかめた。


「そうね、ゴブリンも《暗視》で、暗くても視界はある程度利くから、灯りの類いはないみたいだけど」


「レオナール、カンテラ持って来てるか? 細く搾ればいけると思うんだが」


 この中で夜目が利かないのは、アランだけである。そして魔術は目標を視認しないと、発動できない。


「あるわよ、ちょっと待って」


 レオナールが背に担いだ荷から、カンテラと火打ち石を取り出す。アランは火打ち石でカンテラに火を点し、ギリギリまで細くして、最低限の光量にした。

 そしてそれを左手に持つ。右手は杖を持ったままとする。


 ルージュの食事が終わったので、一行は歩き出した。アランにさえ、ゴブリンたちの気配を感じ取れるほど、この洞窟は、ゴブリンたちで溢れているようだ。

 めげそうになる気持ちを必死で立て直しつつ、レオナールたちに遅れぬようついて行く。


 どうやら次のグループが近付いて来ているようだ。レオナールが振り返り、次は12体だと教えてくれる。

 アランはカンテラを足下に置いて、《眠りの霧》の詠唱を開始する。金属の擦れ合うような音や、足音と共に、曲がりくねった通路の奥から、ゴブリンたちが現れた。視認と同時に、魔法を発動する。


 後は作業のように進んだ。同じような戦闘を、計8回ほど繰り返し、アランがウンザリし始めた頃、通路が急に広くなった。

 そこには、魔獣や人間の骨や、ゴブリンの食べさしと思われる腐敗しかけの何かが多数転がっていた。


 思わずアランは息を呑み、レオナールは周囲を確認しながら、一番手前にある人の骨とおぼしきもののかたわらに、しゃがみ込んだ。

 そして、その骨を指先で撫で、確認する。


「……そんなに古くはないようね。どのくらい前とは断言できないけど、比較的新しいみたい」


「くそ、マジか……!」


 アランが呻いた。


「幸い、と言って良いのかしら。成人男性ね。ちょっと大柄かしら。結構抵抗したのか、複数箇所の骨に傷がついていて、肋骨や鎖骨が折れてるわね」


「……そこまで言わなくて良い」


 唸るように、アランが言った。レオナールが立ち上がる。


「たぶん冒険者ね」


「…………」


 アランはうつむき、唇を噛みしめた。そんなアランの様子に、レオナールは肩をすくめる。


「気にやむことないわよ。どうせ、私がもう一つの方を見つけてからすぐ、ここに来ていても、結果は同じだったと思うわよ?」


 アランは瞑目し、深く息を吸って、ゆっくりと吐き出した。


「量が多い時は、《炎の壁》や《炎の旋風》も使うぞ」


「かまわないわよ。私とルージュを巻き込まれなければ」


 そう言って、レオナールはポンとアランの肩を叩く。


「安心しろ。俺はお前と違って、同じ失敗を二度繰り返さない」


「そうかしら?」


 レオナールが大仰に肩をすくめた。


「どういう意味だ?」


「ふふっ、まぁ、今はどうでも良い事よ。アランがやる気になってくれたみたいだし、気合い入れて行きましょうか」


 レオナールが笑った。



   ◇◇◇◇◇



 それからもいくつか戦闘をこなし、ゴブリンたちを掃討していく。アランが積極的に攻撃魔法を使ったため、殲滅スピードは格段に上がったので、レオナールもルージュも、まだまだ余裕である。

 アランは多少顔に疲れを見せてはいたが、時折休憩を挟むだけで、歩く速度は落ちていない。


「どのあたりまで来たかしら」


「あの岩山の内部全てがゴブリンの巣だとは、さすがに思えないしな」


 アランがしかめ面で言った。


「しかし、かなりの規模の巣だろう。ゴブリンの数も多い。《炎の旋風》でも生き残るのがいたし、な」


「ほぼ即死で、放置しても大丈夫そうだったけどね」


 もちろんレオナールがトドメを刺して、ルージュが処分した。


「まだ鎧を纏ったやつは見ていないが……」


「いそうな気配?」


「冒険者は防具を身に纏ってただろうからな。場合によっては、入り口で見た槍より、立派な武器を持ったやつもいるかもしれない」


「ゴブリンナイトとか?」


「……最悪、キングとかな」


「クイーンがいたんだから、確かにキングがいてもおかしくないわね。となると、その取り巻きはクイーンの周囲にいたのより、強いかしら?」


 嬉しそうなレオナールに、アランは溜息をついた。


「まぁ、お前とルージュがいれば、何とかなるのかもしれないが」


 そう言って、ジロリと睨む。


「だからと言って、見つけ次第に特攻するなよ? ルージュの時みたいに」


 レオナールは肩をすくめた。


「だってドラゴン見たの初めてだから、思わず興奮しちゃったのよ、ドラゴンなんてそうそう斬る機会ないし。

 でも、拘束されて弱ってるの見たら、ちょっと気の毒になったのよね。でもまさか、あれくらいで、なつかれるとは思わないわよねぇ?」


「お前、もしかして、今も機会があれば斬りたいと思ってる?」


「思ってるわよ。すごく楽しそうよね」


「……勘弁してくれ」


 アランはゲッソリした。


「とにかく、ヤバそうなの見つけたら、俺がまず最初に魔法を使うから、攻撃はその後な。たぶん《鈍足》あたりになると思うが」


「了解。ふふ、楽しみね」


 アランは、笑うレオナールから視線を逸らした。機嫌の良いレオナールをまともに相手してしまうと、つい怒鳴りつけてしまう気がしたからだ。


(平常心、平常心。ここはゴブリンの巣穴だ。落ち着いて対処しないと。こいつはどうせ、何を言っても無駄だ。

 いざという時は、俺が何とかしないと)


 自信はないが、代わりにやってくれる人などいない。レオナールには期待するだけ無駄だ。逃げたくても逃げられないなら、覚悟を決めるしかない。


(さすがにドラゴンより恐いものはないよな)


 最悪でもあの時の恐怖よりはマシだ。アランは開き直った。戦力は十分とは言いがたいが、レオナールとルージュの連携や殲滅力は予想以上だったし、あとはそれに上手く妨害魔法や攻撃魔法を絡めれば、ゴブリン程度、


(頼むから大丈夫でありますように)


 楽観はできないが、悲観的な想像はなるべくしないようにしよう、とアランは心に決めた。この状況で脅えてミスをすれば、致命的である。


(本当、嫌な予感しかしないが)


 ナイトならともかく、ゴブリンキングにはまだ遭遇した事はないな、と思いながら。


 一行は更に先に進んだ。

アラングダグダ&熱血回?

ギルドやアドリエンヌ側の話を入れるか迷いましたが、今回はこれで。

ちょっと短いです。すみません。

次回、ギルドおよびアドリエンヌ側の話になります。

いけたらレオナールとアランの続きも書きたいけど、たぶん次の次あたりになると思います。


以下修正。


レオナールの台詞をいくつか漢字→平仮名に


×まとった

○纏った

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