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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
1章 ダンジョン出現の謎 ~オルト村の静かな脅威~
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3 お調子者の盗賊は捕らわれ、尋問される

「おい、レオ。お前のせいで、ものすごく悪目立ちしてる上に、俺の評価にまで悪影響出てるんだが」


 アランのぼやきに、レオナールは軽く肩をすくめる。


「そんなの今更でしょう?」


「あのな、初めて来た村で、しかも滞在して半日も経ってないのに、そんな事になってるのが問題だって言ってるんだ」


「気にしなくて良いわよ。私たちの依頼の評価をするのは村人じゃなくて、ギルド職員と依頼人なんだから」


「だから関係ないと? 状況によっては、滞在期間が延びたり、この村で食料や消耗品類を補給する可能性もあるんだから、下手に波風立てない方が良いに決まってるだろう」


「そんなに心配しなくても、大丈夫よ。致命的な何かは起こってないわけだし」


「起こしてたまるか! ……おっと、あまり大声で怒鳴らせるなよな、レオ」


「えぇ? アランが一人で騒いだだけなのに、私のせい?」


「原因がお前だと言ってるんだ。それくらい、わかれ」


「あなたのお母さんじゃないんだから、私に言わない事がわかるわけないでしょ」


 レオナールはヒラヒラと手を振り、困った子ねとでも言いたげに、首を左右に振る。

 それを見てアランは顔をしかめ、こいつに何を言っても無駄だと、嘆息した。


「……はぁ、夕飯食い終わったら、酒場で情報収集するつもりだったんだが」


「アラン、あなた、本当好きねぇ? そんなに集めてどうすんの?」


「情報が少ないより多い方が、間違いなく良いんだよ。玉石混交で役立ちそうにないものもあるが、母体が多ければ多いほど、より正確に、より広範囲に、より詳細に集まるからな。見える情報から、見えてこない情報を類推する事も可能だ」


「……ねぇ、アラン。私にそんな話するだけ無駄だと思うけど?」


 レオナールに気の毒な人を見る目で首を傾げられて、アランはガックリと俯いた。


「あー、悪かったな、脳筋相手に通じるはずがなかったよな。どうせ何もかも全部、俺が悪いんだな。お前に何か言ったり説明したりするだけ、時間と労力の無駄なのに。

 本当、俺は学習能力ないよな。お前が下手に人間語を話せるもんだから、ついうっかり話しかけちまうが、そうだよな、お前って外見(みてくれ)だけは良いオーガみたいな生き物だから、仕方ないよなっ」


「あなたみたいに体格は貧相なのに身長だけは無駄にある男が、変に拗ねたりごねたりしても、全然可愛くないわよ?」


「言っておくが、お前に対する厭味だからな、おい」


「相手に通じない厭味や罵倒なんて、人相手にゴブリン語やコボルト語を話すようなものよ?」


「ああ、その通りだなっ。お前と話してると、なんか無駄にへこむから、もう良い。飯がまずくなる」


「そうね、早く夕食頼みましょう」


 アランは仏頂面になりつつ、おかみに夕食二人前とエールを持って来てくれるよう頼んだ。レオナールの頭は既に夕食の事で一杯のようだ。アランは自分の余裕のなさと学習能力のなさに、自己嫌悪に陥る。


(あー、もう、駄目だ。今更レオに、期待なんかするな。人間だと思うから悔やむ羽目になるんだ。

 こいつは人間語を話す、ちょっと頭良さげな魔獣だと思ってりゃ良いんだ。どうせ状況判断とか調査とか分析とか戦闘指示や選択なんかは、俺の担当なんだから)


 サーベルボアの肉はソテーと煮込みを選択できたので、両方頼んだ。自分一人なら、どちらか一方だけでもきつそうな量ではあるが、レオナールが食べるから問題ない。その他に大麦のパンと野菜スープと羊のチーズが付いてきた。


 レオナールは山盛りの肉の大皿二つを見て、上機嫌である。緩みきった満面の笑みで、食前の祈りの言葉を口早に唱えると、大皿ごと口の中へ流し込まんばかりの勢いで食べ始めた。それを見てアランはゲッソリしつつも、遅れて食事を始める。諦念の表情だ。


 アランは酒場での聞き込みは諦めたが、聞き耳を立てる事にして、周囲に気を配りながら、食事をする事にした。どうせ食事中のレオナールとは、会話にならないので問題ない。


 絶対自分の方が、負担大きいよなと、ぼやきながら。



   ◇◇◇◇◇   



 結局、酒場では、夕刻前に集めた以上の情報は集まらなかった。こちらから話しかける事なく、周囲の雑談を拾い聞きしただけだから、仕方ないだろう。

 新たにわかった事と言えば、同じ宿にいるドワーフ戦士は、とにかく無類の酒好きで、村人達から絶大な賞賛と好意を得ているという事くらいである。


 二階へ上がり、アランが宿泊中の部屋に入ろうとした時、レオナールが肩をそっと押さえて制止した。


 驚いてアランが振り返ると、レオナールが首を左右に振り、目線と手の動きで、廊下に留まるよう指示すると、バスタードソードの柄に手をかけながら、静かにゆっくりとドアを開く。一見して、室内に人の姿はない。が、二人とも緊張は解かない。


 アランは耳を澄ませ周囲を見渡し、レオナールは一瞬屈んだかと思いきや抜刀し、飛び上がり、ベッドの上の天井辺りを叩き付けるように、剣を振り上げる。


「ちょっ、おいっ……!」


 木の割れる破壊音と、ギャッという小さな悲鳴、濛々と舞う砂埃。更に、バキバキと桟か何かが折れる音と共に、天井裏から8~10歳くらいの子供ほどの大きさの何かが落ちて来た。


「っ!」


 慌てて杖を構えるアラン。レオナールはそのまま制止することなく、着地と同時に剣を大きく薙いで、『それ』の胴体を真っ二つにする軌道を描く。


「うぁっ! ちょっ!!」


 叫びながら、『それ』は右から左へ横薙ぎにされた剣の軌道を避けて、身軽な動作で跳ねるように後方へ飛びすさるが、そこへ更に、左から右へと振るわれる追撃が来る。

 それを上体を仰け反らせて避けると、灰色のローブのフードが頭部からずれ、明るい金茶の短髪がこぼれ、尖った耳と幼い顔が覗いた。


「……小人族か」


 首元にピタリと皮一枚の距離で当てられた刃に、灰色のローブを着た少年は、諦めたように静止する。


「あー、もう、コッワイなぁ、お兄さん。こんなに愛らしくか弱いオイラに、そんな物騒なもの向けないでよ。おしっこちびっちゃうじゃない。

 にしても、ショボい安宿とは言え、ずいぶん思い切り良いねぇ。これ、修理代いくらかかっちゃうの?」


「……首に剣を突きつけられて、ずいぶんと神経が太いわね?」


「え~? お兄さんほどじゃないよぉ?」


「で? なんでこの部屋を狙ったの?」


「いやいや、別にここを狙ったわけじゃなくて、移動中に通っただけだよぉ。オイラは人畜無害で心優しい小人族だよ?」


「天井裏を移動する『人畜無害』とかあり得ないわね。それに、本当に人畜無害なら最初の攻撃で死んでると思うけど?」


「ねぇ、お兄さん、理由も聞かずに通りすがりの罪のない子供を殺そうとするとか、結構ひどいよ?」


「小人族の年齢など知った事じゃないわ。子供に見えても、オッサンとかザラなんだから。そもそも嘘つきの戯言なんて聞くに値しないわね」


「っていうか、顔だけはキレイなお兄さん、もしかしてオカ……」


 その瞬間、刃が小人族の首の皮一枚を薄く切った。


「っ!!」


 青ざめて硬直する小人族に、艶やかな微笑みを浮かべ、レオナールは首を傾げた。


「ん? 何か言ったかしら?」


 口調だけは優しげに、刃を押し当てながら、尋ねる。今度こそ脅えて動かなくなった小人族の傍らに、背嚢の中からロープとナイフを取り出したアランがしゃがみ込んだ。

 レオナールが刃を少し離すと、アランが小人族の背を押してうつ伏せにさせた。レオナールが動かないように押さえ、アランが拘束する。


 膝を折り曲げた状態で、背中で左手首と左足首、右手首と右足首をそれぞれ拘束し、左側のロープと右側のロープを背中で交差するように肩に回し、胸の前で更に交差させ、腰の辺りで巻いて、背中側できつめに縛り上げた。


 何度もやっているように迷いなく、手際が良い。打ち合わせも目配せ等もなく、拘束は速やかに行われた。その事に気付いて、小人族は戦慄を覚えた。


 レオナールは剣を背にしまい、代わりに腰に下げている大振りのダガーを抜く。それを見て、アランが小人族の肩を掴んで起こすと、床に正座するような格好になった。

 ただし、若干背は後ろに反るような姿勢のため、これが長く続くようなら辛くなると予想できた。


「あの、人間も小人族も、腰は前にしか曲がらないんだけど」


 おそるおそる駄目元で発言する小人族。


「ご希望なら、もう一つ関節増やしてあげても良いのよ?」


 一見穏やかに、しかし殺気を滲ませて、物騒な笑顔を浮かべるレオナール。


「ねぇ、アラン。これ、切り刻んでも良いかしら?」


「まだ駄目だ、聞く事があるからな。態度が悪いようなら、死なないように口が利ける程度に頼む」


「了ー解っ。ふふっ、楽しみねっ」


 え、え?と言わんばかりに小人族がキョロキョロ目を動かして、アランとレオナールを交互に見遣る。そしてアランが真顔で、レオナールの目が笑ってない事に気付いて、ぶるりと震えた。


「で、もう一度聞くわ。どうして天井裏にいたの? 嘘ついたら刻むわよ?」


「待て、尋問は俺に任せろ。俺が頷いたら、好きにして良いから」


 アランが言うと、レオナールは一歩後ろに下がった。アランは小人族の正面にしゃがみ込み、目線を合わせるように腰を下ろした。


「……さて、まずは名前から聞こうか?」


 小人族は涙目になった。



   ◇◇◇◇◇   



 小人族の名は、ダット。職業は盗賊。この場合の盗賊は犯罪者という意味ではなく、職能のことである。

 ダンジョンなどでの罠解除や鍵開け、偵察的な仕事を担う。もっとも、本人は認めなかったが、この小人族の場合、窃盗や侵入なども常習的にやっていそうだ。


「オイラの勘が言ってるんだ! あの神官は、何か隠してる、すっごいお宝を持っているってね!」


 つまり、同じ階に宿泊している神官風の男の部屋の様子を窺おうと、自分の部屋から天井裏を通って向かおうとしたらしい。この村へ来たのは、その神官風の男を王都から尾けた結果とのこと。


「……どう見ても『盗賊』だな」


 アランは顔をしかめた。ちなみに職能の意味ではない。


「斬り殺す?」


 嬉しそうに言うレオナールに、アランはうんざりとした顔で首を左右に振った。


「で、根拠は?」


 胡散臭そうに尋ねるアランに、ダットは笑顔で答えた。


「そんなものはないよ!」


 アランは大きく溜息をついた。


「なぁ、一度死ぬか?」


 その言葉にダットはギャッと飛び上がる。


「ギャーッ、やめてやめて!! こんなに善良でか弱く愛らしいオイラを殺したら、地獄に落ちるよ?!」


「ねぇ、アラン。こいつ、斬っても良いかしら?」


「……悩むところだな」


「やめてっ、悩まないでっ!! 斬ったらダメ!! 死んじゃうからっ!!」


「大丈夫、あなたなら胴体を上下に切り離されても生きてる気がするから」


 笑顔でレオナールが言うと、ダットはブンブンと首を左右に振って否定する。


「無理無理っ! オイラは軟体動物でも、スライムみたいな切っても増える流動性生物でもないから!!」


「……たいした情報持ってないみたいだし、宿酒場のおかみか主人に、物盗りとして突き出すか」


「斬っちゃ駄目なの?」


「あー、後始末が面倒だからな。それにほら、明日はダンジョン潜るんだから。人間の血は雑食だから汚れるって言ってただろう?」


「雑食って点においては、ゴブリンやコボルトもそう変わらないんだけど。まぁ、賞金首でもなければ、部屋が汚れるだけ損かしら」


「いずれにせよ、俺はこの部屋で一晩過ごす気はないけどな。見ろよ、お前のせいでベッドの上がゴミと埃だらけだ。あれじゃまともに寝られるもんじゃない」


「……そういう問題じゃないような。黒髪の兄さんも、毒されてない?」


「どういう意味だ?」


「やっぱり斬っちゃ駄目?」


 アランは溜息をつき、立ち上がった。


「とりあえず、一階に伝えてくる。レオ、こいつ見張っててくれ」


「抵抗したら斬っても良い?」


「ああ、抵抗したらな。……そういうわけだから、おとなしくしておいた方が良いぞ。こいつ本気でやるからな」


 アランの言葉に、ダットは震え上がり、涙目になった。


「えっ、ちょっ、黒髪の兄さん、オイラをこの物騒な兄さんと二人きりにすんの?」


「下手に動かない方が良いぞ? 無駄口もやめといた方が良いな。じゃ、行ってくる」


「いってらっしゃ~い」


「やっ、やめてっ! 置いてかないで!! この兄さんと二人きりとか勘弁してぇええぇーっ!!」


 ダットの悲鳴を背に、アランはドアを閉め、階下へ降りた。酒場の方ではまだ宴会が続いている。テーブルを拭いているおかみの姿を見つけ、近寄った。


「忙しいところすまない、おかみさん」


 アランの声に、おかみは振り返った。


「おや、アランさんだったかい? どうしたんだい、何か注文かい?」


「いや、俺が宿泊する予定の部屋に、盗賊らしき男が侵入したんだ。連れもいたので、捕らえてロープで拘束してあるが、部屋の一部が壊れたり汚れたりして、使えそうにない。

 あと、自警団か何かあるようなら、その盗賊を引き渡したいと思ってな」


 アランの言葉に、おかみの顔が険しくなった。


「盗賊だって?」


「灰色のローブを着た、小人族の男だ。年齢は良くわからない。軽く尋問したところ、ダットと名乗り、俺の隣部屋を狙ったと言ってるんだが、実際天井から侵入したのは、俺の部屋だからな」


 正確には自発的に侵入したわけではなく、レオナールが天井を攻撃したせいで、落ちてきたのだが。

 好んで罪を犯す気はないが、言わない方が良い事を、進んで口にする性分ではない。

 正直である事が美徳だとは思わない。レオナールのように人に迷惑かけてまで好き勝手に振る舞おうとは思わないが、アランだって人並みに自分の事が可愛いのである。


「ちょっと待っておくれ」


 おかみはそう言うと、宴会しているテーブルへと向かう。


「村長、ちょっとお話が」


 どうやら、ドワーフと一緒に座っている農夫らしき男の内、一番年上の男が村長だったらしい。


「うん? オルガ、どうしたのかね?」


「実は……」


 おかみが小声で耳打ちすると、村長の顔が険しくなった。


「何!?」


 不穏な気配に、他の農夫やドワーフの表情も変わる。


「どうなさいましたかな?」


 ドワーフが尋ねると、


「うむ。おぬし達にも来て貰おう。男手は多い方が良いからな」


 村長を筆頭に、ドワーフ含め六人の男達が、おかみと共にアランの方へ歩いて来る。


「その捕らえた盗賊やらは?」


 厳しい表情で問う村長に、アランは頷く。


「初めまして、村長。アランと申します。盗賊は、俺が宿泊するはずだった部屋です。拘束して、相方の金髪の剣士、レオナールに見張らせています」


「ふむ、まずは部屋へ向かおう。オルガ、あんたはセルジュにこの事を伝えて、念のため戸締まりしておくれ。

 わしの家よりここで拘束したまま皆で見張って、朝一番にロランへ連行した方が良いだろう」


 おかみは青ざめた顔で頷き、厨房の方へと駆けていった。


「では、案内して貰おう」


 睨むような目で、村長がアランを見上げた。アランは頷き、


「では、ついて来て下さい」


 そう告げて、部屋へと向かった。

書く度に、予定(予想?)より長くなっているような気が(汗)。

次話でダンジョン探索開始できると良いなぁ、と思いつつ(←無理かもしれない)。

もっと要らないシーンをガッツリカットすべきでしょうか。


以下修正

×ハーフリング

○小人族

×荷袋

○背嚢

×大振りのナイフ

○大振りのダガー


ダットの一人称が複数あったので「オイラ」に統一。

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