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11 皮肉屋魔術師は眩暈を覚える

戦闘および残酷な描写・表現があります。

 レオナールが抜刀、その勢いで剣持ち2体を凪ぎ払い、踊るようにステップを踏み、襲いかかろうとした槍持ちの腹を凪ぎ、杖持ちの側面に回り込んで、首に剣を叩きつける。

 次いで、ルージュがグルリと回転して、尻尾で残りの剣持ち3体を凪ぎ払う。


「うぇっ……ぐっ」


 振り回されたアランが必死にしがみつきながら呻く。


(無理無理無理、絶対無理! これは本気で死ぬ!)


 慌ててローブの下の腰から提げているナイフを手に取ろうとするが、上下左右に揺れる上に、時折大きな横揺れが来る。横揺れも微妙に上下動がある。


(あ、くそ、これ)


 もしかして詰んだ、というやつなのではなかろうか、とアランは青ざめた。が、ルージュが静止し、レオナールが剣を鞘に納める気配がした。


「アラン?」


「……死ぬかと思った」


 アランがボソリと呟くと、レオナールが肩をすくめた。


「大袈裟ね。これくらいで死なないわよ」


「もう限界、どう考えても無理だ。降りたいから手伝ってくれ」


 アランがゲッソリしながら言うと、レオナールは面倒臭そうな顔をしつつも、結わえていたロープを外して降りるのを手伝った。


「きゅうぅ」


 ルージュが甘えてねだるような声を上げる。


「ちょっと待って、アランが降りてからね」


 よろめくアランを支えながら、ルージュに言う。ルージュは不満そうに鼻を鳴らしつつも、アランが降りるのをじっと待った。

 ようやく地面に立つと、アランは安堵しながら腰を下ろす。


「きゅう?」


「ええ、もう良いわよ。足元近くにアランがいるから踏まないようにね」


 レオナールがルージュの鼻先を撫でて言った。


「きゅきゅう!」


「……上下の揺れもひどいが、更に左右の揺れも来るから、俺が竜に騎乗して移動するのは、無理があるぞ」


 アランが言うと、レオナールは肩をすくめた。


「良い方法だと思ったんだけどねぇ。ま、無理なら仕方ないわ。なるべく早く、巣の近くまで移動したかったんだけど。森を馬で移動するのは無理そうだけど、竜ならいけると思ったのに、上手くいかないわねぇ」


「まともな鞍を作ったとしても厳しいと思うぞ。運動能力あるやつだと、また違うかもしれないが」


「ふぅん、今度試しに乗ってみるわ」


 レオナールの言葉に、アランがギロリと睨んだ。


「お前、自分が乗ったことないのに、俺にやらせたのか?」


「だって、私よりルージュの方が遅いんだもの。わざわざ乗る必要ないでしょ? この子が空を飛べるようになれば、話は別だけど」


 レオナールは肩をすくめた。


「俺の運動能力と体力のなさは知ってるだろ。勘弁してくれよ」


「そうね、次から気をつけるわ」


 絶対当てにならないだろうと、アランはガックリした。


「他の冒険者のパーティーに邪魔されない内にできるだけ多く狩っておきたかったけど、仕方ないわ」


「頼むから置いてきぼりにするなよ」


「なるべく気をつけるわ」


「なるべくじゃなくて、絶対頼む。距離があれば大丈夫だが、近寄られたら何もできなくなるからな」


「了解」


 ルージュの食事が終わり、一行は歩き出した。ルージュとレオナールが索敵するので、レオナールと二人だけの時より、索敵範囲が広範囲になり、より的確になっている。嗅覚と耳の良さでルージュが、目の良さでレオナールがより優っているようである。


(移動中の俺って、位置確認以外、もしかしてあまり役立ってない?)


 一瞬顔をしかめたが、気にしない事にした。ここ数日はともかく、ほぼ毎日、日に3~4回一緒に狩りに行っていた事もあり、オルト村からの帰りと比べて、言語を介さなくても、レオナールとルージュの意思疎通と連携がスムーズになっているように見える。

 ルージュと視線でなにやら確認したレオナールが振り返り、指で次の敵のいる方を指し示す。アランが頷くと、ルージュと共に駆け出した。アランが遅れて足早に後を追うが、あっという間に引き離される。


 レオナールが抜刀、ゴブリン1体を行動不能にすると、次々に斬りかかる。ルージュがレオナールとは逆の方角にいるゴブリンたちを、尻尾を振って薙ぎ倒す。

 アランがようやく敵を視認した時には、16体のゴブリンの屍が転がっていた。


(……なんか本気で俺、ついて行ってるだけになってる気が)


 タラリと額に冷や汗が浮かぶが、1人と1匹は全く気にした様子はない。実に楽しそうに、生き生きとしている。

 ルージュが次の食事タイムに入ったところで、アランがレオナールに声をかける。


「なぁ、いつもこんな調子なのか?」


「そうね、だいたいそうだと思うわ」


「……お前らを野放しにしておいたら、本気でこの森の魔獣と魔物が全滅しそうだな」


「そんな事はないわよ? ここ、わりと広いもの。この森の北と南じゃ、植生の違いもあるのか、生息してる魔獣や魔物も違うし、こっちである程度狩ったら、北にも行くし。

 初心者冒険者の依頼の邪魔しちゃ悪いから、ゴブリン見つけるまでは、なるべくまんべんなく狩るようにしてたんだから」


 一応自分たちもランクの上では、初心者冒険者のはずだよな、とアランは苦笑した。


「俺よりお前の方が、この森については詳しそうだな。この依頼が完了して、全て収束したら、教えてくれ」


「それは無理よ。そんなのいちいち覚えてないもの。私が覚えてるのは、何を狩りたい時に、何処へ行けば良いかって事くらいよ」


 レオナールの言葉を聞いて、アランがしょっぱい顔になった。


「……お前に、自分の興味のない事も記憶できる能力があれば、最高に有能だったろうな」


「世の中そんなもんよ。アランだって似たようなものじゃない」


「きゅう!」


 ルージュの食事が終わったらしい。


「じゃ、行きましょうか」


「俺、も?」


 マジか、とアランは少々落ち込んだ。



   ◇◇◇◇◇



 結局ゴブリンの巣にたどり着くまでに、計4回の戦闘があった。


「確かに遭遇頻度が多いな」


 そして、アランは今日、一度も魔術を使用していない。レオナールとルージュの後を追いながら、時折メモを取ったり、日の差す方角を確認したり、簡単な植生の確認などを行っただけである。

 しかし、特攻癖のあるレオナールと行動していると、このような事はほぼ日常茶飯事である。ただ、これまでは、魔獣や魔物との遭遇頻度が比較的少ない街道であれば、だったが。


(ダンジョンとか、魔獣や魔物の巣でも、こういうのが普通になったら、マジで魔術の訓練やらないと腕が鈍るな)


 結局のところ、アランの魔術が必要になるのは、レオナールが手こずったり、掃討するのに時間が掛かる量の敵に遭遇した時なのだから。

 いざという時、使えませんでした、間に合いませんでした、などという事になったら、目も当てられない。


 魔法・魔術は繊細だ。一つ文言を間違えれば、発動しなかったり、違う物になったりする。全ての古代魔法語が解析されているわけではなく、今も新しい文字や語句の発見がある。

 それら全てを把握している魔術師・研究者は、おそらく何処にもいないだろう。もしかしたら、エルフなどの長命種ならば知っているのかもしれないが、彼らの知識・情報の大半は、隠匿されている。


 アランは巣の周辺の大まかな地図と、ロランからのだいたいの距離・方角などを書き留め、メモを懐に仕舞い込んだ。


「よし、もう良いぞ。で、次はどうする?」


「ねぇ、アラン。今日は何か嫌な予感がしたりしない?」


 満面の笑みで、レオナールが言う。思わずアランが渋面になる。


「……お前、俺をトラブルまたは強敵探知機か何かだと思ってないか?」


「思ってるわよ? ねぇ、何かない?」


 アランは顔をしかめ、首を左右に振った。


「今のところ、特にないな。だいたい俺のそういう予感は、何の情報もなく、突然空から降ってくるわけじゃないからな」


「あら、そうなの?」


 レオナールは意外そうな顔をした。


「事前情報からの、俺自身が自覚できない推測とか、それまでの観察・分析からの違和感か見逃し、本能みたいなものが元になって、警告してくるんだと思うぞ、たぶん」


「たぶん、なの?」


 レオナールが首を傾げた。


「自覚できて、理解できてるなら、嫌な予感とかじゃなく、最初からこうだ、と判断できるわけだからな。お前みたいに気分や直感、本能で行動してるわけじゃない」


「なるほど。じゃ、現時点では情報が少なすぎるってわけね」


「そういうことだ」


「役に立つようで、立たないわね」


 肩をすくめるレオナールに、アランはムッとした顔になる。


「仕方ないだろ、制御できるものなら、とっくにしている。で、お前の直感はどうなんだ?」


「特にないわね。とりあえず、よりゴブリンがいる方角へ行けば良いと思うけど?」


「じゃ、索敵して、近辺のゴブリンを探すより他にないな」


「今度、私やルージュの索敵範囲よりも、広範囲に探せる魔法とか仕入れておいてよ」


「そんなもの、店で売ってるもんなら、俺も欲しいけど、欲しい魔法や魔術が、必ずしも見つかるとは限らないんだよ。まぁ、今度、駄目元で古書店や骨董店に行って探してみるけど」


「ダンジョン発掘品もそうそう見つからないっていうか、仮に発見されても、庶民の手には入らなそうだしね」


「便利で強力な魔法は、たいてい貴族や王族、大金持ちが独占してるからな」


 アランは肩をすくめた。


「前回の依頼の分も含めて、貯金も少しずつ増えてるから、購入可能な金額で、使えそうな魔法見つけたら、入手・解読して使えるようにする」


「了解、期待してるわ」


「……こればっかりは、運もあるから何とも言えないがな」


「やっぱり金はいくらあっても、足りないわね。もっと稼ぎたいわ」


「無理しない程度にな。怪我をしたり病気になったりしたら、元も子もない」


「きゅきゅーっ!」


 ルージュがブンブンと尻尾を振り、ビシッと尻尾の先で、やや北寄りの北東方面を指した。


「見つけたの!? よし、行くわよ!!」


 そう言うと、レオナールが駆け出す。ルージュもその後を追い、アランも慌てて後を追う。

 その方角、木々の間に、先に見つけたゴブリンの巣のある処とは別の、新たな岩壁が見えて来る。


(……なんか、大きくないか?)


 嫌な予感がする。近付くにつれて、大きな岩山が見えて来る。目測だが、その岩山は、この森のほぼ中心部であるようだ。

 この森には時折入った事があるが、こんな奥まで来たことは一度もない。新たに見えてきた岩山は、ちょうど、ロランからオルト村への距離の半分くらいに見える。

 森の中で馬に乗って走る事などできない上、木の根や枝などがあるため、早足で移動しても、倍近い時間がかかるのだが。


 あの岩山に、もし、別のゴブリンの巣か何かあるとしたら。アランはゾクリと、背を震わせた。

 アランがレオナールたちの元へたどり着いた時、既に戦闘が始まっていた。数が多い。ざっと二十はいる。即座に杖を取り出し構え、詠唱に入る。


「其れは、汝らの足下に絡む、容易にほどけぬ魔術の網、《鈍足》」


 発動を確認すると、次の詠唱を行う。標的は、レオナールとルージュから遠い、弓持ちのゴブリンたちとした。


「火の精霊アルバレアと、風の精霊ラルバの祝福を受けし、炎の旋風よ、標的を中心として、渦巻き、焼き尽くせ、≪炎の旋風≫」


 標的にしたゴブリンを中心に、炎の風が渦を巻きながら、音を立てて燃え上がる。どうやら、目視で確認できる全てのゴブリンを掃討したようだ。


「敵が多い時のアランの魔法は便利だけど、ルージュの餌が減っちゃったわね」


 レオナールが肩をすくめて言い、


「きゅう……」


 と、ルージュがションボリしたように鳴いた。


「えっ、まさか俺に、攻撃魔法使うなって言うのか?」


「そういうわけじゃないわよ。助かるのは間違いないし。ま、その分たくさん狩れば済むものね!」


「きゅきゅう!」


 バシバシ、とルージュが尻尾で地面を叩いて頷いた。


「なんだよ、それ。だったら不満そうな口調で言うなよな」


 アランはチッと舌打ちした。


「あはは、言ってみただけよ」


「言いたかっただけとか、勘弁してくれ」


 アランは思わず溜息ついた。『こいつら似たもの同士なんじゃないだろうか、レオナールがもう1匹増えるとか、タチが悪い』と、軽い頭痛を覚えた。


「ところで」


 レオナールが、ニンマリ笑みを浮かべた。


「さっきより数が増えたし、更にちょっとだけ硬くなったみたいね」


 アランはハッと顔を上げ、蒼白した。


「おい、まさか……!」


「いよいよ楽しみになって来たわね、ルージュ!」


「きゅきゅーっ!きゅきゅきゅっ!」


 興奮したようにドタンドタンと地面を踏み鳴らし、尻尾を左右にブンブン振るルージュ。ルージュのいる近辺の地面が、えぐられ、圧縮されるのを見て、


(ヤバイ……こいつら、マジでヤバイ……)


 アランはクラリと眩暈を覚えた。

なんとか日付変わる前に書けました。


以下修正。

×狩りに発見されても

○仮に発見されても


×木や枝などがあるため

○木の根や枝などがあるため


×東方面を刺した

○東方面を指した

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