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6 親睦会の準備と会食

「……いったい、何の騒ぎなの?」


 うたた寝していたレオナールが寝室から出ると、ちょうどリュカが現在は使用していない食堂室に、燭台を運んでいるところだった。


「やぁ、レオナール。アドリエンヌとの親睦を深めるための夕食会が、明日の夜に決まったから今、その準備をしているところなんだ。良かったら、君も手伝ってもらえるかな?」


 そう言われて、レオナールは首を傾げた。


「え? まさかここでやるの?」


「そうだよ。アランから聞いてないかい? 彼は今、台所でその下準備中だよ」


「……寝てたから、声掛けなかったのかも。っていうか、ここでやるんだ。しかも、料理担当がアラン?

 ……それって、ギルドマスターの無茶振り?」


「そう。ちなみにクロードは今日は残業で遅くなると思うよ」


 にっこり笑ってリュカが言うと、レオナールがニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「そう。たまには良いんじゃない? で、ここに何人来てるわけ?」


「ギルドの男性職員3名、女性職員4名、僕も入れて8名だね」


「それって留守番は鑑定士含めて3人だけって事よね? 大丈夫なの?」


 ニヤニヤ笑いながら、レオナールが尋ねた。


「そうだねぇ、たぶん夕方になったら、クロードも応援で窓口に座る事になると思うよ?」


 リュカが黒い笑顔で答えた。


「まぁ、それなら問題なさそうね、ふふ」


 レオナールがにっこり微笑んだ。


「で、何をすれば良いの?」


「外に運ぶものが積んであるから、適当に持って来てくれるかな? 振り分けは僕か、玄関付近にいる誰かに聞いてくれれば良いから」


「喉が渇いたから、水か何か飲んだら、そうするわ」


「台所はアランと妻のエロイーズとエドモンとジゼルだな。エドモンとジゼルは補助と荷物運び要員だけど」


「ふぅん、ジゼルも来てるんだ」


 ニンマリ笑うレオナールに、


「あんまりからかわないでやってくれよ? アランの鈍さだけでも可哀想なんだから」


「え~? だってあの空回り具合が面白いのに」


「せめてジゼルがいない場所でやってもらえないかな?」


「やぁねぇ、ジゼルのいる前でやるから良いんじゃない。でも、アランってば今は恋愛する気さらさらないから、たぶん何やっても言ってもムダだと思うわよ?」


「頼むから、それは絶対ジゼルの前では言わないでくれよ」


「わかってるわよ、言わない方が楽しいもの」


「……そういう意味じゃないんだけど、まぁ、いいか」


 諦めたようにリュカは言った。


「じゃ、また後で」


 そう言ってレオナールは台所へ向かった。レオナールが着いた時、ちょうどアランがエドモンと協力してブイヨンを別の鍋に布で濾しているところだった。


「アラン、お疲れ様。災難だったわね」


 レオナールが声をかけると、アランは顔をしかめた。


「お前に言われたくはないんだが」


「あら?」


「これも連帯責任ってやつなのかもしれないけど、でもどっちかって言うとギルドマスターの思いつきって気がするんだよな。

 あのおっさんが、そんなに細かい事や裏を考えるはずがない」


「それは同感ね。ついでに言えば、安くあげようとしたんじゃないかしら」


「店でやるとなると、そこそこのグレードのとこじゃなきゃかっこつかないだろうからね。

 もっと安くあげたいなら、ギルド付属の酒場を使えば良いだろうけど」


 エドモンが苦笑しながら言う。


「今日できる事はもう終わったから、後はパーティー会場の設営と掃除だな」


 アランが言う。


「ふぅん、水が飲みたくて来たんだけど」


「よし、井戸で飲んでついでに汲んで来てくれ」


 アランがレオナールに良い笑顔で言う。


「え~っ?」


「冷たい新鮮な水が飲めて一石二鳥だろ。頼む、レオ」


「はぁ、面倒くさいわ」


 そう言いながらも水瓶を担ぎ上げる。少しは悪かったという気持ちがあるのかもしれない。あるいは冷たい水、に心惹かれたのかもしれないが。


「なぁ、レオ」


「何? アラン」


「明日、出席しないわけにはいかないけど、お前はずっと黙ってても良いからな」


 アランの言葉にレオナールはプッと吹き出した。


「アラン、どれだけ過保護なのよ。別に私、子供じゃないのよ? 面倒だしウザイし気に食わないけど、あっちがわざわざ喧嘩売って来なきゃ、相手なんかしないわよ?」


「おい、喧嘩売られたら買う気なのかよ!」


「そりゃ当然でしょ? 売られたら買うし、相手が降参するか、こっちに向かって来なくなるまで潰すわよ。闇討ちとか報復とか面倒だもの。潰せる時にキッチリ潰すわ。

 ネズミや害虫と一緒よ。私のテリトリー以外のところで何をどうしようと気にしないけど、私のテリトリー内では自由になんかさせないわ。その都度、キッチリ潰した方が楽じゃない」


「人間と害虫を一緒にするなよ」


「人間は町の中で殺してないわよ? 殺しておいた方が良さそうなのも含めて」


 レオナールは笑う。


「一応手加減はしてあげてるもの。相手が模擬戦でもないのに、武器や魔法で攻撃してくるようなら容赦する気は無いけど。

 『自己防衛』のために仕方なくなら、良いんでしょ?」


 アランは苦い顔になる。


「まぁ、それを禁じてお前に危険が及ぶようなら仕方ないが、頼むから不必要に斬るなよ?」


「ええ、安心してちょうだい」


 そう言って立ち去る。


「大変だな、アラン」


 エドモンが他人事のように言う。


「……ああ、見た目が人間の姿なだけに困る事が多いけどな。相手が、あいつを魔物か猛獣みたいなものだと認識してくれたら、もっと楽になるんだがなぁ」


「それは無理だろう。どう見ても人間あるいはハーフエルフで、それ以外にはとても見えないからな」


「あいつは人間の常識に自分を合わせる気がないからな。頭が痛いよ」


「でも面倒見るんだろ?」


「俺が見捨てたら、どうなるかわからないからな。たぶん俺以外にあいつの面倒見たがるやつはいないから、何とかしてやりたいと思ってるんだ」


「過保護過ぎるだろう。いっそ好きにやらせてみたら?」


「バカ言うな。あいつがやりたい事やったら、その日の内に賞金首になるのは間違いない」


「あながち冗談に聞こえない辺り恐いな」


「ただの事実だ」


「……本気で言ってるのか?」


「あいつは自分とそれ以外の区別はかろうじてついてるが、人間とそれ以外の区別はないからな。魔獣も魔物も虫も人も同列だ。

 俺やダニエルのおっさんが駄目だと言うから、むやみと人を殺さないようにしているだけだ」


 アランの言葉にエドモンが肩をすくめた。


「なんで、あいつと組んでるんだ? メリットないだろ」


「……たぶん、責任感じてるんだな。別に俺がそんなもの感じる必要なんかないんだろうけど、でも、あいつがああなる前に、助けられるやつがいたとしたら、俺だけだったんじゃないかって後悔があるんだと思う。それにあいつのおかげで、村を出られたってのもあるし。

 別に故郷や家族が嫌いなわけじゃないぞ? でも、ずっと感じてたんだ。俺の居場所は、ここじゃないって。レオとレオの母親のシーラさんがいなかったら、俺は今でも村で家事手伝いしてたと思う」


「難儀なものだな。ま、疲れて投げやりにならない程度に、頑張れ」


「ああ」


 アランは笑い、空になった鍋を洗うために持ち上げた。



   ◇◇◇◇◇



「この家で『親睦会』なんかやろうと考えたやつは死ぬべきよね」


 笑顔で言い放ったレオナールの言葉に、アランが顔をしかめた。


「おい、殺すなよ?」


「ふふ、殺さないわよ? ああ、言葉の選択をちょっと間違えちゃったかしら」


「ちょっとじゃねぇよ! まぁ、でもあの人は俺達が願うまでもなく、死んだら絶対地獄行きだろ」


 パーティー会場予定の部屋の掃除と飾り付けが完了した。椅子とテーブルとテーブルクロスと花瓶以外のものは全てサブギルドマスターのリュカの家から運ばれたものである。

 台所には、食器やコップ、カトラリー類や、それらを運ぶためのトレイなどが運び込まれた。


「それで、更に玄関や廊下も飾り付けるって? 正気?」


 レオナールの言葉に、アランはちょっと悩みかけた。


「いや、でも、さすがにそのままだとシンプル通り過ぎて殺伐としてないか?」


 アランが嫌そうな顔で言うと、リュカが肩をすくめた。


「クロードは、自分が必要だと思う物以外置かないし、要らないとなったら、思い切り良いからね」


「せめて絨毯くらいは敷いた方が良いと思うけど」


 ジゼルが言う。


「絨毯ねぇ? 重量が結構あるのはともかく、これをまともに敷くとなると、結構面倒くさいわよね」


「なんかもうどうでもいい気分になってるのは確かだな」


 アランが溜息をつく。


「けど、敷いた方が足音とか吸収されるだろ。歩く度に音が家中鳴り響くってのは、俺達しかいない時はともかく、複数人集まるような時は、ちょっとまずいだろ」


「私、もうご飯食べて水浴びして寝たいんだけど」


「明日に回すか?」


「いや、今やってしまった方が良いだろう。エドモン、手伝ってくれないか?」


 リュカが言った。エドモンは肩をすくめたが、リュカと共に絨毯を運び出す。


「ジゼル、もう結構暗いけど、帰らなくて大丈夫か?」


「さっき摘まんだ軽食でお腹いっぱいで、もう寝るだけだから、いつでも大丈夫よ」


「さすがに遅くなると、帰り道が恐いだろう?」


 アランが眉をひそめて言うと、


「じゃあ、アランが送ってくれる?」


「え? なんで俺が送るんだよ。ひ弱で体力ない魔術師にそんな事させるなよ。まだレオとかエドモンのが良いだろ?」


 アランが言うと、ジゼルは不機嫌な顔になった。


「本当、アランって気が利かないわよね」


「は? なんでだよ。俺じゃガード役は無理だろ。エドモンなら背は高いし、体格もギルド職員の中じゃ一番良いだろ。レオは、人避けには良いだろうし」


「……もういいわよ。アランには頼まないから」


 ジゼルは溜息をついた。


「当たり前だろ。俺にやれって方が無理だろう。お前、時折わけわかんない事言うよな」


 呆れたようにアランが言った。


「大丈夫? ジゼル」


 ジゼルと仲の良いドーラが声を掛けた。


「ええ、大丈夫よ。有り難う、ドーラ」


 その様子をレオナールが笑いをこらえるような顔で見ていた。


「……どうした、レオ?」


 不思議そうにアランが尋ねると、


「ふふ、何でもないわ。やっぱりアランって面白いわね」


「は? 何がだよ。お前が面白がるような事があったか?」


「良いのよ。そのままの方が面白いから、ぷぷっ」


 アランは、レオナールがおかしいのは今更だと判断して、肩をすくめた。残りのギルド職員達はこちらを見てはいたが、話しかけては来なかった。


「おっ、ずいぶん変わってるな」


 ドアが開き、家主が帰宅した。それを見てレオナールが駆け寄る。


「お? レオナール、どうし、……っ!!」


 慌ててクロードは飛び退いた。


「おい、こら!! なんで殴ろうとする!!」


 そのまま玄関先で拳と蹴りの攻防を始める二人。あいつ元気だな、とアランはぼんやり見た。


「ちょっと! 一発で良いから殴るか蹴るかさせなさいよ!!」


「なんでだよ!! 疲れて帰って来た俺を珍しく出迎えてくれたのかと思いきや! 一発でも殴らせろとか、嫌に決まってんだろ!!」


「往生際悪いわよ!!」


「いやいや、俺、何も悪いことしてないだろ!? 理由もなく殴られるとか、そんな酔狂じゃねーからなっ! 確かに昼間は鍛錬見てやると言ったが、今じゃねぇよ!!」


「鍛錬じゃないわっ! 一発で良いから殴らせろって言ってるだけじゃない! ケチねっ!」


「そういう問題じゃないからなっ!」


 そんな二人を見て、リュカは


「元気だねぇ」


 と言い、エドモンは


「あの辺は後回しですね」


 と言った。


「ちょっ……なんで誰も助けてくれないんだよ! 俺が何したっての!!」


「ギルドマスター、すいません、オレ、疲れてるんで」


「頑張ってください」


 そして、クロードはよそ見をした隙に、足を引っかけられて、鳩尾を一発殴られた。


「ぐほっ……!」


「やっと決まった! はぁーっ、さすがにちょっと疲れたわ」


 レオナールがその場で壁に寄り掛かるように座り込んだ。


「ぐっ……くそっ、おい、なんで俺が殴られなきゃならないんだ」


 クロードが噛み付くようにレオナールに文句を言う。


「腹いせ? ほら、思いつきで面倒なことさせられたから」


「……俺が悪いってのかよ」


 クロードが呻いた。



   ◇◇◇◇◇



 翌日の夕刻。


「やっと終わった……!」


 アランがグッタリと、台所の椅子に寄り掛かって、呻くように言った。


「お疲れ様、はい、水」


 レオナールがアランに水の入ったコップを手渡す。


「おいしいですね、このスープ。今度、改めてレシピ教えて下さいね」


 料理の支度を手伝ったエロイーズがそう言った。水を飲み干したアランが、破顔する。


「はい、こちらこそ助かりました。でも、特別な事は何もしてないですよ」


「アランさんは、仕事が丁寧なのね。具の大きさも計ったように均一だし」


「あー、大きさが不揃いだと、火の入り具合が微妙なんですよね。毎回同じ大きさにしておけば、火の調整とか時間とかも、味見しなくても読めるようになるし。

 効率考えたら、手を抜けるところとか、丁寧にやるところとか決まってくるんですよね。特にスープは歯ごたえとか口当たりとか、大事だと思うので」


「なるほどねぇ、勉強になるわ。お手伝いに来た私の方が得しちゃったかも」


「いえいえ、エロイーズさんの助言で入れた香草とか、思ったより良くて、都会の人はすごいなって思いました。俺の故郷にはなかったので。

 使ったことない食材使うのって勇気要りますよね」


「それはわかるわね。私も新婚の頃は失敗ばかりして、リュカにとんでもない料理食べさせちゃったわ。

 リュカってば、炭にしちゃった時以外は食べてくれるものだから、私、しばらくリュカは味音痴なのかと思ってたの」


「……うわ、それはすごいですね」


 アランは何とも言えないような顔でそうコメントした。レオナールは、そんなアランを見て、本当は『それは気の毒に』を言い換えたんだろうな、と判断した。

 玄関の呼び鈴が鳴り響いた。アランがすっと背筋を伸ばして、玄関へ向かう。レオナールはその数歩後についていく。


「今晩は、お招きに預かり、有り難い。なんでもアラン殿がわざわざ腕を振るっていただいたとか?」


 オーロンと、その背にしがみつくように白髪の少女レイシア、褐色髪の美女アドリエンヌ。


「こんばんは。本日はご足労いただき、有り難うございます。では、こちらへどうぞ」


 一礼し、アランは方向転換して、会場へと案内する。


「ほう、アクラナの花ですか。この辺りにしか咲かないようですな。初めて実物を拝見した」


 オーロンが満足そうに頷いた。レイシアは緊張している。アドリエンヌはすまし顔だが、一言も口を開かない。奥からギルドマスターのクロードと、サブギルドマスターのリュカがその妻エロイーズを伴って現れる。


「ようこそ、我が家へ。今宵は友人の家へ来たような感覚で、無礼講で楽しんで貰えれば幸いだ」


 笑って言うクロードの姿は、意外に貫禄があり、普段のふざけたオヤジの姿は欠片もない。普段は生やしっぱなし伸びっぱなしで放置されている顎髭も、きちんと整えたようである。

 ジゼルとドーラが、ワインの瓶とグラスを運んで来る。全員に、ワインが注がれたグラスが行き渡ると、クロードがグラスを掲げる。


「それでは、皆の親交がより深まることを願って、乾杯」


 唱和して、親睦会が始まった。席順は入り口ドアから見て、一番奥にクロード、右手にリュカ、エロイーズ、アラン、レオナール、左手に、オーロン、レイシア、アドリエンヌである。


「故郷のウル村で良く食べられる料理を作りました。……それ以外は作れないので」


 アランが愛想笑いを浮かべて言った。


「ふむ、見た目はシンプルだが、美味いな。ワインが進む」


 嬉しそうにオーロンがワインを傾ける。レイシアがスープを美味しそうに食している。アドリエンヌが複雑そうな表情で黙々と食べている。

 レオナールは肉だけ取って食べようとして、アランに睨まれ、しぶしぶと言った感じでサラダや野菜のチーズ焼きも取った。


「アランは、家にいた時から料理をしてたの?」


 リュカが声をかける。


「ええ。うちは六人兄弟で、上に兄が二人、下に弟が二人、妹が一人いるんですが、家にいた頃は妹を背中に負ぶいながら、家事をしていました。

 最初は母が作ってたんですが、途中でまかされるようになって。家で作ってた時は、もうちょっと塩を足していましたけどね。自分の好みで作ると、味が薄いと文句言われるので」


「農家だとそれは仕方ないかもねぇ。炎天下で汗をかくから」


「俺は、農家の三男に産まれたくせに、日差しに長時間当たると倒れたりするんですよね。

 労力にならないどころか、邪魔になるって言われて。今は少しは体力はついたし、ローブのおかげもあって、昔よりマシですが。でも、農業は無理そうです」


「魔術師になりたくて、必死で頑張ったんだよね?」


「はい。このまま家で厄介者にはなりたくなくて。才能があるってわかった時は、目の前が開けた気分でした。

 この世に、自分の力を振るえる場所があるとわかって、思わず身体が震えましたね」


 アランは笑った。


 豆のスープは、みじん切りにしたにんにくを炒め、玉葱のみじん切りを加えて透き通るまで炒めた後で、豆とベーコンを加えて香草とブイヨンで煮込み、塩胡椒で味を調えたものだ。

 芋のトマト煮は、ベーコン・芋・玉葱・にんじんを炒めて水を加え、ひと煮立ちさせてから、トマトを加えて煮たもので、素材の味がそのまま生かされている。

 野菜と豚肉のチーズ焼きは、塩胡椒した豚肉と野菜にオイルを絡め重ねたものに、粉状に摺り下ろしたチーズを振りかけて焼いたシンプルなもの。

 野菜サラダは葉野菜やトマトなどに軽く塩胡椒して、オイルを絡めたもの。

 鶏の香草焼きは、塩胡椒して、皮に細かく切れ目を入れた鶏肉に、細かく刻んだ香草と小麦粉を絡めて焼いたものである。

 どの料理も複雑さはないし、装飾的なものもない。色は素材そのもので、ソースなどが使われたりもしていない。全て必要最小限の塩と胡椒でのみ味付けされており、使われている香草も、この近辺ではありふれた代物である。


「……美味しい……」


 アドリエンヌがぽつりと呟いた。


「まぁ、小器用なアランの隠れた特技の一つだな」


 クロードが言った。


「……小器用ってなんですか」


 アランが言うと、


「お前、何かやらせると、大抵すました顔で、良くも悪くもない程度に、さらっとこなすだろ、運動と重労働以外」


「別にすましてないですし、さらっとこなしたりもしてません。ていうか良くも悪くもない程度って、どんなのですか」


「文句つけたくなるほど酷くもなく、それで食っていけるほど良いわけでもなく? 一言でいえば、可愛くない、だな」


「……何ですか、それ」


「おい、アドリエンヌ。何か食べたい料理あったら、こいつに作らせてみろ。具体的に説明すればするほど、記憶の中にある味を再現できるぞ」


「本当ですの!?」


 アドリエンヌの瞳が輝いた。


(あれ?)


 アランは怪訝な顔になった。


「おう、うろ覚えのレシピでも大丈夫だ。たぶん、後はこいつが何とかする」


「えっ……ちょっ……何言ってるんですか!?」


 慌てるアランに構わず、クロードが自慢げに頷いた。


「出来上がったのが、イメージと違ってたらダメ出ししてやれ。言えば言うほど、叩けば叩くほど良くなるから」


 気付いた時、アドリエンヌの顔が、アランの間近にあった。


「……えっ?」


「かぼちゃのキッシュは作れる!? 昔、乳母が作ってくれたの!!」


「……は……?」


 アランは呆気に取られた。


「乳母が死んでから、誰に頼んでも再現できなくて……あなたなら出来るんでしょ!?」


 アドリエンヌに詰め寄られて、アランはたじろぎつつ、横目でクロードを睨み付けた。

次回はまだ巣へ行けないっぽいです(汗)。

何故こうなった、と思いつつ。


何回も消して書き直して、を繰り返して、こんな感じになりました。


以下を修正。


レオナールの台詞をいくつか漢字→平仮名に修正


×スフレ

○キッシュ

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