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3 指名依頼

非良識的な行いのシーンがあります。

「おい、その大荷物は何だ?」


 一人と一匹が帰宅すると、庭掃除をしていたアランが、顔をしかめて尋ねてきた。


「肉と内臓よ」


「きゅきゅーっ!」


「まさかそれ全部、か?」


 おそるおそる尋ねるアランに、レオナールは頷いた。


「そうよ、銀貨7枚分。結構安いでしょ?」


「いやいやいや! 普通、肉みたいに腐りやすいもの、銀貨7枚分も買ったりしないからな!! あと、お前の金銭感覚おかしいぞ!!

 普通の肉はもっと安いんだぞ!? まさか、それ全部魔獣系の肉とか言わないよな!?」


「銀貨5枚分は高級牛肉よ」


「……何? いや、でもその量はあり得ないだろう。それ全部その幼竜の物だとか言わないよな?」


「そのつもりだけど。あ、でも、高級牛肉はちょっとだけお裾分けして貰いたいとこよね」


「おいおいおい、何無駄遣いしてんだ! バカ!! いや、お前の金だから好きに使えば良いと思うが、お前普段がめついくせに、良くわからない金の使い方するなよ!!」


「え~? 何よ、別に良いでしょ、あなたに迷惑かけないから。さ、ルージュ、倉庫で食事にしましょう」


 ルージュの小屋代わりの倉庫に入るレオナール達の後を、アランもついて来る。


「何よ? 掃除してたんでしょ」


「文句は言わないから、一応中身を見せろ」


「どうして?」


「ボラれたり騙されたりしてるかもしれないだろ? 念のためだ」


 しかめ面で言うアランに、レオナールは肩をすくめた。


「私、子供じゃないんだけど。保護者ぶるアランとかウザいわよ」


「ウザくて悪かったな! 良いだろ、心配したって」


 レオナールは鬱陶しそうな顔をしたが、面倒なので無視する事にした。ご機嫌なルージュの背から荷箱を下ろそうとして、一人だと難しいことに気付いた。ルージュが床に寝そべっても、胸より高いのだ。しかもルージュの背中は平らではない。


「ねぇ、アラン。私がルージュの背に乗って荷物下ろすから、受け取って、その辺に置いてくれるかしら?」


「わかった」


 二人で協力して荷を全て下ろす。


「結構重いな、これ」


「う~ん、たぶん、これが内臓かな。この辺が牛肉で、あれが角猪だと思う。森鹿は何処行ったかしら? ま、開けて見ればわかるわよね」


「お前、なにげに高い肉のラインナップ選んで来てるな。品質にもよるけど、その選択でこの量が銀貨7枚は破格だな。

 っていうか俺の行く肉屋には、森鹿とか置いてないんだが、何処で買ってきたんだ?」


「うん、なんか市場の端っこ、スラムに近い一番東側ね。本当は卸専門だって言ってたわ。だから肉は部位毎に切り分けた大きな塊だけど、ルージュが食べる分には問題ないもの」


「ふぅん、そんなところまで行った事ないな。卸専門なら、行っても売って貰えなさそうだが。それって家庭用の包丁で切れる大きさか? まぁ、最悪魔獣素材剥ぎ取り用のナイフ使えば良いけど」


 レオナールはまず内臓の箱を開けた。二重にした丈夫な袋の中に内臓が詰まっている。


「ルージュの鼻先が入らないから、中身をぶちまけるか、何か入れ物がいるわね」


「ぶちまけるなよ、掃除が大変だから。薪にしようと思ってた、古い木のたらいがあるから、持って来る。ただちょっと汚いから洗う、っておい!」


 知ったことかと言わんばかりに、勢いよく内臓を床にぶちまけるレオナール。それに飛び付くように勢い良く食べ始めるルージュ。


「おい、レオナール……」


「アランはまどろっこしくてクドイのよ。早く食べたいわよね、ルージュ」


 ルージュは食べるのに夢中なようである。一心不乱に舐めるようにペロリと食べ尽くす。


「……床に血の跡すら残さずとか……ドラゴンの涎とか、水拭きで取れるかな」


 レオナールは無視して、次の箱を開けた。中には高級牛肉が、部位毎に切り分けられた状態で、一頭分入っている。それも力任せに、勢い良くぶちまける。


「おい」


 途端にアランの表情が変わった。


「これ、銀貨数枚で買える肉じゃないぞ……」


「本当は十倍くらいの値段だって言ってたわ。変色したから安く売ってくれるって」


「おいおいおい、いや、変色ったってこれ、十分売り物になるからな? っていうか普通の店なら、これくらい値下げなしに店で売るぞ。どんだけ高級店なんだ」


 ルージュがいつもよりハイペースで食べている。気にせずレオナールは次の箱もぶちまけた。アランの顔が蒼白になる。


「なぁ、レオナール。これ、高級料理屋とかで出すような肉だぞ。下手すると金貨数枚支払うようなとこだ。庶民の口にはそうそう入らない代物だぞ?」


「あらそう」


 レオナールは最後の牛肉の箱もぶちまけた。それを見たアランが、呻くような低い叫び声を上げた。


「でも、そういうの良くわからないからどうでも良いわ」


 レオナールはにっこり笑う。アランはガックリと膝をつく。


「なっ……なんて勿体無い事を……っ!!」


「あ、森鹿見つけた」


 そう言って、その箱の蓋に手をかけたレオナールの腕に、アランが飛び付く。


「ま、待て! それは取っておこう、な? 肩の部分か、柔らかそうなとこを一切れだけで良いから……」


 必死な形相で食いつくアラン。レオナールはニンマリ笑った。


「ねぇ、アラン。私が好きなこと教えてあげましょうか?」


「へ?」


 アランがきょとんとした顔になる。


「他人の嫌がる事をすることよ!」


 そう言って力任せにぶちまけた。アランがギャアッと悲鳴を上げる。


「ふふっ、面白い顔」


 機嫌良さげに笑うレオナール。アランの眉が情けなく下がり、心なしか涙目になる。


「……お前、本当は俺が嫌いなんだろ。だから嫌がらせとかする時、すげぇいい顔してるんだろ。でも食べ物に当たるのはやめろよな!」


「最初からルージュのために買ったのよ。どうせ私は何を食べても、違いはわからないもの」


「……俺は違うんだが」


「大丈夫! アランも食べたいなら、稼げば良いのよ。自分の金で買いなさい?」


 艶やかな笑みを浮かべて満足そうに笑い、レオナールは角猪の箱もぶちまけた。


「ああ……お前はそういう鬼畜で、天の邪鬼なやつだよな……地獄に落ちれば良いのに」


 アランが床に四つん這いになって、呻くように呟いた。


「聞こえてるわよ?」


「ああ、知ってるよ、地獄耳。お前なんか嫌いだ……何が楽しいんだよ、わかんねぇよ、絶対理解できねぇよ、その感性」


「え~っ? だってアランの反応が顕著で楽しいんだもの」


「やっぱりお前、俺のこと嫌いなんだろ?」


「別に嫌いではないわよ。ただ、まぁ、アランに偉そうにされるとちょっとムカつくから、時折凹ませてやりたくなるだけで、私なりに可愛がってるつもりよ?」


「お前、それ意味が違うからな、それ可愛がるの本来の意味じゃないからな! っていうか、俺に子供扱いされたと思ってむくれてたのかよ! わかんねぇよ! もっと表情に出せよ!! 文句あるなら頼むから口で言え!!」


「ほらほら、男の子がこんなことくらいで泣いちゃダメよ?」


「泣いてねぇよ! つうか時折うちのお袋みたいな事言うのやめろよな! 口調と声音のギャップで微妙な気分になるからな!!」


「ところでアラン、昼食はどうする? ルージュには食べさせたから、このまま留守番させるでしょ?」


 レオナールが言うと、アランは深い溜息をついた。


「なんか何もかもどうでも良くなったから、飯の支度する気分じゃないな」


「じゃ、そこらで適当に食べましょう」


「……お前、本当に最悪だよな」


 アランがぼやくと、レオナールが挑戦的な笑みを浮かべる。


「ふぅん、愛想が尽きた?」


「んなの、しょっちゅうだから今更だろ。お前がそれを喜ばなくても、俺はお前を見捨てる気は毛頭ないからな。

 お前は、しっかり手綱を握っておかないと、何をやらかすかわからないからな。

 俺はお前を犯罪者にしたくないんだ。本当はわかってんだよ、お前、今でもあいつを殺したいんだろ?

 でもダメだからな。あいつの処分は王と伯爵が決めた事で、絶対に覆らないんだ。

 お前は子爵家の血を引いてはいるけど、籍はないしハーフエルフだから正式な市民権が貰えたら御の字なんだ。

 この国で、貴族と平民の間には大きな差があるんだ。人間扱いして貰えるのは、平民の中でも金とコネを持った一部の人間だけだ」


 アランが沈痛な表情で真面目に言うと、レオナールは面倒臭げに大きく伸びをした。


「あ~、何でも良いから早く斬りたいわ」


「頼むから魔物と魔獣だけで勘弁な?」


「できればオークやオーガも狩りたいわね」


「まだ駄目だからな。もうちょいお前が落ち着くまで許可しないからな」


「え~っ、つまんない」


「下手なことしてお前が死んだり傷付いたりして欲しくないからな。うるさがられても言うぞ。

 魔獣と魔物ならいくらでも満足できるだけ斬らせてやる。なるべくベストの状態でそれができるように俺がフォローするから、な?」


「アランって、私のこと融通の利かないワガママな子供だと思ってない?」


「ただの事実だろ。お前が大人なら、どいつもこいつも皆大人ばっかりだろ。俺もまぁ人間できてねぇし、まだ大人にはなれないけど、そんなもんだろ。

 まぁ、面倒だったりウザかったりするかも知れないけど、我慢しろ。お前にとって面倒な事は俺がかぶってやるから」


「アランにそんな事して貰う筋合いないと思うけど?」


「俺が好きこのんでやってるんだから、ラッキーくらいに思っておけよ。雑用係がいると便利だろ?」


「まぁ、そうだけど」


「おい、そこは一応否定しろよ」


「えぇ? 面倒臭いこと言わないでよ。本音と建前とか謙遜だとか、面倒だからやめてよね」


「脳筋のお前に期待するだけ無駄だよな。まぁ良い、面倒臭い話はここまでだ。ちょっと早いが、気分転換に飯食いに行こう」


「了解。ここの掃除は?」


 レオナールが尋ねるとちょっとだけ嫌そうな顔になったアランが、


「どうせギルドの話が終わって、明日の買い出しとか準備終えたら狩りに行くんだろ? その間に掃除するから安心しろ」


「アランって本当に便利で働き者ね! ありがとう」


「それ、褒めてるようで褒めてないからな。もっとマシな言い方しろよ」


 アランは苦笑する。


「まぁ、アランが私の嫌いな事全部やってくれるから、助かってるわ。時折押し付けがましくて面倒でうるさいけど」


「後半は要らないからな、それ」


「だって私が素直に褒めたら、ろくなこと言わないじゃない」


「は? そんな記憶はないんだが」


「アランは無自覚だから困るのよね。だいたい私がボロクソに言ってあげた時のが嬉しそうじゃない」


「そんなわけないだろ! お前の勘違いだ。失礼なこと言うなよ」


「まぁ、アランがどんな嗜好や性癖でも見ないふりしてあげるから感謝しなさい」


「違うからな!? 誤解招くようなこと言うなよな!! 外でそんな事絶対言うなよ。お前が何か言うと、俺にまでとばっちりが来るんだからな」


「アランに関しては自業自得だと思うけど?」


「馬鹿言うなよ、俺は善良かつ臆病な小心者なんだからな」


「そうやって胸を張って言っちゃう辺り、アランらしいわよね」


「どういう意味だ?」


「私はアランに似合うのは小心者じゃなく傲岸不遜だと思うわ」


「お前、俺をどういう目で見てるんだ」


「そんな事より出かける準備しましょう。血で服が汚れちゃったし」


「誤魔化すな! ってああっ!! 俺まで汚れてるじゃないか!!」


「そりゃそんなところで四つん這いになればね。今朝のおっさんの事言えないわよね」


「……くそぉ」


 二人は着替えて家を出る事にした。


「じゃあ、ルージュ。お留守番頼むわね。眠かったら寝てても良いわ。夕方には一応帰ると思うけど」


「きゅきゅう~っ!」


 尻尾を振って、ルージュは二人を見送った。



   ◇◇◇◇◇



 二人はギルドの食堂で軽めの昼食を取り、受付に向かった。


「あら、お久しぶり、アラン。最近は冒険者稼業以外の事に精を出してるみたいね」


 開口一番ジゼルが言った。


「なんだよ、それ。俺たちがどういうペースで仕事しようと、ジゼルには関係ないだろ」


 アランは仏頂面で返す。


「ジゼルはアランの顔が見られなくて淋しかったのよね」


 レオナールが茶々を入れる。


「ちょっ、べっ、別にそんなんじゃないんだからね! ただ、アランが遊んでろくでもない事してるから、苦言を呈しただけなんだから!」


 ジゼルが頬を染めて弁明する。レオナールは、あらあらと言いたげな顔をするが、アランは眉をひそめた。


「ろくでもない事?」


「《草原の疾風》の件とか」


 ジゼルが言うと、アランが胡散臭い笑みを浮かべた。


「いやぁ、俺は知らないなぁ。今朝、ギルドマスターに聞くまで知らなかったね」


「嘘つかないでよ。レオナールの予告通りになってる時点で、犯人はわかりきってるでしょ」


「そんな事よりギルドマスターに呼ばれて来たんだが」


 アランが真面目な顔で言うと、ジゼルは溜息をついて立ち上がる。


「ええ、話は聞いてるわ。ついてきて」


 ジゼルの案内で二階のギルドマスターの執務室へと向かう。中には、ギルドマスターのクロードと、サブマスターのリュカが待っていた。


「よお、待ってたぞ」


 クロードがニヤリと笑って手招きする。


「昼過ぎって言われたからこの時間に来ましたけど」


「おう、それで話なんだが」


 ジゼルが目礼して部屋を立ち去る。


「今朝言った通り、指名依頼を出す。とりあえず銀貨4枚で、内容によっては追加報酬をつける」


「銀貨4枚? 少なくないですか?」


 アランが尋ねると、


「サポートをつける」


 と、クロードは言った。


「はい?」


「で、それがまだこちらに来てないんだが、一応この場で顔合わせておいた方が良いだろうと、呼んである」


「サポートってどういうこと?」


 レオナールが首を傾げた。


「王都を拠点としている魔術師だが《治癒》や《浄化》も使える古代魔法語のスペシャリストだ。本来は魔法学院の講師補佐で研究員だが、わけあってロランに来ている」


 アランは嫌な予感がした。


「ギルドマスター、もしかしてそれ……」


「俺が招いた。が、本題の方が長引きそうだし、一応Bランク冒険者なんで、ついでにギルドの仕事をして貰おうかと。

 ほら、お前、回復とか防御系とか使えないだろ? 大規模戦闘する可能性あるとこ行かせるのに、発見者とは言え、お前ら二人だけとか、俺、鬼畜じゃねぇか。

 だから支援と回復できるやつを付ける。いやぁ、俺ってば優しいナイスガイだな!」


 自画自賛して頷くクロード。


「あとCランクの戦士とその連れの魔術師見習いもつけてやる」


 アランの顔が引きつった。レオナールはまだわかっていない。


「遅くなって申し訳ない」


 ノックの音と共に、どこかで聞いた声。


「おう、待ってたぞ」


 クロードがニヤリと笑った。入って来たのは、ドワーフ戦士と白髪少女に褐色髪の美女。


「……あら」


 アランが額を押さえて呻き声を上げ、レオナールが素で驚いた。


「紹介しよう。オーロンと、アドリエンヌと《名なし》ちゃんだ」


 クロードの声が大きく響いた。

一応前書きに警告。


というわけで次回探索、になるはず。


以下修正


×有り難う

○ありがとう(レオナールの台詞のため)

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