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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
5章 古き墓場の鎮魂歌 ~古代王国の遺跡~
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52 剣舞

「なるほど『地下』ね。そういえば行ってなかったわね」


 レオナールは満足げに頷いた。


(何も言ってないし、読まれないように目も閉じたのに何故わかるんだ!)


 アランは自分でも理解できず制御もできない得体の知れない能力を自分以上に上手く利用するレオナールに、不安と焦りと苛立ちと悔しさと諦めがグチャグチャに混じった感情を覚えた。

 とにかく気持ちを落ち着けようと深呼吸をする。


《え、何、今の《念話》? あれ、でも魔力の動きが変……ん? ちょ、大丈夫、アラン、魔力制御が乱れて漏れてるよ! ちゃんと体内に収めて!!》


 メテの悲鳴のような声にアランは目をパチクリさせる。


「魔力制御?」


《レオナールも自分の魔力をちゃんと収めて! 何なの、君は自分の魔力で人やら物やら無差別にグイグイ撫で回さないと認識できないの?

 いつもはもっと少ない魔力しか出してないでしょ。それ、やり過ぎると自分の魔力が枯渇しやすくなったり、周囲の人が魔力酔いしたり、魔力制御が乱れたりするからすっごく迷惑なんだよ!

 特にボクみたいな魔力の塊だと、ちゃんと弾かないと君の魔力が混じっちゃうじゃないか。自分以外の魔力は扱いにくいんだから気をつけてよね!!》


「何それ、したことない」


 レオナールの言葉にメテがぽかんと口を開いて固まった。


《えぇっ、無自覚? 君たち、魔力感知できないの? それじゃ魔力干渉受けても知覚も防御もできないじゃないか。危ないよ、それ。

 おかしいな、純粋なエルフでないとしても普通は一番最初に魔力感知と魔力制御は習うよね? 魔術師なら当然見習いの時に習うよね?》


「習ったことはないな。俺とレオナールの魔力・魔術に関する師匠は同じ人だが、彼女は魔力封じされていた上に言動も制限されていて、筆談はできたけど紙とインクが自由に使えなかったんだ」


 アランの返答にメテはうわぁと嫌そうに呟き仰け反った。


《それ、まさか《隷属》?》


「知っているのか?! 解除する方法はあるのか!?」


 アランが飛びつかんばかりに歩み寄ると、メテは近付かれた分後退(あとじさ)る。


《えぇ? そんなの簡単だけど、実際に見ないとわからないかな。儀式魔法とかだと術者によってはわりと何でも盛り込めるから解析してから解除しないと面倒なんだよ。

 後遺症とか周囲への被害を顧みないなら、そこの幼竜やレオナールで解除も破壊もできると思うよ。神官さんの全力の《解呪》でもいけそうだと思うけど、今の魔術や祈祷がどんな感じなのか知らないからなぁ。


 そんなことより二人とも早く魔力をちゃんと体内に収めて。深く息を吸って自分の魔力だけへその下あたりに集めてギュッと固める感じ。

 いらない分は吐き出して。痰とかゲップを吐き出すみたいな感じで異物を吐き出すんだ。自分以外の魔力が体内を巡っていると、魔力制御も魔術行使も上手くできないからね》


 しばらくメテのああしろこうしろといった指示を受けて、二人とも無事自分の魔力だけを体内に収めることに成功した。

 その結果、レオナールは周囲が全く見えなくなった。生まれて初めてのことに、無表情のまま固まった。


《レオナール、少しずつ周囲に魔力を広げてみて。ドパッと出しちゃダメだよ、感知と制御ができる程度に薄く広くだ。必要に応じて範囲を狭くしたり広げたりして消費する魔力量をなるべく減らしてね。

 《身体強化》もそう。無駄を省けば使用する魔力量が減るから、摂取しなければならない魔力量も減る。新鮮な魔獣の肉とか森で採取した果物や木の実とか魔力量の多いものをたくさん食べないと身体がだるくなるのは、それが原因だから》


 なるほど、とレオナールとアランは頷いた。


「おかげさまで助かったわ。ありがとう、メテ」


 レオナールが真面目な顔でそう言うと、アランが驚いた顔になる。


「……レオが自発的に感謝の言葉を口にするなんて!」


「殴るわよ」


 レオナールが目をすがめると、アランは慌てて頭を下げた。


「わ、悪かった。すまん!」


 レオナールは何か言いたげにアランをしばらく見つめたが、不意に坂の上の方角へ視線を移した。


「誰か来るわ」


前に見た(きゅきゅう)事がある(きゅうきゅう)エルフだよ(きゅきゅう)!! ぼくを鎖で(きゅきゅ)縛ったやつだ(きゅっきゅうきゅう)!!」


「あら、じゃあルージュのカタキってことね。アラン、こちらへ向かって来ているのは、オルト村のやつよ。ルージュを鎖でつないで餓死させかけたエルフ!」


「何だと!?」


 アランは驚きつつも素早く地面に置いてあった転移陣を描いた羊皮紙を全て拾い上げ素早く巻くとそのまま首元からローブの中に突っ込んだ。


「いつも思うけど、そのローブの中ってどうなっているの?」


「財布とか大事な物が入れられるように内ポケットが付いてるんだよ!」


 0.5メトル弱四方の丸めた羊皮紙を無造作に突っ込んでも外観に変化はない上に、裾から落ちてくることもない。レオナールは気になるので一度アランにローブを脱いだ内側を見せて貰おうと考え、無言で頷いた。


 メテ以外の全員が身構えたところで現れたのは金色の長い髪をなびかせ、《飛翔》の魔術を使いながら滑空してくるエルフの男性だった。


 初めて見る顔だったが、レオナールとアランにはその人物の名がわかっていた。


雷の精霊(イェラ・エル)イルガの加護を受けし(ディ・リィア)賢き者(リヴァ・レ)だったかしら」


 レオナールはニンマリ笑みを浮かべた。イライアスと呼ばれることもある母の兄にして《静かなる古き精霊の森》の長。白い絹に花・ツタ・鳥の文様の刺繍が施された長衣を身に纏っている魔法剣士。

 その美しく気品に溢れた顔立ちは彼の母と良く似ていた。身長はレオナールと同じくらいに見えるが、エルフらしく細身なようだ。


「得意な魔術は《隠蔽》《認識阻害》《知覚減衰》。《風の刃》で牽制・誘導しておいて《落とし穴》という戦法を好んで使う。使用武器はミスリル製の長剣(ロングソード)で魔術発動体も兼ねている。

 詠唱速度がとても速いので注意が必要、と」


 レオナールが淡々とした口調で全員に聞こえるように言うと、牽制なのか《風の刃》が飛んできた。


全部消えちゃえっぐがぁあああああおぉっ!!」


 ルージュの咆哮が辺りに響き渡り、《風の刃》も《飛翔》も瞬時に消えた。落下しかけたイライアスは素早く《落下速度低下》をエルフ語で唱えて再度|《風の刃》をレオナールに向けて放ったが、レオナールには構築前の状態から全て見えているため、念のため近くにいたアランの腕を引いて問題なく避けた。

 《風の刃》はそのまま飛んで霧散した。


「私に魔術は通じないわよ、お・じ・さ・ま。こんにちは、初めまして。出会い頭にあいさつなしで攻撃してくるなんて礼儀がなってないわね。

 年を取り過ぎて常識もわからなくなったのかしら、お気の毒さま」


 レオナールはそう毒気たっぷりに告げ、高らかな笑い声を上げ両手で掴んだ剣を振り上げ、駆け寄った。


「真っ二つになって死ね!!」


 剣を振り下ろした先にいたのは幻影であり、その背後から長剣が振るわれたが、レオナールはそれを数歩後ろに下がることで避け、左手に持ち替えた剣で脇腹を狙うが躱される。


「あはははは、いいわ、素敵! 楽しめそうね!!」


 踊るように剣を振るレオナールに、苦虫をかみつぶしたような顔で応戦するイライアス。


(この人、びっくりするほど簡単に挑発に乗ってきてくれたけど、これってフリなの? まさか本気ってことはないわよね?)


 とりあえず相手が嫌がりそうなことを叫びながら、剣を交える。


 そんな二人の様子を見て、メテが小さく呟いた。


《ボク、異母兄弟や親戚とはあまり仲が良くなかったけど、レオナールとおじさま?には負けるよ》


「そうか」


 アランはそう答えつつ、踊るように剣を交える二人から距離を取った。そんな彼の前にダオルが立つ。


「すまない、あれは敵か?」


「敵だ。たぶん首謀者で《混沌神の信奉者》関連の黒幕だと思う」


 アランの返答にダオルの口元が引きつった。


「……本当に?」


「証拠はないが、ダニエルのおっさんはそう考えている」


 アランが言うと、ダオルの顔が真剣になった。

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