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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
5章 古き墓場の鎮魂歌 ~古代王国の遺跡~
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45 盗賊は単独偵察中

盗賊ダット視点

 岩だらけの急斜面を削って作られたつづら折りの道は、中腹辺りで大きく城を迂回して正門まで続いていた。上から見たところ城は背後を崖に沿うように建てられ、周囲に鋸壁を張り巡らせている。

 その敷地内を四区画に分けて二人一組で三グループが一定の順路で巡回を繰り返しており、折り返し地点で隣り合った区画の組と必ず同じタイミングで方向転換している。

 城壁の東西には鐘楼付きの尖塔があり、いずれも見張りの骸骨(スケルトン)兵士がいて、一定の間隔で方向転換して監視している。


(オイラ一人ならともかく、足の遅いドワーフやひ弱な神官様を連れて、あれ全部に見つからないように移動するなんて無理難題過ぎるよ。

 一応緊急避難用にと転移陣を3つ受け取ってきたけど、警備の薄い場所があったらそこに設置して移動に使った方が良いかもね)


 鐘楼が鳴ったら付近にいる骸骨兵士が集まって来るのだろう。彼らは全員全身板金鎧(フルプレート)に金属製の槍を装備している。

 鉄や銅なら腐食しているはずだが、新品に近い状態だ。槍の柄や鎧の各所に何らかの魔術紋様が刻まれているため、経年劣化や腐食を防ぐ効果があるのだろう。

 他にも強化のための術が施されている可能性が高く、いずれの骸骨兵士も同じ装備品を身に付けているが、内一つだけでも高値で売れるはずだ。

 もっとも、それらを持ち運ぶとなると大変な作業になる上、一行の中に装備できそうな体格の者はレオナールだけである。

 生前の彼らはエルフかハーフエルフ、あるいは細身の人間だったのだろう。どの骸骨兵士も同じような体格、同じような動作で、見極めにそこそこ自信を持つダットにも見分けがつかない。


(売り物としては悪くないけど、重量があるし嵩張る上に売れば売るほど一品あたりの値段が落ちるから、騎士団レベルにまとめて納品とかじゃないと捌けないよなぁ。

 そんな伝手とかないし、そもそも出処不明の装備一式買うのは金のない冒険者くらいだし、ゴミだな)


 ダットにとって金にならない物は全てゴミである。今日の晩飯代になるか否かだけが重要であり、自分の手に持てる分の金でなければ意味がない。

 不相応な金や物を持てば他者に奪われる。それは場合によっては命の危機にもなるから、持っていることを知られたり、持っているかも知れない(・・・・・・)と思われるだけでも危険である。

 油断したり増長すると殺されるのははぐれ者、仲間のいない流れの盗賊にとっては常識である。

 欲しい物は殺して奪えば良いと考える盗賊はスラムには多いが、殺したくても殺せない非力で陰に身を潜めて生きるしかないダットにとって短絡的で刹那的な手段は、断頭台へ直行するようなものだ。


 まっとうな生き方をしている小人族は、保護者や庇護者に恵まれたからだ。物心ついた頃にはゴミ溜めに一人でいたダットには選択肢がなかった。

 スラムに生きる者ですら手を付けないゴミを漁るか、死ぬか、他者から掠め取るか。


(冒険者になれるものならなってみたいけどさ、無理でしょ)


 しかし自分にできる仕事で金を貰えて寝床も飯も与えられるのならば、喜ばしいことだ。歓迎すべきことだ。


(裏がなければ、ね)


 そろそろあのドワーフが底なしのお人好しで、その言動に裏の意味などないことには気付いている。だが、これまでの経験や彼の常識からいって『掛け値無しの善意』というものは受け容れがたい。

 うっかり受け入れて安堵したところで刺されたり、突然放り出されない可能性がないとは思えない。

 だから常に周囲を伺い、警戒を緩めないよう気を張っている。周囲に誰かがいる時は当然、一人でいる時も油断はできない。


 ダットは息を潜めて、眼下を観察する。さて、どのように侵入するか。真っ直ぐ道なりに進むという選択肢はない。城の正門から建物の間に広がる庭園だったと思しき場所は遮蔽物が一切無い広場となっている。

 巡回する兵士達いずれかのグループが鼓動の早さで五十から六十程度の頻度で現れ、しばらく停止しては方向転換して去って行く。

 あれを避けて城の正面玄関へ向かうのはダットにとって不可能ではないが、かなり困難だ。

 スケルトンはアンデッドの中ではそれほど強くないが、いくぶん弱体化するものの生前の能力が反映されるため、おそらく差はあれど一定水準以上の戦闘能力を持っているだろう。


 ダットは自身に《隠形》をかけ、足音や気配を消して道を外れ、両手両足を使って急な斜面を降り、鉤針付きのロープで比較的見張りの少ない城壁に取り付いた。


(不老不死で飲食や休憩不要の巡回兵とか面倒だな。とりあえず一番は兵士の巡回ルートや監視地点の把握、余裕があれば城内の構造の把握、可能なら侵入経路の確保または転移陣の設置かな)


 既に国宝級の魔結晶を確保しており、この都市が滅びたのは数千年前な上にこの遺跡を出入りしているエルフがいるとなると、残念ながらお宝は期待できない。

 正直なところ積極的にやる気はないが、半ば強制されたとは言えこれは報酬の出る仕事だ。内心がどうあれ、求められた分の仕事はしよう。


(そもそも流れ者のオイラをしらみつぶしに探してまで雇おうとする酔狂なやつはあのドワーフくらいだろうな)


 たまたまそこにいたから数合わせに捕まえてとか、安く済ませるために使おうだとか、そういった扱いばかりで自分の望みや将来をわざわざ聞いてくれる酔狂な人物には遭遇したことがなかった。


 城壁の各所にはドワーフの腕が入りそうな金属製の筒が設置されていたが、どれもひしゃげていたり台座が歪んで鋸壁より低い位置を向いていたり、使えそうな状態のものが一つも無かった。

 魔術紋様が刻まれてはいるが現在でも機能している物はなく、いずれも残骸といって良い状態だがミスリル合金でできており、一つ持ち帰っただけでも白金貨一枚以上になるだろう。


(残念だけど、これを持ち帰るのは無理だなぁ)


 重量や大きさも問題だが、巡回する兵士達が邪魔だ。


(この筒、どれも外側に向けられてるけど、何でだろう?)


 少々気になるが、その原因や理由はわからない。筒と台座がくっ付いたそれは無事な状態であれば、筒部分を左右・上下に動かすことができただろうことはわかるが、ダットの知識ではそれが何に使われる物か、何に対して使われたのかは不明だった。

 おそらくこれが何かを理解できるのは、古代王国の研究をしているヴィクトールか、古代魔法語や魔術紋様の知識があるアランくらいだろう。


 ダットは巡回兵に見つからぬようそばにある階段を降りた。そこはかつては倉庫だったのか、木箱や麻袋などの残骸がところどころに落ちていた。

 洞窟内であるはずなのに空気が乾燥しているのは、壁に刻まれた魔術紋様のせいだろう。階段を一番下まで降りると兵士達の待機所らしき場所があったが、そこには頭蓋や肋骨の一部を破壊されバラバラになった骸骨が複数散乱していた。


(エルフか)


 その骸骨達は服も鎧も何も纏っていなかった。最初から全裸でここにいたわけではなく、スケルトンとなった後に倒され剥ぎ取られたのだろう。

 エルフの一番の特徴である長い耳には骨はないが、頭蓋はほっそりしている上に、普通の人間の骨より細くて華奢である。こんな骨格の生き物はエルフ以外には存在しない。

 ドワーフも小人族もゴブリン・オークも耳の一部が尖っているが、エルフの骨格・体格とは雲泥だ。エルフに似た形状の生き物はエルフ以外には存在しない。ハーフエルフでさえ、エルフとは似ていない。


 近似種が他にいないこと、めったに人里には現れないこと、ごく一部の変わり者を除いて多種族と係わることがないことなどからわからないことが多い種族であるが、死体の状態であればダットは見たことがあった。

 森の中の廃墟というのは、ダットにとっても他の盗賊達にとっても良い隠れ家である。過去に誰かの所有物だったとしても、現在そうでなければ問題ない。自由に侵入できて、休息が取れる程度に安全であれば。


 小さなテーブルや背もたれのない椅子や飾り気のない棚など最低限の調度品は残されているが、そこにあったであろう物は見当たらず、劣化してボロとなった兵士用の衣服や靴が残っている。扉も壊されている。

 骸骨達に致命傷以外の傷はない。痕跡から魔術による攻撃だと推測された。


(魔術、ねぇ)


 ダットは魔術に関する知識は皆無である。だからこそ脅威ではあるが痕跡が古いため、現状では問題ないと思いたいところだ。


(そういえば、あの筒の残骸も魔術で壊されてたよな)


 となると、ここから先にも魔術で破壊された痕跡が見つかる可能性がある。


(そいつが今もいるのか、もういないのか……判断ができるような痕跡はないな。だけど、ここにはもういないだろう)


 そう考えるのはたいした物が残っていないことと、薄く積もった埃とわずかな砂の上に自分が歩いた跡しかないからである。


(歩いた跡が残っているのはまずいか)


 念のため廊下に出て、他の部屋のいくつかに足跡を残し、その足跡をたどるよう後ろ向きに戻った後に、懐から出した羽箒で待機所内の痕跡を消し、扉付きのクローゼット内に転院陣を設置した。


 ここの脅威は何者かによって排除済みで巡回も来ないようなので、ここから探索を始めるのが良さそうだと判断したからである。


 そして自信の痕跡を消し、骸骨兵士の監視を避けて城への侵入経路を探していたが、城の正面玄関からは入れないことがわかってガックリした。


(魔術結界があるなんて聞いてない!)


 自力ではどうにもできないことがわかったので手近な建物に潜り込み、スケルトンもゾンビもいない適当な部屋で転院陣を起動させて拠点へ戻ると、使ったばかりの転院陣を燃やして灰にした。

 飛び込んだ部屋にあった隠し扉の向こう側に、机に座って書き物をしているゾンビがいたからである。

 ゾンビやスケルトンに転院陣で追ってくる知能があるかどうかはわからないが、万が一があっては困る。


 そして、得た情報の報告がてらおおよその全体図などを蝋石で地面に簡単に描き、骸骨兵士の巡回経路も説明した。


「厄介だな」


 アランが渋面で唸り、他の面々も困った顔になる。


「一応ここの1階のクローゼットに転院陣を設置したから、そこから侵入できると思う。ただ、

 その周辺は見張りが少ないかほとんどないから探索できるけど、重要そうな建物に近付くのはかなり難しそうだし、正面玄関の魔術結界をどうにかできないなら他の侵入経路を探すか、諦めて監視や巡回が少ない箇所を探すしかないと思うよ」


「レオナールと幼竜が戻ったら、話し合って決めるか」


「うむ」


「わかった」


「専門外なので判断はそなた達に任せるので、よろしく頼む」


 そう言えば偵察中、あの金髪剣士とレッドドラゴンの幼体を全く見掛けなかったな、とダットは気付いた。自分より先に拠点を出たはずで、あんなに目立つ連中に気付けないなどということがあるだろうか、とダットは首をかしげた。

次はレオナール視点です。

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