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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
1章 ダンジョン出現の謎 ~オルト村の静かな脅威~
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17 とりあえず終幕

「アランの愛想笑いは本当に気持ち悪いわよね」


「うるさい、わかってるから言うな」


 馬屋に馬を返して北門に向かっていた。


「ああ、願わくばあのドラゴンが誰にも見つからず騒ぎを起こしていませんように」


「今朝も良い子にして待ってたじゃない、ルージュ」


「魔獣狩って大量の骨を積み上げてたな。思わず人間の骨が混じってないか確認したけど」


「大丈夫よ。人間を食べた時は証拠隠滅すれば良いじゃない」


「そういう問題じゃねぇえええっ!!」


 思わず大きな声でツッコんでしまい、注目浴びてしまうアラン。


「あ、お騒がせしてすいません。……ったくレオ、悪ふざけはやめろよな」


 周囲にペコペコ頭を下げてからレオナールを睨む。


「もちろん冗談よ。半分本気だけど」


「勘弁してくれ」


 レオナールがにっこり笑い、アランはゲッソリする。


「だって、人間に襲われても殺すな、なんて言えないわよ。命が懸かってる時に手加減してやれとか言われたら、アランだってムカつくでしょ?」


「レオ、お前は人間も魔物・魔獣も、同列に考えてるんだな」


「そうよ。敵意を持って攻撃してくるのは全て敵。恭順してきて使えそうなら仲間で良いじゃない? 人を人目のあるところで殺すと、後の処理が面倒だから、必要に迫られた時以外はやらないけど」


「もしかしてオーロンが助力するとか言った時も、その理屈で連れて行く事にしたのか?」


「そうね。力はあるけど動きが遅いから、アランの壁やらせた方が良さげだったわね」


「ダットは?」


「あれはいなくても問題ないわよね。私とアランで手分けすれば似たような事はできるし。信用できない、いつトンズラするかわからない手癖悪い盗賊なんてゴミね」


「お前、良くそれ本人に言わなかったな。成長したんだな、レオ」


「アラン、あなた私を何だと思ってるの? あの盗賊に面と向かって罵倒したら、うるさくてかなわないじゃない。利点もないのに、そんなことしないわよ」


「そのわりに、お前、これまで色々なやつに売らなくて良い喧嘩売りまくったよな?」


「私たちに喧嘩売りたくて仕方なさそうな顔してたから、わざわざ声かけてあげたのよ。最初に雑魚を見せしめにしておけぱ、後が楽になるしね。あと、いつ来るかわからないより、来るタイミング調節した方が楽になるじゃない」


「回避する方向へ持っていく努力はする気がないんだな」


「さしたる理由なく他人をぶちのめしたいという輩に、わざわざ理由つけてやって、やりやすくさせてあげるのよ? これは慈悲というやつね。

 まぁ、私は被虐趣味じゃないから、自分はなるべく無傷で、相手だけぶちのめすけど」


「慈悲じゃねぇ、それ絶対慈悲じゃねぇよっ!」


「あら? 私、子供の頃、良く『慈悲を与えてやる』と言って殴られたんだけど、使い方間違ってたかしら」


「……っ、それはそいつの頭がおかしいだけだから、それを基準にするな。慈悲ってのは本当はもっと優しい心なんだ。人間ではなかなか持てないくらいのな」


 アランは苦い顔で言った。


「ふぅん、そうなの。じゃあ、親切?」


「それ、親切でもないからな。単にお前が気に食わないから挑発してるだけだろ?」


「そうね。この私を崇め奉る事もできない、頭の悪い雑魚は全部潰しておきたいとは思ってるわね」


「俺は崇め奉ってないけどな」


「アランは別に良いわよ。そんな事されても気持ち悪いだけだし」


「気持ち悪い……そりゃ俺だって気持ち悪いけど、お前、俺をなんだと思ってんの?」


「使い勝手の良い下僕? ……って言うと、アランの反応が楽しい事になるから、面白いわね」


「……ああ、俺に腕力・筋力があったら、全力でぶちのめしてぇ……」


「いつでもかかってきなさい、ふふ」


 楽しそうに笑うレオナールに、悔しそうに呻くアラン。いつもの光景である。北門で顔見知りの門番と顔を合わせる。


「おう、アランにレオナールじゃないか。さっき帰って来たとこなのに、また何処か出掛けるのか?」


「ちょっとね。すぐに戻るわ」


 レオナールが微笑みながら、答える。


「ずいぶん機嫌良さげだな、レオナール。アラン、またレオナールにいじめられてたのか?」


「いじめられてねぇっ!! いじめられてなんかいねぇからな!! こいつが俺のこと下僕とか言ってからかうから怒ってるんだ!!」


「え? お前、下僕じゃなかったの?」


「なっ……!!」


 門番に真顔で言われて、絶句するアラン。それを見て、門番は吹き出した。


「あー、本当、アランはからかうと面白いな!」


「そうでしょ? 本当面白いわよね」


 レオナールがにこにこ笑いながら頷く。


「まぁ、いいや。帰って来たんなら、今度、時間が合う時、一緒に飲みに行こうや」


「良いわよ、ジェラールの奢りならね」


「は? なんで安月給の俺が、お前らに奢らなくちゃならないんだ。お前ら仕事してきたんだろ?」


「報酬はしばらくオアズケよ。まぁ、全くのゼロじゃないけど、収益物を売るのも手間だしね。やっぱり少額でも現金の魅力にはかなわないわね」


「ま、そうそううまい話はないよな! まったく世知辛い世の中だ」


「一度で良いから濡れ手に粟で、金銀財宝に囲まれてウハウハしたいわ」


「そんなの誰だってそうだろ。まぁ、うまくておいしい話を、誰かに聞いた話で、とか言われたら十中八九詐欺だけどな!」


「そんなものよね」


「おし、問題なし。何の用事か知らんが、いてら~」


「ええ、また後でね。たぶんビックリするわよ」


「マジか。どんなビックリだろうな。楽しみにしておくよ」


「ふふ、期待に添えると思うわ」


 挨拶を交わして門を出る。アランはいまだに落ち込んでいる。


「ジェラールにまで遊ばれた……厄日だ……ここ最近ずっと厄日だ……ろくな事がねぇ……。くそぉ、俺がいったい何をしたって言うんだ。俺の何が問題なんだ……!」


「アラン、あまり考えすぎると禿げるわよ?」


「俺の親父がハゲなのは俺のせいじゃねぇよ!! 俺は母親似だから、きっと大丈夫なはずだ!!」


「いや、誰もあなたのお父さんのハゲの話はしてないけどね」


 呆れたような目でレオナールがアランを見る。


「そんな蔑むような目で俺を見るな!」


「被害妄想激しいわよ、アラン。からかうと面白いのは確かだけど、そんないつまでも引きずるのは鬱陶しいわよ?」


「ああ、どうせ俺は鬱陶しくて、ジメジメしてるよ! お前基準だと、鬱陶しくてジメジメしてない人間なんて、いそうにないけどな!」


「何いじけてるの? 立ち直り早いのが、あなたの取り柄でしょ?」


「それは言っても無駄だから諦めてるだけ……いや、そんな事よりだな、お前、実は俺のこと嫌いなの? 実は俺、恨まれたり憎まれてたりすんの? 何か言いたいことがあるなら、すぐに吐け!」


 アランが絡むと、レオナールは苦笑した。


「大丈夫、安心して。あなたのことはそれなりに気に入ってるから、面倒くさいと思っても見捨てないわよ?」


「面倒臭いとは思ってるんだな?」


「ええ、私にしたら、ずいぶん譲歩してると思うけど? 私ったら本当、心広くて優しくて慈愛に満ちてるわよね!」


「それ絶対違うからな! 絶対間違ってるからな!!」


「安心して、アラン。あなたのことは殺したいとか斬りたいとか思った事はないから、今のところ」


「今のところなのかよ!! っていうかお前の基準はそれなのか!?」


「えー、だって、アラン以外の人はたいてい一度は斬ってみたいと思った事があるもの。あ、母親も斬ろうと思った事はないわね。師匠は斬れるものなら、斬ってみたいわ。内臓や脳髄が普通の人間と同じなのか見てみたいわね」


「斬るなよ!? 斬れる機会があっても絶対斬るなよっ!! 人は一度斬ったら、元通りにはならないからな!!」


「人以外なら良いの?」


「……他人の所有物もダメだからな。犯罪や迷惑にならない程度に、自己責任で頼む」


「ふふ、大丈夫よ。ちゃんと見極めてから斬るから」


 全然安心できねぇ、とアランは心の中でぼやく。町の近くの森の中へ入る。


「ルージュ、いたら出て来て!」


 レオナールが叫ぶと、血まみれの角兎をくわえた幼竜が木々の間から現れた。地面に血が滴り落ちているので、ついさっき仕留めたばかりのようだ。


「あら、ご飯の最中だったの? ついでに何か狩ってく?」


 レオナールが尋ねると、幼竜が頷いた。


「じゃあ、適当に何か狩るわ。アランはどうする?」


「できればお前たちと一緒にギルマスの家に行きたかったんだが、先に行く事にする。掃除や整理しないと駄目そうだからな。買い出しもしたい」


「そう。じゃ、夕飯前までには行くわね」


「……お前、本当元気だな」


 アランは呆れたように溜息をつく。


「一日中でも狩ってたいわね。まぁ、お腹が空くし、さすがに疲れるからやらないけど」


「お前にも一応それなりに人間らしいところがあって、良かったよ。じゃ、俺はもう行く。お前らに付き合ってたら、日が暮れるからな」


「は~い、じゃあ、また後でね。あと、夕飯の準備もよろしく!」


 レオナールの言葉に、アランは振り返ってギッと無言で睨んだが、その時にはレオナールは背を向けて、幼竜と共に森の奥へ向かうところだった。


「あいつ、逃げたな……」


 今頃気付くアランである。



   ◇◇◇◇◇



 ギルドマスター、クロードの家は、ロランの町の南側にある冒険者ギルド付近で、門とギルドの中間くらいの距離にある。

 表通りに面してるが、町を囲む石造りの外壁の南西の角にある、比較的広い敷地と建物である。


 門を入って正面に、彼が暮らす家があり、その隣に、石造りの倉庫代わりの小屋がある。

 一度入った事があるが、平屋で一部屋になっており、家具・装飾の類いは一切なし。いらないものを適当に放り込んだ、物置というよりはゴミ同然のガラクタ収容小屋である。

 何故そんなものが入っているかというと、家主であるクロードが面倒臭がりで、迷宮などで拾った売れない物や価値のないもの、壊れた武具などを、処分したり整理せずに、適当に放り込むからである。


「……前に見た時より増えてないか?」


 アランは顔をしかめた。


「これは、一人では無理そうだな」


 アランは魔術師なこともあり、体力も筋力もあまりない。火の魔法などで破壊するのならば、得意なのだが。性格・気性的に、掃除や整理整頓は嫌いではない。むしろ好んでやる方だ。

 相方の剣士が大雑把で剣で何かを斬る事以外に興味を示さないので、必然的にそうなったとも言えるが。


「……収納されているのは、壊れて鉄くずになった武器防具に、破損したり古くなった家具、何に使うかわからない魔道具に、放置された状態の良くない魔物・魔獣の素材……」


 かろうじて食料や真の意味でのゴミはなさそうだった。


「これならいけるな」


 そして、アランは、鍛冶屋と家具屋、中古の魔道具屋、木材屋などを呼んで、見積もりと引き取りの手順を相談し、契約書に署名し、引き取って貰った。

 そして売った金は全て自分の懐に入れた。


「まぁ、これくらいの余録がないと、やってられないよな。さて、残りはゴミか。適当に燃やすかな」


 引き取って貰うついでに、全て庭先に積み上げて貰った。


「一応薪代わりになりそうなものと、危険物っぽいのは除去したはずだし」


 満足そうに頷くアラン。


「火の精霊アルバレアと、地精霊グレオシスの祝福を受けし炎の壁よ、燃え上がり、消し炭にせよ。《炎の壁》」


 轟音と共に、ガラクタが燃え上がった。ただの火なら、これを調理に使ったり、暖を取ったりできるのだろうが、この火に入れた火耐性や魔法耐性のない、普通のものは全て燃え尽きて炭になってしまう。ゴミを焼却するには都合の良い魔法だと、アランは思う。

 臨時収入もあったので、ホクホク顔である。良い汗かいた、とばかりに、出てもいない額の汗を手の甲で拭う仕草をした。


「ちょっと! 町中でゴミなんか燃やさないでよ!!」


 が、隣家の住人(ご婦人)に咎められた。


「す、すいません」


 アランはすぐさま謝罪した。


「消せないの? あの火」


「魔法の火なので、効果が消えるまではあのままです、すいません。申し訳ない」


 深々と頭を下げるアラン。


「おや、あんた、前にダニエルが連れてた子供かい? 確か金髪のキレイな子と一緒だったわよね」


 おばさんが首を傾げて尋ねる。


「あ、はい。しばらくレオナールと共にクロードさん宅でお世話になることになった、アランと言います。よろしくお願いします」


 頭を下げて、自己紹介と挨拶をした。


「あたしはルネさ。男所帯じゃ大変な事もあるだろうけど、困った事があったら、あたしに話しな。相談に乗れる事は相談に乗るから。あと、庭先で物を燃すような事は、今後一切やめとくれ。近所迷惑だし、火事にでもなったら大変だ」


「はい、気をつけます」


「しかし、あんた魔術師になったんだねぇ」


「前から一応魔術師でした、見習いですが。先月、ギルド登録して、冒険者として活動しています。それまでも薬草採取して、マルコさんの薬屋に納入したりしていましたが」


「ふぅん、そうなのかい。じゃあ、今年、成人したんだね」


「ええ。俺が先々月末、先月にレオナールが成人を迎えたので、登録しました。前から冒険者になりたかったので」


「ふぅん、冒険者なんてなりたくてなるような仕事じゃないと思うけどねぇ。うちの息子も子供の頃は剣士か魔法使いになりたいとか言ってたが、現実知ったら、普通に父親と同じ家具職人になると言って、今はよそに見習いに行ってるよ。

 あんたもせっかく魔法が使えるなら、やめて転職したらどうだい?」


 おばさんの言葉にアランは苦笑する。


「金もコネもない魔術師の就ける職はそうそうないですよ。基本的に良い職や仕事は貴族と金持ちに独占されてますから」


「なるほど、そりゃ大変だねぇ。ところであんた、今日の夕飯はどうする気だい? クロードは自炊しないから何もないだろう?」


「あ、出来ればお勧めの食材屋や道具屋を教えて貰えませんか? たぶん鍋や調味料も含め全部揃える事になりそうなのでお忙しいようなら、市場で聞こうと思いますが」


「ふん、あたしが付き合ってあげるよ。目利きと値切りには自信があるんだ」


「それは助かります。ぜひよろしくお願いします」


 そして、アランはお隣りさんと買い物に出かけ、予想より安い金額で目的のものを手に入れる事ができた。


「《浄化》が欲しいな」


 台所も掃除が必要だった。



   ◇◇◇◇◇



 後日、無事に依頼報酬が支払われた。金貨1枚に加えて、追加報酬と更に金貨1枚と銀貨20枚。

 また、最深部の魔法陣や本格的な調査はAランク冒険者パーティーを当てるとの事だ。

 あと、


「そういえば《草原の疾風》のゲルトとアッカが先週末、飲み屋からの帰りに何者かに襲撃されて頭の毛を全部苅られたんですって」


 ロラン支部受付嬢、赤髪のジゼルがジト目で言った。


「ほう、それは大変だな。日頃の行いが悪くて、天罰が当たったのかもな」


 白々しい笑顔でアランが言った。


「まぁ、雑魚の一人や二人、どうなろうと私たちの知った事じゃないわね」


 にっこり笑ってレオナールが言う。


「人目につきにくい路地裏で魔法で眠らされてやられたらしくて、昨日、そこの酒場で犯人がわかったら襲撃してやるとか息巻いてたわ」


「ほお、まぁ俺たちには関係ない話だな。あいつら普段から素行悪いから、何処で誰に恨み買ってるかわからないよな」


「本当、おとなげない人もいるものね。でもそのせいで受付のドーラが絡まれて迷惑したらしいわ」


 ジト目でジゼルが言うと、アランは眉を上げて


「あいつら全くクズだな。更なる天罰が起きてもおかしくないな」


 ニヤリと笑みを浮かべたが、目が笑ってない。


「ちょっと、アラン!?」


「まぁ、そんなバカはギルド前辺りに、全裸で吊るされるのがお似合いよね」


 レオナールが言うと、ジゼルの顔が真っ赤になった。


「ちょっとレオナール、あなたまさかそんな事しないわよね」


「私はやらないわよ。何処かの誰かはやるかもしれないけど」


 事実である。まぁ、多少は手伝うかもしれないが。


「まあ、嫌な事は早々に忘れた方が良いぞ、ジゼル」


「そうよ、どうでもいい事まで気に留めてたら疲れるわよ」


 なんだかんだで似た者同士である。



1章・完。

というわけで予想より遅くなりましたが1章完結。

後日、人物紹介とマップ掲載します。

また誤字を微修正しました。他にもあった気がするけど、探すと何故か見つかりません。


後日談や番外編でリクエストあれば、後日書きます。

なければそのまま次章。


しばらく更新開きます。


以下修正

×面倒臭い

○面倒くさい(レオナールの台詞のため漢字を平仮名に)

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