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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
5章 古き墓場の鎮魂歌 ~古代王国の遺跡~
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35 嵐のような男

「酒が飲みたいならお好きにどうぞ、私達は準備があるからお暇するわ」


 レオナールがそう言って立ち上がった。


「えっ、おい、レオ!!」


 慌ててアランがレオナールの腕を掴み呼び止めると、レオナールは怪訝そうに首を傾げた。


「何? もしかしてアラン、行きたかったの? てっきり嫌なんだと思ったけど、違った? 大酒飲みのドワーフと一緒に酒を飲みたいだなんて、自殺願望でもあったのかしら、それとも自暴自棄になってるの?」


「そんなことは言ってない。そうじゃなくてレオ、お前はどうしてそう独断専行が過ぎるんだ! 一人で決断する前にどうして俺に、仲間に相談や打ち合わせをしなかった!!

 どうして俺の考えも聞かず相談もせずに、依頼を受けると依頼人に直接言ったんだ!?」


 アランは険しい表情でレオナールを睨み付けた。


「どうして?」


 レオナールは意味がわからないと言いたげな、心底不思議そうな顔をした。


「依頼人と同行するかはともかく《古き墓場》へ行くことは決まっているのに、いったい何を話し合う必要があるの? 

 アランは少し金を稼いでから行くって言ったけど、それはエルグのところで解決したでしょう? 借金返してお釣りも出たんじゃないの?

 だったら何も問題ないわよね。金稼ぎついでに目的地へ行けて、ついでに神官と戦士と盗賊もついてくるんだから良いじゃない。断る理由がどこにあるの?」


「待て、レオ。どうして依頼人の目的の遺跡が《古き墓場》だと決めつけている?」


「どうしてって、勘よ。間違いないわ」


 眉間に皺を寄せて尋ねるアランに、レオナールが自信ありげに胸を張って答えた。勘、と聞いてアランは嫌そうな顔になり、そのまま顔を手で覆った。


「……お前というやつは」


 ガックリと肩を落とす。レオナールはケロリとした顔で言う。


「当初の予定とはちょっと違うけど、使えるかどうかわからない魔法陣を使って転移するより、ちゃんとした──かどうかはわからないけど──入口から入れるなら、そっちの方が良いでしょう?

 アランはできれば安全で確実で堅実な方が好きでしょ。あなた好みじゃないの、嬉しいでしょう? 今度はしっかり準備もできるし、探索期間も一応決まってるんだから、あなたの大好きな予定とか計画とか計算とかも好きなだけできるわよ。

 ねぇアラン、いったい何が不満なの? 文句があるなら言ってちょうだい」


「……なるほど、一応、お前なりに考えたと言いたいんだな」


 俯いたまま両手で顔を覆った状態で、アランがボソリと低い声で言うと、レオナールは頷いた。


「ええ、そうよ。《古き墓場》へ行くことは決まってるんだから、ちょうど良い機会じゃない。アンデッド相手には神官がいた方が良いんでしょう?

 神官とお知り合いになる機会なんてそうそうないんだから、この機会を逃したら色々大変でしょ。聖水って買うとけっこう高いしかさばるし、持ち運びが面倒よ。

 アランは『付与魔法の練習をあまりしていないから、できればまだ相手にしたくない』って言ってたけど、依頼者の神官や盾になってくれる頑丈な戦士が同行してくれるんだから問題ないわよね?」


 レオナールの言葉に、アランは苦い顔になった。レオナールは彼なりに、アランが言った言葉を咀嚼して解釈し理解しようとしたのだろう。


(これでも成長はしてるんだよな、たぶん。ただ、目の前にいる俺の顔や言動を見て、何を考えているかといったようなことは気付かないし、理解できていないけれど)


 それは、全てを諦めて何をされても誰にも助けを求めず行動をしないよりも、何も考えずに自分の好き勝手に言動するよりも、良い傾向なのだと思う。


(レオに理解してくれ、なんて言うのは酷だよな。できないとわかっているのに、やれとは言えない)


 胃が痛くなりそうだ、とアランは溜息をついた。できればこの依頼はあまり受けたくないが、レオナールは行く気だ。アランが熱心に諭せば今回は諦めてくれるかもしれないが、


(何をどう言っても、完全に諦めたりはしないだろうな。だとしたら、少しでもマシな方を選択するしかないか)


 嫌な予感がする。漠然とした不安。何か大事なことを見逃しているような気がするのに、それが何かはわからない。


(気に入らない。でもたぶん抗っても、最終的には行くことになるんだろうな)


 自分が何を気にしているのか、アラン自身にもわかるようでわからない。他人の思惑に踊らされているような気がする、というのが一番近いのだろうが、それが具体的にどうとは自分にも上手く説明できない。


(避けられないなら、現時点で考えられる限り最高の選択をするしかない。準備を入念にするのはもちろんだが、保険も掛けておくか)


「アラン?」


 無言で考え込んでいたアランに、レオナールが声を掛ける。アランは顔を上げて、レオナールを真顔で見返した。


「明日は注文した剣の受け取りもあるし今日だけで全ての準備ができるとも思えないから、最低でも明日いっぱいまでは必要だよな?」


「そうね。細かいことは良くわからないけど、アランが言うならそうなんじゃないの。考えるのは苦手だけど、何かして欲しいことがあれば手伝うわよ? 薬とか交渉とかはわからないけど」


「薬の調合とかもしておきたいし、材料も補充しておきたいから頼む。あと、レオ」


「何?」


 レオナールが髪を掻き上げながら微笑んだ。


「明日も含めてこれからしばらく、できるだけ俺と一緒に行動してくれ」


「明日も含めて? どういう意味かしら」


 アランの言葉にレオナールはキョトンとした顔になった。


「それを説明するのは面倒臭いから、聞かないでくれ」


 真顔で答えたアランに、レオナールは怪訝そうに眉間に皺を寄せた。


「え? 何よ、それ」


「そういうことで頼む」


「頼むってアラン、どうしたの? いつもなら私が聞きたくないって言っても懇切丁寧に説明してくれるじゃない。どこか具合でも悪いの?」


「体調その他に問題ないから安心しろ。じゃあ、言い方を変える。答える気がないから聞くな」


 真顔ではっきりと告げたアランに、レオナールが呆気に取られた顔になった。


「一応念のために言っておくが、お前のいつもの日課も俺が同行する」


「えぇっ! 嘘でしょう!?」


 大きく目を見開き叫ぶレオナールに、アランは真顔のまま淡々と告げる。


「大丈夫だ。ちょっとくらいなら離れても良い。ただ、俺の目の届かないところへは行くな」


「えーっ、それじゃちっとも自由に動けないじゃない!」


「何故俺がこんなこと言うのかわからないとでも言うのか? 先日の件、ちっとも反省してないだろ」


「たっ、確かにアランには悪いことしたし、ちょっと失敗したとも思ってるわよ!! でも、ダオルより遅いアランと一緒で、何を狩れって言うの!? 今更ウサギを狩れとは言わないわよね!?」


「家の外では少し制限をかけるが、中でまでは行動制限しないから安心しろ」


「それ、ちっとも安心できないんだけど!?」


「自業自得だ。俺がお前を信頼して安心できるよう心懸けろ。そうすれば、俺も少し考えを改めるかもしれないぞ」


「それってアランが気に食わなかったらそのままって意味じゃないの! 正直悪いとは思ってるわよ。でも、だからってそれはあんまりだわ!!

 アランに合わせてたらろくに獲物なんか狩れないじゃない!! 私に剣を振って斬ることを取ったら、一体何が残ると言うの!?」


「俺としてはそれでお前が反省して、今後行いに気を付け配慮してくれるならそれに越した事はない。何をどうしたら良いかわからないなら、いくらでも聞いてくれ。その方が俺も有り難い」


「アランってばひどい! ルージュやガイアリザードの背に乗せて運んだら怒るくせに!!」


「それは誰だって怒るだろ! だいたい騎乗できるか自分で確かめもせず、いきなり俺を乗せるとか有り得ないだろ!?」


「死にはしなかったでしょう!? ちょっと気分悪くなってしばらくグッタリしてただけじゃないの。あれくらいなら何の問題もないわ。休めば治るんだから、どうにでもなるじゃないの」


「そういう問題じゃねぇよ! お前は俺を一体何だと思ってるんだ!! まかり間違って死んだり壊れたりしたら、二度と元通りにはならないんだぞ!!」


「あれくらいで死なないわよ、おおげさね。個人差はあるけど、意外と人間って頑丈で回復力もあるから大丈夫よ」


「バカ言うな! お前に付き合ってたら、いくつ命があっても足りねぇよ!! うっかり落ちたりしたら本当に死ぬんだからな!!」


「何を言ってるのよ、アラン。落ちないように縄で縛ったり、騎乗用の鞍と落下防止のベルトを着けてあげたりしたでしょう? それに万が一のことがあったら、私が助けてあげるわ」


「お前の扱いだと、死ぬギリギリのとこまでは我慢させられそうなんだが」


「えっ、私、アランをそんなにヒドイ目に遭わせたことあった? そんな記憶ないんだけど」


「俺とお前じゃ酷い目の基準が違うんだろうな。死ななきゃ問題ないとか言う問題じゃないからな。酷い目だったかどうかってのは、当事者の判断だから個人差があるのは当然だ。

 でも、お前のそれは他の基準からだいぶずれてるからな。それだけは覚えておけ」


「そんなこと言われても良くわからないわ。いったい私にどうしろって言うのよ、アラン」


「お前はその都度指摘して説明してやらなきゃ理解できないんだろうから、今は何を言っても無駄だろう。でも、お前はわからないと口に出す前に、もう少し物事深く考えろ。

 一生懸命考えて、どうしてもわからなかったら俺に言え。具体的に何がどう理解できなかったら説明できたら、懇切丁寧に解説付きで教えてやる」


 アランが真顔で窘めるような口調で言うと、レオナールは眉をひそめた。


「どうしてアランの言葉って偉そうな上に面倒くさい言い回しなのかしら。だからこそアランって気もするし、それも面白いからまぁ良いわ。言ってる内容が簡潔明快なアランってのも変だものね」


「おい、どういう意味だ」


 アランがしかめ面になるが、レオナールはヒラヒラと右手を振って言う。


「細かいことは気にしない方が良いわよ、アラン。私は困ってないし、問題ないわ。内容が理解できるかどうかはともかく、アランのおかげで語彙が増えているのは確かだもの」


「待て、意味が理解できないなら十分問題あるだろう」


「大丈夫よ、アラン。言葉の意味とか言い回しとかって、詳しい意味はわからなくても何度も聞いていたら、なんとなくわかるようになるもの。

 意味を説明されてもどうせ理解できないんだから、それで良いでしょ。そんなこと気にしてたってどうしようもないわ。生きて行くのには問題ないし」


「…………っ」


 口をパクパク開閉させるアランに、レオナールは軽くウィンクしてドヤ顔する。


「そんなことより早く行きましょう、アラン。あら、そう言えば大事なこと聞き忘れてたわね」


 レオナールがふと気付いたと言った顔になり、ツカツカとヴィクトールに歩み寄った。


「そう言えば、出発日はいつなのかしら? 明日注文していた剣の受け取り日だから、それ以前だと代わりの武器を手に入れなくちゃいけないんだけど」


「あっ、ああ、こちらも準備が必要なので、準備期間は今日を含めて三日ほどではどうだろうか? 天候に問題がなければ、明々後日の朝、北門前にて集合ということで良いだろうか?」


「わかったわ。こちらの荷物は手持ちの馬車に積むから、通常の探索で必要な道具や食料・飲料類は気にしなくて結構よ。

 小舟とか聖水はそちらで用意してくれるんでしょう? ああ、それと確認しておきたいんだけど、うちはガイアリザードに幌馬車をひかせてるけど、そっちは何かしら? 馬とかならどこかへ預けたりするの?」


「いや、僕は手持ちの馬車は所持していないので借りる予定なのだが、馬では何か問題あるのか?」


「森の中の洞窟奥にある地底湖をさかのぼったところに遺跡があるんでしょう? ならそこまで馬を連れて行くのは無理だから、近くの町か集落で預かってもらうか、森の外か洞窟付近に馬車を世話役付きで置いていかないといけないでしょう。

 何があるかわからない場所へ馬や世話役を置いていっても、戻った時には死んでる可能性が高いんだから、途中で下りて預けた方が良いと思うけど。

 私達みたいに戦闘も可能な魔獣にひかせているのなら、馬車だけ置いて連れて行くって選択肢もあるけど」


 レオナールの言葉にハッとした顔になったヴィクトールが、慌てて傍らのドワーフを見た。


「オーロン殿」


「うむ、それに関しては後ほど話そうと思っていた。だが、ガイアリザードとは素晴らしい! さすがにそこらの貸し馬車屋では扱ってはおらぬだろうな。

 すまぬが、我々の荷もそちらの馬車に載せていただいてもかまわぬだろうか? 馬は短時間であればガイアリザードと同じ速度で走れないこともないが、持久力や耐久力の差があり過ぎる。

 前日または当日、そちらの都合のよろしい時間で良いのだが」


 頷き答えるオーロンに、レオナールは首を傾げて尋ねた。


「当日だと慌ただしいから、前日の夕方くらいかしらね。どうすれば良いの? そちらの宿へ行けば良いのかしら?」


「うむ、冒険者ギルド向かいの《金色の小麦》亭だ」


「わかったわ。明後日の夕方、宿の方へ馬車で向かうわ。それまでに必要な物を揃えておいてちょうだい。では、今度こそ失礼するわね。さ、行くわよ、アラン」


 レオナールはアランの腕を取って、部屋を退出した。


「まるで嵐のようだな」


 ダオルがポツリと呟いた。

更新大変遅くなりました。すみません。

途中まで懇親会行く方で書いてみましたが、どう考えてもレオナールが行くはずがないということに気付いて書き直し。

相変わらずサブタイトルが微妙です。

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