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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
1章 ダンジョン出現の謎 ~オルト村の静かな脅威~
16/191

16 ロラン支部ギルドマスターは胃が痛い

 翌朝、宿の主人に昼食の注文の確認と、村長への報告終了後、昼前には出立したい旨を伝え、アランは朝一番に村長宅へと向かった。


「……というわけで、奥に巨大な祭壇と、人型の何者かが寝起きし滞在していた形跡と、怪しげな転移陣を見つけました。

 鍵はお返ししますので、ギルドや依頼主である領主様の判断が出るまでは、これまで通り関係者以外には封鎖した方がよろしいかと思われます。昨日は不在でしたが、首謀者がいつ戻って来るかわかりませんから」


 アランがそう締めくくると、村長は呻き声を上げた。


「その、ダンジョン化をなんとかする事はできないのかね?」


「普通の古いダンジョンならあるはずの核が発見出来なかったので、何とも言えません。

 ダンジョンの全ての箇所を探索したわけではありませんが、一番重要な箇所は調べたと思います。

 その証拠に、手前の部屋にはレッドドラゴンの幼竜やミスリル合金のゴーレムなどもいましたから。他の箇所で出た魔物はゴブリンとコボルトだけでしたしね。

 おそらく、これは予想や推測ではなく、私見で想像ですが、あのダンジョンは魔素や生命力などを吸収して成長しないタイプの、人避けのためだけに作られたものなのではないかと。

 一番重要な施設は、最奥の祭壇と居室だけで、それ以外は作成途中か、ほとんど手を付けられていなかったのではないかと思います。

 とにかく、これ以上の調査はFランクではなく出来ればSランク、最低でもBランク冒険者にさせるべきです。

 何しろ相手は、古代魔法語に熟達し、自力で魔法陣を組む事ができ、普通の邸宅をダンジョン化できる存在なのですから。

 おそらくは、高ランク魔術師、あるいは魔族なのではないかと思います。

 その辺りの判断は、ギルドと領主様がなされるとは思いますが。俺は自分に出来得る限りの調査はしたつもりです。これ以上係わるとなると、今度は自分の命の心配をしなくてはならなくなる。

 何故、首謀者がこの村のこの邸宅を狙ったのかは、全く理解できかねますし、この村の人々にはとても災難で気の毒だとは思っています。ただ、俺も命あっての物種ですので、これ以上危険を冒す事はできません。

 村長もご存じでしょうが、相方が運良くレッドドラゴンの使役(テイム)に成功しなかったら、どうなっていたかわかりませんし。万一戦闘を回避する事ができたとしても、その後のゴーレム戦で無傷で勝利する事などできなかったでしょう」


「……そう、か。それでは、仕方ない、な。ギルドと領主様のご判断を待とう。わしらにはそれ以外、どうする事もできん」


「この村はとても良い村だと思います。願わくば、この村が下種(げす)な輩の不埒な思惑に潰されず、平和に過ごせるよう祈ります」


 アランは丁重な挨拶をして、村長宅を後にした。


(本当、勘弁して欲しいよな。俺には、いかにもヤバそうな、人知を超えた高位魔術師を敵に回す度胸はねぇっての。何も悪いことしてねぇのに、そんなやつに目を付けられるなんて、すげぇ気の毒だとは思うけど。

 たぶんきっと、比較的周囲の街道が整備されて行き来しやすくて、それでいて田舎で人口が少なくて、普段滅多に人が近寄らない比較的広い敷地があるという点が、狙われた主な原因なんだろうな)


 アランはぼやく。後は、相方がこのダンジョン制作者に興味を持たないでいてくれる事を願うだけだ。


(まぁ、あいつは斬る事が出来る獲物と、その理由があれば何だって構わないんだろうが)


 こういう時は、脳筋で良かったと思う。


(でも、やっぱりせめて盾役とか回復役とか欲しいよな。あいつと組んでる限り無理そうだが)


 だが、オーロンは仲間に入れたくないと思う。


(どう考えてもあのドワーフ、レオ以上の地雷だし)


 事なかれ主義である。


(好きこのんで厄介事を次々抱え込む、底なしのお人好しとか、どう見てもトラブルの元だ。ああ、どこかに良い人材転がってないかな。人災はレオだけで十分だ)


 村長への報告と挨拶は済んだので、次に村人たちに出立の予定と挨拶、それに滞在中の詫び代わりの大銅貨1枚ずつを配り歩いた。感謝されたが、たぶん出て行ってくれるのかという喜びと、詫び金に関してだろう。

 村人たちには詳しい話はしない。報告内容を開示するかどうかは、村長の判断に任せる。おそらく村人たちには詳細を伏せる事になるだろうが。


(う~ん、ミスリル合金含めたら黒字だが、報酬だけだと微妙だな。絶対に追加報酬貰おう。割に合わない)


 採算が微妙ならば金など配らなければ良いのだろうが、なるべくなら来たくはないが、また別の依頼を受けてこの村に来る事もあるかもしれない。

 ならば可能な限り、印象は良くしておくべきだ。既に手遅れかもしれないが、門前払いされない程度にはしておかないと、受けられない依頼が増えてしまう。


 印象を良くしたいなら誠意と心配りと実績でなんとか努力しろという意見もあるだろうが、手っ取り早く効果的なものは賄賂(カネ)だと思う。

 金とコネは大事だ。世の中に金が嫌いな人間はそうそういない。金が嫌いだと誰彼憚らずに公言できるのは、金に困った事のない金持ちか、自分で金を稼いで自立した事のない若者だけだ。一度でも困窮した事があればそんな事は言えない。

 賄賂で解決できる事は賄賂を送って解決&根回しするのがアランのスタンスである。手っ取り早く効率的であれば何でも良い。地道な努力や誠意など、家畜の餌にもならないと思っている。


 アランには少なくとも、誠実という言葉は似合わない。真面目に見えて、ちゃらんぽらんなところのある男である。

 本人は認めないだろうが、幼少時から良くも悪くも相方の影響を受けて育っている。レオナールの他に、その母であるシーラの影響も受けている。


 実はエルフであり年齢不詳な美しい容貌のシーラが、彼の初恋であるのは秘密である。彼女の弟子になった理由に、初恋や憧憬があったのもある。

 レオナールがレオノーラだった頃から、かの幼なじみに甘酸っぱい思いを覚えた事は皆無である。

 見た目は稀に見る美少女の姿であった時でさえ、レオナールに色恋的な感情を抱く人間が全く理解できなかった。

 その本性を知る前から、あれは人の殻を被った何かだと感じていた。そんなレオナールと幼なじみであり友人になったのは、少しでもシーラに近付きたいという下心が主だった。


 今では、疫病神とか厄介者とか思ったとしても、見捨てられないだけの情と義理と、哀れみがある。もちろん哀れんでいる事など、相手に感付かせるような事はしない。

 アランは家族の理解を得られはしなかったが、愛されて育った。シーラは息子を愛していたが、それが許されない環境にいた。


 元冒険者だったレオナールの実父が、彼の生まれる前に殺され、母共々その兄に引き取られたのが、不幸の始まりだった。

 子爵令息長男だったその男は、大の亜人嫌いだった。その男は、自分の父親である子爵と実の弟を殺した罪が発覚して処罰されたが、処刑はされなかった。

 発覚がもう少し遅れていれば、シーラとレオナールは殺されるか、奴隷として売られていたかもしれない。


 子爵家は取り潰しになり、最悪の事態は回避されたが、その影響と傷は深い。身体の傷は回復魔法で跡形なく癒やす事はできるが、心や記憶を魔法で救う方法は今のところ見つかっていない。


 アランはレオナールの人格と性格を仕方ないと諦めている。そういうものは一度形成されてしまえば、対処のしようがない。それでも、見捨てる気にはなれないし、最初は困惑するだけだったが、だいぶん慣れてきた。

 正直なところ、アランはレオナールを面倒臭いやつだとは思っているが、嫌いではない。好きなのかと問われれば、肯定もし難いが。

 仲の良い喧嘩友達、と称するのが一番合っている気がする。相手の性格が性格なので、こちらが一方的に怒っている事の方が圧倒的に多いような気がするが。


 一番の救いは、レオナールが良くも悪くも嘘は言わないという事だろう。からかったり、不真面目な態度だったりすることはあるが。

 共感はし難いし、理解もできない。でも相手の気持ちや感情を、ある程度察したり感じたりする事はできるし、何を望んでいるのかもわかる。それができるから、友人でいられるのだ、と思う。

 相手が全く理解できない化け物や魔性だったら、仲間にも友人にもならない。そしてたぶん、それが一方的なものではないから、互いに友人だと思える感情があるから、友人関係が成り立つのである。どちらか一方だけなら、友人にはなれないしならないだろう。


 そして、アランには何故かレオナール以外の友人がいなかった。これについては、本人的には大変心外である。自分には何も問題がない、とアラン自身は思っているのだが、何故か他に友人ができない。これは最大の謎だ、と考えている。

 恋人ができない事に関しては諦めているので、問題ない。しかし、レオナール以外の友人ができないというのは納得いかない。


(俺ってなかなかいいやつだよな? 人格破綻者でも人に嫌われるタイプでもないよな? 何が原因なんだ。世の中間違ってるよな)


 最大の理由は、客観性のなさと、空気の読めなさ、察しの悪さと不器用さ、そして何より立ちかけたフラグを気付かずに自ら折るせいだという自覚は、ない。

 その点に関しては、レオナールとアランは似たようなものなのだが、意識的にやる、または改善する気が皆無なのがレオナール、自覚がなくわざとではないのがアラン、という違いである。


 残念ながら、アランがそれに気付く事はない。誰かに指摘されれば、改善の余地はあるのだろうが、今のところそんな親切な人間は彼の身近にいないのが、彼の最大の不幸である。


 全ての村人への挨拶を済まし、オーロンに会う事にした。


「保護した少女の意識が回復した?」


 それならオーロンの性格ならば手放しで喜んでいそうなのに、何故かそうではない。嫌な予感がする。


「実は彼女は古代魔法語しか話せないようで、意志疎通ができないのだ」


「待て。それで何故彼女が話す言葉が古代魔法語だとわかった?」


「彼女を診て気付け薬を嗅がせて覚醒させてくれた神官殿が、教えてくれたのだ。アラン殿は古代魔法語の造詣が深いのだろう。どうか彼女の話を聞いては貰えないか?」


「ちょっと待て。俺の古代魔法語知識はエルフの師匠から学んだ、読み書きだけだ。魔法書や魔法陣の解読には必須だからな。発音や聞き取り可能なレベルではない。それは専門外だ」


「では、その師匠をわしに紹介する事は可能だろうか。あるいはアラン殿が筆談で尋ねる事は?」


 アランは頭痛を覚え、額を押さえて呻った。


「師匠は今、里帰りして療養中だ。連絡が容易にできる場所ではないので、紹介はできない」


 それでなくとも信用していない相手に紹介したりはしない。自覚のないトラブルメーカーであるなら尚更だ。


「俺の知る古代魔法語は、目的のためもあって魔法書や魔法陣に良く書かれる定型文が主で、日常会話に使われる語句や文字、複雑な文法・表現などは知識にない。筆談も難しい。

 他に魔術師を紹介する当てもコネも残念だがない。田舎出身の農夫のせがれで、先月ギルド登録したばかりのFランクの新人だからな」


「何!? Fランク、それも先月登録したばかりだと!? とてもそうだとは思えなかったぞ。

 魔法陣を解読する知識と言い、魔法の手際や術と言い、てっきり中位だとばかり思っていた」


「そもそも冒険者ギルドは成人の15歳以上でなければ登録できないからな。ただ、デビュー前に、レオナールの師匠に実戦はやらされていたし、小遣い稼ぎの薬草採取もしていた。

 レオナールの師匠は実戦こそが人を育てる、というのが信条の人で色々やらされた」


 レオナールはなんだかんだと言いながら、その影響をもろに受けている。


「俺もレオナールも、偏った知識と経験しかまだないんだ。そして冒険者としての実績もない。ただ、ロラン支部のギルドマスターが、レオナールの師匠の知人だったから、紹介というか、顔を合わせる程度の事はできると思う。

 元Sランクだったらしいから、それなりにツテはあるだろう。面倒臭い人だから睨まれれば難しいだろうが、気に入られれば力になって貰えるかもしれない」


 気に入られても面倒なのだが、それは言わない。


「では申し訳ないが、ロラン支部のギルドマスターを紹介していただけないだろうか」


「話を聞いて貰えるかまでは責任持てないが、それで良ければ。どうせこれから帰るところだ」


「何? そうか、本日いつ頃出立する予定で?」


「昼前には出るつもりだ。今日中にギルドへの報告も済ませたいからな。あと、昨日は言わなかったが、昨日ダンジョン内であった事は口外しないで欲しい。

 あのダンジョンの事は、ギルドと領主様が調査報告をもって判断する事だからな。村長には一応概略を報告したが、村人はもちろん部外者にも知られてはならない。無用な混乱を与えるだけだ」


「ふむ、ドラゴンの存在はバレてしまったが、今はダンジョンにはいないのだから、漏れても特に問題はない、か」


「あの大きさだ。隠しても無駄だろう。使役魔獣として認識されるなら大丈夫だろう、たぶん」


「では、わしも出る準備と挨拶をして来よう。いずれまたこの村へ戻るつもりではあるが、状況によってはロランに長居する事になりそうだからな」


「そんなにこの村が気に入ったのか」


「ここよりエールのうまい場所は知らないからな。飽きるまでは飲む予定だ」


 それを聞いて、アランはこいつはレオナールの師匠ダニエルの同類かもしれないと思った。


「では、俺は他にやりたい事があるので失礼する」


「わかった。ではまた後で」


 そしてアランはロランに帰ったらすぐ報告できるよう、部屋で報告書を書く事にした。内容はメモに記してあるし、何をどう書くかも既に決まっている。レオナールが戻るまでに済ませて準備しておきたい。


 ダットと顔を合わせる気はなかった。どうせあの盗賊はオーロンが他に気を回している隙に、これ幸いと逃げようとしているだろう。アランは関わりたくなかった。自分たちに被害がでなくて、巻き込まれる事がなければそれでいい。


 アランが報告書を書き上げ、荷物をまとめ終わった頃、レオナールとオーロンが戻って来た。


「大変だ。ダットが昨夜の内に宿を出立していたらしい」


 そんなところだろうとレオナールもアランも思っていたが、オーロンにはそうではなかったらしい。


「心当たりはないだろうか」


「そんなの俺たちが知るわけがない」


 レオナールも無言で頷く。


「彼の件もどうにかしなくてはな。しかし、優先するのはあの少女の方だ。早く解決して、家族や知り合いに合わせてやりたい」


 ふとアランはあの白髪の少女にそういう存在がいるのか疑問に思ったが口にはしなかった。彼女が無力でか弱い人間または亜人ならば、その家族は既に殺されているのではないだろうか。実際のところ現時点では何もわからないが。


 そして一行は村人たちに見送りされた。もちろん見送りされたのはオーロンである。ここの村人たちに彼はとても愛されているようだった。そばにいるレオナールと幼竜のせいで、皆少し遠巻きではあったが。


 そしてこの時、レオナールとアランは初めて引きこもり神官を見た。人目を引く美形ではなかったが、そこそこ整った感じの、痩せすぎて病的で、愛想の欠片もなかったが、貴族出身なのか品が良く育ちの良さそうな人物だった。

 その引きこもり神官が、また会って話がしたいとオーロンに告げていた。そんなに仲良くなっていたとは知らなかったが、オーロンなら有り得る、とアランは思った。


 オーロンは、きょろきょろと落ち着きない白髪の少女を自分の馬に乗せ、一行は村を出た。



   ◇◇◇◇◇



 道中特に問題なく、ロランへ到着した。そしてその足で冒険者ギルドに向かい、報告の他に話したい事があるとギルドマスターへ面会を求めた。


「報告は俺が直接受けるつもりだったが、わざわざご指名とは、いったいどうした? 新顔もいるようだが」


 ニヤニヤ笑いながら、ギルドマスターである男、クロードが言った。


「最初に言っておくと、彼は新しい仲間ではないし、特に親しいわけでもない。たまたま顔を合わせ、今回理由あって同行しただけだ。

 またこの少女はダンジョン最深部で保護された。詳しい事は彼、オーロンに聞いてくれ。彼女を世話しているのはオーロンだ。

 それと、これが報告書だ」


「いつも通りだが、マメというか律儀というか。確かに要領を得ない説明や報告を長々と聞くよりは断然マシだが」


 そう言いながら、ギルドマスターは報告書を手に取り、ざっと流し読みた。


「なるほど、で、報告書にあるドラゴンの方はどうした?」


「……郊外にある森の中にいます」


「おい!?」


 ギルドマスターは思わず腰を浮かす。


「わかってます。だけど町の中に入れて良いんですか? 幼竜とは言え、首輪も拘束もないレッドドラゴンを」


 頭痛を堪えるような顔でアランが言うと、ギルドマスターはしぶい顔になった。


「しかし、共通語が話せない身元不明の少女と、首輪のないドラゴンか。胃が痛くなるな」


「俺もです」


 アランが頷くと、ギルドマスターも嫌そうな顔になった。


「ドラゴンについては、とりあえず後で、俺の家に連れて来い。暫くアランとレオナールもまとめて預かってやる。面倒だが、それが一番手っ取り早い。その後どうするかは後だ。

 それとその少女だな。心当たりに連絡してみるが、王都にいるから少々時間がかかる。さすがに古代魔法語に習熟している人間は稀少だからな。

 ロランにそんな人材はいないだろう。俺の知る限りはいないな」


「助かります」


 アランは頭を下げた。


「もちろん家賃や食費はいらないわよね?」


 レオナールが満面の笑みを浮かべて言った。ギルドマスターは顔をしかめて、


「お前、相変わらずだな。ドラゴンの餌代は無理だからな?」


「わぁ、さすがギルドマスター、有り難う。太っ腹!」


 レオナールが言うと、苦虫を噛み潰した顔になる。


「頼むから、滞在中俺に迷惑かけてくれるなよ?」


「大丈夫、安心して。ギルドマスターはお金だけ出してくれれば良いから」


「……お前、本当その性格と図太さは王国一かもしれないな」


 ぼやくようにギルドマスターは言った。


「しかし、本当に助かります。一番の懸案事項が片付きました」


 アランが頭を下げると、


「お前も全然変わらないな」


 と、しぶい顔をされた。が、少女の事に関してはレオナールとアランの管轄ではない。


「わしも心から礼を言わせて下さい。本当に助かります。言葉が通じないというのは本当に難儀な事で。意志疎通ができないと、大変だと改めて学ぶ事になりました」


 ああ、とアランは思ったが、言葉が通じたとしても大変であろう事は最初からわかっていた。だから関わりたくなかったし、責任も取りたくなかった。そんな面倒事は御免である。

 身近に手のかかる人物がいるのに、他まで面倒見きれない。


「それでは、依頼の調査報告に関しては、後日確認をとってまた話を聞くぞ、アラン。

それで、オーロン。君の話も聞きたい」


「わかりました。こちらこそぜひお願いいたします、ギルドマスター」

「では、俺たちは先に部屋を出ても良いですか? 問題が出る前に幼竜の確保、もとい保護をしておきたいので」


「……そうだな。家の鍵は渡しておく。なるべく荒らさないように頼む」


「ドラゴンはどうします?」


「庭にある小屋なら大丈夫だろう。今はガラクタしかなかったはずだから、中にあるものは全部外に出して良い」


「それって、代わりに俺たちが掃除するってことですよね?」


「それが滞在費だと思え」


「この依頼、追加報酬出ますよね? 正直金貨1枚は安すぎますよ。死ぬかと思ったんですから」


「それに関しては領主様と要交渉だ。報告書が正しいと確認された後でな。言いたい事はあるだろうが、暫く待て。

 どうせ俺の家に滞在中は生活費がかからないんだ」


 アランは小さく舌打ちした。


「節約できるのは有り難いけど、それと報酬は別だと思うけど? ロラン支部と領主様は金払いが悪くて、財布のヒモが固過ぎるって噂が流れたらどうするの?」


 レオナールが言うと、ギルドマスターは嫌そうな顔になる。


「お前、絶対変な噂流すなよ? 報酬については成果が確かかを確認してからじゃないと、なんとも言えないからな。もちろん、情報が正しいと判断されれば、増額しないとは言ってない」


「手に入れたミスリル合金はこっちで売却してもかまわないわよね?」


「まぁ、一部は後日、領主様に報告する時のために残していて欲しいが、それ以外なら問題ない。お前たちもすぐに使える金がある方が良いだろうからな」


「了解。じゃ、鍵をちょうだい」


 ギルドマスターは顔をしかめながら鍵を取り出すが、レオナールではなくアランに手渡した。


「これ渡すのは一応お前を信頼してるからだからな。貴重品は置いてないが、頼むからな」


 と念を押した。


「大丈夫です。ギルドマスターの信頼を失うような真似はしません」


 アランは笑顔で答えたが、やけに爽やかで、どことなく胡散臭げな顔で、ギルドマスターは少々不安を覚えた。


「では、俺たちはこれで失礼します。では、また」


 レオナールとアランは、その場を後にした。

今回ちょっと長くなりましたがあと1話でこの章完結できそうです。


以下修正

×大義名分なしに斬る

○斬る

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