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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
5章 古き墓場の鎮魂歌 ~古代王国の遺跡~
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15 理解できないことは気付けない

「レオナール、あなたは誰かのために何かしてあげようと思ったりしないの?」


 ルヴィリアの言葉に、レオナールは怪訝な顔になった。


「何故? 何のために?」


「普通は愛情とか信頼とか、普段お世話になってる人とかいたら、自然に自発的に何かしてあげたいと思ったりするものじゃないの?」


「ちっとも意味がわからないわ。わかるように説明してちょうだい」


「……レオナールは、誰かに何かしてもらったり、ありがたく感じるような気持ちとか、そういうのはないの?」


「誰かに何かしてもらうって、例えば打たれたり蹴られたり、面白半分に毒とか睡眠薬とか飲まされたり、人体実験されること?」


「はぁ!? なんでよ!! どうしてそうなるのよ!!」


「前の飼い主が良く言ってたわ。ご主人様に殴られる時は反抗的な目を向けるな、抵抗せず目を閉じて心から深く感謝しろって。残念ながらそういう気持ちにはついぞなれなかったから、無視することにしたけど。

 根暗で粘着質でうるさくて、本当どうでも良いことしか言ってないから聞くだけムダだし、聞いても理解できる気がしないのよね。

 アランは怒らせたり暴走すると面倒だけど、たいていは好きにやらせてくれるから楽だけど」


 レオナールが肩をすくめて言うと、ルヴィリアがドン引きした顔になる。


「えっ、何、その飼い主って。その人とんでもなく頭のおかしい変態じゃない! なんでそんなのを基準にしようとしてんのよ!? あんたバカじゃないの!?」


「良くわからないけど、本人は父だと思えとか言ってたわね。気持ち悪いから死んで欲しかったし、できれば殺したかったんだけど、師匠とアランが言うにはダメらしいのよね。

 面倒くさいわ、あんなのでも殺したら私が犯罪者になるなんて。やってることはその辺の盗賊や賞金首どもとそう変わらないのに。

 証拠だの証言だの裁判とか裁定とかどうでも良いわ。みんなまとめて殺してしまえば良いのに。その方が手っ取り早いし、後腐れなくて楽なのに」


「……もしかしてあんたの父親って貴族? それとも金持ちだったりするの?」


「良くわからないけど、貴族らしいわ。金もそこそこ持ってたんじゃないの。ほとんど人身売買や強盗や賄賂とか着服とか、不正で得た金だけど」


「うわぁ、絵に描いたような悪徳貴族ね」


 嫌そうに顔をしかめるルヴィリアに、レオナールは首を傾げる。


「悪徳貴族? ……そうね、そうなるのかしら。他に貴族は良く知らないから、皆あんなものかと思ってたけど、そう言えばアレクシスはあれとは全然違った印象だったものねぇ。

 良く考えたら、皆があれと同じだったら最初から捕らわれたり、処分とか更迭とかされたりしないわよね。それは気付かなかったわ。ありがとう、ルヴィリア」


「どうして、私がそこで礼を言われるのか、全く理解できないんだけど」


「誰かに何かしてもらったり、知らない事を教えてもらったらお礼を言った方が良いんでしょう? アランがそう言ってたけど」


「……今のは単に自分の感想を口にしただけで、別にあんたに言ったつもりはなかったんだけど、それであんたがお礼を言いたいなら、かまわないわ。

 ただ、ちょっと今、あんたが何を常識だと思って何を基準にしているのか計り知れなくて、何の予備知識もなくこいつの教師役をやらされるのかと思ったら、ものすごく頭が痛いけど」


「私はできればやりたくないけど、どうしてもって言うなら読み書きだけでも良いんじゃないの? 常識とか知識とかそういうのって、個人差があるものでしょう」


「あんたのそれは、あんた以外の人とかけ離れ過ぎてるのよ!! まともに社会生活できないやつを、一応一人でもかろうじて社会で生活を維持できる程度にはしてやろうってことでしょ!?

 本っ当、騙された! てっきり世間知らずで無知なお金持ちのお坊ちゃま相手の子守だと思ってたら、引き合わされたのは同年代の七面倒臭い非常識の、キ○ガイな環境で曲がって育った色々おかしい男だとか! なんで私にやらせようとするのか理解できないわ、あの腹黒おっさん!!」


「安心しなさいよ、師匠だってあなたに完璧さを求めたりはしないでしょう? だって、その気になればあなた以上の教師役を手配するのは簡単にできるんだから。

 きっとたまたま目の前にいたからとか、何かに使おうと思ったけどとりあえず今は頼む仕事がないから適当にやらせようとか、他に何か企んでることがあるからカモフラージュ?に仕事名目で私達に押しつけたとか、そういう理由じゃないの?

 師匠が口で言ったことをそのまま鵜呑みにすると、たいてい裏があったりするから」


「……なっ……何それ! 実際あり得そうでゾッとするんだけど!!」


「まぁ、何も裏とかなくて、でもラーヌからは追い出したかったから教師役として金を払って私達に同行させたってのもありそうよね」


「実際に住んでいた貸家を、数日で拠点として買い取られていつの間にか『私の家』じゃなくなってたから、本当にそうかもって思いそうなんだけど」


「何言ってるの? 師匠の考えてることが私にわかるはずないでしょう? 私が適当に言ったことをそのまま信じる方がバカなんじゃないの?」


「なっ……!?」


 目を見開いて絶句するルヴィリアに、レオナールはニッコリ笑った。


「他人の言うことをいちいち鵜呑みにしてたら、殺されても仕方ないわよ? 暇つぶしに付き合ってくれてありがとう」


「死ね! 地獄に落ちてボコボコにのされて×ン×マちょん切られて悶絶して死ね!! この頭のおかしいキ○ガイ男!!」


「下品ね」


 絶叫するルヴィリアに、レオナールは眉をひそめて肩をすくめた。注文を終えて戻ってきたアランは、その様子を見て深々と溜息をついた。


「おい、今度は何やったんだ、レオ。あんまりいじめてやるなよ」


「いじめてはいないわ。ちょっとからかって遊んであげただけよ」


「お前の遊びはだいたいシャレにならないんだが。頼むから面倒なことやらかしたり、厄介事起こしたりしないでくれよ。もう辟易してるんだ。

 特に領兵団詰め所へ出頭しなくちゃならないようなことは勘弁してくれ。考えただけで胃が痛くなる」


「あら大丈夫、アラン。胃腸薬は持ってきてるの?」


「胃腸薬と風邪薬と傷薬は常に持ち歩いている。って、違う! 今のは比喩で、実際に腹が痛くなったわけじゃない!!」


「なんだ、驚かさないでよ。アランの体調が悪くなったら、予定や都合がズレるんだから気を付けてね。私の楽しみが減るでしょう」


「……最後の一言がなければ、泣いて喜ぶんだけどな」


「え、アラン、泣くの?」


 目を瞠り驚いたように尋ねるレオナールに、アランは仏頂面になった。


「比喩表現だ。絶対泣かないから安心しろ」


「その比喩ってなんなの。それはわざわざ使わないといけないわけ? 必要があるの?」


「うん、俺が悪かった」


「意味がわからないわ」


 疲れたように言うアランに、レオナールは首を傾げた。



   ◇◇◇◇◇



 一行が食事を終えた帰り道のことである。レオナールとアランが二人と別れ、クロード宅へと向かう途中、栗色の髪の少女が小走りに駆け寄って来た。


(来たわね)


 構わず先に進もうとするアランには声を掛けずに、レオナールは一人立ち止まった。


「レオ?」


 相棒が着いて来ないのに気付いて怪訝そうに首を傾げるアランに、レオナールは微笑を向けた。


「大丈夫、気にしなくて良いわ。先に帰っても良いわよ」


「そういうわけにいくか。お前を一人にしたら何やらかすかわからないだろ」


「信用ないわねぇ?」


「そうさせたのはお前だろ。自業自得だ。嫌だと思うなら今後反省して学習しろ」


 アランの言葉に、レオナールは大仰に肩をすくめた。ようやく追いついた少女が何かに躓き転びかけるのを、レオナールが予測していたような動きで支えて受け止めた。

 それを間近で見たアランが大きく目を瞠り、息を呑んだ。


「すっ、すすすっ、すいません! ひひひ、昼間もっ、本当にあああ有り難うございまししたぁああぁっ!!」


 少し垂れ目で大きなつぶらな瞳の華奢な少女である。何の予備知識もなく彼女を見れば、無害で薄幸そうに見えるだろう。落ち着きのない言動によって、多少残念度が上がってはいるが。


「それで? わざわざこんな時間に何か用かしら?」


「そそそそのっ、お礼を言いたかったのと、そそそそそのっ、お時間があればお礼にお酒とか、わわわわたしの奢りでどどどどうでしょうっ!?

 あのあのっ、ごごごご都合とかいいいいかがでででですかっ?」


 頬どころか耳や首まで真っ赤にして、こちらを見上げ、どもりながら言う娘に、レオナールは困惑した。


(やっと仕掛けに来たのかと思ったけどこの娘、いったい何が言いたいのかしら)


 レオナールにとって、元々他人の言うことは理解しづらいのだが、この娘は格別に聞き取りづらい上に言葉が足りず、文脈を理解しにくかった。


「レオ、彼女はどうやら昼間の礼とやらをしたいから、暇なら酒を奢りで飲みに行かないかと誘っているみたいだぞ。それはともかく、昼間の礼ってお前いったい何をした?」


 アランが渋面でレオナールに尋ねた。レオナールは軽く肩をすくめ、髪を掻き上げながら答えた。


「たいしたことはしてないわ。買い物途中で、この娘がぶつかってきて勝手に転んで足を痛めたようだったから、冒険者ギルドの治療室まで運んだだけよ」


「お前が運んだのか? あ、いや、もしかしてダオルがそうした方が良いって言ってくれたのか?」


「どうしてダオルがそんなことを言うの? ちょうど通り道だったし、その方が良いんじゃないかと思ってそうしただけなんだけど」


「えっ、お前、もしかして……」


「何? どうしたの、アラン。もしかしてあの程度のエールでもう酔っ払ったの?」


「違う! そんなことより、お前、デートだぞ、デート!! お前が普通の女の子に、喧嘩でも報復でも嫌がらせでもなく普通にデートに誘われてるんだよ!! どうするんだ! 行くのか!?

 ほら、ちゃんと答えてあげなきゃ駄目だろ、レオ!」


「はぁ?」


 レオナールは言われた意味がさっぱり理解できず、眉をひそめた。


(『デート』ってどういう意味かしら? アランの言葉の一部が理解不明な言葉に聞こえるわ。意味は良くわからないけど、相手が仕掛けてくるつもりなら受けるつもりだったから予定通りなんだけど、どうしてアランが喜んでるのかしら。

 まぁ、怒られたり怪しまれたり不審がられるよりは良いのかしらねぇ?)


「ともかく、わかったわ。じゃあ、今夜で良いわよ」


「えぇっ!? こ、今夜ですか!? なっ……うっ、そそそそのっ、わわわわたしは良いですけど、ああああなたのご都合はどどどど……っ」


「だから良いって言ってるでしょう? 明日からは狩りに行ったり、面白そうな魔獣や魔物がいたら遠出して狩りたいと思ってるから、今日の方が都合が良いわ。

 それとも、あなたの方の都合が悪いのかしら?」


「いいいいえぇえっ! そそそそのっ、こここ心の準備がっ!!」


「心の準備? 何それ」


 また意味不明な言葉が出て来た、とレオナールは顔をしかめた。元から会話は苦手で、人の話を聞くのは好きではないが、この娘とはまともに会話できる自信が全くない。


「おい、レオ。人の気持ちや都合を考慮しなかったり、せっかち過ぎるのはお前の悪い癖だぞ」


「え、でも、向こうから礼がしたいと誘ってきて都合の良い日を聞かれたのに、私にとって一番都合の良い日を言ったらダメなの?

 じゃあ、なんのために聞いてきたの? 都合とか事情とかそんなものがあるなら、こっちに尋ねる前に言えば良いでしょう?」


「レオ……言いたいことはわからなくもないが、それじゃ普通の女の子には逃げられるだろう」


 呆れたように言うアランに、レオナールは首を傾げた。


(普通の女の子? 少なくともこの目の前にいる娘は、『普通の女の子』ではないわよねぇ?)


「ああああのっ、そそそそのっ、わわわわかりましたっ!! 今夜ですね!! ででででしたら、そそそそのっ、わわわわたしの知ってる店があるので、そそそそちらでっ!!」


「ふぅん、何て店なの?」


「すすすすいませんっ! わわわわたしっ、ばばば場所は知ってるけど店の名前は知らなくてっ!!」


(へぇ、それほどバカじゃないのね。ここで店の名前バラしたら、後日アランが証言?とかすることになったら矛盾が生じそうだものね。

 また後日ってなるとうっかり忘れそうだし面倒だから、良かったわ)


「じゃあ、アラン。私、行って来るわ」


「お、おう、頑張れよ、レオ」


 そう言ってアランはどこかぎこちない動きで歩き去った。


(良かった。単独行動はさせられないとか、一緒に行こうとか、面倒なこと言うかと思ったけど、一人で行かせてくれるみたいね。

 急にどうしたのかしら? いつにも増して意味不明だったし、様子もおかしかった気がするわね。できるだけ早く済ませて帰った方が良いかもしれないわね)


 レオナールはアランの背中を見送ってから、少女を振り返った。


「じゃあ、行きましょうか」


 お互い実はまだ自己紹介すらしていないということに、全く気付いていなかった。もし気付いたとしても、レオナールがそれを気にするはずはなかったが。

ということで次回前書きに注意書きが入る予定。


書いていて「ツッコミ役がいない!」と叫びたくなりました。

普段はツッコミ役だけど、苦手分野には鈍くても仕方ないよね、と思いつつ。


次回、方向性の違うボケ二人で会話することになりますが、舵取り役がいないと無駄会話や暴投が増えるため、書いてはカットの繰り返しになるという。

なるべくカットしますが。


以下修正。


×行くか

○いくか


×(「わたしの奢りでどどどどうでしょうっ!?」に追加)

○あのあのっ、ごごごご都合とかいいいいかがでででですかっ?


×外国語に聞こえる

○理解不明な言葉に聞こえる

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