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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
5章 古き墓場の鎮魂歌 ~古代王国の遺跡~
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12 やられたらやり返す

「いつも丈夫で手入れがしやすいものを買ってるはずなのに、どの服も鎧の下に着ていると消耗が激しくなるような気がするのよね」


 簡素な麻の服と下着を三組ずつ選んで会計を済ませたレオナールが、肩をすくめて言った。


「それはそうよ。あんたが着ているのは金属鎧でしょ? どの服も繊維で出来ているんだから、金属に擦れると糸が切れたり摩耗したりするものよ。

 汗やその他の汚れなんかはきちんと洗えばいくらか落とせるけど、服も鎧も着れば動くし触れ合うでしょ。しかもそれで戦闘するんだから、仕方ないわ。

 大きく手足を動かせるよう余裕は作ってあるし、糸も布もなるべく丈夫で長持ちしそうなものを回してるけど、布って糸を組み合わせて出来てるものだから、引っかければ破けるし、金属と擦れ合えば傷むのは仕方ないわ。

 うちの店は一般向けだけでなく冒険者向けも置いてあるけど、普通の冒険者は週に一度か二度しか完全装備で仕事しないのよ。仕事でもないのに毎日完全装備で魔獣狩りをしたりしないわ。

 しかも噂の幼竜を飼い始めてからは、一日二回狩りに行ってるんでしょう? その調子じゃ武器や防具の摩耗もひどいんじゃないの?」


「さすがに裸で鎧を着るわけにはいかないから、諦めるしかないのね。装備の手入れは毎日してるし、問題ないわ。鎧も剣も扱い方を間違えなければ、あと十年は使えるし。

 ただ、いまの鋼鉄製じゃミスリルゴーレムやアンデッドは斬れないから、剣は新しいのを作るけど」


「ミスリルゴーレムやアンデッド? レオナールはまだFランクでしょ。さすがに魔法動力式人形やアンデッドは早いんじゃない?」


「たぶん近々()り合うことになるはずだから今の内に用意しておかなきゃいけないのよ。

 その時になって慌てても仕方ないでしょう? アランとルージュがいれば問題ないかもしれないけど、できれば自分で斬りたいもの」


「あんたの斬りたい病は重症ね。何が楽しいのかしら」


「私は斬るために生きているの。斬るのはとても楽しいわ。斬る対象はあってもなくてもかまわないけど、ある方がずっと楽しいわ。

 斬りたいのになかなか斬れないとイラつくこともあるけど、斬るのが難しい獲物ほど斬った時の達成感があるし楽しいの。

 アランは血と臓物のにおいが苦手みたいだけど、私は好きよ。生きてる実感がわくもの」


「レオナール、あんたそれ、人にあまり言わない方が良いわよ。狂人扱いされるわ」


 シリルが呆れたような顔で言うと、レオナールは大仰に肩をすくめた。


「いまさらでしょう。それに斬らせてもくれない他人に近付かれても、私に利点はないわ」


「やめてよ、誰だって普通は斬られたくないでしょ。何をバカなこと言ってるの?」


 シリルが眉をひそめて言うと、レオナールは真顔で答えた。


「私にとって大事なのは、目の前の対象を斬るべきか否かだけよ。それ以外には私が斬りたいものを斬るために何が必要なのか、どうしたら斬れるのか。

 さすがの私も目の前の対象を全て斬っていたら自分が生きていけないのはわかっているもの。だから、できるだけ多く斬るためにはどうすれば良いか、いつも考えているわ」


 何でも良いから斬りたいと思う気持ちもなくはないが、優先度を間違えてそれ以上に斬りたいと思う対象を斬れなくなるのでは本末転倒だ。

 レオナールにとって自分の身体を拘束されたり、苦痛を与えられることは、それほどたいしたことではない。


(斬りたいのに斬れないなんてつまらないし、生きている意味がないじゃない)


 レオナールの言葉に、シリルは深々と溜息をついた。


「あんたが言うと冗談に聞こえないんだけど」


「冗談じゃないわ。何故そんな冗談を言わなくちゃならないの?」


 レオナールが本気で不思議に思いつつ首を傾げて言うと、シリルは嫌そうに眉間に皺を寄せ、やれやれと首を左右に振った。


「……余計タチが悪いでしょ、それ」


「いっぱい斬りたいものがあるの。全て斬って満足できるまでは、斬り続けるわ。私、今、すごく楽しいの。こんなに楽しくて面白いことがあるなんて、ちょっと前までちっとも知らなかったわ。

 斬るためなら、何でも努力するわよ。これ以上に楽しいことなんてないもの」


「あんたは『斬る』こと以外に何か楽しみを見つけた方が良いわね。じゃないと、あんたは良くても他の人が迷惑だわ。アランも苦労するわね」


「どうしてアランが苦労するの?」


 レオナールは言われた意味が全く理解できず、首を傾げた。


「どうしてって、あんたが何かやらかすとアランが毎回かばったり後始末する羽目になるでしょ? もしかしてあんた、自分がアランに苦労掛けてる自覚ないの?」


「どういう意味? 良くわからないわ。私もアランも、自分のやりたいことをやりたいようにやっているだけでしょう? それなのに、何故アランが苦労するの?」


「……あんたは少しは周りに興味を持ったり、注意を払ったりするべきね。そうすれば、少しは理解できるんじゃないの?

 あんたは自分が何をして、周囲がそれにどう反応して、アランがあんたのために何をしているか、少しでも理解できれば、そんな言葉は出て来ないと思うわ」


「私のため? 何故? 何のために?」


 本気で戸惑いを見せるレオナールに、シリルは呆れながらも口にした。


「あんたと一緒に町で冒険者稼業を続けるために決まってるでしょ。あんた本気でわかってないみたいだけど、冒険者に限らず町で生活するためには、自分一人じゃどうにもならないのよ?

 金を稼ぐにも、稼いだ金を使うにも、人との関わりが必要になるの。たぶんあんたが気に掛けていない大半のことが、人が生きて行くのに大事なことなの。

 実際、あんたが普通に店で買い物をして必要な物を揃えられるのも、アランがあんたが気付かないところで謝罪したり根回ししたりしているからなのよ?」


「何それ、初耳だわ」


 レオナールは大きく目を瞠った。


「そうでしょうね。わかっていたら、あんただってもう少し日頃から言動に気を付けるだろうし。あの子、あんたが迷惑掛けたとこに行ってはあんたの代わりに謝って、あんたが子供の頃かなり酷い目に遭っててそのせいで他人との付き合い方がわからないんだと言ってたわ。

 でも、あんたの場合、正直言って度が酷いのよね。追い出したくなったり出入り禁止にしたくなるほど酷いわけじゃないけど、人を人と思わないようなところが透けて見えるのよ」


「どういう意味かしら」


「……いえ、違うわね。あんたは自分を人だとも思ってないのね。それ以前に自分を含めて生き物の命を尊重しようという気持ちも考えもない。

 あんたが自分や他人をどう思おうと、人に迷惑を掛けないならそれで良いわ。こっちも商売に問題がなければ、あんたに係わろうとは思わないし、あんたがどうなろうとかまわないもの。

 でも、あんたを見てるとアランが気の毒になるわ。アランはあんたに普通の人として生活させたいみたいだから。でも、あんたはそれを望んでないでしょ?」


「ごめんなさい、言われている意味がさっぱり理解できないわ」


 レオナールが困惑しながら言うと、シリルが言うだけ無駄だったとばかりに苦虫を噛み潰すような顔になった。


「余計なことを言ったわね、忘れてちょうだい。聞くだけ無駄、考えるだけ無駄なら、仕方ないわ。でも、あんた、実は他人だけでなくアランにもあまり興味ないのね」


「言われている意味が理解できないんだけど」


 レオナールは無表情でシリルを見つめながら言った。


「私がアランに興味がないと何か問題だと言いたいの?」


「あんたにとってアランは相棒で友人なんでしょ。少なくともアランはそう思ってるみたいじゃない。あんたはアランと一緒にいて何か感じないの?」


「興味がないわけじゃないわ。理解できないのは確かだけど」


 無表情と言って良いのに、目だけはやけにぎらついた顔で、レオナールは言った。


「世の中にはわからないことばかりだけど、アランが理解できないもの筆頭なのは間違いないわ。あの子は私とは真逆な生き物だもの。一生理解できる自信はないわね。

 でも、あの子と出会ったおかげで、生きていて楽しいことや嬉しいこともあると初めて知ったの。あの子と出会えて幸運だったと思うわ。でなければきっと何も感じないまま死んでいたもの。

 だから感謝しているわ。あの子が望むのなら、『人間の真似』をしても良いと思う程度には」


「驚いた、あんたでも本気で怒ることがあるのね」


 シリルが軽く目を瞠り、眉を上げて言った。


「でも、ちょっと安心したわ。あんたにも人らしいところがあるのね」


「言われている意味はちっとも理解できないけど、もしかしてけなされているのかしら?」


「褒めているのよ。まぁ良いわ。色々問題はあるけど、あんたにも一応人並みに思うところがあるのね。ただ、これだけは言っておくけど、あんた、ちっとも『人間の真似』なんか出来てないわよ。

 誰がどう見ても異常だわ。鈍い人ならそこまで深くは考えないし気付かないかもしれないけど、下手に表面だけ取り繕っても、理解もできない上に下地がなければ、いずれ素が出るわよ」


「別にどうでも良いわ」


レオナールが興味なさげに言うと、シリルは大きく肩をすくめた。


「いずれアランにもばれると思うわよ?」


「その時はその時よ」


レオナールは肩をすくめた。


「あんたって本当救いがたいわね。まぁ、どうせ他人事だから良いわ。面倒事に巻き込まないでくれるなら問題ないもの。

 一応言っておくけど、うちの店やその近辺で乱闘や刃傷沙汰、その他迷惑になるようなことしないでね。やらかしたら出入り禁止にするから」


「相手から手を出されない限りはやらないわよ。ただ、やられたらやり返すけど」


「できればうちの店から離れたところでやってちょうだい」


「覚えてたらなるべくそうするわ。忘れるかもしれないけど」


「やめてよ! うちは一般的な庶民の店なんだから。そういうのは冒険者ギルド近辺でやってちょうだい。どうせあんたの相手は冒険者連中でしょ」


「どうかしら? 最近それだけとは言いがたいのよね。どうやら本職の暗殺者っぽい人にも狙われてるみたいだし」


「えっ、ちょっとあんた何やらかしたの!?」


「さぁ、心当たりが多すぎて見当もつかないわ」


「何それ! あんたそれ、アランも知ってるの!?」


「たぶん知っているわよ。アランは私にばれてないつもりでいそうだけど」


「あんた達そういう話をちゃんとしてないの?」


「どうせアランは私が詳しいことを知ったら、喜々として斬りかかると思っているのよ」


「で、実際あんたはどう思ってるのよ?」


「愚問ね。攻撃されたなら、やり返すに決まっているじゃない。実行犯には三倍返しで、首謀者には百倍返しで。理由なく斬ったら犯罪になるけど、自分の身を守るためなら仕方ないわね、ふふっ」


 レオナールが嬉しそうに微笑むと、シリルはゲンナリした顔になった。


「……アランに同情するわ」


首を左右に振るシリルに、レオナールは肩をすくめた。

遅ればせながらあけましておめでとうございます。


短いけどきりが良いのでこれで更新します。

ガラケーとiPadで書いたので、おかしなところは明日にでも修正すると思います。


以下修正。


×やれたらやり返す

○やられたらやり返す


×あんたが自分が何をして、周囲がそれをどう反応して

○あんたは自分が何をして、周囲がそれにどう反応して


×倍返し

○三倍返し

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