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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
5章 古き墓場の鎮魂歌 ~古代王国の遺跡~
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11 死亡フラグという名の

後半に別キャラ視点入ります。

「どうして教えてくれなかったの、ダオル! 知ってたら絶対回収したのに!!」


 レオナールが噛み付かんばかりの勢いでダオルに詰め寄った。ダオルは困ったような苦笑を浮かべた。


「あそこで無理をすると厄介な事になりそうだったからだ。君が知れば無理をしてでも回収する可能性が高いため言わなかった。すまない」


 ダオルに率直に謝られ、レオナールは不承不承ながら頷いた。


「なるほどね。確かに聞いていたら、領兵連中を殴り飛ばしてでも回収してたかもしれないわね。でも、さすがに金貨数十枚は惜しくない?」


「確かに回収してまとめて売り払うことができるのなら、誰だって目の色を変える金額なのは間違いない。だが、一般的な低ランク冒険者が売るとしたら冒険者ギルドだ。その場合、金額はかなり目減りする」


「……つまり伝手やコネがあるとないでは、金額に差があるってこと?」


「そうだ。例えばアレクシスの協力が得られるなら、大店で高額でまとめて引き取って貰えるだろうが、おれや君らが売る場合には良くて素材店、でなければ冒険者ギルドで売ることになる。

 ギルドで全て売った場合はおそらく金貨二十枚に若干満たないくらいになる。素材屋はもう少し買い取り金額が上がるだろうが、店の規模によっては一度に全て買い取れない可能性がある。その場合、二度目以降の買い取り金額は初回より下がる。

 一度に全て買い取ることができる店は大店か専門業者だが、そういう店は紹介状なしで買い取りをすることはまずない。町へ戻る時点では無理をしても、労力に見合う利益を得ることは難しいと判断した」


「門のところでアレクシスに会えたんだから、協力してもらえば良かったんじゃないの?」


「アレクシスは気まぐれで、基本的に自分の利にならないことはしない男だ。今回のように、彼が無償で積極的に協力してくれたのはとても珍しい。

 おそらく今回はレッドドラゴンの幼体を見に来て、そのために君が長期間拘束されるのは不都合だったからだろう。ただ、鱗でも皮膚でも内臓でも何か持ち帰ろうとしなかったのは、正直不思議だ。

 いつもならそれくらいはやりかねないのに」


「ルージュに警戒されて近付けなかったからじゃないの? あの子、生半な魔法は効かなかったり解除したりするから。

 あの人、素でドラゴンの膂力を押さえられる力は持ってないでしょう? 師匠なら素手で殴り合いや押し合いできそうだけど」


「それは無理だな。膂力も体力もごくごく普通だ。身体能力はアランよりは上だが、ルヴィリアより若干劣るくらいだ」


「ルヴィリアより弱いの?」


「彼は普段、仕事や研究以外では滅多に外へ出ない。代理で済むような事は全て他人に任せている。今回は使用人を一人しか連れていなかったが、いつもは護衛を連れているから自分で身を守る必要もない。

 おそらく本や書類より重い物は持ったことがないだろう」


「ふうん、面倒なことを他人にやらせるのはわからなくもないけど、身を守るのは自分でやった方がてっとり早くて面倒がないと思うけど」


「おれ達と違ってアレクシスは物心ついた頃から人を雇い、使うのに慣れている。彼ほどの家柄だと相手が信用できないということもあまりないのだろう。

 一流の教育を受けた者しか周囲に近寄ることが許されないし、何か不始末でもやらかしたり睨まれれば、一族郎党ごと首が飛ぶ。それでも危害を加えようとするのは、腕に自信のある暗殺者くらいだろう」


「へぇ、そうなの。教えてくれてありがとう」


 レオナールは内心そんなことはどうでも良いと思いながら礼を言った。ダオルは敵に回すよりは味方にした方が良いと思っているからだ。


(そこそこ便利で有能そうだし、役に立ってくれている間は何かしてもらったら礼を言った方が良いわよね。言うだけならタダだもの)


 レオナールは基本的に他人に興味がないため、相手のことを知りたいとは思わないし、好かれたいとも思わない。しかし、それが役に立つというなら表面を取り繕うことも出来るのだ。やろうと思いさえすればの話だが。

 けれど、アランのためにそうしようという発想もない。アランが何故レオナールに敵を作るなと言うのかすらも理解出来ていない。

 親しい誰かのために何かを思いやるということすらわからないため、アランが自分のためを思って言うことも、全てアランの都合によるものだと思っている。

 誰かが誰かのために無償で何かをする、ということが理解できない。もし仮に誰かにそうなのだ、と説明されたとしても、人には言わないだけで何らかの理由や意味があるのだと考える。

 何かを行うことには、意味や理由がある方が納得できる。そんなものはないと言われる方が気味が悪いし、恐ろしいと感じてしまう。


 何かしてもらった時には、相手に何かを返す必要があり、相手もそれを期待している──その礼として一番てっとり早くて金も手間も掛からないのが『お礼を言うこと』だと思っている。

 アランが知れば、それは違うと否定するだろう。自分にない感覚や思惑は、理解できないものである。


(そう言えばあの娘、襲って来なかったわね。もしかして丸腰だったのかしら? それとも人目があったから?

 いずれにせよ、傷が回復して体調が万全になったら、準備さえ整えばいつでも襲撃してくれるわよね。楽しみだわ。

 あの娘はともかくもう一人の男はやりそうだもの。早く斬り合いたいわ。襲撃されたら手加減しなくても良いわよね。力一杯やりたいわ。そのためにも鍛錬は欠かさないようにしなくちゃ。ふふっ)


 普通の人は襲撃を期待し楽しみにすることも、助けられた相手と生死を懸けて斬り合いたいとは思わないことも、レオナールには理解できていなかった。



   ◇◇◇◇◇



(どうしよう)


 少女は焦っていた。なるべく人目につかず目立たないように行動しろと言われていた。絶対に対象者の視界に入るなとも。


(対象者にぶつかって会話して介抱してもらいました、なんてお頭に言ったら絶対怒られる! どうしよう!!)


 治療の間、半分涙目で俯く少女を治癒師が気の毒げに見ていた。


「可哀想に、こんなにたくさん打ち身や傷を作って。本当に酷いことをするやつだ。全く許せない」


「えぇっ!? な、何の話ですか!? おおおお頭はそんな酷い人じゃないですよ!?」


「……お頭?」


 首を傾げた治癒師に、少女は真っ青になった。


(しまったー!!! 思わず口走っちゃった!! どどどどどうしよう!! お頭に叱られちゃう!! も、もしかして首にされちゃう!?)


 彼女の業界で馘首は文字通り死体になることなのだが、それを理解しているのか怪しいくらいの迂闊っぷりである。


「お頭というのは、あのレオナールとは別ですか? その人物があなたにこのような暴力を振るったのですか?」


「いいいぃえぇっ!? ちっ、ちがっ、違いますっ!! ここここれは、わたしがドジでボケでバカなせいでっ!! わわわわたしっ、良く転ぶし落ちるしぶつかるんですうぅぅぅぅっ!!

 本っ当っ死んだ方が良いくらいのバカなんですうぅっ!! うぅっ、こんなドジでバカで失敗ばかりで、人に迷惑しか掛けないのに生きててごめんなさあぁいっ!! 死んでお詫びしますうぅぅっ!!」


「は!? いや、死んじゃ駄目だろうっ!! 君が死んで詫びになんかなるはずないじゃないか!! 何を言ってるんだ!!」


「そそそそうですよねっ! ここここんなドジでバカでボケな人間、死んでも生きていても詫びになるはずないですもんね!! ううっ、兄さま姉さまごめんなさいっ!!

 皆が助けてくれたのに、わたしちっともお頭のお役に立てません!! それどころか足を引っ張る無駄飯食らいですうぅぅっっ!! ごめんなさいごめんなさいっ生きててごめんなさぁああいっっ!!」


「え、その、大丈夫ですか?」


 さめざめと泣き出す少女に、治癒師は腰が引けた様子ながらも尋ねた。


「わたしグズでドジで間抜けで、生きていても誰の何の役にも立たないお荷物なんですぅっ!! だけど死んでもお役に立てない迷惑なゴミなんですううぅぅっ!! うわぁああ~んっっ!!」


「ど、どうしたら良いんだ……」


 虚ろな目で叫ぶ少女に、治癒師は動揺・困惑し、途方に暮れた。



   ◇◇◇◇◇



「……というわけで対象者と接触してしまいました。すみませんでした、お頭!! わたし、命に替えてお詫びします!!」


 蒼白な顔と涙目で土下座し悲鳴のように叫ぶ少女に、お頭と呼ばれた黒装束の男──年齢は三十代半ばから四十代前半くらいだろう──はうんざりといった顔で溜息をつき、首を大きく左右に振った。


「お前のドジにはもう慣れた。今更その程度のことで罰したりしない。もうお前を拾った時点で運が底を突いたとしか思えんからな、諦めた。

 そんなことより良い報告を聞いた。これは使えそうだな」


「へ? どういうことですか、お頭」


「あのレオナールという男はロランでは鬼畜で他人に興味の無い極悪非道っぷりで有名な男でな、そいつが見ず知らずの人間に親切に振る舞ったという噂は全く聞かない。

 しかも酒にも女にも興味がないらしい。金銭には多少執着するようだが、物には然程こだわらないようだし、美食にも興味がないと来た。

 ここ数日の間、あの男を観察していてお前もわかったと思うが、あれにはことさら執着するものも弱味らしきものも致命的な弱点と思しきものも特にない。

 《疾風迅雷》の唯一の弱味があの若造だ。あれを見せしめに惨殺してやれば、あの手の付けられん傍若無人な英雄様もさぞや嘆いて後悔するだろうよ、ククッ」


「えぇっ!? おおおお頭っ、あの人こここ殺しちゃうんですかっ!? なんでっ!?」


「ああ、お前はまだ知らなかったのか。我々の組織《闇の咆吼》が潰され、大勢の仲間が殺されたのはあの男の師匠である《疾風迅雷》ダニエルのせいなのだ。

 《疾風迅雷》が陣頭指揮を執ると同時に当人も乗り込んで、隠れ家を襲撃したのだ。つまり、オレ達にとっての復讐相手ということだな。やつのせいでオレとお前くらいしか無傷で逃れられなかったのだ。

 《疾風迅雷》そのものは強すぎてとても手が出せないが、その弟子となれば別だ。オレとお前の二人だけでも十分殺()れる。あの若造を隙を見てさらって、見た者が怖気を覚えるような凄惨な殺し方をしてやれば、あの《疾風迅雷》もオレ達に手を出したことを後悔するだろう。

 我々の商売は舐められたらお終いだ。我々に手を出すのは危険だと思われなければ、そして狙った獲物は確実に殺せなければ、看板に傷が付く」


「そっ……そんなっ……!!」


 ニヤリと笑うお頭に、少女は蒼白な顔でブルリと震えた。


「アリーチェ、あの男をたらし込め。話に聞く限りあの男が親切に振る舞ったのは、おそらくお前が初めてだ。できるだけ自然な形で近付いて、弱味を握るか隙を窺うんだ。

 そして、この薬を飲ませろ。飲ませたら、介抱する振りをしつつ例の合図をしろ。そうすればオレが応援に駆け付ける。戦士としては小柄な方とは言え、お前一人で男を運ぶのは無理だろうからな」


「わわわわたし一人でですか!? むむむ無理ですぅっ!! だだだだって、あのっ、そのっ……!!」


 脅え、焦り、混乱する少女アリーチェに、お頭は笑って言った。


「大丈夫だ。お前は黙って動かなければ、それなりに愛らしく見えるからな。中身がバレなければ、若い男なら騙されるだろう。男というものは好みの女には弱くなるものだ」


「えっ、えええええぇええぇえっ!?」


 満足そうに言うお頭に、アリーチェは絶叫した。


(そんなじゃないですよぉっ!! お頭ぁああ~っ!!)


 自他共にドジ・ボケ・バカ・うっかりを認めるアリーチェではあるが、男が自分に向ける視線が色恋や欲望の類いであるか、そうでないかくらいは何となくうっすら区別が付く。


(あれはそういうのじゃないですうぅぅ~っっ!!)


 それはある意味下心──本心または悪だくみ──というものの一つではあるのかも知れないけれど、男の下心といって人がまず最初に思うだろうそれ──女性に対する欲望や恋情などのような──とは全く異なる。

 しかしお頭もアリーチェも、レオナールという人物を全く理解できていなかったために、それが何かを知ることはなかった。

更新ものすごく遅くなりました。すみません。


メインじゃない脇役キャラ視点はできるだけ書きたくなかったのですが、これを入れないとわかりづらいなということで挿入しました。

ヒロイン出す気か?と期待された方がおられたら、すみません。

ヒロイン?的なキャラは出しても良いのですが、今のところ全く想定しておりません。

恋愛要素を書くのが面倒なので。

趣味または資料としてラブコメも恋愛物もハーレクインも読むのですが、絵のある創作物以外はキャラ萌えしない&特定キャラにあまり感情移入できないため、恋愛物はいまだ手探りで自信皆無です。

恋愛ものより陰謀ものや戦闘・戦術ものが大好きです。昔から血や肉片が飛び散る系とか、萌えより燃え系のが楽しいです。


雪が降るようになったら、やたらめったら寒くて手がかじかんで上手くキーが打てないなぁと思ってたら暖房器具を付け忘れていました(汗)。

コタツは便利ですが、作業中の手は温まらないということを失念していた大バカです。

同居人に「お前ストーブとかハロゲンヒーターとか付けろよ!」と怒られるまで気付かないアホです。

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