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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
1章 ダンジョン出現の謎 ~オルト村の静かな脅威~
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14 不運な魔術師はグッタリしている

戦闘・残酷な描写があります。※グロ注意

 ゴーレムの出現した部屋で、拾える限りのミスリル合金を手分けして拾うと、帰りは十字路を直進した。広間──ドーム状の広い空間──にある中央の魔法陣を見て、アランは顔をしかめた。


「二階の主寝室の居間にあった魔法陣と全く同じものだな」


「じゃあ、なんでこっち来た時に、起動しなかったんだろ?」


 ダットが首を傾げる。


「……なんかすごく嫌な予感がするな」


 アランが顔をしかめて言うと、


「え、本当? じゃ、早速上に乗りましょ!」


 レオナールが嬉しそうに言った。


「あのな、」


 アランがレオナールを振り返ると、何故かレオナールは両手を突き出した状態で、間近にいた。


「なっ……!?」


 ドン、と突き飛ばされ、アランは魔法陣の上に転がった。途端に、魔力が吸収され、魔法陣がドームの天井まで照らし出すほど強く青白く輝き、アランを転送した。


「じゃ、私も行くわ。あなたも来るのよ」


 レオナールが嬉々として、幼竜と共に、魔法陣の上に足を乗せた。幼竜は片足分しか乗せられなかったが、魔法陣が光り、一人と一匹の姿は消えた。

 ダットとオーロンは顔を見合わせ、先にダットが乗り、次にオーロンが乗った。



   ◇◇◇◇◇



 レオナールが幼竜と共に、転移した時、魔法陣のすぐそばでアランが四つん這いでうずくまっていた。

 レオナールは気にせず魔法陣の上から退き、幼竜を招き寄せる。また、魔法陣が青白く輝きダットが現れ、ダットが退くと、光と共にオーロンが現れた。


「ねぇ、アラン。いつまでうずくまってるの?」


「……この、魔法陣、の、意味、が、わ、かった」


 アランが呻くように、苦しそうに息を切らしながら、言った。きょとんとするレオナールに、アランが腹から絞り出すような、恨みがましい声で、途切れ途切れに言う。


「魔力、を、吸収、する、んだ。しか、も、無制限、に、上限、を、定め、ず、死な、ない、程、度に、限界、ま、で……」


 ぜいぜい、と荒い息で、ノロノロと顔を上げ、アランがレオナールを睨みつける。


「魔術師、殺、し、だ、な。魔力、の、少ない、やつ、は、あまり、影響、が、ない、が……」


「なるほど。多いと、一気に魔力が吸われて、アランみたいな状態になる、というわけね。つまんないの」


 苦しそうなアランを気の毒げに見ながらも、オーロンは安堵した表情になる。


「なるほど、オイラたちには問題ないってわけだね。金の兄さん、可哀想だから背負ってあげたら? 自力で動けないみたいだし」


 ダットが笑顔で言う。


「え~っ?」


 レオナールが不満そうな声を上げるが、


「くそ、誰、の、せい、だ、と、」


「あ~、わかったわ。ねぇあなた、アランを背中に乗せる事ってできる?」


 レオナールは幼竜に尋ねる。幼竜は、尻尾を揺らしながら頷いた。


「じゃ、お願いするわね」


 そう言って、アランを幼竜の背中にしがみつくような格好で乗せた。しかし、アランは抵抗する気力も、幼竜に掴まるだけの体力もないようでグッタリとしている。


 レオナールはそれを見て、背嚢からロープを取り出すと、アランを幼竜の背中に荷物のように、くくりつけた。


「これでよし」


 にっこり笑うレオナールを、アランは批難するような目で見ているが、口を開く気力も体力もないようだ。


「もし敵が出たら私たち三人で対処しなくちゃね」


 レオナールが言うと、オーロンが


「わしもこの少女を抱いているから、咄嗟に動ける自信があまりないのだが」


 確かに少女とはいえ意識のない人間を抱えての戦闘は無理がある。


「じゃ、敵が出たら、基本私が対処して、ダットは護衛と索敵してちょうだい」


「わかった。この場合仕方ないよな。オイラも無事に帰りたいし」


 そしてレオナールが廊下に出る扉を開くと、目の前にコボルト6匹が待ち伏せていた。


「あ」


 ダットが思わず声を上げた。レオナールはニヤリと笑って抜刀、そのまま一番手前にいたコボルトに叩きつける。

 頭を砕かれ崩れ落ちるコボルト。その背後にいたコボルト達が一斉にレオナールに襲いかかろうとするが、避けられ逆に斬りつけられる。

 腹や腕に切りつけられ動きが鈍くなると、その更に後ろにいた無傷の2匹が、仲間の背後を回って、レオナールの左右から襲いかかる。


 レオナールは内1匹を足で払い、もう1匹を右手で握った剣で凪ぎ払う。剣で凪ぎ払った方の敵の側面に回り、首を斬り捨てると、足で払った方へとダッシュして、腹を斬る。


「がぁお」


 幼竜が大きく口を開けて鳴き声を上げると、残りの4匹が脅えたようにクゥンと鳴いて、固まった。

 レオナールは残りを手早く片付け、血払いをして鞘に納めた。


「有り難う」


 レオナールは振り返って幼竜に礼を言ったが、どことなく不満げだ。幼竜はつぶらな瞳で何か期待するように、レオナールを見る。


「食べたいの?」


 レオナールが尋ねると、ブンブンと首と尻尾を振る。


「……うぐっ」


 幼竜の背で揺らされたアランが、呻き声を上げた。


「アラン、頼むからそこで吐かないでよ?」


 返事はなかったが、アランは何かを飲み込むような動作をした後、グッタリした。


「なるべく背中を揺らさないように、尻尾も振らずにゆっくり食べるのよ、わかった? じゃないと背中が汚れる事になるわよ」


 レオナールが言うと、幼竜はゆっくり頷き、ゆっくりとコボルト達の死体を食べ始めた。


「そう言えば、レッドドラゴンは肉が好きで、特に人間や亜人の肉を好むという伝承を聞いた事があるような」


 オーロンがボソリと呟いた。


「ゴブリンやコボルトも魔物だけど、亜人みたいなものだから大好物だったのね。今なら古豆なんかあげても見向きもしなさそうね。どれだけお腹が空いてたのかしら?」


「それってオイラ達が餌になってた可能性もあるって事だよね?」


 ダットの言葉に返事を返す者はない。幼竜の咀嚼音だけが辺りに響く。


「あ、そうだ、レオナール殿。この幼竜に名前はつけぬのか?」


「この子の性別が良くわからないのよね。まぁ、どっちでもかまわないけど、名前をつけるとしたら性別わかった方がつけやすいわよね。どちらでも大丈夫そうな名前にしようかしら」


 レオナールは幼竜の食事風景を楽しそうに見ながら言う。ダットとオーロンは、そんな一人と一匹から目を逸らした状態で、口々に言う。


「まぁ、ドラゴン本来の名前は人間には発音できないらしいから、難しく考えなくても愛称みたいなものだと思えば良いしね」


「うむ、レオナール殿が呼びやすく愛着の持てる名なら何でも良いのではないかとわしは思うぞ」


「じゃあ、(ルージュ)。ルージュはどうかしら、あなたの名前」


 レオナールが言うと、幼竜は顔を上げ、嬉しそうに尻尾を振って、頷いた。


「背中に荷物がある時は必要以外はなるべく頭と尻尾を振らないようにね。でも、気に入ってくれたなら良かったわ、ルージュ」


 レオナールはにっこり笑った。


「……気持ち悪い」


 アランが呻いた。オーロンは無言で神に祈る仕草をし、ダットは聞こえなかった振りをした。


「アラン、村に着くまで頑張ってね」


 レオナールが声をかけると、アランの腕がだらりと力なく下がった。



   ◇◇◇◇◇



 廊下も階段も、時折軋むような音を立てたが、幼竜は問題なく通る事ができた。さすがに使用人用通路の方は通れなかっただろうが。

 玄関の扉も無事にくぐる事ができ、一行は外に出る事が出来た。


「なんか久々に太陽を見た気がするわ」


「今朝、来る途中で見たと思うけどね」


 ダットが肩をすくめる。


「だが、今日はかなり戦闘をしたからな。汗を流したらゆっくりしたい」


「それは同感」


 オーロンの言葉にダットが頷いた。


「荷物を下ろしたら、また村の外に何か狩りに行こうかしら。何をいくら狩っても、ルージュが食べてくれそうだから、問題なさそうだし。魔獣ならいくら狩ってもすぐ増えるから大丈夫よね」


「金の兄さんは元気だな~」


 ダットが呆れたように言う。


「若いというのは羨ましいな」


 オーロンが言うと、ダットは苦笑する。


「金の兄さんの場合、そういう問題じゃないような気が」


「ひとまず宿へ向かおう。幼竜は中に入るのは無理だと思うが、二人を運ばねばな。アラン殿は魔力切れという事のようだからともかく、この少女の診察をして貰えそうな心当たりがある」


「へぇ、こんな田舎に薬師や神官がいるんだ」


「薬師というか村の長老的な立場で薬にもそこそこ詳しい御仁と、宿に滞在中の神官、ヴィクトール殿だ。ヴィクトール殿の方は、あちらの都合を確認してになるが、以前会話した時の印象では、少々研究熱心過ぎる点を除けば、真面目で話のわかる方だという印象だった」


 オーロンの言葉に、ダットとレオナールが胡乱げな表情になった。


「なんか旦那の人物評はあんまり当てにならなさそう」


 レオナールとアランも何も言わないが、同意見である。彼の目を通せば、この世のほとんどの人間は好人物になるにちがいない。

 なんとなくだが、オーロンは他人の悪意というものに鈍感に見える。本人にそれがない、あるいは理解が薄いために、相手の悪意ですらプラス方向に解釈して、そのまま勘違いしそうだ、と三名は考えている。


「そうか?」


 不思議そうにオーロンが首を傾げる。


「それってずっと引きこもってるっていう男の事でしょ? だいたい神官っていうけど、どこの神殿の神官よ」


「そういえば所属は詳しく聞かなかったな。なんでも王都リヴオールから来たという話だが」


「話にならないわね。まぁ、別に私やアランが診てもらうわけじゃないから、どうでもいいけど」


「どうでもいいのかよ! って思わずツッコんじゃった。まぁ、オイラも正直その女の子がどうなろうと関係ないから気にしないけど」


 アランはまだ気力体力が回復していないので口を挟めなかったが、内心「お前もかよ」と思っていた。そういうアランも自分に責任や何かが被らないなら、どうでも良かったのでお互い様である。


「オーロン、あなたの責任でという条件なら、好きにすれば良いわ。あの女の子が回復しようがしまいが、私たちには関係ないもの。ただ、何かあった時の責任とかかぶるのは嫌。関わりたくないわ」


 レオナールの言葉に深く溜息をつき、オーロンは頷いた。


「わかった。すべての責任はわしが引き受ける。おぬし達は好きにすれば良かろう」


 複雑な表情をしてはいるが言質は取れたので、レオナールはにっこり笑った。


「なら、全てお任せするわ」


 そして彼らは、村人たちに遠巻きにされながら宿屋に着いた。


「すぐ戻るから、ちょっとここで待ってて」


 レオナールが幼竜に言って、その背からアランを下ろし、中に入ってしまう。オーロンもそれと前後するように少女を抱いてまた入って行く。


「あれ?」


 それらをぼんやり見ていたダットは気付く。おそるおそる振り返ると、自分の鱗をペロペロ嘗めている幼竜と目が合った。


「ぎゃあお」


 どこかユーモラスな鳴き声で、しかしダット一人くらいならパクリと食べられそうな大きな口を開いた。中に鋭い牙と大きな舌が見えた。


「ぎゃっ」


 ダットは飛び上がり、慌てて飛びすさるとサッと身をひるがえして逃げた。幼竜はどこか笑うような顔でそれを見送ると、また身繕いに戻った。


 その様子を遠巻きに見た村人たちは、蜘蛛の子を蹴散らすような勢いで散開した。

 日暮れ前の数刻までに、レッドドラゴンの幼竜の存在は村中に広まることになる。

 アランは幼竜の背中にうつ伏せにくくりつけられました。南無。

 アランの不運は大半がレオナールによる人災です。


以下を修正。また一部改行ミス修正。

×背負い袋

○背嚢(表記を統一)


×同意件

○同意見


×一週間以上

○ずっと


×抱いたまた

○抱いてまた

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