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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
5章 古き墓場の鎮魂歌 ~古代王国の遺跡~
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1 久々のロラン

軽めの罵倒などがあります。苦手な方はご注意下さい。

 シュレディール王国建国暦285年・紅暑(こうしょ)の月2日。ラーヌで《疾風の白刃》を中心とした荒くれ者達がとある冒険者らを襲撃し、逮捕されて約半月が経った。


(……石の床とか壁って、冬は寒くて冷たいけど、夏は涼しくて良いかも。ここって地下だから、地上は違うかもしれないけど、石で出来た建物の中にこんなに長いこといるのは初めてだよね。

 これまで寝る時は大抵、安宿か野宿だったし。オルト村を除けば、大部屋にしか泊まったことなかったからなぁ)


 ちなみにオルト村で大部屋に泊まらなかった理由は、オルト村の宿屋には大部屋が存在しなかったからであり、もしあればそこへ泊まっただろう。もっとも、オルト村には物好きな旅行者や行商など少数の者しか一度に泊まらないため、大部屋などあっても採算が取れない。


「おい、そこのガキ! お前は今日釈放だ。良かったな、たいした処罰にならなくて」


 歩み寄って来た番兵に言われて、牢の中でごろりと寝そべっていた幼げな亜人の少年は、怪訝そうに首を傾げた。


「オイラは確か、金貨三枚の罰金刑だったはずだよ。つい三日前に、払えなければその分鉱山の荷運びでもやって稼げと言われたんだけど。今週末には移送される予定だったはずだよ?」


「お前の罰金を代わりに支払うっていう奇特な御仁のおかげだ。まぁ、利息含めて身体で支払えってことかもしれんがな、ハッハッハ」


 番兵の言葉に、少年は嫌な予感を覚えた。


「久方ぶりだな、ダット。元気にしていたか?」


 その声に、小人族の少年ダットはうわぁと顔をしかめた。そこには微笑みを浮かべたオーロンが待ち構えていた。


「今回はおぬしに向いた仕事を用意した。労働の喜びをおぬしに教えるには、まず本人がやる気になってくれるような仕事と報酬でなければならないと、遅ればせながら気付いたのでな」


 オーロンは長く美しく整えた自慢の顎髭を撫でながら、快活な笑い声を上げた。


「ちなみに、前人未踏のダンジョン探索だ。得られた宝は依頼者が必要とする資料以外は全て、探索に参加した者の間で山分けにして良いとのことだ」


 ダットはへえと眉を上げた。


「依頼主はずいぶん太っ腹だね。で、報酬はいくらなんだ?」


 ダットの質問に、オーロンが困ったような笑みを浮かべた。


「……残念ながら、現金の持ち合わせはあまりないらしい」


 オーロンの返答に、ダットは胡散臭げに眉をひそめた。


「海の物とも山の物ともつかないものに前金なんか期待しないけど、いくらなんでも無報酬とか言い出さないよね? そんなのいったい誰が受けるのさ。だいたい、オイラとオーロンの旦那二人だけで探索はさすがに無理だろ?」


「ダンジョン探索には依頼主である知識神の神官殿も同行するから、古代語などの文献の精査などは彼が担当する。ただ依頼主殿は神官としての活動はされているが、冒険者として活動されたことはこれまで一度もないため、護衛が必要だ。

 だから、現在ロラン支部に依頼を出して協力してくれる冒険者を募っているところだ。報酬は一人あたり銀貨三枚に設定した。受付で職員に尋ねたところ、この金額でも十分な能力を持つ冒険者を近日中に手配できるはずだと確約が取れたから問題ない」


 冒険者ギルド職員と言ってもピンキリだと思われるが、オーロンは微塵も疑っていない様子で言い切った。ダットは冒険者ギルドに限らず、ギルドというものに縁がない──盗賊ギルドや闇ギルドにすら加入していないモグリである──ため、盗み目的以外でそういった施設に入ったことすらないから詳しくないが。


(物好きな金持ちのオッサンに玩具として買われるよりは断然マシかもしれないけど、このお節介なドワーフに借りを作るのは別の意味で厄介そうなんだよなぁ)


 ダットは深々と溜息をついた。



   ◇◇◇◇◇



 その二日前。ラーヌのとある家の敷地内、玄関前にて。


「じゃあ、そろそろ行くわね、師匠」


 馬車の荷台に水の入った樽を積みながら言うレオナールに、ダニエルが笑顔で頷いた。


「おう、ダオルが一緒だから大丈夫だと思うが、あんまり無茶すんなよ。何かあっても、俺はしばらく動けそうにねぇから気ィ付けろよ」


「ダオルだけでなく俺もいるんだから大丈夫だろ。もう絶対こいつから目を離さないし、しばらく単独させるつもりはないからな。

 あと、あまり悪巧みすんなよ、おっさん。あんたが何かやらかす度にこっちに火の粉が降りかかるんだからな」


 アランが睨みながら言うと、ダニエルは大仰に肩をすくめた。


「アラン坊やは何ヒス起こしてんだよ。俺、何かしたか?」


「あ? 自覚ねぇのかよ。今度からおっさんじゃなくクソジジイに呼び名変更されたいのか? 俺達は自分のことで手一杯なのに、おっさんが周りの被害とか気にせずそこら中に火種まいて壊しまくるから、いらぬ恨み買って、とばっちりがこっちにまで来るんだろ!?」


「おぉ? 何? もしかして、アラン本気で怒ってる? もしかして、色々根に持ってたか?」


「あんたが自覚あるなしに限らず人迷惑な生き物だって事は知ってるけどな、おっさん、出さなくても良い被害や損害は出さず、迷惑かける相手も極力減らす努力くらいはしてくれよな。

 おっさん一人で処理できないなら、部下とか周りの人間にやらせろよ。おっさんが出て来ないで他のやつにやらせた方がマシな結果になること、いっぱいあるんじゃねぇのか?」


「え~と、その、アラン。何が気に触ったのかは知らないが、悪かった。すまん」


「ふざけんな! 理由はわからないけどとりあえず謝っておけ的な理由で頭下げられても、かえってムカつくんだよ!! 俺はあんたのそういうテキトーさ加減が大っ嫌いなんだ!!」


「あっ、ヤベッ、何か地雷踏んだ?」


 激昂するアランにダニエルは冷や汗をかいた。


「……その、ルヴィリア。それは長持(チェスト)か? 何故そんなものが必要なんだ」


 荷台に重ねられた蓋付きの木箱を見下ろし、ためらいがちに尋ねたダオルに、ルヴィリアが満面の笑みで答える。


「それは化粧品とか衣装とか調剤用とか占術師用の道具とか色々入ってるのよ。私の商売道具なんだから持って行かない理由なんてないでしょう?」


「それはわからなくもないが、何故それが5つもあるのか聞いても良いだろうか」


「これでも数は絞ったのよ」


「その両手に抱えている袋はいったい何だ?」


「これは買いだめしたお菓子よ。ロランでも色々探すけど、良い店が見つかるまでの分がいるもの。持てる分だけたくさん買っておかないとね!」


「それは、必要なのか?」


「必要に決まってるでしょ? ダオルったら何を言ってるのかしら。そんなこと他の女の人に言ったらモテないわよ。できれば言及もしない方が良いと思うわね。デリカシーがないと思われるのは嫌でしょ。

 女性が望む言葉を適切な時、的確な内容・表現できなきゃ絶対ダメよ。外見だけ良くてもことごとくタイミング外したり、ちっとも女心が理解できなかったりするともう最悪よ。

 下手すると振られるどころか、相手に一生恨まれるかもね!」


「……それくらいで一生恨まれるとか、たまったものではないな」


 ダオルは渋面で言った。



   ◇◇◇◇◇



 早朝にラーヌを出立した一行がロランに到着したのは、昼前のことだった。彼らが北門でギルド証を見せたりして検問を受けていると、後方から体格の良い武装した人相の悪い男三人が現れた。


「おう、しばらく見ないと思ってたがまだ生きてたのか、クソガキどもォ。ケケッ、ママのミルク飲みにおうちへ帰らなくて良いのか、あァ?」


「どうせクソでも漏らして泣いてたんだろ、カカッ」


「坊ちゃん、嬢ちゃ~ん、もちかちて迷子でしゅかぁ~? どうやっておうちに帰れば良いか、わからなくなっちまったのか~い? ナハハッ、良かったらオジチャンが送ってやろうか、身ぐるみ剥いで町の外に真っ裸で放り出してやるよ~、ギャハハハッ」


 突然いかつい顔と体格の荒くれ者に絡まれ、ルヴィリアは目をむいた。


「え、何この人達!」


「しっ、目を合わせるな。こいつら狂犬だから、目が合うと噛み付いたり飛び掛かったりしてくるから気を付けろ」


 アランが低い声で忠告する。


「弱虫小僧がなんか言ってっぞ~?」


「頭引っ掴んで動かなくなるまで打ち付けてやれよ、気持ち良く寝られるだろ」


「ケケッ、それって死んでねェかァ?」


「オイタする悪いガキは、いっぺん死んだ方がイイだろ。個人的には三百回くらい殺してやりてぇが」


「くたばれ、くたばれ、くたばれ! クソしてくたばれ! クソガキども!」


「ギャーハハハハハハッ」


 禿頭にして顔から頭部にかけてドラゴンの入れ墨を入れている男は、何がおかしいのか床を転げ回らんばかりに笑い転げている。ルヴィリアは眉を顰めた。


「……厄介なのに気に入られてるのね」


「あいつらは誰にでもあんなもんだ」


「それって、《蛇蠍の牙》や《疾風の白刃》より酷くない?」


「大丈夫だ。ロランにはあれ以下の連中は今のところいない。あいつらは《草原の疾風》ってパーティー名のクソ共だ。名前は覚えなくても問題ないから、とにかくなるべく関わらないようにしろ。

 言葉の通じなさ加減ではゴブリンより酷い」


 真顔で言うアランに、ルヴィリアは溜息をついた。


「赤髪の乱暴で不細工なのがアッカ、ハゲ頭の入れ墨入れてる笑い上戸で気持ち悪いのがゲルト、クソが大好きな下品でゲスで特徴ない茶髪がダズよ」


 レオナールが補足した。


「ありがと。珍しいわね、あなたがそんな説明してくれるとか」


「あら、そんなのもちろん」


 ルヴィリアが礼を言うと、レオナールは満面の笑みを浮かべた。


「だぁれが乱暴で不細工だァッ! ゴラァッッ!!」

「『ハゲ頭の入れ墨入れてる笑い上戸で気持ち悪いの』って何だ、てめぇっ!!」

「クソが大好きな下品でゲスで特徴ないだと!? ふざけんなクソガキィッ!!」


 三人の男が激昂した。


「罵倒しておちょくるために決まってるじゃない」


 そう言って肩をすくめてどうよ、と言わんばかりにニッコリ笑うレオナールに、ルヴィリアがドン引きして慌ててダオルの背後へ隠れた。


「ちょっと、猛獣担当! ちゃんとソレの手綱握っておきなさいよ!!」


 キャンキャン甲高い声で怒鳴るルヴィリアと、楽しそうに相手を罵倒する相棒に、アランはガックリと肩を落として溜息をついた。


「……これはさすがに俺のせいじゃないだろ」


「いやぁ、久々に見たなぁ。本当に元気だよな、お前の相方。あいつらに正面から喧嘩売るの、ロランじゃもうレオナールだけだぞ。大変だな、猛獣担当」


 門番のジェラールがニヤニヤ笑いながら言った。


「あのな、お前絶対あいつら来るの見えてただろ。どうして先に忠告してくれなかったんだ」


「そりゃ初顔さんもいるみたいだから、やっぱり一度は見せておくべきだろ。……やぁ、銀髪のお嬢さん、今度一緒に飲みに行かない? 良かったらおいしいお菓子屋さんや女の子に人気のお店色々教えてあげるよ」


 ジェラールがルヴィリアに言うと、ルヴィリアがアランを手招きした。


「あ? どうした?」


「ねぇ、あの人何? なんか妙に馴れ馴れしくない? あなたの友達なの?」


「友達っていうか、顔見知り? あいつ週に四日は北門で門番やってるから。軟派なのは普段からだ。別に一緒に飲みに行ったからって何かされるわけじゃないが、面倒くさいなら相手しない方が良い。

 あいつの好みのタイプはもっと背が高くてメリハリのある美人……悪かった」


 途中でルヴィリアに脇腹をつねり上げられ、アランは慌てて謝った。


「どうせ背が低くて凹凸ないわよ! 悪かったわね!!」


「だから悪かったって言ってるだろ! 大丈夫、まだ若いんだから成長するだろ!」


「しないわよ! あんたバカなの!? ケンカ売ってるの!?」


 口論というよりはルヴィリアに一方的になじられるアランを見て、ジェラールがほほうと顎を撫でさすった。


「アラン、その女の子、ラーヌでつかまえたのか? まだ未成年みたいだけど、年頃も近いしお似合いだな!」


「誰が未成年ですって!?」


 噛み付くように怒鳴るルヴィリアに、ジェラールは首を傾げた。


「あれ? 違った? おっかしーなぁ、女の子の年齢とサイズは間違えたことないのに」


 火に油を注ぐジェラールに、アランがこっそり耳打ちした。


「あのな、そいつこれでも18歳だぞ」


「え!?」


 信じられないとばかりに大きく目を見開くジェラールに、ルヴィリアが叫んだ。


「ちょっと! 耳打ちの内容も全部聞こえてるのよ!! あんた達バカなの!? それとも私にケンカ売ってるの!?」


 騒ぐ彼らの後方で、レオナールが楽しげに《草原の疾風》の連中と殴り合っていた。

というわけで本編にやっと出たゲルトとアッカ+ダズ。

最初のプロットでは三人目の名前違ってた気がしますが、メモ書きが見つからなかったので適当に付けました。

既にどこかに記述あれば、後日修正します。

何か他にも忘れていることがありそうなのですが、思い出せません。忘れる前にメモっておけば良かったです(そのメモを紛失とかやりそうですが)。


また、幕間最終話ちょい修正しました。


でもよく考えたら顛末とか被害者の名前とか出すの忘れてました(汗)。

後日番外の方で事件直後の話を書くかもです。


○「ウル村生贄事件」概要

 シュレディール王国建国暦283年・黄恵の月(秋、レオ&アラン12歳。本編の2年8ヶ月前)。

・被害者は、レオノーラ改めレオナール(重傷を負うが回復魔法などにより生存)、ミレーヌ(レイの婚約者・死亡)、アリス(カロルの友人・死亡)、エミリー(死亡)、ナタリー(死亡)など9歳から15歳の少女5人が誘拐され、レオ以外の4人全員が胸や腹を割かれ死亡。

 その後4ヶ月ほど村でレオ療養後、ロランへ移動して以来、成人までの約一年半、ダニエルの管理下で見習い登録をして活動。

 285年若緑の月上旬に本登録、翌月・萌緑の月より本編開始。


 この事件によりシュレディール王国内に《混沌神の信奉者》を名乗る組織が現在進行形で活動していることが発覚。

 下級貴族を中心とした現在の国王および王宮に対し不平不満を抱く貴族や平民(一部は金や利権目当て)達が生きたまま逮捕され、尋問等を受けた結果、

その時点で判明していなかった犯罪や組織が明るみになり、多数の貴族や平民が捕らわれ、死刑を含む処罰を受けた。

 この結果、セヴィルース伯爵はかなり弱体化したが、伯爵本人は無実が証明され、ダニエルらと協力などを得たり、新たな犯罪組織を摘発するなどして自身の処罰は免れる。

 現・セヴィルース伯ジョスランは、ダニエルと同年代(若干年下)。二人の息子と一人の娘がいる。


以下修正。


×俺

○オイラ(ダットの一人称のため)

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