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33 魔術師は悪気がない

「とりあえずセヴィルース伯のところへ言って話してから、白虎騎士団の団長と騎士団員連れて来た。えっと、ここにいるのがその騎士団員の一人で監視役だ」


 ダニエルがニッカと笑って言った。


「おっさん、また何かやらかしたのか?」

「日頃の行いが悪いからじゃないの?」


 アランがダニエルを胡乱げな目付きで見ながら、レオナールが髪を掻き上げながら言うと、ダニエルは大仰に肩をすくめた。


「おいおい、違うからな。今回は転移陣を使ったからだ。都市間の転移陣は許可を得て使用する場合でも一応監視役がつくんだ。万一の事故が起こった場合に備えてな」


「そうなのか?」


 アランがダオルに尋ねた。


「王都からなら王都兵団の兵士が、領都からならば領兵団の兵士がつくことはある。が、通常は転移陣の管理施設内までだ。町の中まで付いて来ることはまずない」


 ダオルが答えた。


「転移陣の利用許可が下りるのは大抵貴族か有力な商人など、平民でもごく一部の者だけだ。ダニエルは現国王にいつでも好きな時に使用して良いという免状を賜っているが、なにせ普段の行状が行状だからな」


 補足するようにアレクシスが言った。


「おっさんの場合、一人だと何処で何するかわからない危うさがあるのは確かだが、下手に腕のある同行者がいる方が危ないんじゃないか?

 ほら、気まぐれに不意討ちで斬りつけたり」


 アランが言うと、ダニエルはやれやれとばかりに首を左右に振った。


「お~い、アラン。俺、そこまでバカじゃねぇぞ。確かに戦闘や斬り合いは好きだが、無闇矢鱈に時や場所構わずに仕掛けたりしねぇからな。あと相手は選ぶ。

 明らかに格下相手に斬り合い仕掛けたら、ただのいじめか嫌がらせだろ」


「へぇ~、そうなんだ~。知らなかったわ~」


 棒読みでルヴィリアが言って、横目でレオナールをちらりと見たが、レオナールは反応せずにダニエルに話し掛ける。


「そんなことより師匠、この前来たばかりなのにどうして来たの? わざわざ転移陣まで使って。

 何か急な用でもあったわけ? まさか仕事サボって息抜きに来たとか、酒を飲みに来たとか言わないわよね?」


 レオナールが首を傾げて尋ねると、ダニエルは大袈裟に天を仰ぎ、嘆くように首を振った。


「ああ! 可愛い弟子とその友人の危機と聞いて、慌てて駆け付けた才色兼備な完璧師匠にこの言い種!

 助力を感謝してくれとまでは言わないが、来たのが迷惑と言わんばかり。何故なんだ!」


「だから、日頃の行いが悪いからだろ」


 嘆く真似をするダニエルに、アランがボソリと低い声で言った。音量は小さいが明瞭な発音なので、室内にいる全員に聞こえた。


「おかしいな、俺、そんなひどいことしてないだろ。世界に二人といない心優しい超カッコイイ素敵師匠だろ?」


「おっさんとそれ以外の人の優しさの基準や定義には、大きな差異がありそうだな」


「ほら、師匠って色々規格外でズレてるから」


 肩をすくめて言うレオナールに、「お前が言うな」という視線が集まったのは言うまでもない。夕飯は外へ食べに行き、戻ったところでそれぞれの部屋へ解散となったが、


「ああ、悪ぃ、アラン。お前に渡す物があるんだ、ちょっと来てくれ」


 ダニエルがアランを呼び止めた。不審げにダニエルを見たアランに、ダニエルは苦笑した。


「いや、晩酌に付き合えって意味じゃねぇから安心しろ」


「当たり前だ」


 アランは半眼で答えた。レオナールが不思議そうな顔で見ているのに気付いたダニエルが、その頭をワシワシと乱暴に撫でた。


「ちょっとやめてよ!」


「悪ぃ、急ぎでお前用の土産は持って来るの忘れたから、また今度な! 小遣いのが良ければ明日の朝にでも用意するが」


 嫌そうにダニエルの手を振り払い、手ぐしで髪を整えるレオナールに、ダニエルがニヤニヤ笑いながら言った。


「いらないわよ、別に。お金はいくらあっても問題ないから、くれるって言うなら貰うけど」


 素っ気なく言うレオナールに、ダニエルは幼子を見るような目で嬉しそうに笑み崩れる。


「ハハッ、素直に欲しいって言えよ、レオ。大金貨3枚くらいで良いか? それとも白金貨の方が良い?」


「白金貨なんて、貰ってもつかいみちないから困るでしょ。大金貨なら、かろうじて武具屋で使えそうだけど。前から思ってたけど、金銭感覚おかしいわよ、師匠」


「まぁ、破損や損傷がなくても装備には恒常的に金が掛かるからな。今は使わないなら、ギルドにでも預けておけ。少なくとも盗難は防げるからな。

 あ、預けるならラーヌじゃなくてロランにしておけ。普段利用する支部じゃないと面倒だからな」


「わかったわ。じゃあ、私、疲れたから今日は早めに寝るわ」


「どうせ明日は早朝から出るつもりだろ」


 溜息をつきながら言うレオナールに、アランが肩をすくめながら確認する。


「当然でしょ。しばらく狩りに行ってないから、いつもより遅くなるかも。朝食に間に合わなかったら、先に食べてて良いから」


「了解。程々にしておけよ」


 半ば呆れたような顔で言うアランに、レオナールは微笑みながら答える。


「ルージュの腹具合と、明日の調子によるわね。鈍ってるようなら勘を取り戻したいし」


「あ~、悪ぃ、レオ。それ、俺、付き合えねぇわ」


 ダニエルがすまなさげに髪を掻き上げながら言うと、レオナールは肩をすくめた。


「別に師匠は来なくて良いわよ? 監視付きじゃ着いて来られる方が面倒じゃない」


「そうか。その内に暇見て、鍛錬付き合ってやるから、今回は勘弁な」


「ええ、面倒な付属がいない身軽な時にお願いするわ」


「おう、おやすみ、レオ」


「おやすみなさい、師匠、アラン」


 挨拶を交わし別れて、アランはダニエルにあてがわれた部屋へと向かった。



   ◇◇◇◇◇



「で、いったい何をたくらんでる? どうせ建前以外の用があるんだろ、おっさん」


 アランはダニエルと二人きりになったところで口を開いた。監視役は隣室である。


「おいおい、何だよ、その言い種。たくらむとか人聞き悪いぞ」


 ダニエルが大仰に肩をすくめながら言うと、アランが白けたような顔になった。


「俺を一人残したってとこがアレだろ、レオに隠し事があるんだろ。無駄口叩く暇があったら、さっさと用件言えよ」


「……はぁ、アラン坊やはどうしてこんな可愛くない子になっちゃったんだろうねぇ。ま、そっちのが楽と言えば楽だけどな」


 ダニエルはやれやれと言いたげに首を振った。アランはそんなダニエルをジロリと睨む。


「早く本題に入れ」


「つれねぇなぁ、様式美ってやつだろ。まっ、いっか。んじゃまぁ、ぶっちゃけるけど、ルヴィリアの顔と髪って他で見た記憶ねぇか?」


 ダニエルの言葉に、アランは首を傾げた。


「銀髪? ……おっさんと俺が知ってるって言えば、アレクシスさんとかか?

 でも明らかにあの二人は血縁関係なさそうだよな。髪の色は微妙に違うし、どう見ても別人種の顔立ちだし」


「よく似た小柄で童顔な顔だよ。ラーヌ近郊で見ただろ、チラッとだが」


 ダニエルの言葉に、アランはハッと息を呑んだ。


「……まさか、あの暗殺者か!?」


「ご名答。あれがあいつの兄だ。というわけでそっちは保護という名目でこき使う事にした。有能な間諜と斥候・偵察役が欲しかったんだ。

 素の容姿はちょいと目立ちすぎて使いづらいが、前職柄忍び込んだり、人目を避けて行動するのも得意だからな。

 で、あいつが所属していた組織は一応潰したが、もしかすると残党がそっちへ行くかもしれないから警告に来た」


「はぁ!? なんだそりゃ!!」


 アランは思わず激昂した。


「つうと何か!? おっさんの不始末の尻拭いしろってことかよ!!」


「一応通達は回してるし、生死不問で手配も掛けてるが、何せアレの同僚だからな。すぐ捕まえられるようなやつなら、最初から取り逃がしたりしないわけだ。

 レオに知れたら問題外だが、ルヴィリアもちょいと確執っていうか揉め事があって、怨恨とか憎悪みたいな感情があるみたいだから、直接知らせるわけに行かないんだよ。ほら、あいつ、人のいうこと素直に聞くタイプじゃねぇだろ?

 ってことでしばらくダオルを用心棒代わりにお前らに同行させる。お前もなるべく気を配っておいてくれ」


「ちっ、で、俺に何しろって言うんだ。言っておくが、魔法や魔術に関すること以外は、戦闘含めて不得手だぞ。暗殺者なんかに襲撃されても対処できないぞ」


 アランは嫌そうな顔で溜息をついた。


「気休め程度にしかならないかもしれないが、これを渡しておく」


 ダニエルは胸元から、小さな革袋を取り出し、テーブルの上に置いた。アランは警戒しつつもそれを受け取り、中を覗くと、黄色い魔石のついたピアスが一つ入っていた。


「何だ? ……魔道具か?」


「ああ、《遠話》ができる遺跡発掘品だ。何らかの妨害とかがなければ、国内なら何処でも俺に繋がる。

 ロランは無理だが、主要都市には俺達が随時使用可能な転移陣を設置していくから、何処にいてもすぐ駆け付けられるようにする予定だ。

 今回、ラーヌに設置したから、ロランなら走って二刻ちょっとでたぶん行ける」


「馬車より速いとか、本当おっさんは人外だな」


 アランが呆れたように言うと、ダニエルが自慢げに胸を張る。


「そりゃ、当然だろ。馬は休息が必要だし、常に最速を維持できない。よほど体力と根性がないと俺の真似は無理だろう。

 俺と同じように走れる化け物馬がいたら別だが、たぶんA級以上の魔獣じゃないといないだろうな」


「なぁ、おっさん、駄目元で聞くけど、この魔道具もう一組手に入らないか?」


「うん? 手持ちはないが、そう珍しい物でもないから、一年くらい待っても良いなら入手できないこともないと思うが、そこそこするぞ。何に使うんだ?」


「そんなの決まってんだろ。レオと俺で使いたいんだ。あいつ、戦闘時の突進癖も問題だが、時折あり得ない失敗やらかすからな。はぐれたりした時用に、連絡手段が欲しい」


「……気持ちはわからなくもないが、あいつが魔道具の使い方覚えられるか? 仮に覚えたとしても、いざって時に使わないんじゃ、どんな便利な道具も宝の持ち腐れだと思うが」


「呼び出し専用になることはわかっているし、あいつに都合が悪けりゃ反応しない可能性が高いけど、無いよりは確実にマシだろ。

 できればこっちであいつのいる位置が把握できる機能が付いてたらなお有り難いが、遺跡発掘品ってことは、それは期待できないだろ」


「小型化するのはキツイだろうが、お前なら頑張れば自力で作れるんじゃないか?」


「魔力消費量と大きさを度外視すればできなくもないかもしれないが、それだと本当に作って持たせても無駄な代物しか出来ないだろ。バカにも簡単に使えないと意味が無い」


「……お前、本当、容赦ねぇな」


 ダニエルは呆れたように言った。


「何がだよ? 当たり前のことしか言ってねぇぞ。魔力を通せば誰でも使える魔法陣だって、適切に使えないバカ相手じゃ危険な代物だろ」


 アランは前日のことを思い出して、苦虫を噛み潰したような顔になった。


「何かあったのか?」


「あのバカ、勝手に一人で突っ走って、魔法陣を壊そうとして誤って起動させて転移したんだ。しかも、《混沌神の信奉者》の拠点にな。

 幼竜も後を追ったから、正確には一人ってわけじゃないが、いくら賢くても魔獣じゃ、いざって時にはヤバイだろ。まったく心臓に悪い。ダオルが一緒じゃなけりゃ泣いてたかもな」


「お前なら本当に泣きそうだな」


「いや、それくらいで本気で泣かないからな!? 比喩だよ、比喩!! どんだけ涙腺ゆるいと思ってんだ! もう子供じゃないんだぞ!!」


「でも、お前はレオに何かあったら絶対泣くだろ?」


「程度によるだろ。それにレオじゃなくても、流血沙汰や状態の悪すぎる死体は苦手だ。でも仕方ないだろ、慣れてないんだから」


「そうだな、でも、いい加減慣れた方が良いだろ。冒険者になったんだから」


「大量の血が流れなきゃ大丈夫だ。少しはマシになった」


「人の臓器は見ても平気になったか?」


「……そんなもん冒険者でもそうそう見る機会ねぇよ」


 アランが不機嫌そうにぼやいた。ダニエルは肩をすくめた。


「まあ、おいおい慣れていけば良いか。とりあえず《遠話》の魔道具はピアス型じゃなくても使いやすければ良いんだよな?」


「ああ、機能と利便性に問題がなければ良い。レオにも使える物なら大丈夫だ」


「……それ、悪気なく言ってるあたり、お前はすごいよな」


 溜息をつきながら言うダニエルの言葉に、アランは怪訝な顔になった。


「どういう意味だよ」


「俺は嫌いじゃないが、色々大変だろうなと思って。まぁ、それはともかく、何か困った事があれば、俺を呼べ。

 他に何か面倒事が起こってなきゃ、一日かからずに駆け付けてやるし、口頭で済む話ならいつでもすぐ話せるから。頼りになるだろ?」


「まぁ、荒事とかに関しては最強だよな。わかった。おっさんと緊急に連絡取りたい時は利用する。おっさんに使えるなら消費魔力量とかそんなに無いんだろ?」


「遺跡発掘品だからな。そのローブと同じで《遠話》発動中は自然魔力を利用するから、発動時にちょっと使うくらいだ。薪に火を付ける時に使う《発火》くらいの消費量だな」


「有り難う。やっぱりこれ、高いのか?」


「そんなに高くはねぇよ、白金貨2~3枚ってとこだな」


「それ、ものすごく高いだろ。そんなもん一般市民には買えないだろう」


「大丈夫だ。ちょっと稼げるBランク冒険者ならオークションとかで十分買える金額だろ?」


「自分の言葉に疑問持たないのか、それ。普通のやつは買えないって言ってるのと同義なんだが」


 アランが呆れたように睨むと、ダニエルは肩をすくめた。


「お前らなら頑張れば五年以内にBランクになれるだろ? 低ランクの内は、討伐依頼ばかり受ける事になるだろうが」


「俺は討伐依頼は最小限にしか受けるつもりないから、それは無理だな」


「何故だ? 討伐依頼のが楽に稼げるだろ?」


「それは人によると思うが……特攻癖のある相方しか仲間(パーティー)にいない内は、討伐依頼はあまり受けたくない。レオの場合、討伐依頼なんか受けなくても自発的に狩りに行くしな。

 常時依頼で処理することもなくは無いが、今はあの幼竜の餌が大量にいるから、たぶんいちいち討伐証明部位を取ってないだろ。

 他に近接職の仲間が入るか、レオが周囲を見て戦闘してくれるようになるまでは、どうしても必要な場合や強制依頼以外は受けるつもりはない」


「あ~、つまりあれか。レオに怪我させたくないってわけか」


「それ以上に俺が死にたくないからな。あの幼竜も戦闘の仕方はレオと大差ないし、安心できない。魔法や魔術は絶対に詠唱が必要だから、集中できないと発動できないし、俺は魔術以外の攻撃手段を持ってないからな」


「自衛程度で良いから、短剣や杖で近接戦闘できるように鍛えたらどうだ?」


「冗談だろ。おっさんもレオも、どうしてそういう発想になるんだよ。それが出来るようなら、言われずともやるに決まってんだろ。……俺の体力のなさをなめるな。どう考えても自殺行為だろ」


 アランの言葉に、ダニエルはうわぁという顔になった。

体調不良や家業その他で、ものすごく更新遅くなりました。


地の文が少なすぎる&おかしな表現があったため、加筆修正しました。


以下修正(加筆分は略)。


×ついてくる

○付いて来る


×使い途

○つかいみち(レオナールの台詞なので漢字→ひらがなに変更)


×結構高い

○そこそこする


×できない事もないかもしれないが

○できなくもないかもしれないが


×魔力を通せば誰でも魔法陣だって

○魔力を通せば誰でも使える魔法陣だって、


×適切に使えないなら、バカ相手じゃ

○適切に使えないバカ相手じゃ


×臓器は見ても

○人の臓器は見ても


×近接戦闘できるよう鍛えたら

○近接戦闘できるように鍛えたら

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