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19 占術師の素朴な疑問

 アランとルヴィリアが冒険者ギルドに入ると、そこそこ混雑していた。受付は一つを除き、行列がついている。


「受注受付とはいえ、あれで良いのか。ラーヌ支部はロラン支部より、金に余裕あるのかもしれないが、非効率だろうに」


 この時間帯に依頼受注する者が少ないのは理解できるが、職員を無駄に遊ばせるくらいなら他の職員の手伝いをさせるとか、別の仕事を割り振っても良いのでは、とアランは思う。

 もしかして、朝は逆の現象が起きているのかもしれないが、そうなるとますます非効率だ。せめて、勤務時間をずらすといった手段もあるだろうに。

 今回の依頼の担当職員はジャコブなので彼に報告をする予定だが、あの様子ではそういうケースは少なそうだ。

 他の受付は二十人前後から四十人近くは並んでいる。アランは眉をひそめた。


(無駄が多すぎる。ロランは討伐証明・素材引取および鑑定受付が一つある他は、受注も報告も依頼も登録も同じ受付でやるのに。

 あれで同じ給料と勤務時間だとしたら、絶対不平不満が出ると思うんだが。

 仕事の効率化・均等化は、冒険者や職員にとっても、幹部にとっても、良い事ずくめだろうに)


 アランとレオナールの受付がほぼ毎回ジゼルなのは、何故か他の職員の列に並んでも、その職員が何らかの用事で席を立ち、ジゼルと交代することが多いからである。

 ロラン支部で、その理由や原因に気付いていないのはアランくらいだが。


「あの人以外は若くてきれいな女の人ばかりね。顔で採用したのかしら」


 ルヴィリアが辛辣な意見を、淡々とした口調で言う。


「まぁ、見てくれはある程度大事だろうな。大事なのは美醜じゃなく、相手に不快感を与えないかどうかだと思うが」


 アランが溜息をつき、声量を落として答えた。


「荒事担当の用心棒(コワモテ)さんは見えないところに配置されてるのかしら」


「そこまでは知らない。でもいないと面倒そうだよな、冒険者の男女比率を考えたら」


「やっぱり何処の支部も男だらけで汗臭いの?」


 普段通りの声量で嫌そうな顔で言うルヴィリアに、アランが眉間にしわ寄せながら、首を左右に振ってフォローする。


「汗臭いのは仕方ない。冒険者ってのはそういう仕事だからな」


「アランはあまり汗かかない方?」


「悪かったな、汗をしっかりかくほど動く前に息が切れるんだ。体力つけなきゃいけないのはわかっているけど」


「ふぅん。そういえばアラン、護身用に投擲とか杖術とかやらないの?」


「……そういえばルヴィリアは投擲と短剣が使えるんだったな」


「まぁ、護身程度にね。正直幻術含めて占術以外は基本くらいしか習得してないわ。ただ、私、ものすごく運が良いみたいで、目を閉じて投げた方が命中率良いみたい。不思議よね」


「なんだよ、それ。本業のやつが聞いたら泣くぞ」


「たぶん目を開けてる時は雑念や意図、あるいは欲が入るからだと思うわ。当たれって考えて投げるより、無心で投げた方が良いみたい」


「俺の場合、どっちも外すから、やっぱり基本ができているか否かは大事だと思うぞ」


「まぁ、それは最低限必須よね」


 ルヴィリアの答えにアランは複雑な気分になった。


(ああ、その通りだ。できない俺が何を言っても、負け犬だよな)


 アランは記憶力という点においては同ランク冒険者随一といって良いのだが、自覚はない。一度読んだ情報を丸暗記して長期間記憶できるような者は、研究者でも稀である。

 記憶した情報を上手く活用できれば、他に先んずることもできる。ただ、最低ランクの駆け出し冒険者に、そこまでの情報・記憶・分析力は必要とされず、ある程度の能力があれば力押しでも全く問題ないため、現状では目立った差異がないというだけである。


「ともかく報告しよう」


「そうね。あの人こっちを見ているわよ」


 ルヴィリアに言われてアランがそちらを見ると、ジャコブがじっとこちらを見ている。アランは頷き、ルヴィリアと共に近付いた。


「よぉ、ジャコブ。相変わらず暇そうだな」


「お疲れ、アラン。前にも言ったが、この時間は仕方ないんだ。それより今、目が合ったのに無視しようとしなかったか?」


「気のせいだろ。先日受けた依頼の一時報告に来たんだ」


「一時報告? ということは今日は見つからなかったのか?」


「いや、発見した。報告書がまだできていないから、遺体の引き取りをして貰おうと思って来たんだが」


「報告書? ああ、この前の依頼の時に出してくれたやつか。別に要らないぞ。他の冒険者はそんなもの書かないしな。裏に搬入口があるんだが、そちらへ回ってくれ。場所はわかるか?」


「行った事はないが、たぶん大丈夫だ」


「じゃあ、搬入口前に立って待ってるぞ」


「わかった。有り難う、ジャコブ」


 二人は一度外に出て馬車に乗り込み、ギルド裏へと回った。表の通りに比べると若干狭いが、対面は無理だが交互通行ならば騎獣用の大型の馬車でも問題なく通れるだろう。

 御者台に座るアランを見つけたジャコブが大きく手を振って来る。アランは搬入しやすいように、少し通り過ぎた位置で停めた。


「そういえば前にガイアリザードで来たと言ってたもんな。この幌馬車はどこで借りたんだ?」


「自前だ」


「おい、お前らFランクだろ? よくそんな金があったな。それともダニエルさんに買ってもらったのか?」


「いや、レオがガイアリザードと一緒に買ってきた。あのおっさんはそんな気を回すような人じゃない。レオの装備はあの人のお下がりだが」


「ガイアリザードとその馬車なら、普通金貨数十枚はかかるだろう?」


「レオは銀貨3枚だと言ってたぞ。どこでどんなやつから買ったのかはわからないが、どう考えても怪しすぎるな。

 見たところ罠や欠陥は見つからないんだが」


「銀貨3枚じゃ賃貸料にもならないだろ」


「確かに銀貨って言ってたんだが、あの時もう少し詳しく聞いておくべきだったな。あいつのことだから、たぶんもう既に忘れていそうだが。やっぱりあいつに単独行動させると、ろくなことにならないな、くそっ」


 苦虫を噛み潰したような顔になるアランに、ジャコブは肩をすくめた。


「苦労してそうだな、アラン」


「同情するならその分報酬その他でよろしく。夕飯奢ってくれても良いぞ」


「ははっ、薄給のオレにたかるなよ。お前らFランクのわりには稼いでそうだし、オレより強力なコネ持ってるし、余裕もあるだろ。

 金もコネも力もない淋しいおっさんをいじめるなよ」


「ジャコブ、自分がおっさんだなんて露ほども思ってないくせに、自称しない方が良いぞ。

 ここにレオがいたら、おっさん連呼される。あいつは趣味悪いから、人が嫌がることは喜んでやるからな」


「なぁ、アラン、お前の言葉もやたら胸に痛いんだが」


「俺のせいかよ? 自分で自分をおっさん呼ばわりしておいて」


「やめてくれ。アランに真顔で真面目に言われると、自分がバカなこと言った気になったり、謝りたい気分になるから!」


「そう思うなら、最初からやめておいた方が良いぞ。そんな事より早いところ用事を済ませよう」


「……そうだな」


 アランは、御者台から荷台へ向かい、踏み台を下ろす。

 《浮遊》を詠唱し、麻布にくるまれた遺体を宙に浮かばせ、破損させないようそっと抱えて荷台から降りた。


「こっちだ」


 ルヴィリアを見張り役として残し、アランはジャコブの案内で搬入口から中へ入った。天井の高いがらんとした作業場を抜け、奥の扉を開くと通路が伸びていた。すぐ右手の扉を開くと、石や木などで作られた棚が並ぶ倉庫のような部屋である。


「一時保管倉庫だ。鑑定その他は後日になる」


 アランは指定された棚に遺体を置き、頷いた。


「了解した。先に言っておくが、巨大蜘蛛かアラクネの餌になった後で、遺体はミイラ状になっている。

 装備は剥ぎ取られているから、服装とおおよその骨格くらいしか手掛かりがないが大丈夫か?」


「鑑定魔法が使える職員がいるから、たぶん問題ない。エリクはうちの支部所属だし、面識もある」


「へぇ。鑑定魔法ってどんな感じだ? 興味はあるけど、見た事ないんだよな」


「あー、魔法のことはよくわからないんだが、事前にそれについての知識・認識がある場合、対象物にかけると照合ができる、らしい。

 だから知らないこと、わからない事に関しては詳細がわからなかったり、鑑定不能になる場合もあるとか。

 元は古物商だったベテランだから、この辺りのことならたいてい問題ない。で、どのくらいの規模の巣だったんだ?」


「そうだな、討伐合計は巨大蜘蛛が92匹、アラクネが6匹。全てを探索したわけじゃないから、細かく探索すればもっといたかもしれない。

 ラーヌ駐留黄麒騎士団所属の第五小隊に追い出されたから、それ以上調べられなかったが、他にいたら連中が倒すだろうから、たぶん大丈夫だろう」


「思ったより規模が大きいな。黄麒騎士団所属第五小隊? よりによって、あの嫌味ったらしい傲慢髭子爵か。それで、どうした?」


「ダオルがダニエルのおっさんに連絡したから、後日何か動きがあるだろう。どうなるか俺には明言できないし、判断できない。アントニオの依頼の件が完了したら、ロランへ戻ろうと思ってる」


「そうなのか?」


「他にやる事があれば滞在が延びる可能性はあるが、そのつもりだ。報告はできれば別室でしたいけど、大丈夫か?」


「ああ。なら、準備をするから待合所で待っててくれ」


「わかった。馬車があるから、ルヴィリアは先に宿へ返して、俺一人で報告する。問題ないよな?」


「ああ。じゃあ、また後で」


 ジャコブの言葉にアランは頷き、搬入口から外に出た。


「ルヴィリア、俺一人で報告するから、馬車を宿へ戻して先に休んでてくれ」


「わかったわ。私、何もしてないけど良いの?」


「……まぁ、気絶したのは不可抗力だし、俺達が置いてきぼりにしたから仕方ないよな。

 念のために聞くが、怪我とかしてないよな?」


「心配ご無用よ。役に立てなくて悪かったわね。でも、あんなのが出て来るとは思わなくて。

 知ってたら最初から登録とかしなかったんだけど」


「そうだな。最初にそういう話し合いしておくべきだったよな。

 戦闘が出来るか、連携が出来るか、どういう事が出来るかってことしか、頭になかったからな。

 俺もレオも、ルヴィリアみたいな理由で戦闘ができないとかそういう経験なかったから。

 よく考えたら、冒険者が常識だと思っている事のほとんどは、一般の人からしたら常識じゃないって、失念してた。


 理由があるから、あるいは戦闘できる能力があるからと言って、必ずしも実戦が可能ってわけじゃない。

 わかってるつもりで、理解できていなかった。

 俺だって初めて生の血や戦闘を見た時は、脅えて何も出来なかったのに、うっかりしてたよ。

 こっちこそ悪かったな。ルヴィリアがダニエルのおっさんに事情も聞かされずに引っ張って来られてたの、知ってたのに」


「ううん。出来ると思ってた私も悪かったわ。

 実際、ダニエルさんと一緒に狩りに連れて行かれた時は、一応動けたし。

 でも、あんなに大きなのが出るなんて知らなかったのよね。小さいサイズなら、なんとか我慢できたと思うんだけど」


「確かシュレールの無限迷宮とか、確認されたいくつかのダンジョンでは全く虫系魔獣が出ないらしいけど、中級以上の冒険者しか入場許可されてない。

 低級および初心者向けに開放されているダンジョンは、ロランやラーヌ近郊には無い。

 俺もレオも特に依頼にこだわりないし、レオは剣を振れれば獲物は何でも良いから、歩けば必ず敵が出て、確実に金も稼げるダンジョンが近くにあれば良かったんだが」


「誰でも楽に容易に金を稼ぐ方法があれば、飛びつくと思うわよ。そんなうまい話があるなら、誰でも金持ちになってるわ」


「まあな」


「私が冒険者として活動するのは無理そうだけど、他にできる仕事がないわけじゃないから、なんとかなるわ。

 私、最初、お金持ちな商家の子供の、子守か簡単な庶民の一般常識教える仕事だと思ってたのよね。せいぜい十歳前後の。

 だって、流れの自由民の私に持ちかけるのって、それくらいじゃない? 報酬も無駄に良かったし。


 まさか十五歳の、しかもアレみたいな性格どころか人格も倫理も壊れたヤツ相手に、どこから手をつけたら良いかわからない一般常識と道徳教えなきゃならないなんて知ってたら、最初から受けなかったわ」


「その点は同情する。あいつも、俺に対してはそこまでひどいやつでもないんだが、まあ、特に初対面がひどかったからな。

 いざとなったら、飯抜きとか肉抜きとか言えば、表面上は従うかもな。やり過ぎると逃げられるが」


「駄目じゃない、それ。だいたい、本人にやる気がないのって、一番面倒でしょ」


「それがないと自分が困るって、理解してくれれば良いんだが、どうしたら良いかは俺も困ってる。

 出来れば、町中を自由に単独行動できる程度の常識や記憶力・判断能力は持って欲しいんだが」


「それって、どの程度よ?」


「別に無理なことや難しいことなんか求めてないぞ。ただ、ごく一般的な十五歳の冒険者レベルで十分だ。

 今のあいつは、誰が何を言ってもやってもろくに覚えてないし、自分の言動ですら記憶が怪しい。

 金銭感覚もおかしいし、道徳皆無だし、常識も判断力もほとんどない。

 せめてわからないなら人に聞いたり相談すれば良いのに、それもしない。世間知らず、で済むレベルでもないしな。


 でも、あいつが実際まともに生活した事ないのも、知らない事が多いのも確かだから、今、できないのは仕方ない。

 これから教え、学んでいくしかない。知らない事をできないのは当然だからな」


「私、あれが何を知ってて、何を知らないのか、知らないんだけど」


「見た目に騙されるな。よちよち歩きの幼児か、言葉を話せる魔獣だと思った方が早いだろう。正直なところ、本当に言葉の意味を理解できているかどうかも、ちょっと怪しい。

 時折、間違った意味で使ってる事もあるし。流暢に話しているように見えるし、理解して言ってるようにしか見えないが、単に人真似が上手いだけにも見えるんだ。

 ……大半が、俺が見たことのある人の口調や仕草に似ているからな」


「それって下手すると、幼児よりひどくない?」


「知識と経験を積めば、今よりは良くなるはずだ。誰だってそうだろ?

 普通は失敗と成功を繰り返して、修正・適応していくんだ。レオにはその機会がなかっただけだ。

 間違ってたり失敗したら、その都度指摘してやれば良い。今、やらなければ、いつまで経ってもできない。

 俺も協力する。最初の内は俺も同席するから、安心してくれ。まずはお互い慣れた方が良い」


「慣れ、ねぇ。慣れるかしら?」


 首を傾げるルヴィリアに、アランは苦笑した。


「躾けも調教もされてない凶暴な魔獣に、不用意に手を出したら噛まれる。

 でも、魔獣は最初は拘束したり餌を制限したりして、餌付けしながら、ある程度時間をかけて調教するものだろう?」


「なるほど。でもあれ、餌付けできるの?」


「今の俺とレオを見たらわかるだろ。

 餌付けしたのが俺で、途中まで調教したのがダニエルのおっさんだと考えてみれば、想像できないか?」


「そうなの?」


「結果的にはそういう感じかもな、不本意だが」


 アランとしては、そういうつもりは毛頭なく、対等な友人関係を築けていると思いたいのだが、時折自信がなくなる。

 本当は違うのではないか、とは思いたくないが。


(だけど、餌を作ってくれる人、便利な道具──そう思われてない、という確実な実感もないんだよな)


 そこを疑えば、友人関係など崩壊してしまうし、信頼できなくなる。

 うっかり口に出してしまえば、レオナールのことだ。相手が嫌がるから、といった軽い理由で喜んで肯定しかねない。

 結局、本音は見えない。見せて貰えない。それは、レオナールがアランを信頼していないからではない。


(せめて俺を試そうとしているとか、何かまともな理由があるならマシなんだろうが、どうせ『その方が厄介事になりそうで面白い』とか、どうでもいい理由でやりかねないんだよな)


 人の心を傷付けることが、人にとってどれほど残酷なことかを彼が理解できれば良かったのだが、今のレオナールは、誰のどういった言動にも傷付かないし、意に介しない。

 それが、彼がそれを理解できないせいなのか、彼がこれまで過ごしたひどい環境に順応してしまったせいなのか、それとも全てを拒絶しているからなのか、アランには判断できない。


(とりあえずまともで対等な喧嘩ができる程度の感性や価値観は持って欲しい。

 俺が何を言ってもやっても無反応かわかったふりして聞き流されてたら、その内限界が来るからな)


 アランは、自分がそれほど忍耐強い人間でないことを知っている。いつまでも同じことの繰り返しでは、きつすぎる。それでもレオナールは少しずつ前進しているのは確かだ。

 一番最初は何か話し掛けても、食べ物以外には無言・無表情で無反応だったのだ。

 人に似た姿をしているだけに、不気味と感じる者も多かっただろう。

 アランは人見知りして緊張しているのだと勘違いしたから、あまり気にしなかった。

 あの時点で違和感を覚えていたら、レオナールと親しくなることはなかったかもしれない。


 実際、レオナールは全ての人を警戒していたし、自発的に近寄ることもほとんどなかった。

 アランが何度か食べ物を与え、それが常習化し、目の前で食べるようになるまでは、触れ合う距離まで近付くこともなかった。

 獣が人になったくらいの変化はあったと思う。内面にまでそれがおよんでいるかどうか、自信はないが。


(赤ん坊だって、行動だけ見れば幼獣とあまり変わらないからな)


「無理そうなら言ってくれ。許容範囲とか限界とか相性とか、人それぞれだ。

 おっさんもそれくらいは説明すれば理解してくれるだろう」


「私、あの人、敵に回したくないのよね」


「誰だってそうだろ。困窮している時に現れると英雄みたいに見えるが、特に何もない平時には厄介事しか振り撒かないし」


「英雄、ねぇ。今のところそっちは見たことないけど、噂が本当ならそうなんでしょうね」


 ルヴィリアの言葉にアランは心底気の毒げな表情になった。


「それは気の毒だな。それじゃあのおっさん、災厄の塊にしか見えないだろ。

 キツイな、それ。あの人相手だと逃げても無駄だろうし」


「神出鬼没ってああいうのを言うって知ったわ。二度と体験したくないけど」


「俺が知ってるあの人の弱点って万能じゃないし、ああ見えて結構腹黒くて冷酷なとこもあるからな。

 あのおっさん、最終的に目的を達成できれば手段選ばないし、相手の気持ちを斟酌しないってのが一番問題だ。

 だから好きな相手にはことごとく振られるんだ。外面剥いだら、毒がキツ過ぎるからな。あれを許容できる人がいるとは思えない」


「えっ、そんなにひどいの?」


「一応多少は手加減してるとは思うぞ。でも、あの人、致命的に何かが壊れてずれてるんだよな。

 うっかり信頼して甘えたら、よくわからない理由で突然突き放されることもあるし。

 ちょっと距離置いて半ば疑うくらいでちょうど良いくらいだ。

 でも、それって恋愛とか家族としては致命的じゃないか? 俺は嫌だな、殺伐としていて」


「何? アラン、ベタベタ甘えるのが好きなの?」


「そういうわけじゃないが、常に気を付けなくちゃいけないのは勘弁したいな。気が休まらないだろ。面倒だし、何より疲れる。

 あのおっさん、嫌いじゃないし恩もあるけど、面倒臭い。レオがなついてなければ、できれば距離置きたいよ」


「あの人、アランのこと可愛がってるように見えるけど?」


「そうなんだろうな。でも可愛がり方があまり嬉しくないんだ。悪気ないのはわかってるけど、だからといって喜べない。

 何だってそうだろ。需要と供給が合ってないと噛み合わない。でも、嫌いではないぞ。好きとも言い難いが」


「よくわからないけど面倒臭そうね」


「それは間違いない」


「じゃ、私、先に宿へ戻るわ。何か必要なものとかあれば買い出ししたり準備するわよ」


「今のところないな。好きに過ごしてくれ。例えばレオ用の教材を準備するとか」


「うっ、そうね。一応子供向けに準備したものはあるんだけど、あれ、興味持つかしら」


「そういえば、レオが子供らしい遊びに興味示したところは見たことないな」


「えっ、なら何になら興味あるの? 剣と食べ物以外で」


 ルヴィリアが尋ねると、アランが固まった。


「……え?」


 アランは考え、思い出そうとした。レオナールが何に対して反応したかを。


(あれ? 嘘だろ、何も思い付かない……いや、)


「……動くものを見るのは好きだと思うぞ。単調な作業とかは苦手だが、音がするものとか、見ただけだとよくわからない複雑な構造になってると気になったり。

 農作業には興味ないけど、水車は不思議そうに見ていたぞ。俺が説明したら熱心に聞いてた。

 小麦を粉にしていると言ったら驚いてたし」


「それ、本当に食べ物とか関係ない?」


 当時のレオナールに料理や食材が理解できていたかは不明だが、アランは断言できなかった。

遅くなりました。

話が進んでないのに長くなったので、削るか修正するか悩みましたが、とりあえず更新。


仕事なので31~1日は更新できません。

また実家に帰るので、たぶん早くても5日まで更新できません。

携帯とipad持って行くので、余裕あれば更新できるかもしれませんが、自信皆無。


大晦日&年明けは雪が降るか凍りそうなので、悩ましいです。

雪国育ちでも寒さに強くないし、夏生まれでも暑さに強くないので。

温度変化が一番の強敵ですが、ずっと寒いのもつらいです(特に水仕事が)。

我が家の廊下は冬、冷蔵庫(野菜室)代わりに、庭は冷蔵庫代わりになります。

大きいものや熱いものをそのまま冷やせるのは、冷蔵庫より便利かも。


更に北の人は大変なのでしょうが。


以下修正。

×待合室

○待合所

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